軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

文字の大きさ
上 下
264 / 486
第十四章 第二次世界大戦(覚醒編)

ツェッペリンの目覚め

しおりを挟む
 ドイツ初の船魄を生み出す計画は「ツィクロン作戦」と名付けられ、総統・海軍・軍需省の支援を受けて進められた。

 船魄製造の実務を当初主導していたのはカール・ゲープハルト博士であったが、やがて発想の独創性を買われたヨーゼフ・メンゲレ博士が計画を取り纏めるようになる。

 グラーフ・ツェッペリンの建造もまた順調に進められた。元よりツェッペリンはほとんど完成していたので戦略物資の消耗は少なく、唯一割を食ったのは潜水艦の建造であった。潜水艦隊を指揮するデーニッツ大将はこれに抗議したが、時間稼ぎにしかならない潜水艦よりグラーフ・ツェッペリンに期待する総統によって、ツィクロン作戦は強引に推し進められた。

 ○

 一九四四年八月三日、ドイツ国シュレースヴィヒ=ホルシュタイン大管区、キール造船所。

 ツィクロン作戦がついに達成されようとしている頃。東部戦線ではソ連軍のバグラチオン作戦が成功し、ドイツ軍はソ連領から完全に追い出され、中央軍集団は壊滅した。西部戦線ではアメリカ・イギリス軍がオーバーロード作戦を成功させ、200万もの大規模な部隊をフランスに上陸させていた。都合800万の野蛮人がドイツ文明を破壊しようと迫っているのだ。

 ドイツの将来的な絶滅は間違いないと、枢軸国でも連合国でもほとんどの人間が確信していた。総統はこの情勢下にあって、最後の希望に縋る他になかった。

 ドイツを代表する軍港の一つ、キール軍港に政府高官や将軍達が集まっていた。ツィクロン作戦の行く末を見届ける為である。ほとんどの人間はこんな作戦が成功する訳はないと思っていたが。

「我が総統、全ての準備が整いました。これよりグラーフ・ツェッペリンを目覚めさせます」

 ヨーゼフ・メンゲレ博士は、手術台の上に乗った少女を目の前にして、総統に報告する。総統は作業を始めるよう命じた。

「それでは皆様、危険ですので少し離れていてください」

 メンゲレが何やら機会を操作すると、天井から吊るされた電線から少女の身体に電流が流れ、少女はビクビクと震える。まるで『フランケンシュタイン』劇中のような光景に、人々は息を呑む。20秒程度で電流は止まった。

「ここまでの工程に誤りがなければ、これで成功する筈です……」

 流石のメンゲレ博士も緊張して額から汗を流しながら、少女が目覚めるのを待った。それは実際にはほんの数秒であったが、博士には数分にも感じられた。

「動いた……! 動きました……!」

 少女の指がピクりと動くと、少女は目を開け、眠たそうな赤い目で周囲を見渡している。

「よし……。私の声が聞こえるか?」

 メンゲレ博士は少女の横からそっと話しかける。

「聞こえる……」
「よろしい。では自分の名前を言えるか?」
「自分の、名前……? 私は……」
「ふむ。やはり最初は記憶が定着していな――」
「いいや、そんなことはない」

 ぼんやりとしていた少女は突然、凛とした声で言った。

「そうかね?」
「ああ、私はグラーフ・ツェッペリンである。お前こそ誰だ?」

 グラーフ・ツェッペリンは目覚めて早々に確固たる自我を獲得したのである。ドイツの技術力の高さ故なのか何なのか、当時の人々は判断することは不可能であったが。

「私はヨーゼフ・メンゲレ。僭越ながら、君を目覚めさせた者だ」
「そうか。メンゲレとやら、大義である」

 まだ身体の調子は万全とは言えず手術台に横たわったままなのに、ツェッペリンは非常に尊大な態度である。

「取り敢えず、起き上がってみようか」
「ああ、そうだな。少し手伝え」
「何なりと」

 メンゲレ博士の助けを借りて、ツェッペリンは上半身を起こした。

「さて、君に紹介しなければならない人間が何人かいる」
「人間? まあいい。誰だ?」
我らが総統ウンザー・フューラー、アドルフ・ヒトラー閣下だ。閣下、こちらに」

 メンゲレ博士が呼びかけると、一人の男がツェッペリンの傍によってきた。男は実に壮健な様子であり、背は高く非常に整った顔をしていた。

「おはよう、グラーフ・ツェッペリン。私がドイツ国総統、アドルフ・ヒトラーだ」
「お前が、総統だと……?」

 ツェッペリンは怪しい占い屋でも見るような目で、総統と名乗った男を見る。

「何か……不満があるのかね?」
「お前のような中身のないつまらん男が、総統だと? そうであるのならば、ドイツは滅びた方がいいだろうな」
「ふむ…………。分かった」

 男は何かを観念したかのように言った。

「何が分かったというのだ?」
「私は確かに総統などではないということさ」
「ふん、やはりな。何のつもりでこんな茶番を?」
「君が私のことを総統だと信じてくれたら、君と色々とやり取りするのが楽になると思ったんだ。我が総統は多忙なのでね。私はオットー・シュニーヴィント。一応は海軍上級大将だが、まあ今は何の仕事もしていない」
「そうか。では本物の総統はここには来ていないのか」
「いいや、そんなことはないぞ。君の周りにいる30人ばかりの中に、本物の総統もおられる。見事総統が見つけることができれば、総統は大変お喜びになるだろう。さあ、どうかな?」
「何だその下らんゲームは……」

 ツェッペリンはうんざりした表情を浮かべながらも、シュニーヴィント上級大将の――いや総統の挑戦に受けて立つことにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

軍艦少女は死に至る夢を見る【船魄紹介まとめ】

takahiro
キャラ文芸
同名の小説「軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/176458335/571869563)のキャラ紹介だけを纏めたものです。 小説全体に散らばっていて見返しづらくなっていたので、別に独立させることにしました。内容は全く同じです。本編の内容自体に触れることは少ないので大してネタバレにはなりませんが、誰が登場するかを楽しみにしておきたい方はブラウザバックしてください。 なお挿絵は全てAI加筆なので雰囲気程度です。

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴

もろこし
歴史・時代
とある豪華客船の氷山事故をきっかけにして、第一次世界大戦前にレーダーとソナーが開発された世界のお話です。 潜水艦や航空機の脅威が激減したため、列強各国は超弩級戦艦の建造に走ります。史実では実現しなかったドイツのZ計画で生み出された巨艦たちの戦いと行く末をご覧ください。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎
歴史・時代
 国力で遙かに勝るアメリカを相手にするべく日本は様々な手を打ってきた。各地で善戦してきたが、国力の差の前には敗退を重ねる。  そして決戦と挑んだマリアナ沖海戦に敗北。日本は終わりかと思われた。  だが、それでも起死回生のチャンスを、日本を存続させるために男達は奮闘する。 カクヨムでも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【架空戦記】炎立つ真珠湾

糸冬
歴史・時代
一九四一年十二月八日。 日本海軍による真珠湾攻撃は成功裡に終わった。 さらなる戦果を求めて第二次攻撃を求める声に対し、南雲忠一司令は、歴史を覆す決断を下す。 「吉と出れば天啓、凶と出れば悪魔のささやき」と内心で呟きつつ……。

処理中です...