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第十三章 ドイツ訪問(地上編)
妙高の意志
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「ところで、連れがいたね。彼女の名は何と言うんだ?」
「彼女は妙高と言います。日本の重巡洋艦で、月虹の一員です」
「重巡洋艦か……。せっかくだし話してみたいものだな。シュペー、妙高をここに呼んできてくれ」
「承知いたしました」
という訳でシュペーは妙高を連れてきて、妙高はツェッペリンのすぐ右隣に座った。妙高は総統を目の前にして流石に緊張しているようであった。
「は、初めまして……。私は妙高、大日本帝国海軍の、妙高型重巡洋艦の一番艦の、妙高です。ツェッペリンさんと比べれば、かなり古い軍艦ですね……」
「ああ、初めまして。私はアドルフ・ヒトラー。今でも一応は総統ということになっているが、とっくに現役からは引退した男だ」
「は、はい……よろしく、お願いします……」
妙高はたどたどしく言いながら、何度も頭を下げていた。
「時に、古い軍艦と言ったが、竣工したのはいつなのだね?」
「1929年です」
「ツェッペリンより15歳も歳上なのか。道理でツェッペリンより大人びて見える」
「そ、総統!?」
ツェッペリンは全力で抗議するが、総統は楽しそうに笑うばかりであった。
「――実際そうなのだから、仕方ないじゃないか。そもそも、君はまだ生まれてから10年と少ししか経っていない。まだ成長の余地が多分にあるだろう」
「ま、まあ、それはそうかもしれませんが……」
「とは言え、私は1889年産まれだ。君達よりずっと歳上だから、君も妙高もそう変わらんよ」
考えてみれば総統の方があの三笠よりも歳上なのである。時代の移り変わりとは実に早いものである。
「さて妙高、君もツェッペリンと同じく、戦争を終わらせたいと思っているのかな?」
「も、もちろんです!」
「ふむ。その理由は何かな?」
「理由、ですか……。妙高が戦争を終わらせたい理由は、私達船魄が殺し合いをするのを終わらせたいからです」
「なるほど。しかし君達は軍艦だ。お互いに殺し合うのは得におかしなことではないと思うが、どうだろうか?」
「そう言われたらそうかもしれませんが……妙高は少しでも誰にも死んで欲しくない、ただそれだけです。それはおかしなことでしょうか?」
「いいや、そんなことはない。それはとても自然な感情だ」
「は、はい……。そ、その、ヒトラーさんはどうしても、妙高達に協力してはくださらないのでしょうか?」
「君の言葉を聞いて少し手を貸す気にはなったが……。ここまで来てくれた君達にこう言うのは申し訳ないのだが、恐らく私が全力で君達に手を貸したところで、状況はよくならないだろう」
「な、何故です、我が総統? ゲッベルスが我が総統のお言葉に逆らうなどとは思えません。そうであるのならこの私がゲッベルスを討伐します!」
ツェッペリンはゲッベルスが総統をも蔑ろにしているのかと思って憤る。だがそういう話ではない。
「違うんだ、ツェッペリン。ゲッベルスは私が本気で命令すれば何でも従ってくれるだろう。私に逆らうことが何を意味するのか、彼も分かっているからね」
別に総統がゲッベルスを粛清するという訳ではないが、未だ政府高官・親衛隊・軍部の大多数は総統への忠誠を第一としており、ゲッベルスを総統の代理としか見なしていない。ゲッベルスが総統の意に反するのであれば、彼はすぐに排除されるであろう。
「で、では何故……」
「元より日本もソ連も、ドイツが反対すると踏んでアメリカへの軍事制裁決議案を出しているのだ。いずれも第三次世界大戦など望んではいまい。ドイツが拒否権を発動しないとなれば、決議案から取り下げるだろうね」
「そ、それは……」
つまるところ、日本とソ連が毎月のように軍事制裁決議案を出しているのは、あくまでアメリカに妥協するつもりはないと示す外交的なポーズに過ぎないということだ。本当に軍事制裁を発動するつもりはないだろうと、少なくとも総統はそう考えている。
「妙高、どう思う?」
ツェッペリンは妙高に返事を任せることにした。
「そ、そうですね……。確かにヒトラーさんの仰る通りかと。日本もソ連もアメリカと本気で戦争しようとは思っていないかと思います。ですが、軍事制裁を決議して最後通告を叩きつければ、アメリカも流石に撤退するのではありませんか?」
「なるほど。確かにその可能性はある。ドイツの支援を失えばアメリカも諦めるかもな」
「で、では――」
「しかし、そうでなければ、一度決議した手前、アメリカに攻め込まざるを得ないだろう。それを恐れてやはり日本もソ連も動かないとは思うがね」
「枢軸国軍を再結成すれば、アメリカは確実に滅びます。それでもキューバを諦めないとは……」
「キューバから撤退なんぞすれば、アメリカは内戦に陥るだろう。そうなるくらいなら死に物狂いで抵抗してくるだろうね」
「そ、そんな……」
結局のところ、状況は詰んでいるのだ。この戦争を終わらせるにはアメリカを世界地図から消す他にないが、枢軸国はそれの伴う多大な犠牲を嫌うだろう。
「彼女は妙高と言います。日本の重巡洋艦で、月虹の一員です」
「重巡洋艦か……。せっかくだし話してみたいものだな。シュペー、妙高をここに呼んできてくれ」
「承知いたしました」
という訳でシュペーは妙高を連れてきて、妙高はツェッペリンのすぐ右隣に座った。妙高は総統を目の前にして流石に緊張しているようであった。
「は、初めまして……。私は妙高、大日本帝国海軍の、妙高型重巡洋艦の一番艦の、妙高です。ツェッペリンさんと比べれば、かなり古い軍艦ですね……」
「ああ、初めまして。私はアドルフ・ヒトラー。今でも一応は総統ということになっているが、とっくに現役からは引退した男だ」
「は、はい……よろしく、お願いします……」
妙高はたどたどしく言いながら、何度も頭を下げていた。
「時に、古い軍艦と言ったが、竣工したのはいつなのだね?」
「1929年です」
「ツェッペリンより15歳も歳上なのか。道理でツェッペリンより大人びて見える」
「そ、総統!?」
ツェッペリンは全力で抗議するが、総統は楽しそうに笑うばかりであった。
「――実際そうなのだから、仕方ないじゃないか。そもそも、君はまだ生まれてから10年と少ししか経っていない。まだ成長の余地が多分にあるだろう」
「ま、まあ、それはそうかもしれませんが……」
「とは言え、私は1889年産まれだ。君達よりずっと歳上だから、君も妙高もそう変わらんよ」
考えてみれば総統の方があの三笠よりも歳上なのである。時代の移り変わりとは実に早いものである。
「さて妙高、君もツェッペリンと同じく、戦争を終わらせたいと思っているのかな?」
「も、もちろんです!」
「ふむ。その理由は何かな?」
「理由、ですか……。妙高が戦争を終わらせたい理由は、私達船魄が殺し合いをするのを終わらせたいからです」
「なるほど。しかし君達は軍艦だ。お互いに殺し合うのは得におかしなことではないと思うが、どうだろうか?」
「そう言われたらそうかもしれませんが……妙高は少しでも誰にも死んで欲しくない、ただそれだけです。それはおかしなことでしょうか?」
「いいや、そんなことはない。それはとても自然な感情だ」
「は、はい……。そ、その、ヒトラーさんはどうしても、妙高達に協力してはくださらないのでしょうか?」
「君の言葉を聞いて少し手を貸す気にはなったが……。ここまで来てくれた君達にこう言うのは申し訳ないのだが、恐らく私が全力で君達に手を貸したところで、状況はよくならないだろう」
「な、何故です、我が総統? ゲッベルスが我が総統のお言葉に逆らうなどとは思えません。そうであるのならこの私がゲッベルスを討伐します!」
ツェッペリンはゲッベルスが総統をも蔑ろにしているのかと思って憤る。だがそういう話ではない。
「違うんだ、ツェッペリン。ゲッベルスは私が本気で命令すれば何でも従ってくれるだろう。私に逆らうことが何を意味するのか、彼も分かっているからね」
別に総統がゲッベルスを粛清するという訳ではないが、未だ政府高官・親衛隊・軍部の大多数は総統への忠誠を第一としており、ゲッベルスを総統の代理としか見なしていない。ゲッベルスが総統の意に反するのであれば、彼はすぐに排除されるであろう。
「で、では何故……」
「元より日本もソ連も、ドイツが反対すると踏んでアメリカへの軍事制裁決議案を出しているのだ。いずれも第三次世界大戦など望んではいまい。ドイツが拒否権を発動しないとなれば、決議案から取り下げるだろうね」
「そ、それは……」
つまるところ、日本とソ連が毎月のように軍事制裁決議案を出しているのは、あくまでアメリカに妥協するつもりはないと示す外交的なポーズに過ぎないということだ。本当に軍事制裁を発動するつもりはないだろうと、少なくとも総統はそう考えている。
「妙高、どう思う?」
ツェッペリンは妙高に返事を任せることにした。
「そ、そうですね……。確かにヒトラーさんの仰る通りかと。日本もソ連もアメリカと本気で戦争しようとは思っていないかと思います。ですが、軍事制裁を決議して最後通告を叩きつければ、アメリカも流石に撤退するのではありませんか?」
「なるほど。確かにその可能性はある。ドイツの支援を失えばアメリカも諦めるかもな」
「で、では――」
「しかし、そうでなければ、一度決議した手前、アメリカに攻め込まざるを得ないだろう。それを恐れてやはり日本もソ連も動かないとは思うがね」
「枢軸国軍を再結成すれば、アメリカは確実に滅びます。それでもキューバを諦めないとは……」
「キューバから撤退なんぞすれば、アメリカは内戦に陥るだろう。そうなるくらいなら死に物狂いで抵抗してくるだろうね」
「そ、そんな……」
結局のところ、状況は詰んでいるのだ。この戦争を終わらせるにはアメリカを世界地図から消す他にないが、枢軸国はそれの伴う多大な犠牲を嫌うだろう。
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