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第十二章 ドイツ訪問(上陸編)
黒色作戦Ⅲ
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「ど、どど、どうするんですかツェッペリンさん!?」
妙高はすっかり震え上がっている。リシュリューに臨検などされたら一巻の終わりなのだ。
「まあまあ落ち着け、妙高」
「な、何か作戦でも、あるんですか……?」
「簡単なことだ。奴は戦艦で、しかも周囲には駆逐艦の一隻もいない。容易に振り切れるであろう」
「おいおい、戦艦に突っ込めって言うのか? 幾ら何でもそれは勘弁だぞ」
「案ずるな。戦艦にこんな小さな船を狙い撃てる筈がない。それは駆逐艦か巡洋艦の役目であるからな」
普通の海軍にも水雷艇など自爆まがいの攻撃をしてくる艦艇は存在しているが、そういうものへの対処は随伴艦の仕事である。戦艦だからこそ、こんな船を相手にすることは寧ろ不可能なのである。
「で、ですが、戦艦と言っても副砲がありますよね?」
戦艦の武器は主砲だけではない。自身より小柄の艦艇の肉迫を許した場合に対処する為に副砲というものがある。副砲とて魚雷艇のようなものを相手にすることは想定していないが、主砲よりは小型の艦艇に対応することができる。
「無論、そんなことは分かっておる。だがリシュリューの副砲は全て艦橋より後ろに着いておる。つまり我らが逃げ奴が追う限り、主砲しか使えぬのだ」
「な、なるほど……」
「どうだ、シエンフエゴス? やる気になったか?」
「わ、分かった。やってやろうじゃないか」
「その意気だ。では頼んだぞ。全速力でブルターニュに向かえ!」
リシュリューはサン・ファン・バウティスタ号に対して真横から迫ってきている。りしゅるの構造上、副砲でツェッペリン達を狙うことは不可能であるし、このまま突き進めば副砲を使える時は来ない。
「死んでも知らないからな!」
「あんな愚鈍の戦艦に殺されるものか」
かくしてリシュリューの命令を無視し、小さな漁船は全速力で前進を始めた。すると間もなくリシュリューから通信の呼び掛けがあった。
「どうするんだ?」
「時間稼ぎにはなるであろう。我が受けよう」
ツェッペリンはリシュリューからの通信を受けた。すぐさまリシュリューの怒声が飛んでくる。
『これは何のつもりですか!? 速やかにお答えしていただかねば、撃沈もやむなしですわよ!』
「いやはや、こちらは密猟船でな。バレたら困るのだ」
ツェッペリンはからかうように言う。
『その声、女……。いや、そんなことはどうでもいい。直ちに止まりなさい! これが最後の警告ですわよ!』
「ここはフランスの領海ではあるまい。確かに我々は犯罪者だが、かと言って撃沈する権限などあるのか?」
『そ、それは……』
リシュリューは言葉に詰まる。取り締まりの権限くらいはあれど、即座に撃沈する権限など彼女にはないのである。ツェッペリンの博識に妙高も感心した。
「では、我らは失礼させてもらおう」
『ちょ、ちょっと待ちなさい!!』
「犯罪者がそんな言葉に耳を貸す訳がなかろう。追うならば追ってくるがいい」
『言われなくてもそうさせてもらいますわ!』
「ふん。精々頑張るがいい」
『後悔しても知りませんわよ』
と言って、リシュリューからの通信は切られた。
「よし。では最大戦速にて東に向かうのだ」
「おうよ」
見た目こそ安っぽい漁船であるが、実際なかなり高価な機関を積んでいる。速力は最大40ノットは出る。精々30ノットのリシュリューにはとても追いつけないだろう。
○
「なっ、速い……!」
リシュリューは驚いた。目標の船が逃げ出し始めたと思ったら、自分より遥かに速くなっている。戦艦は軍艦の中では遅い方だが、軍艦というのは基本的に民間船より遥かに速いものである。それよりも速いというのはただものではない。
「単なる密猟者とはとても思えません。或いはどこかの国のスパイか……。いずれにせよ捕縛せねばなりませんね」
リシュリューは周辺の艦艇に通信して、その所在を確かめた。しかしいずれも遠く、とても敵船に追いつけそうにない。
「ん? 何故、東に?」
そこでリシュリューは根本的な違和感に気付いた。敵が何であれ、逃げているのにフランス本土に向かっているというのはおかしい。
「なるほど。やはり我が国への密入国を試みているようですね。それならば、容赦は要りません」
リシュリューは敵がフランスへの攻撃を企む輩であると断定した。そうなれば領海も領空も関係ない。最後にもう一度だけ、通信を呼びかける。
「こちららリシュリュー。あなた方を我が国への攻撃を企む敵性存在と認定し、撃沈させていただきます。今降伏するのならば命だけは助けてさしあげますが、いかがですか?」
最後の慈悲を見せてやったが、応じるつもりはないようだ。
『たわけが。やれるものならやってみるといい』
「……承知しました。容赦するなどとは思わないことですわね」
リシュリューは通信を切って、主砲の狙いを定めた。
妙高はすっかり震え上がっている。リシュリューに臨検などされたら一巻の終わりなのだ。
「まあまあ落ち着け、妙高」
「な、何か作戦でも、あるんですか……?」
「簡単なことだ。奴は戦艦で、しかも周囲には駆逐艦の一隻もいない。容易に振り切れるであろう」
「おいおい、戦艦に突っ込めって言うのか? 幾ら何でもそれは勘弁だぞ」
「案ずるな。戦艦にこんな小さな船を狙い撃てる筈がない。それは駆逐艦か巡洋艦の役目であるからな」
普通の海軍にも水雷艇など自爆まがいの攻撃をしてくる艦艇は存在しているが、そういうものへの対処は随伴艦の仕事である。戦艦だからこそ、こんな船を相手にすることは寧ろ不可能なのである。
「で、ですが、戦艦と言っても副砲がありますよね?」
戦艦の武器は主砲だけではない。自身より小柄の艦艇の肉迫を許した場合に対処する為に副砲というものがある。副砲とて魚雷艇のようなものを相手にすることは想定していないが、主砲よりは小型の艦艇に対応することができる。
「無論、そんなことは分かっておる。だがリシュリューの副砲は全て艦橋より後ろに着いておる。つまり我らが逃げ奴が追う限り、主砲しか使えぬのだ」
「な、なるほど……」
「どうだ、シエンフエゴス? やる気になったか?」
「わ、分かった。やってやろうじゃないか」
「その意気だ。では頼んだぞ。全速力でブルターニュに向かえ!」
リシュリューはサン・ファン・バウティスタ号に対して真横から迫ってきている。りしゅるの構造上、副砲でツェッペリン達を狙うことは不可能であるし、このまま突き進めば副砲を使える時は来ない。
「死んでも知らないからな!」
「あんな愚鈍の戦艦に殺されるものか」
かくしてリシュリューの命令を無視し、小さな漁船は全速力で前進を始めた。すると間もなくリシュリューから通信の呼び掛けがあった。
「どうするんだ?」
「時間稼ぎにはなるであろう。我が受けよう」
ツェッペリンはリシュリューからの通信を受けた。すぐさまリシュリューの怒声が飛んでくる。
『これは何のつもりですか!? 速やかにお答えしていただかねば、撃沈もやむなしですわよ!』
「いやはや、こちらは密猟船でな。バレたら困るのだ」
ツェッペリンはからかうように言う。
『その声、女……。いや、そんなことはどうでもいい。直ちに止まりなさい! これが最後の警告ですわよ!』
「ここはフランスの領海ではあるまい。確かに我々は犯罪者だが、かと言って撃沈する権限などあるのか?」
『そ、それは……』
リシュリューは言葉に詰まる。取り締まりの権限くらいはあれど、即座に撃沈する権限など彼女にはないのである。ツェッペリンの博識に妙高も感心した。
「では、我らは失礼させてもらおう」
『ちょ、ちょっと待ちなさい!!』
「犯罪者がそんな言葉に耳を貸す訳がなかろう。追うならば追ってくるがいい」
『言われなくてもそうさせてもらいますわ!』
「ふん。精々頑張るがいい」
『後悔しても知りませんわよ』
と言って、リシュリューからの通信は切られた。
「よし。では最大戦速にて東に向かうのだ」
「おうよ」
見た目こそ安っぽい漁船であるが、実際なかなり高価な機関を積んでいる。速力は最大40ノットは出る。精々30ノットのリシュリューにはとても追いつけないだろう。
○
「なっ、速い……!」
リシュリューは驚いた。目標の船が逃げ出し始めたと思ったら、自分より遥かに速くなっている。戦艦は軍艦の中では遅い方だが、軍艦というのは基本的に民間船より遥かに速いものである。それよりも速いというのはただものではない。
「単なる密猟者とはとても思えません。或いはどこかの国のスパイか……。いずれにせよ捕縛せねばなりませんね」
リシュリューは周辺の艦艇に通信して、その所在を確かめた。しかしいずれも遠く、とても敵船に追いつけそうにない。
「ん? 何故、東に?」
そこでリシュリューは根本的な違和感に気付いた。敵が何であれ、逃げているのにフランス本土に向かっているというのはおかしい。
「なるほど。やはり我が国への密入国を試みているようですね。それならば、容赦は要りません」
リシュリューは敵がフランスへの攻撃を企む輩であると断定した。そうなれば領海も領空も関係ない。最後にもう一度だけ、通信を呼びかける。
「こちららリシュリュー。あなた方を我が国への攻撃を企む敵性存在と認定し、撃沈させていただきます。今降伏するのならば命だけは助けてさしあげますが、いかがですか?」
最後の慈悲を見せてやったが、応じるつもりはないようだ。
『たわけが。やれるものならやってみるといい』
「……承知しました。容赦するなどとは思わないことですわね」
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