237 / 486
第十二章 ドイツ訪問(上陸編)
ドイツを動かすⅢ
しおりを挟む
「――は? え、本当に言ってんの?」
ツェッペリンから交渉の成果を報告された瑞鶴の反応は、このようであった。まさかあのツェッペリンにマトモに交渉をして成功させる能力があったとは、とても思えなかったのである。
「何だ貴様、我を疑うのか?」
「嘘を吐いているとは思わないけど……」
「幾分話ができすぎていると思うのですが……」
瑞鶴とは別に、高雄はこれがドイツ海軍の罠ではないかと疑っていた。
「奴らが我を騙しているとでも?」
「え、ええ。そう考えた方が自然かと」
「でも高雄、ドイツの人達、そんな悪い人には見えなかったよ?」
妙高は能天気に発言する。
「それは、そうですが……例え人格的にいい人であったとしても、海軍司令部からの命令があればわたくし達を騙すということだって考えられます」
「私もお姉ちゃんの意見に賛成よ。ドイツの連中とかいうのには、会ったことないけど」
愛宕は何故か月虹に紛れ込んでいる。瑞鶴はついに黙っていられなくなった。
「まったく、あんたはどういう立場で発言してるのよ」
「私はお姉ちゃんを守るだけよ。お姉ちゃんを危険に晒そうというのなら、あなた達は私の敵ね。どうやらあなた達はこれまで、お姉ちゃんに散々危ないことをさせてきたみたいだけど」
「軍艦なんだから危険は仕方ないでしょ」
「それはそうかもしれないけど、お姉ちゃんの主砲を吹き飛ばしたのでしょう? あなたの戦争指導には甚だ疑問を呈さざるを得ないわ」
「それは……まあ、そうかもしれない」
瑞鶴は元より人を指揮するのはあまり得意ではない。これについては認めざるを得なかったし、ツェッペリンのように無駄に強がったりはしない。
「……ええと、何の話だっけ」
「愛宕と瑞鶴さんの話は置いておいて、ドイツ側の提案が罠なのではないか、という話です」
高雄は論議を仕切りなおした。
「そうね。うーん……でもツェッペリン、給油艦の話はオイゲンがわざわざ内密にしてきたのよね?」
「そうだな」
「罠にしては無駄に手が込みすぎている気がする。私達を罠に嵌めたいなら、シャルンホルストが言った方が説得力があるし」
「確かに、その通りであるな。やはりここは、我の計画通りに事を運ぼうではないか」
「まあ大丈夫か。仮に罠だったとしても、向こうから仕掛けてきたのなら遠慮なく戦えるし。みんな、どう?」
高雄と愛宕を除いては、罠ではないだろうということで一致した。高雄と愛宕も万が一の際は実力行使に出ればよかろうということで同意してくれた。ドイツがその気なら遅かれ早かれ衝突するだろう。
「しかし瑞鶴さん、まだ問題があります」
高雄は作戦に納得した訳ではない。
「何?」
「わたくし達の帰る場所がないということです。ドイツに公然と敵対するようなことをする以上、もうドイツ海軍の援助は得られないでしょう」
「あー、そう言えばそうね」
「考えていなかったのですか……」
「考えてなかった。ツェッペリンもどうせそうでしょ」
「なっ……! い、いや、まあ、そうなのだが……」
高雄やツェッペリンを修理できたのも、弾薬や燃料に困っていないのも、全てドイツ海軍のお陰である。唯一の味方であるキューバには、補給くらいなら何とかなっても、艦艇の修理を行う能力はない。この問題が解決できなければ作戦を実行に移すことはできない。
「それなら、日本に頼めばいいんじゃないですか?」
妙高がそう言うと、瑞鶴はすぐさま否定する。
「いやいや、何で今更日本が手を貸してくれると思ってるのよ」
「え、だって、アメリカとの戦争では協力すると、帝国政府と約束したじゃないですか」
「それはそうだけど」
「補給がなければ妙高達は戦えません。アメリカと戦う為なら、そのくらいはしてもらえるのでは?」
「まあ大和を譲って貰えたくらいだから……言われてみれば無理でもない気もするけど……」
瑞鶴は肯定も否定もし切れなかった。そんな時に意見を出したのは愛宕であった。
「あなた達はこれからドイツと戦争する気なんでしょう? そんな連中を日本が匿ったりしたら国際問題になるわよ」
「ま、確かにね」
「確かにそうですね……。であれば、日本に密かに援助してもらう感じにすればいいと思います」
妙高は言う。帝国空軍は実質的に参戦しているし、帝国海軍も人員を大和に送り込んでいる。内密にする限り、月虹への支援程度で躊躇うことはないだろうと。
「なるほどね。本当に日本が協力してくれるなら、だけど。愛宕の言う通り、外交問題になる方を嫌がるかもよ?」
「妙高達がドイツやソ連のものになる方が嫌がるのではないでしょうか? 特に瑞鶴さんは」
「ま、まあ……それもそうね」
面と向かって言われると、瑞鶴は少し照れて顔を赤くした。
「ですので、帝国海軍はきっと力を貸してくれる筈です」
「相変わらず、なかなか強気よね、あんた」
「それほどでも……」
要するに自分達自身を人質にして交渉するのである。なかなかの自信がなければ言い出せることではない。瑞鶴は妙高の提案を気に入った。
ツェッペリンから交渉の成果を報告された瑞鶴の反応は、このようであった。まさかあのツェッペリンにマトモに交渉をして成功させる能力があったとは、とても思えなかったのである。
「何だ貴様、我を疑うのか?」
「嘘を吐いているとは思わないけど……」
「幾分話ができすぎていると思うのですが……」
瑞鶴とは別に、高雄はこれがドイツ海軍の罠ではないかと疑っていた。
「奴らが我を騙しているとでも?」
「え、ええ。そう考えた方が自然かと」
「でも高雄、ドイツの人達、そんな悪い人には見えなかったよ?」
妙高は能天気に発言する。
「それは、そうですが……例え人格的にいい人であったとしても、海軍司令部からの命令があればわたくし達を騙すということだって考えられます」
「私もお姉ちゃんの意見に賛成よ。ドイツの連中とかいうのには、会ったことないけど」
愛宕は何故か月虹に紛れ込んでいる。瑞鶴はついに黙っていられなくなった。
「まったく、あんたはどういう立場で発言してるのよ」
「私はお姉ちゃんを守るだけよ。お姉ちゃんを危険に晒そうというのなら、あなた達は私の敵ね。どうやらあなた達はこれまで、お姉ちゃんに散々危ないことをさせてきたみたいだけど」
「軍艦なんだから危険は仕方ないでしょ」
「それはそうかもしれないけど、お姉ちゃんの主砲を吹き飛ばしたのでしょう? あなたの戦争指導には甚だ疑問を呈さざるを得ないわ」
「それは……まあ、そうかもしれない」
瑞鶴は元より人を指揮するのはあまり得意ではない。これについては認めざるを得なかったし、ツェッペリンのように無駄に強がったりはしない。
「……ええと、何の話だっけ」
「愛宕と瑞鶴さんの話は置いておいて、ドイツ側の提案が罠なのではないか、という話です」
高雄は論議を仕切りなおした。
「そうね。うーん……でもツェッペリン、給油艦の話はオイゲンがわざわざ内密にしてきたのよね?」
「そうだな」
「罠にしては無駄に手が込みすぎている気がする。私達を罠に嵌めたいなら、シャルンホルストが言った方が説得力があるし」
「確かに、その通りであるな。やはりここは、我の計画通りに事を運ぼうではないか」
「まあ大丈夫か。仮に罠だったとしても、向こうから仕掛けてきたのなら遠慮なく戦えるし。みんな、どう?」
高雄と愛宕を除いては、罠ではないだろうということで一致した。高雄と愛宕も万が一の際は実力行使に出ればよかろうということで同意してくれた。ドイツがその気なら遅かれ早かれ衝突するだろう。
「しかし瑞鶴さん、まだ問題があります」
高雄は作戦に納得した訳ではない。
「何?」
「わたくし達の帰る場所がないということです。ドイツに公然と敵対するようなことをする以上、もうドイツ海軍の援助は得られないでしょう」
「あー、そう言えばそうね」
「考えていなかったのですか……」
「考えてなかった。ツェッペリンもどうせそうでしょ」
「なっ……! い、いや、まあ、そうなのだが……」
高雄やツェッペリンを修理できたのも、弾薬や燃料に困っていないのも、全てドイツ海軍のお陰である。唯一の味方であるキューバには、補給くらいなら何とかなっても、艦艇の修理を行う能力はない。この問題が解決できなければ作戦を実行に移すことはできない。
「それなら、日本に頼めばいいんじゃないですか?」
妙高がそう言うと、瑞鶴はすぐさま否定する。
「いやいや、何で今更日本が手を貸してくれると思ってるのよ」
「え、だって、アメリカとの戦争では協力すると、帝国政府と約束したじゃないですか」
「それはそうだけど」
「補給がなければ妙高達は戦えません。アメリカと戦う為なら、そのくらいはしてもらえるのでは?」
「まあ大和を譲って貰えたくらいだから……言われてみれば無理でもない気もするけど……」
瑞鶴は肯定も否定もし切れなかった。そんな時に意見を出したのは愛宕であった。
「あなた達はこれからドイツと戦争する気なんでしょう? そんな連中を日本が匿ったりしたら国際問題になるわよ」
「ま、確かにね」
「確かにそうですね……。であれば、日本に密かに援助してもらう感じにすればいいと思います」
妙高は言う。帝国空軍は実質的に参戦しているし、帝国海軍も人員を大和に送り込んでいる。内密にする限り、月虹への支援程度で躊躇うことはないだろうと。
「なるほどね。本当に日本が協力してくれるなら、だけど。愛宕の言う通り、外交問題になる方を嫌がるかもよ?」
「妙高達がドイツやソ連のものになる方が嫌がるのではないでしょうか? 特に瑞鶴さんは」
「ま、まあ……それもそうね」
面と向かって言われると、瑞鶴は少し照れて顔を赤くした。
「ですので、帝国海軍はきっと力を貸してくれる筈です」
「相変わらず、なかなか強気よね、あんた」
「それほどでも……」
要するに自分達自身を人質にして交渉するのである。なかなかの自信がなければ言い出せることではない。瑞鶴は妙高の提案を気に入った。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
軍艦少女は死に至る夢を見る【船魄紹介まとめ】
takahiro
キャラ文芸
同名の小説「軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/176458335/571869563)のキャラ紹介だけを纏めたものです。
小説全体に散らばっていて見返しづらくなっていたので、別に独立させることにしました。内容は全く同じです。本編の内容自体に触れることは少ないので大してネタバレにはなりませんが、誰が登場するかを楽しみにしておきたい方はブラウザバックしてください。
なお挿絵は全てAI加筆なので雰囲気程度です。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる