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第十一章 キューバ戦争
ユカタン海峡海戦Ⅲ
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「全員、爆撃機と攻撃機も出して。敵がその気なら、こっちも同じ手段で応じるまでよ」
瑞鶴は機動部隊に、特攻で敵の戦闘機を撃墜せよと命令する。が、その命令を通す扶桑から苦言が飛んできた。
『瑞鶴さん、自爆というのは幾らなんでも受け入れ難いかと』
「仕方ないでしょ。敵だけがそうしてたら、こっちの戦闘機が全滅するわよ」
『それは理解していますが……これは申し訳ないことなのですが、こちらの空母は進んで特攻ができるほどの精神力はありません。仮にやろうと思っても不可能でしょう』
瑞鶴は大分感覚が狂っていたが、積極的に特攻をやりたがる船魄など、極一部の修羅のような船魄だけなのである。もっとも、今回はその異常者が敵機を全部操っているのだが。
「じゃあどうしろって言うのよ」
『わたくし達を頼ってくださいな。それが妙高さんの当初の作戦でもあったのでは?』
「まあ、それもそうね。撃ち漏らすんじゃないわよ」
『一機残らず撃ち落とすというのは困難かと』
「そういう時は全部撃ち落とすって言っておくのよ! じゃあ……空母は敵に道を開けてやりなさい」
瑞鶴は空母達に命じて、自分も含め、艦載機を一気に撤退させた。当然ながらエンタープライズは空母機動部隊そのものを、と言うより瑞鶴を狙って躊躇なく突っ込んでくる。
『わたくし達の出番ですね。山城、いきますよ』
『私に頼るなんてやめた方がいいと思うけど』
「つべこべ言ってないでとっとと働いて!」
扶桑と山城が機動部隊の前方に陣取る。そして直角に回頭して、敵編隊に全ての主砲を志向した。35.6cm砲は威力で劣るが、扶桑と山城合わせて24門というなかなかの数である。
『敵編隊との距離、30kmを切る。山城、参りますよ』
『精一杯の努力はしますけど……』
扶桑は優雅に、山城は嫌々ながら、敵に照準を定めた。
「ここから先は好きにやっていいわよ」
『元よりそのつもりです。それでは全主砲、撃ち方始め!』
『撃ち方始め……』
24発の三式弾が一斉に放たれる。放たれた砲弾は敵機の眼前で爆風の壁を造るように一斉に炸裂した。エンタープライズもこれを全て回避し切ることはできず、20機ばかりが撃墜された。その後も扶桑と山城は次弾を装填し次々に砲撃を行った。
「なかなかやるじゃない。やっぱ高角砲は数が大事よね」
『わたくし達のこれは主砲ですが……』
「高角砲として使ってるんだから同じでしょう」
『まあよしとしましょう』
と、その時である。山城が『あ゛っ』と情けない声を漏らした。
『山城、どうかしましたか?』
『三番と四番主砲塔が故障した……。はあ……やっぱり不幸だわ……』
「主砲が故障とか、聞いたことないわね……」
瑞鶴は戦慄する。攻撃を受けて使用不能になるというならともかく、普通に使っていて主砲が故障するなど見たことも聞いたこともないからである。最新技術を盛り込んだ装備が故障するのならまだ考えられなくはないが、使い古された扶桑型に単なる故障など普通は許されない。
「ま、まあ、主砲はまだまだ残ってるし、残った主砲で対空砲火を続けて」
『ええ、まあ、精々頑張るわ』
幸いにしてそれ以上の不幸は訪れず、山城は扶桑と共に手法斉射を行い続けた。そうしてエンタープライズの艦載機を120機は削ることに成功したのである。対空戦闘に用いるのであれば、瑞鶴の言うように、主砲が多い扶桑型は今でも十分活躍の場が残っているのだ。
「こんだけ削れば何とかなるか。艦載機で押し返すわよ! 全機出撃!!」
扶桑と山城の迎撃エリアを敵が抜けたところで航空戦が再開された。かなり数を減らしてエンタープライズの航空艦隊ならば、特攻を使わなくても何とか対等に相手取ることができる。
エンタープライズ側はおよそ250機が残っており、戦闘機は100機ほどだろう。こちらの戦闘機は残りおよそ150機。これだけの差があれば押し負けることはあるまい。
○
「随分と落とされてしまいました。これでは瑞鶴を攻撃できません……」
エンタープライズは心底残念がって溜息を吐いた。彼女は概ね狂人であるが、勝てない戦いには微塵も興味がないのである。
「了解した。ではこれ以上の攻撃を続ける必要はない。エンタープライズ、全ての艦載機を撤退させてくれ」
スプルーアンス元帥がそう命令すると、エンタープライズは特になんの文句も言わずに従った。かくして戦闘は一時休止に入ったのである。
「しかしエンタープライズ、敵の機動部隊に護衛がいないというのは本当だったか?」
「はい。扶桑と山城しかいませんでした」
「やはり報告は精確だったか。依然として敵の別働隊の位置が掴めないのが不気味だが……」
「どこに行ってしまったんでしょうね」
「これほど偵察して尻尾を掴めないのは異常だ。だが、機動部隊本隊を叩けば我々の勝利は確定する。それに集中しよう」
「私でもあの守りを突破するのは難しいと思いますが」
「いや、君に頼る必要はない。敵に護衛がないなら、打てる手がある」
「潜水艦でも使うつもりで?」
「ご名答だ」
「はぁ。くれぐれも瑞鶴を沈めないでくださいよ」
「分かっている。そんなことをしたら君に殺されるからな」
カリブ海には常に数隻の潜水艦が配置されて、日本軍の監視などを行っている。普通は日本海軍に近づくと撃沈されるので積極的に運用することはできないが、今ならそれも可能かもしれない。
瑞鶴は機動部隊に、特攻で敵の戦闘機を撃墜せよと命令する。が、その命令を通す扶桑から苦言が飛んできた。
『瑞鶴さん、自爆というのは幾らなんでも受け入れ難いかと』
「仕方ないでしょ。敵だけがそうしてたら、こっちの戦闘機が全滅するわよ」
『それは理解していますが……これは申し訳ないことなのですが、こちらの空母は進んで特攻ができるほどの精神力はありません。仮にやろうと思っても不可能でしょう』
瑞鶴は大分感覚が狂っていたが、積極的に特攻をやりたがる船魄など、極一部の修羅のような船魄だけなのである。もっとも、今回はその異常者が敵機を全部操っているのだが。
「じゃあどうしろって言うのよ」
『わたくし達を頼ってくださいな。それが妙高さんの当初の作戦でもあったのでは?』
「まあ、それもそうね。撃ち漏らすんじゃないわよ」
『一機残らず撃ち落とすというのは困難かと』
「そういう時は全部撃ち落とすって言っておくのよ! じゃあ……空母は敵に道を開けてやりなさい」
瑞鶴は空母達に命じて、自分も含め、艦載機を一気に撤退させた。当然ながらエンタープライズは空母機動部隊そのものを、と言うより瑞鶴を狙って躊躇なく突っ込んでくる。
『わたくし達の出番ですね。山城、いきますよ』
『私に頼るなんてやめた方がいいと思うけど』
「つべこべ言ってないでとっとと働いて!」
扶桑と山城が機動部隊の前方に陣取る。そして直角に回頭して、敵編隊に全ての主砲を志向した。35.6cm砲は威力で劣るが、扶桑と山城合わせて24門というなかなかの数である。
『敵編隊との距離、30kmを切る。山城、参りますよ』
『精一杯の努力はしますけど……』
扶桑は優雅に、山城は嫌々ながら、敵に照準を定めた。
「ここから先は好きにやっていいわよ」
『元よりそのつもりです。それでは全主砲、撃ち方始め!』
『撃ち方始め……』
24発の三式弾が一斉に放たれる。放たれた砲弾は敵機の眼前で爆風の壁を造るように一斉に炸裂した。エンタープライズもこれを全て回避し切ることはできず、20機ばかりが撃墜された。その後も扶桑と山城は次弾を装填し次々に砲撃を行った。
「なかなかやるじゃない。やっぱ高角砲は数が大事よね」
『わたくし達のこれは主砲ですが……』
「高角砲として使ってるんだから同じでしょう」
『まあよしとしましょう』
と、その時である。山城が『あ゛っ』と情けない声を漏らした。
『山城、どうかしましたか?』
『三番と四番主砲塔が故障した……。はあ……やっぱり不幸だわ……』
「主砲が故障とか、聞いたことないわね……」
瑞鶴は戦慄する。攻撃を受けて使用不能になるというならともかく、普通に使っていて主砲が故障するなど見たことも聞いたこともないからである。最新技術を盛り込んだ装備が故障するのならまだ考えられなくはないが、使い古された扶桑型に単なる故障など普通は許されない。
「ま、まあ、主砲はまだまだ残ってるし、残った主砲で対空砲火を続けて」
『ええ、まあ、精々頑張るわ』
幸いにしてそれ以上の不幸は訪れず、山城は扶桑と共に手法斉射を行い続けた。そうしてエンタープライズの艦載機を120機は削ることに成功したのである。対空戦闘に用いるのであれば、瑞鶴の言うように、主砲が多い扶桑型は今でも十分活躍の場が残っているのだ。
「こんだけ削れば何とかなるか。艦載機で押し返すわよ! 全機出撃!!」
扶桑と山城の迎撃エリアを敵が抜けたところで航空戦が再開された。かなり数を減らしてエンタープライズの航空艦隊ならば、特攻を使わなくても何とか対等に相手取ることができる。
エンタープライズ側はおよそ250機が残っており、戦闘機は100機ほどだろう。こちらの戦闘機は残りおよそ150機。これだけの差があれば押し負けることはあるまい。
○
「随分と落とされてしまいました。これでは瑞鶴を攻撃できません……」
エンタープライズは心底残念がって溜息を吐いた。彼女は概ね狂人であるが、勝てない戦いには微塵も興味がないのである。
「了解した。ではこれ以上の攻撃を続ける必要はない。エンタープライズ、全ての艦載機を撤退させてくれ」
スプルーアンス元帥がそう命令すると、エンタープライズは特になんの文句も言わずに従った。かくして戦闘は一時休止に入ったのである。
「しかしエンタープライズ、敵の機動部隊に護衛がいないというのは本当だったか?」
「はい。扶桑と山城しかいませんでした」
「やはり報告は精確だったか。依然として敵の別働隊の位置が掴めないのが不気味だが……」
「どこに行ってしまったんでしょうね」
「これほど偵察して尻尾を掴めないのは異常だ。だが、機動部隊本隊を叩けば我々の勝利は確定する。それに集中しよう」
「私でもあの守りを突破するのは難しいと思いますが」
「いや、君に頼る必要はない。敵に護衛がないなら、打てる手がある」
「潜水艦でも使うつもりで?」
「ご名答だ」
「はぁ。くれぐれも瑞鶴を沈めないでくださいよ」
「分かっている。そんなことをしたら君に殺されるからな」
カリブ海には常に数隻の潜水艦が配置されて、日本軍の監視などを行っている。普通は日本海軍に近づくと撃沈されるので積極的に運用することはできないが、今ならそれも可能かもしれない。
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