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第十一章 キューバ戦争
シエンフエーゴスの虐殺
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「な、何だ、これは……。これが人間のやることか……?」
煌々と燃え上がるシエンフエーゴスを前にして、ゲバラは怒りを顕にした。
「アメリカ人を人間だなんて思わない方がいいわよ。前にもそう言ったじゃない」
「それでも、それでも僕は、アメリカ人に良心が残っていると信じたかったんだ。だが……」
「そろそろ目が覚めた? まあ多少はマトモな奴もいるけど、アメリカでマトモな人間は排除されるだけだからね」
「そう、か……」
ゲバラは派手に溜息を吐いた。
「どう? やっぱりアメリカ人を大量虐殺する?」
もう一度ニューヨークにでも行って、今度は事前の警告もせず、ありとあらゆる建物と人間を焼き尽くそうと、瑞鶴は提案する。
「いいや、それは違う。僕達は決して、アメリカ人と同じ次元に落ちる訳にはいかない」
「あ、そう。まあ無抵抗な人間を殺しても面白くないしね」
「……まあいい」
ゲバラは瑞鶴に説教しかけたが、止めることにした。瑞鶴が民間人を虐殺し出さないのであれば、理由は何でもいいのだ。
「でもどうするの? 守るべきシエンフエーゴスは灰になった訳だけど」
「ああ、嘆いている暇はないな。補給拠点としての機能はほとんど失われてしまった。遺憾だが前線を下げる他にないだろう。サンタ・クララが攻撃を受けることになってしまうけど……仕方がない」
「そう。ならとっととやった方がいいんじゃない?」
「そうだな。日本に援助を要請しよう。だがシエンフエーゴスから部隊が撤退するまでは、大和に引き続き援護を頼みたい。そういう風に有賀中将閣下に伝えてくれ」
「分かった」
瑞鶴はゲバラの言葉を有賀中将に伝え、ゲバラはカストロにシエンフエーゴスからの撤退を打診した。
○
一方その頃。フロリダに戻ったルメイ大将にアイゼンハワー首相から再び電話が掛かってきていた。
『何をやっとるこの馬鹿者ッ!!』
受話器を取った途端、アイゼンハワー首相の叫び声が響き渡った。
「……ど、どうされたのですか、首相閣下?」
『言わないと分からないのか!? この馬鹿野郎が!! そうなら貴様は今すぐ退役しろ!!』
「も、申し訳ありませんが、何が問題なのですか?」
『……貴様、あれだけ民間人を殺しておいて開き直っているのか?』
一昔前のアメリカならば、数十万人程度の虐殺など気にすることはなかった。何百何千という民族を絶滅させてきたアメリカにとって、どうということではない。だが今のアメリカは国際社会のルールに従わなければならないのだ。
「開き直っているとは、不本意な表現です。私はただ正義を実行したまでです」
『やはり貴様はダメだ。ルーズベルト派の人間など使い続けるべきではなかった。ルメイ空軍大将、貴様は今から予備役だ』
「な、何故です!? 私はただ民主主義を受け入れない愚か者を殲滅しただけです!!」
『民主主義など、そんなプロパガンダに将校が騙されてどうするんだ。貴様は解任だ。年金はちゃんと払ってやるからとっとと失せろ』
シエンフエーゴス大虐殺の責任を取らせるという意味もあり、ルメイ大将に抗弁する機会は与えられず、直ちに一切の軍務を解かれた。しかし内部の反発を恐れて軍法会議に掛けられることはなく、中途半端な決定であった。
○
日本はすぐにゲバラの、正確にいえばカストロの要請を受諾して輸送船を大量に手配し、シエンフエーゴス撤退作戦を支援した。キューバ軍主力部隊は1週間程度で南東の港町トリニダに撤退した。
同時に大和も、トリニダの沿岸に接岸してアメリカ軍を待ち構えることにした。
「我々がいることで、この街も無差別爆撃を受ける可能性はないだろうか……」
有賀中将は大和のせいでシエンフエーゴスが空襲を受けたのではないかと言う。瑞鶴はそれを通訳してゲバラに伝えた。
「大和とアメリカの凶行は関係ありません。大和が来ずとも、アメリカはいずれあのような行為に及んでいたでしょう」
「それは結局、我々がそれを早めたということではないのか?」
「いずれ起こっていたことが早く起ころうが遅く起ころうが、大した違いではありませんよ。それに、いずれ起こることならば、早く起こってしまった方がいい。その方がアメリカの破滅が早まりますから」
「分かった。では引き続き、我々は全力を尽くそう」
数千の住民を失ったが、アメリカはもう引き返せないほど国際社会から孤立した。戦争を終わらせるのに必要な犠牲であれば、早いうちに支払った方が合理的だ。ゲバラはそう考えることにした。
しかし幸いなことに、アイゼンハワー首相は政治にも軍事にも妥協する中途半端な男であり、民間人を標的とした爆撃を行わないと世界に宣言した。
「そうか……それなら、いいんだ」
ゲバラは胸をなでおろした。
「アメリカを孤立させるってのは叶わなくなるけどいいの?」
「人が死ぬよりはずっといいさ」
「あっそう。あんたも中途半端な奴ね」
「そうだな。僕は理想主義者にも現実主義者にもなり切れない中途半端な男だ。だが……そうなるとアメリカは多分、海から仕掛けて来るぞ」
「ええ、分かってる。私の出番ね」
アメリカは大和を排除するべく艦隊を差し向けて来ると予想される。瑞鶴の本領発揮である。
煌々と燃え上がるシエンフエーゴスを前にして、ゲバラは怒りを顕にした。
「アメリカ人を人間だなんて思わない方がいいわよ。前にもそう言ったじゃない」
「それでも、それでも僕は、アメリカ人に良心が残っていると信じたかったんだ。だが……」
「そろそろ目が覚めた? まあ多少はマトモな奴もいるけど、アメリカでマトモな人間は排除されるだけだからね」
「そう、か……」
ゲバラは派手に溜息を吐いた。
「どう? やっぱりアメリカ人を大量虐殺する?」
もう一度ニューヨークにでも行って、今度は事前の警告もせず、ありとあらゆる建物と人間を焼き尽くそうと、瑞鶴は提案する。
「いいや、それは違う。僕達は決して、アメリカ人と同じ次元に落ちる訳にはいかない」
「あ、そう。まあ無抵抗な人間を殺しても面白くないしね」
「……まあいい」
ゲバラは瑞鶴に説教しかけたが、止めることにした。瑞鶴が民間人を虐殺し出さないのであれば、理由は何でもいいのだ。
「でもどうするの? 守るべきシエンフエーゴスは灰になった訳だけど」
「ああ、嘆いている暇はないな。補給拠点としての機能はほとんど失われてしまった。遺憾だが前線を下げる他にないだろう。サンタ・クララが攻撃を受けることになってしまうけど……仕方がない」
「そう。ならとっととやった方がいいんじゃない?」
「そうだな。日本に援助を要請しよう。だがシエンフエーゴスから部隊が撤退するまでは、大和に引き続き援護を頼みたい。そういう風に有賀中将閣下に伝えてくれ」
「分かった」
瑞鶴はゲバラの言葉を有賀中将に伝え、ゲバラはカストロにシエンフエーゴスからの撤退を打診した。
○
一方その頃。フロリダに戻ったルメイ大将にアイゼンハワー首相から再び電話が掛かってきていた。
『何をやっとるこの馬鹿者ッ!!』
受話器を取った途端、アイゼンハワー首相の叫び声が響き渡った。
「……ど、どうされたのですか、首相閣下?」
『言わないと分からないのか!? この馬鹿野郎が!! そうなら貴様は今すぐ退役しろ!!』
「も、申し訳ありませんが、何が問題なのですか?」
『……貴様、あれだけ民間人を殺しておいて開き直っているのか?』
一昔前のアメリカならば、数十万人程度の虐殺など気にすることはなかった。何百何千という民族を絶滅させてきたアメリカにとって、どうということではない。だが今のアメリカは国際社会のルールに従わなければならないのだ。
「開き直っているとは、不本意な表現です。私はただ正義を実行したまでです」
『やはり貴様はダメだ。ルーズベルト派の人間など使い続けるべきではなかった。ルメイ空軍大将、貴様は今から予備役だ』
「な、何故です!? 私はただ民主主義を受け入れない愚か者を殲滅しただけです!!」
『民主主義など、そんなプロパガンダに将校が騙されてどうするんだ。貴様は解任だ。年金はちゃんと払ってやるからとっとと失せろ』
シエンフエーゴス大虐殺の責任を取らせるという意味もあり、ルメイ大将に抗弁する機会は与えられず、直ちに一切の軍務を解かれた。しかし内部の反発を恐れて軍法会議に掛けられることはなく、中途半端な決定であった。
○
日本はすぐにゲバラの、正確にいえばカストロの要請を受諾して輸送船を大量に手配し、シエンフエーゴス撤退作戦を支援した。キューバ軍主力部隊は1週間程度で南東の港町トリニダに撤退した。
同時に大和も、トリニダの沿岸に接岸してアメリカ軍を待ち構えることにした。
「我々がいることで、この街も無差別爆撃を受ける可能性はないだろうか……」
有賀中将は大和のせいでシエンフエーゴスが空襲を受けたのではないかと言う。瑞鶴はそれを通訳してゲバラに伝えた。
「大和とアメリカの凶行は関係ありません。大和が来ずとも、アメリカはいずれあのような行為に及んでいたでしょう」
「それは結局、我々がそれを早めたということではないのか?」
「いずれ起こっていたことが早く起ころうが遅く起ころうが、大した違いではありませんよ。それに、いずれ起こることならば、早く起こってしまった方がいい。その方がアメリカの破滅が早まりますから」
「分かった。では引き続き、我々は全力を尽くそう」
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しかし幸いなことに、アイゼンハワー首相は政治にも軍事にも妥協する中途半端な男であり、民間人を標的とした爆撃を行わないと世界に宣言した。
「そうか……それなら、いいんだ」
ゲバラは胸をなでおろした。
「アメリカを孤立させるってのは叶わなくなるけどいいの?」
「人が死ぬよりはずっといいさ」
「あっそう。あんたも中途半端な奴ね」
「そうだな。僕は理想主義者にも現実主義者にもなり切れない中途半端な男だ。だが……そうなるとアメリカは多分、海から仕掛けて来るぞ」
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