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第十一章 キューバ戦争
シエンフエーゴスの戦い
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諸々の条件は整った。大和の砲術についてはそう簡単に習得できるものでもないので、こっそりと帝国軍人にやってもらうことになった。操艦は引き続き瑞鶴が担当し、大和はキューバ中部の港町シエンフエーゴスに入った。
シエンフエーゴスは現在、その掌握を狙うアメリカ軍との間で激しい戦闘が繰り広げられている。都市を守る為にゲリラ戦ではなく正面切って戦っているのだ。日本やソ連からの武器供与がなければまず不可能だっただろう。
「で、どうすればいいのかしら?」
大和の艦橋で、瑞鶴はゲバラに尋ねた。
「最前線は既に敵と味方が入り交じっていて、砲撃は使えない。ここはアメリカ軍の増援を狙うとする。僕の仲間がアメリカ軍の接近を教えてくれる筈さ」
「分かった。まあ大和がいるのに突っ込んでくる馬鹿もいないと思うけどね」
「それはどうかな。アメリカ人っていうのは負けず嫌いだからね。大和を見ただけで諦めるなんてことはないと思うよ」
「あ、そう。まあそういう訳らしいから、よろしくね、有賀」
大和の最後の艦長を務めた有賀幸作中将のことである。彼自身の希望で、大和の元乗組員を掻き集めてやって来たらしい。瑞鶴とも多少の縁がある。
「了解だ。こんな固定砲台のような戦い方は、あまり感心したものではないが......」
「あんまり軍人を派遣すると政治的に問題なんでしょ? 仕方ないじゃない」
「まあな。愚痴を言っても仕方ないか」
操艦を瑞鶴が担当することで日本が参戦していないという体にしているのである。そして瑞鶴は戦闘となれば自らの艦載機の制御に集中しなければならないので、大和を動かすのは非現実だ。
かくしてシエンフエーゴスの港に停泊して好機を待っていると、一日と経たずにゲバラに報告が飛んで来た。
「敵が来た。一個大隊程度の規模。経路はいつも通り、この街道を進んで来ると予想される」
ゲバラは報告を受けるや否や、必要な情報を地図に纏めて瑞鶴に手渡した。瑞鶴は大方の話を聞くと、有賀中将にそれをそのまま伝えた。船魄は特殊能力的なものでどんな言語の話者とも意思疎通できるので、通訳をやっている訳である。
「――了解した。全主砲、撃ち方用意!」
既に周辺の地形は測量済みで、アメリカ軍がどの道を通るかも見当がついている。各主砲がアメリカ軍の進路に狙いを定めると同時に、大和の艦尾から偵察の水上機が発艦した。
「敵部隊、我が方の射程に入りました!」
「よーし。全主砲、各個に撃ち方始め!」
アメリカ軍を待ち受けていた大和は、主砲斉射を行う。既に測量は済んでいるので、弾着する前に次の斉射を行うことができる。
「間もなく初弾が命中します」
「おお、これは凄いな......」
ゲバラは感嘆の声を漏らした。大和の9発の三式弾がほとんど同じ場所で炸裂した。その爆炎は30km離れた大和の艦橋からでも十分確認できた。
「観測機からの報告です。敵部隊の壊滅を確認とのこと」
「一撃で終わったか。些か撃ちすぎたな。全主砲、撃ち方止め!」
例え世界最強の戦車と言われるドイツのⅧ号戦車でも、三式弾の爆発に巻き込まれれば行動不能に陥るだろう。アメリカの戦車程度では全く耐えられまい。それにアメリカは物資不足で多くの兵士が徒歩で移動している。
結果、三式弾の爆風の雨を浴びたアメリカの大隊は、全ての車両が破壊され、外に出ていた人間は原型が残らないほどに破壊された。念の為に撃っておいた追い討ちもあって、跡形も残らないとはまさにこの事である。恐らく一人の生存者すら残さず、大隊が消滅したのであった。
「瑞鶴、上手くいったのかな?」
「ああ、あんたには分からないのよね」
ゲバラは艦橋の将兵が日本語で色々と話しているのを全く理解できなかった。瑞鶴はこの作戦の成果をゲバラに伝えた。
「そうか。それはよかった。大和がある限り、アメリカ軍はシエンフエーゴスに近寄れない」
「それに逃げられもしないわ。混戦してるところから離れたら大和の砲撃に消されるもの」
「そうだね。となるとアメリカ軍は当然、大和を排除しに来るだろう」
「ええ。その時はその時よ」
シエンフエーゴスは前線付近で最大の拠点であり、アメリカ軍は何としてでもここを落としたい筈だ。よって大和を何としてでも排除しに来るのは当然だろう。
○
一九五五年十月二十五日、キューバ国、首都ハバナ。
アメリカ軍はキューバ西北部の占領地域に傀儡政権を打ち立て、その首都をハバナに置いていた。そしてキューバ遠征軍の司令部もここハバナに置かれている。
シエンフエーゴスの戦闘――と言うより虐殺のことを、遠征軍総司令官マーク・クラーク陸軍大将が知ったのは、翌日のことであった。と言うのも、一人の生存者も残らなかったせいで、誰も被害を報告できなかったからである。
「艦砲射撃だと......? 今時そんなことが......」
「現代でも戦艦の主砲を上回る火力は要塞砲くらいかと」
「そう、だな......。だったら何としてでも大和を排除しなければならない。空から攻めるぞ。戦艦を沈めるには一番手っ取り早い」
「はっ」
海軍では近寄った途端に消されるのは目に見えている。陸上機による襲撃で大和を無力化する以外の選択肢はなかった。
シエンフエーゴスは現在、その掌握を狙うアメリカ軍との間で激しい戦闘が繰り広げられている。都市を守る為にゲリラ戦ではなく正面切って戦っているのだ。日本やソ連からの武器供与がなければまず不可能だっただろう。
「で、どうすればいいのかしら?」
大和の艦橋で、瑞鶴はゲバラに尋ねた。
「最前線は既に敵と味方が入り交じっていて、砲撃は使えない。ここはアメリカ軍の増援を狙うとする。僕の仲間がアメリカ軍の接近を教えてくれる筈さ」
「分かった。まあ大和がいるのに突っ込んでくる馬鹿もいないと思うけどね」
「それはどうかな。アメリカ人っていうのは負けず嫌いだからね。大和を見ただけで諦めるなんてことはないと思うよ」
「あ、そう。まあそういう訳らしいから、よろしくね、有賀」
大和の最後の艦長を務めた有賀幸作中将のことである。彼自身の希望で、大和の元乗組員を掻き集めてやって来たらしい。瑞鶴とも多少の縁がある。
「了解だ。こんな固定砲台のような戦い方は、あまり感心したものではないが......」
「あんまり軍人を派遣すると政治的に問題なんでしょ? 仕方ないじゃない」
「まあな。愚痴を言っても仕方ないか」
操艦を瑞鶴が担当することで日本が参戦していないという体にしているのである。そして瑞鶴は戦闘となれば自らの艦載機の制御に集中しなければならないので、大和を動かすのは非現実だ。
かくしてシエンフエーゴスの港に停泊して好機を待っていると、一日と経たずにゲバラに報告が飛んで来た。
「敵が来た。一個大隊程度の規模。経路はいつも通り、この街道を進んで来ると予想される」
ゲバラは報告を受けるや否や、必要な情報を地図に纏めて瑞鶴に手渡した。瑞鶴は大方の話を聞くと、有賀中将にそれをそのまま伝えた。船魄は特殊能力的なものでどんな言語の話者とも意思疎通できるので、通訳をやっている訳である。
「――了解した。全主砲、撃ち方用意!」
既に周辺の地形は測量済みで、アメリカ軍がどの道を通るかも見当がついている。各主砲がアメリカ軍の進路に狙いを定めると同時に、大和の艦尾から偵察の水上機が発艦した。
「敵部隊、我が方の射程に入りました!」
「よーし。全主砲、各個に撃ち方始め!」
アメリカ軍を待ち受けていた大和は、主砲斉射を行う。既に測量は済んでいるので、弾着する前に次の斉射を行うことができる。
「間もなく初弾が命中します」
「おお、これは凄いな......」
ゲバラは感嘆の声を漏らした。大和の9発の三式弾がほとんど同じ場所で炸裂した。その爆炎は30km離れた大和の艦橋からでも十分確認できた。
「観測機からの報告です。敵部隊の壊滅を確認とのこと」
「一撃で終わったか。些か撃ちすぎたな。全主砲、撃ち方止め!」
例え世界最強の戦車と言われるドイツのⅧ号戦車でも、三式弾の爆発に巻き込まれれば行動不能に陥るだろう。アメリカの戦車程度では全く耐えられまい。それにアメリカは物資不足で多くの兵士が徒歩で移動している。
結果、三式弾の爆風の雨を浴びたアメリカの大隊は、全ての車両が破壊され、外に出ていた人間は原型が残らないほどに破壊された。念の為に撃っておいた追い討ちもあって、跡形も残らないとはまさにこの事である。恐らく一人の生存者すら残さず、大隊が消滅したのであった。
「瑞鶴、上手くいったのかな?」
「ああ、あんたには分からないのよね」
ゲバラは艦橋の将兵が日本語で色々と話しているのを全く理解できなかった。瑞鶴はこの作戦の成果をゲバラに伝えた。
「そうか。それはよかった。大和がある限り、アメリカ軍はシエンフエーゴスに近寄れない」
「それに逃げられもしないわ。混戦してるところから離れたら大和の砲撃に消されるもの」
「そうだね。となるとアメリカ軍は当然、大和を排除しに来るだろう」
「ええ。その時はその時よ」
シエンフエーゴスは前線付近で最大の拠点であり、アメリカ軍は何としてでもここを落としたい筈だ。よって大和を何としてでも排除しに来るのは当然だろう。
○
一九五五年十月二十五日、キューバ国、首都ハバナ。
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「艦砲射撃だと......? 今時そんなことが......」
「現代でも戦艦の主砲を上回る火力は要塞砲くらいかと」
「そう、だな......。だったら何としてでも大和を排除しなければならない。空から攻めるぞ。戦艦を沈めるには一番手っ取り早い」
「はっ」
海軍では近寄った途端に消されるのは目に見えている。陸上機による襲撃で大和を無力化する以外の選択肢はなかった。
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