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第十章 大東亜戦記Ⅱ(戦後編)
瑞鶴の反乱Ⅲ
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瑞鶴の狙いは敵の機動力を奪ってとっとと逃げることであった。
「さて……信濃の艦載機をどうしたものかしら」
信濃から発艦した60機ほどの艦載機。当然人間が乗っている。
「上手くやれば殺さずに落とせるか。私の腕の見せどころね」
瑞鶴は航空兵を殺さずに機体を落とすと決めた。瑞鶴の艦上戦闘機烈風およそ30機は信濃の航空隊に襲いかかる。そして、その翼を適確に撃ち抜いていった。狙ってそんなことができるとは、神業と言う他にない。
「よしよし。順調に墜落してってるわね」
燃料を撃ち抜いて大爆発などを起こさなければ、パイロットというのは案外死なないものである。洋上ならば尚更だ。敵編隊は瑞鶴に近寄ることもできず、全て海面に叩き落とされた。
かくして信濃を無力化すると、瑞鶴は金剛と榛名に狙いを定めた。第一次世界大戦前に建造された旧式も旧式の戦艦である。近代化改装を経て高角砲や機関砲を装備しているが、申し訳程度のものである。
最初に金剛に襲いかかると、高角砲は余裕で回避できたが、簡便に増設できる機関砲はなかなか数が多く邪魔であった。25mm機銃が100門と少し、ずらりと並んでいる。
「機関砲が面倒ねえ……」
人間の艦は未だに機関砲を人間の手で操作している。アメリカ軍が相手なら適当に機銃掃射して操作している人間を皆殺しにするのだが、日本軍を相手にそうはいかない。
「まあ、人間の機関砲如きにやられる私じゃないけど」
人間の操作する機関砲の命中率などたかが知れている。そもそも普通の航空機相手にもほとんど当てられない代物だ。船魄相手ならば尚更、当たる訳がない。瑞鶴は金剛、榛名の対空砲火を軽々と回避し、天山がその真後ろに入った。
「真後ろへの砲火はないし、勝ったわね」
敵艦のちょうど真後ろから至近距離で魚雷を放った。魚雷は艦尾で大爆発を起こし、両艦のスクリューと舵を完全に破壊して機動力を奪った。これで瑞鶴の勝ちである。
「どうかしら、伊藤中将だっけ? 諦めてくれる?」
『……よかろう。貴艦の力を過小評価していたようだな』
「それと聞きたいんだけど、今の戦闘で誰か死んだ?」
『金剛と榛名に死者はない。パイロットはまだ確認中だ』
「そう。ならよかったわ。もうあなた達に用はないから、好きに救助活動でもしなさい」
『そうさせてもらうよ』
単独でアメリカ海軍を壊滅させた軍艦に、たった三隻程度の艦隊で勝てる訳がなかったのである。
○
一方その頃。長門は岡本大佐などを伴い単艦で出撃して瑞鶴を追いかけていたが、そこに伊藤艦隊が蹴散らされたとの報告が入った。
「やはり、人間の艦では相手にならんか」
「長門、もう諦めよう。君の速度ではとても追いつけない」
「分かっている!」
長門は岡本大佐に怒鳴りつけた。
「おいおい、何に怒っているのだ」
「……何でもだ。クソッ。心など持つものではないな」
と、その時であった。伝令の兵が電文を持ってやって来た。岡本大佐はさっと目を通す。
「何と書かれている?」
「伊四百、伊四百一が瑞鶴の攻撃に向かったが、あっという間に無力化されたという報告だ」
伊四百型と言えば、基準排水量3,500トンで駆逐艦を遥かに上回る巨体を持つ潜水艦である。地球を軽く一周できる航続力を持つらしいが、純粋な対艦戦闘には向かないだろう。
「潜水艦か。瑞鶴に潜水艦を攻撃する手段はないのではなかったか?」
「航空爆弾を水中で爆発させて、その爆圧で潜水艦に有効打を与えたようだ。まったく、とんだ離れ業だな」
「そうか。ならばもう、打てる手はあるまい……」
「ああ。だが最後の手が残っているぞ」
「ん? 何だ?」
「オーストラリアに艦隊を派遣して瑞鶴を返還させることだ。君がいればドイツも従わざるを得まい」
「外交問題になると思うが?」
「別にオーストラリアを攻撃する訳ではない。すぐ近くに艦隊を停泊させて圧力を掛けるだけだ」
「分かった。ならばそれに賭けよう」
帝国海軍は瑞鶴を外交的な手段で奪還する方針に切り替えたのである。
○
一九四六年六月二十一日、オーストラリア連邦ノーザンテリトリー、ダーウィン。
オーストラリア大陸北部最大の都市、東南アジアと向かい合う港湾都市ダーウィンは、軍事的に非常に重要な都市である。実際大東亜戦争の最中には帝国海軍が激しい空襲をここに行い、戦後はドイツ海軍のヨーロッパ外では最大の基地が置かれている。
「へえ。なかなかいい基地じゃない」
ドイツの駆逐艦の誘導を受け、瑞鶴は悠々と基地に入った。ドイツ海軍で一番巨大な戦艦ティルピッツもここに配置されていた。
「さて、ドイツは私を受け入れてくれるかしら」
流石に敵国の空母とだけあって、ドイツ軍は厳戒態勢であった。瑞鶴が港に入ると、その周辺を多数の兵士が取り囲んでいる。ドイツ海軍は瑞鶴に艦から降りるように要請した。
『瑞鶴、彼らにあなたと積極的に敵対したい意思はないようです。大丈夫ですよ』
「お姉ちゃんったら、便利な力ねえ」
船魄の能力とやらでドイツ人に害意がないことを知った瑞鶴は係船岸壁に降り立った。
「さて……信濃の艦載機をどうしたものかしら」
信濃から発艦した60機ほどの艦載機。当然人間が乗っている。
「上手くやれば殺さずに落とせるか。私の腕の見せどころね」
瑞鶴は航空兵を殺さずに機体を落とすと決めた。瑞鶴の艦上戦闘機烈風およそ30機は信濃の航空隊に襲いかかる。そして、その翼を適確に撃ち抜いていった。狙ってそんなことができるとは、神業と言う他にない。
「よしよし。順調に墜落してってるわね」
燃料を撃ち抜いて大爆発などを起こさなければ、パイロットというのは案外死なないものである。洋上ならば尚更だ。敵編隊は瑞鶴に近寄ることもできず、全て海面に叩き落とされた。
かくして信濃を無力化すると、瑞鶴は金剛と榛名に狙いを定めた。第一次世界大戦前に建造された旧式も旧式の戦艦である。近代化改装を経て高角砲や機関砲を装備しているが、申し訳程度のものである。
最初に金剛に襲いかかると、高角砲は余裕で回避できたが、簡便に増設できる機関砲はなかなか数が多く邪魔であった。25mm機銃が100門と少し、ずらりと並んでいる。
「機関砲が面倒ねえ……」
人間の艦は未だに機関砲を人間の手で操作している。アメリカ軍が相手なら適当に機銃掃射して操作している人間を皆殺しにするのだが、日本軍を相手にそうはいかない。
「まあ、人間の機関砲如きにやられる私じゃないけど」
人間の操作する機関砲の命中率などたかが知れている。そもそも普通の航空機相手にもほとんど当てられない代物だ。船魄相手ならば尚更、当たる訳がない。瑞鶴は金剛、榛名の対空砲火を軽々と回避し、天山がその真後ろに入った。
「真後ろへの砲火はないし、勝ったわね」
敵艦のちょうど真後ろから至近距離で魚雷を放った。魚雷は艦尾で大爆発を起こし、両艦のスクリューと舵を完全に破壊して機動力を奪った。これで瑞鶴の勝ちである。
「どうかしら、伊藤中将だっけ? 諦めてくれる?」
『……よかろう。貴艦の力を過小評価していたようだな』
「それと聞きたいんだけど、今の戦闘で誰か死んだ?」
『金剛と榛名に死者はない。パイロットはまだ確認中だ』
「そう。ならよかったわ。もうあなた達に用はないから、好きに救助活動でもしなさい」
『そうさせてもらうよ』
単独でアメリカ海軍を壊滅させた軍艦に、たった三隻程度の艦隊で勝てる訳がなかったのである。
○
一方その頃。長門は岡本大佐などを伴い単艦で出撃して瑞鶴を追いかけていたが、そこに伊藤艦隊が蹴散らされたとの報告が入った。
「やはり、人間の艦では相手にならんか」
「長門、もう諦めよう。君の速度ではとても追いつけない」
「分かっている!」
長門は岡本大佐に怒鳴りつけた。
「おいおい、何に怒っているのだ」
「……何でもだ。クソッ。心など持つものではないな」
と、その時であった。伝令の兵が電文を持ってやって来た。岡本大佐はさっと目を通す。
「何と書かれている?」
「伊四百、伊四百一が瑞鶴の攻撃に向かったが、あっという間に無力化されたという報告だ」
伊四百型と言えば、基準排水量3,500トンで駆逐艦を遥かに上回る巨体を持つ潜水艦である。地球を軽く一周できる航続力を持つらしいが、純粋な対艦戦闘には向かないだろう。
「潜水艦か。瑞鶴に潜水艦を攻撃する手段はないのではなかったか?」
「航空爆弾を水中で爆発させて、その爆圧で潜水艦に有効打を与えたようだ。まったく、とんだ離れ業だな」
「そうか。ならばもう、打てる手はあるまい……」
「ああ。だが最後の手が残っているぞ」
「ん? 何だ?」
「オーストラリアに艦隊を派遣して瑞鶴を返還させることだ。君がいればドイツも従わざるを得まい」
「外交問題になると思うが?」
「別にオーストラリアを攻撃する訳ではない。すぐ近くに艦隊を停泊させて圧力を掛けるだけだ」
「分かった。ならばそれに賭けよう」
帝国海軍は瑞鶴を外交的な手段で奪還する方針に切り替えたのである。
○
一九四六年六月二十一日、オーストラリア連邦ノーザンテリトリー、ダーウィン。
オーストラリア大陸北部最大の都市、東南アジアと向かい合う港湾都市ダーウィンは、軍事的に非常に重要な都市である。実際大東亜戦争の最中には帝国海軍が激しい空襲をここに行い、戦後はドイツ海軍のヨーロッパ外では最大の基地が置かれている。
「へえ。なかなかいい基地じゃない」
ドイツの駆逐艦の誘導を受け、瑞鶴は悠々と基地に入った。ドイツ海軍で一番巨大な戦艦ティルピッツもここに配置されていた。
「さて、ドイツは私を受け入れてくれるかしら」
流石に敵国の空母とだけあって、ドイツ軍は厳戒態勢であった。瑞鶴が港に入ると、その周辺を多数の兵士が取り囲んでいる。ドイツ海軍は瑞鶴に艦から降りるように要請した。
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