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第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)
アメリカ軍の終焉
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「何があった……」
「敵は特攻して来たようです! 艦尾が大きな損傷しています!」
「貴重なジェット機で特攻とは……。ミッドウェイ、大丈夫か?」
「非常に……痛いですが……何とか……」
「そんなところすまないが、動けそうか?」
「ダメ、ですね。スクリューに、動力を伝達、できません。とても、現場の修理では、どうにもならない、でしょう」
「そうか……。これでは逃げ切れない。お終いだな」
「閣下は、とっとと逃げれば、いいのでは?」
「ああ。だが、その前にやることがある。これ以上の戦闘は無益だ。日本軍と交渉する」
「そんなこと、できるん、ですか?」
「君のような子を死なせる訳にはいかない。日本軍に交渉を呼び掛けるんだ」
「しかし、どうすれば……」
「信号灯でも手旗でも何でもあるだろ。急げ!」
スプルーアンス大将は日本軍に一時的な停戦を呼び掛けた。日本軍はこれに応じる意志を示し、両軍の間の砲火が途絶え、海は静寂に包まれた。
○
両軍の交渉は瑞鶴の艦内で行われることとなった。交渉を申し入れたスプルーアンス大将が瑞鶴を訪れる格好である。帝国海軍はスプルーアンス大将らを丁寧に迎え入れ、連合艦隊司令長官の豊田副武大将がスプルーアンス大将と面会した。
「スプルーアンス大将閣下、我々としても無用な血が流れるのは避けたい。停戦の交渉は歓迎します」
「無茶な要望を受け入れて下さりありがとうございます、豊田閣下。あまり長くお話するつもりもありません。こちらから要求を伝えさせてもらいます」
「聞きましょう」
「我々の要求は二つ。一つは航行不能のミッドウェイを除いた艦艇を見逃してもらうこと。もう一つは……誰が船魄に詳しい者にお話したいのですが、ここにおりますか?」
「船魄ですか。それなら、岡本平八大佐が」
豊田大将は岡本大佐を呼び出した。
「どうも、スプルーアンス大将閣下。私は岡本平八大佐。船魄技術を生み出した者です」
「そうか、あなたが……。あなたに頼みがあります。ミッドウェイの船魄を無力化して、取り外してもらいたいのです」
「取り外す? それはまた、どういうことですか?」
「ミッドウェイはもう動きません。自沈させることになるでしょう。しかしそれでは、船魄も殺してしまいます」
「なるほど。そういうことなら。豊田閣下、構いませんよね?」
「ああ。それは勝手にしてくれて構わない」
帝国海軍にとって損も得もないことだ。あえて拒否する理由はない。
「それで閣下、それだけの要求をされるのですから、それなりの見返りは求めさせてもらいますよ」
「当然ですね。とは言っても、我々から出せる条件はほとんどありませんが。この戦いを続けずに済む、ということの他に約束できることと言えば、パナマ運河を使用不能にすることです」
「パナマ運河を?」
「はい。そうすれば合衆国は、西海岸に手を出せなくなるようなものです」
「あなた方がパナマ運河を破壊すると?」
「流石にそれはできかねますが、その手引きをすることはできます」
「なるほど。それなら、一個艦隊を取り逃がす対価としては十分です」
かくして両軍は密約を結んだ。パナマ運河を破壊する代わりに今ここにいる艦隊を逃がすという密約である。
○
さて、岡本大佐は船魄切り離しの為、ミッドウェイに乗り込んだ。
「君がミッドウェイか」
「誰ですか、あなた?」
大佐はささっと自己紹介を済ませた。
「――私達の生みの親、ですか」
「ああ。だが今から、君には船魄を辞めてもらうことになりそうだ」
「? それはどういう……」
「すまないが、暫く眠っていてもらうよ」
ミッドウェイを眠らせ、岡本大佐は早速彼女の検分を始めた。申し訳程度のマニュアルなどを頼りに、アメリカ式の船魄の構造を把握するのだ。
「どうです? できそうですか?」
「ええ。船魄の設計は概ね理解しました。我が国では体内に収めている器官を艦の側に納めて物理的に接続しています。確かに無理やり引き剥がせば死んでしまうでしょうか、適切な処置を施せば、艦から取り外すことができるでしょう」
「よかった……。必要なものがあれば何でも言ってください」
「ありがとうございます。では早速、作業に取り掛かります」
アメリカの技術は所詮、日本の技術の模倣に過ぎない。見た目は違えど本質はほとんど同じである。岡本大佐にとって大した作業ではなかった。
「……ふう。これで船魄を取り出せます。もうこの艦とは縁もゆかりもありません」
「そうか……よかった。それと、もう一つ頼んでもいいでしょうか?」
「何です?」
「この子をこれからどう扱えばいいか、我々には分かりません。そちらで預かっていただけますか?」
「相当な軍事機密の流出だと思いますがね」
「所詮は日本の模倣に過ぎないのでしょう? あなたが簡単に理解してしまったのがその証拠です」
「確かに、その通りですね。分かりました。この子はこちらで預かりましょう」
「ありがとう、大佐」
ミッドウェイは自沈処理とされ、艦隊は撤退を開始した。艦隊旗艦はフォレスタルに移され、スプルーアンス大将も乗り移った。
「そう。姉さん、死んだんだ」
フォレスタルは興味なさそうに呟いた。
「すまない。君の大切な姉妹を失ってしまった」
「別に、本当の姉妹って訳じゃない。どうでもいいことだよ」
「そうか……」
艦隊は撤退する道中、日本軍をパナマ運河に案内し、瑞鶴がこれを爆撃して破壊した。約定は果たされ、アメリカ最後の艦隊は西海岸を放棄して撤退した。
「敵は特攻して来たようです! 艦尾が大きな損傷しています!」
「貴重なジェット機で特攻とは……。ミッドウェイ、大丈夫か?」
「非常に……痛いですが……何とか……」
「そんなところすまないが、動けそうか?」
「ダメ、ですね。スクリューに、動力を伝達、できません。とても、現場の修理では、どうにもならない、でしょう」
「そうか……。これでは逃げ切れない。お終いだな」
「閣下は、とっとと逃げれば、いいのでは?」
「ああ。だが、その前にやることがある。これ以上の戦闘は無益だ。日本軍と交渉する」
「そんなこと、できるん、ですか?」
「君のような子を死なせる訳にはいかない。日本軍に交渉を呼び掛けるんだ」
「しかし、どうすれば……」
「信号灯でも手旗でも何でもあるだろ。急げ!」
スプルーアンス大将は日本軍に一時的な停戦を呼び掛けた。日本軍はこれに応じる意志を示し、両軍の間の砲火が途絶え、海は静寂に包まれた。
○
両軍の交渉は瑞鶴の艦内で行われることとなった。交渉を申し入れたスプルーアンス大将が瑞鶴を訪れる格好である。帝国海軍はスプルーアンス大将らを丁寧に迎え入れ、連合艦隊司令長官の豊田副武大将がスプルーアンス大将と面会した。
「スプルーアンス大将閣下、我々としても無用な血が流れるのは避けたい。停戦の交渉は歓迎します」
「無茶な要望を受け入れて下さりありがとうございます、豊田閣下。あまり長くお話するつもりもありません。こちらから要求を伝えさせてもらいます」
「聞きましょう」
「我々の要求は二つ。一つは航行不能のミッドウェイを除いた艦艇を見逃してもらうこと。もう一つは……誰が船魄に詳しい者にお話したいのですが、ここにおりますか?」
「船魄ですか。それなら、岡本平八大佐が」
豊田大将は岡本大佐を呼び出した。
「どうも、スプルーアンス大将閣下。私は岡本平八大佐。船魄技術を生み出した者です」
「そうか、あなたが……。あなたに頼みがあります。ミッドウェイの船魄を無力化して、取り外してもらいたいのです」
「取り外す? それはまた、どういうことですか?」
「ミッドウェイはもう動きません。自沈させることになるでしょう。しかしそれでは、船魄も殺してしまいます」
「なるほど。そういうことなら。豊田閣下、構いませんよね?」
「ああ。それは勝手にしてくれて構わない」
帝国海軍にとって損も得もないことだ。あえて拒否する理由はない。
「それで閣下、それだけの要求をされるのですから、それなりの見返りは求めさせてもらいますよ」
「当然ですね。とは言っても、我々から出せる条件はほとんどありませんが。この戦いを続けずに済む、ということの他に約束できることと言えば、パナマ運河を使用不能にすることです」
「パナマ運河を?」
「はい。そうすれば合衆国は、西海岸に手を出せなくなるようなものです」
「あなた方がパナマ運河を破壊すると?」
「流石にそれはできかねますが、その手引きをすることはできます」
「なるほど。それなら、一個艦隊を取り逃がす対価としては十分です」
かくして両軍は密約を結んだ。パナマ運河を破壊する代わりに今ここにいる艦隊を逃がすという密約である。
○
さて、岡本大佐は船魄切り離しの為、ミッドウェイに乗り込んだ。
「君がミッドウェイか」
「誰ですか、あなた?」
大佐はささっと自己紹介を済ませた。
「――私達の生みの親、ですか」
「ああ。だが今から、君には船魄を辞めてもらうことになりそうだ」
「? それはどういう……」
「すまないが、暫く眠っていてもらうよ」
ミッドウェイを眠らせ、岡本大佐は早速彼女の検分を始めた。申し訳程度のマニュアルなどを頼りに、アメリカ式の船魄の構造を把握するのだ。
「どうです? できそうですか?」
「ええ。船魄の設計は概ね理解しました。我が国では体内に収めている器官を艦の側に納めて物理的に接続しています。確かに無理やり引き剥がせば死んでしまうでしょうか、適切な処置を施せば、艦から取り外すことができるでしょう」
「よかった……。必要なものがあれば何でも言ってください」
「ありがとうございます。では早速、作業に取り掛かります」
アメリカの技術は所詮、日本の技術の模倣に過ぎない。見た目は違えど本質はほとんど同じである。岡本大佐にとって大した作業ではなかった。
「……ふう。これで船魄を取り出せます。もうこの艦とは縁もゆかりもありません」
「そうか……よかった。それと、もう一つ頼んでもいいでしょうか?」
「何です?」
「この子をこれからどう扱えばいいか、我々には分かりません。そちらで預かっていただけますか?」
「相当な軍事機密の流出だと思いますがね」
「所詮は日本の模倣に過ぎないのでしょう? あなたが簡単に理解してしまったのがその証拠です」
「確かに、その通りですね。分かりました。この子はこちらで預かりましょう」
「ありがとう、大佐」
ミッドウェイは自沈処理とされ、艦隊は撤退を開始した。艦隊旗艦はフォレスタルに移され、スプルーアンス大将も乗り移った。
「そう。姉さん、死んだんだ」
フォレスタルは興味なさそうに呟いた。
「すまない。君の大切な姉妹を失ってしまった」
「別に、本当の姉妹って訳じゃない。どうでもいいことだよ」
「そうか……」
艦隊は撤退する道中、日本軍をパナマ運河に案内し、瑞鶴がこれを爆撃して破壊した。約定は果たされ、アメリカ最後の艦隊は西海岸を放棄して撤退した。
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