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第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)
サンフランシスコ沖海戦Ⅱ
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「あれ、確かに、大したことないわね」
瑞鶴はエンタープライズと再び戦う覚悟で攻撃を仕掛けたが、敵はあっさりと落ちた。瑞鶴と多少は渡り合えている時点で人間を遥かに凌駕する力量であることは確かだが、瑞鶴と比べれば大した敵ではなかった。
「ふう。やはり私の仮説は正しかったか」
「仮説だったの?」
「あの場で仮説だなどと言っては、君を勇気づけることはできなかったからな」
「何よ、勇気づけるって」
「君は強いのだ。勇気さえあればアメリカなど敵ではない」
「……あっそう」
瑞鶴は調子を取り戻し、アメリカ軍との戦闘を継続する。瑞鶴は敵の4分の1の戦闘機しかないのに、優勢を保っていた。敵には攻撃機や爆撃も混じっているとは言え、やはり瑞鶴と新米の船魄とでは力量の差は明白であった。
「大佐殿! 敵の増援です!!」
「何? 全てを出し切った訳ではないのか。瑞鶴、気を付けろ」
「物量で押し切ろうって訳かしら」
「全てを一気に投入してこないのは不可解だが……」
「どうってことないわ。全部叩き落してやる!」
「その意気だ」
瑞鶴は圧倒的な数の敵を相手に一歩も退かない戦いを演じ、艦隊の高角砲の出番など訪れなかった。
○
「すみません、閣下。私の力では瑞鶴に太刀打ちすることはできないようです」
「やはり、か。とは言え、これまで我々は蜘蛛の子を蹴散らすように蹂躙されていたが、それなりに耐えることができている。これは大きな進歩だ」
「勝てなければ意味がないのでは? それとも、私はただの試作品で、実験が済めば用済みだと?」
「そんなことは言っていない。君と言いフォレスタルと言い、どうしてそうもネガティブに物事を捉えるんだ」
「そういう性分なものですから」
「まあいい。君達は現状、瑞鶴の艦載機を全て拘束することに成功している。この状況は積極的に活用するべきだ」
「私達も拘束されている訳ですが」
「制空権が拮抗しているなら、戦艦を出せる。コロラドとテネシーで敵艦隊を襲撃するんだ」
「人間の軍艦ですね?」
「相手も人間だし、いくら瑞鶴でも艦載機なしに戦艦と撃ち合うのは不可能だ」
「そうですか。では頑張ってください」
アメリカ軍は捨て身の攻撃を決意した。コロラドもテネシーも生きて帰ってくることなど端から想定していないのである。
○
「あれは……敵の戦艦がこっちに突っ込んで来てるわ」
「戦艦の一撃に全てを賭けたということか。確かに合理的な作戦だ。大和かいればどうということはなかったのだがな」
「わざわざそれ言う?」
「おっと、すまない」
「ふん。でも、艦隊の手を煩わせることはないわ。私が全部沈めてやる」
「できるか?」
「やってやるわよ!」
既に彗星と天山は戦場の後方で待機している。瑞鶴はこれらをアメリカの戦艦に向けて突撃させた。が、アメリカ側も素早く対応し、戦闘機を差し向けて妨害してくる。
「クソッ。敵が邪魔してくる」
「当たり前だろう。何を驚いているんだ」
「驚いてなんてない。数だけは多いから、なかなか突破できないのよ」
「仮に突破したとして、少数だけで攻撃を仕掛けても意味はないだろう。焦り過ぎだ」
「焦る? 私が?」
「そうとしか見えないな。長門に戦わせたくないのか?」
「……そうかもね」
瑞鶴は観念したかのように言った。真珠湾の焼き直しは勘弁なのである。
「長門はいけ好かないけど、死んで欲しい訳がない」
「君は優しいのだな。とは言え、今回はハワイより状況がいい。敵の航空隊は戦艦に構っていられる状態ではない。この状態を維持すればいいのだ」
「それはそうだけど……」
『私を心配しているのか、瑞鶴?』
「長門!? 聞いてたの!?」
『お互いの艦橋の会話は常に共有されている筈だが』
「クソッ。そうだった……」
今までの会話は全部長門に筒抜けであった。柄にもないことを言っているのを当の本人に聞かれ、瑞鶴は顔を赤くした。
『貴様に私の心配をするほどの温情があったとはな』
「はあ? 私のことを何だと思ってるの?」
『ケダモノだと思っているが』
「いや、まあ、それは否定できないけど」
『ともかくだ。岡本大佐、戦艦の相手には戦艦を出すしかあるまい。私が出よう。それでよいか?』
「ああ。頼む。敵は2隻だが、君なら問題なく勝てる筈だ」
『言ってくれるな。全力は尽くすが』
「死んではくれるな」
『アメリカなどに負けはしない。長門、出撃する!』
長門は数隻の随伴艦を連れて前線に出た。敵は長門より1門多く主砲を持つアイオワ級が2隻。普通に考えれば極めて不利だが、長門は負けるつもりなどなかった。空は両軍共に他に手を出せる状態ではないので、長門は自前の水上機を飛ばして敵の様子を観測することができた。
『敵艦との距離、35kmを切った。回頭する』
長門の主砲射程に敵が入った。長門はその場で直角に回頭し、敵に全ての主砲を向けた。
『撃ち方始め!』
「一々報告してこなくていいわよ」
長門は8門の主砲で全力の砲撃を開始した。対艦戦闘としては初の実戦である。
『クッ……命中弾なしか。次こそは当たる』
「まったく、戦艦は射程ギリギリで戦うものではないのだがな」
『主砲斉射!』
長門は仰角を調整して再び主砲斉射を行った。主砲弾は早速2発、コロラドの1番砲塔に命中した。
瑞鶴はエンタープライズと再び戦う覚悟で攻撃を仕掛けたが、敵はあっさりと落ちた。瑞鶴と多少は渡り合えている時点で人間を遥かに凌駕する力量であることは確かだが、瑞鶴と比べれば大した敵ではなかった。
「ふう。やはり私の仮説は正しかったか」
「仮説だったの?」
「あの場で仮説だなどと言っては、君を勇気づけることはできなかったからな」
「何よ、勇気づけるって」
「君は強いのだ。勇気さえあればアメリカなど敵ではない」
「……あっそう」
瑞鶴は調子を取り戻し、アメリカ軍との戦闘を継続する。瑞鶴は敵の4分の1の戦闘機しかないのに、優勢を保っていた。敵には攻撃機や爆撃も混じっているとは言え、やはり瑞鶴と新米の船魄とでは力量の差は明白であった。
「大佐殿! 敵の増援です!!」
「何? 全てを出し切った訳ではないのか。瑞鶴、気を付けろ」
「物量で押し切ろうって訳かしら」
「全てを一気に投入してこないのは不可解だが……」
「どうってことないわ。全部叩き落してやる!」
「その意気だ」
瑞鶴は圧倒的な数の敵を相手に一歩も退かない戦いを演じ、艦隊の高角砲の出番など訪れなかった。
○
「すみません、閣下。私の力では瑞鶴に太刀打ちすることはできないようです」
「やはり、か。とは言え、これまで我々は蜘蛛の子を蹴散らすように蹂躙されていたが、それなりに耐えることができている。これは大きな進歩だ」
「勝てなければ意味がないのでは? それとも、私はただの試作品で、実験が済めば用済みだと?」
「そんなことは言っていない。君と言いフォレスタルと言い、どうしてそうもネガティブに物事を捉えるんだ」
「そういう性分なものですから」
「まあいい。君達は現状、瑞鶴の艦載機を全て拘束することに成功している。この状況は積極的に活用するべきだ」
「私達も拘束されている訳ですが」
「制空権が拮抗しているなら、戦艦を出せる。コロラドとテネシーで敵艦隊を襲撃するんだ」
「人間の軍艦ですね?」
「相手も人間だし、いくら瑞鶴でも艦載機なしに戦艦と撃ち合うのは不可能だ」
「そうですか。では頑張ってください」
アメリカ軍は捨て身の攻撃を決意した。コロラドもテネシーも生きて帰ってくることなど端から想定していないのである。
○
「あれは……敵の戦艦がこっちに突っ込んで来てるわ」
「戦艦の一撃に全てを賭けたということか。確かに合理的な作戦だ。大和かいればどうということはなかったのだがな」
「わざわざそれ言う?」
「おっと、すまない」
「ふん。でも、艦隊の手を煩わせることはないわ。私が全部沈めてやる」
「できるか?」
「やってやるわよ!」
既に彗星と天山は戦場の後方で待機している。瑞鶴はこれらをアメリカの戦艦に向けて突撃させた。が、アメリカ側も素早く対応し、戦闘機を差し向けて妨害してくる。
「クソッ。敵が邪魔してくる」
「当たり前だろう。何を驚いているんだ」
「驚いてなんてない。数だけは多いから、なかなか突破できないのよ」
「仮に突破したとして、少数だけで攻撃を仕掛けても意味はないだろう。焦り過ぎだ」
「焦る? 私が?」
「そうとしか見えないな。長門に戦わせたくないのか?」
「……そうかもね」
瑞鶴は観念したかのように言った。真珠湾の焼き直しは勘弁なのである。
「長門はいけ好かないけど、死んで欲しい訳がない」
「君は優しいのだな。とは言え、今回はハワイより状況がいい。敵の航空隊は戦艦に構っていられる状態ではない。この状態を維持すればいいのだ」
「それはそうだけど……」
『私を心配しているのか、瑞鶴?』
「長門!? 聞いてたの!?」
『お互いの艦橋の会話は常に共有されている筈だが』
「クソッ。そうだった……」
今までの会話は全部長門に筒抜けであった。柄にもないことを言っているのを当の本人に聞かれ、瑞鶴は顔を赤くした。
『貴様に私の心配をするほどの温情があったとはな』
「はあ? 私のことを何だと思ってるの?」
『ケダモノだと思っているが』
「いや、まあ、それは否定できないけど」
『ともかくだ。岡本大佐、戦艦の相手には戦艦を出すしかあるまい。私が出よう。それでよいか?』
「ああ。頼む。敵は2隻だが、君なら問題なく勝てる筈だ」
『言ってくれるな。全力は尽くすが』
「死んではくれるな」
『アメリカなどに負けはしない。長門、出撃する!』
長門は数隻の随伴艦を連れて前線に出た。敵は長門より1門多く主砲を持つアイオワ級が2隻。普通に考えれば極めて不利だが、長門は負けるつもりなどなかった。空は両軍共に他に手を出せる状態ではないので、長門は自前の水上機を飛ばして敵の様子を観測することができた。
『敵艦との距離、35kmを切った。回頭する』
長門の主砲射程に敵が入った。長門はその場で直角に回頭し、敵に全ての主砲を向けた。
『撃ち方始め!』
「一々報告してこなくていいわよ」
長門は8門の主砲で全力の砲撃を開始した。対艦戦闘としては初の実戦である。
『クッ……命中弾なしか。次こそは当たる』
「まったく、戦艦は射程ギリギリで戦うものではないのだがな」
『主砲斉射!』
長門は仰角を調整して再び主砲斉射を行った。主砲弾は早速2発、コロラドの1番砲塔に命中した。
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