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第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)

特殊攻撃機コメットⅡ

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「瑞鶴、どうやら君の飛行甲板の損傷は大きいようだ。一度ハワイに戻らないと修理は不可能だろう」
「そう。で、どうするの? 私が抜けたらこの辺の制空権は維持できないと思うけど」
「申し訳ないが、君には引き続き、艦載機を地上から発進させて戦ってもらう」
「あっそう。空母としての尊厳を傷付けられてる気しかしないけど」

 ハワイで準備していたように、瑞鶴は艦載機を全て地上に降ろし、そこから発進させて戦うことにした。実の所こうした方が遥かに効率的なのだが、瑞鶴にとってはなかなか不愉快なことであった。

「すまない。だが、こうする他にないのだ」
「分かってるわよ。あんた達こそ、特攻への対策ぐらいやっておいてよね」
「無論だ。内地からの増援もそろそろ到達する筈だし、ドイツの高射砲も届いている」
「ドイツの高射砲?」
「ああ。シベリア鉄道でドイツが届けてくれたのだ。確か12.7cm高射砲だったかな。我が軍のものよりかなり性能がいい」
「人間相手なら、確かに効果的でしょうね」
「それと、近接防空用に新型の機関砲も送ってくれたのだが、どうも最高機密らしく、我々には触らせてくれないらしい。それを君に載せたいのだが、どうだろうか?」
「飛行甲板はどうせ使えないんだし、構わないわよ」
「分かった。ありがとう」

 ドイツの高射砲がサンフランシスコの廃墟に設置され、瑞鶴の損傷した飛行甲板にはドイツの新型機関砲とやらが20門ほど載せられ、それを操作する為に親衛隊員が100人ほど乗り込んでいた。

「人間の機関砲がどこまでやれるのかしら」
「既存の機関砲と比べ圧倒的な射撃速度を誇るらしい。我々もよくは知らされていないのだが」
「まあ、邪魔にならなければ何でもいいわ」

 ドイツ人の助太刀を得て、米っとに対しできる限りの備えはした。米軍の特攻隊が再び襲来したのは、最初の攻撃から2週間後のことであった。

「コメットよ! 来たわ! 400はいるわね」
「いよいよ来たか。瑞鶴、烈風を出せ」
「言われるまでもないわよ」

 瑞鶴は直ちに地上の飛行場から烈風を40機ばかり発進させた。普通に飛行甲板から発艦させるより遥かに早く発進させることができて、瑞鶴は複雑な気分であった。

「対空射撃を行う区域は、既に伝えてある通りだ。そこまでにできる限り落としてくれ」
「分かってる!」

 瑞鶴は緊張からか少し声を荒らげた。烈風隊はコメットの編隊を襲撃し、ほとんど直進しかできないコメットをたちまち撃ち落としていく。前回は予想外の速度に驚いて対応が遅れたが、今度は動揺しない。烈風の最高速度で併走しながら、確実に敵を葬っていく。

「まもなく迎撃区域だ」
「残りは200くらいよ」
「何とか落とし切れるか……」

 海岸から20kmに敵機が入った時点で、瑞鶴は離脱して後のことは対空砲の数々に任せることとなった。

『長門、砲撃を開始する』
「頼んだわよ……」

 長門が一番槍を取って砲撃を開始する。その砲弾が届かぬ内に、ドイツの高射砲が激しい砲火を開始した。

 長門の三式弾は一斉射で20機ばかりを落とし、ドイツの高射砲も10機ほどを落とした。更に各艦の高角砲による対空戦闘も開始され、空へ濃密な十字砲火が行われる。米軍機は続々と墜落し、残りは15機。

「クソッ! 機関砲の間合いに入られた!」
「やはり狙いは瑞鶴か」
「もうちょっと危機感持ちなさいよ!」

 敵機との距離は僅かに2km。瑞鶴は周囲の艦艇と共に機関砲での迎撃を開始する。だが機関砲ではなかなか落とし切れない。残りは7機。

「クソッ! 当たらない!」

 だが、その時であった。瑞鶴の飛行甲板に載せたドイツの機関砲が火を噴いた。

「え、何、この音」

 とても機関砲の射撃音とは思えない音が聞こえる。まるで機関銃のように爆音が連続して聞こえるのだ。

「あ、落ちた」
「そのよう、だな……」

 ドイツの機関砲は一瞬にして残る敵機を殲滅してしまったのである。落としたのは数機だけだったとは言え、瑞鶴への被害を防いだ大戦果であった。

「あれ何なの?」
「私にも分からないが……射撃音を聞く限り、最低でも秒間20発は撃っていたように思う」
「信じられないわね」

 帝国海軍の主力機関砲、九六式二十五粍機銃は秒間4発程度が限界である。信じられない技術だ。

「ドイツ人は教えてくれないの?」
「こんな秘密兵器だ。仕組みすら教えてくれないだろう」
「あっそう。ま、機関砲なら射程の外に行けばいいし、大した脅威ではないけど」
「君にとってはそうか。しかし特攻を完全に防いだのは大戦果だ。恐らく、戦果を挙げられなけれは、特攻などすぐに瓦解する」
「そういうものかしら」

 あくまで自らの命を捨ててでも敵に一矢報いることができるというのが特攻である。何の戦果も挙げられなければ、それはただの自殺だ。特攻に意味がないとアメリカ兵が思えば、こんな狂気の沙汰はすぐに瓦解する筈なのだ。
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