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第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)

西海岸の戦い

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 帝国海軍はサンフランシスコを完全に壊滅させたが、アメリカには降伏する気配も講和に応じる気配もなかった。帝国陸軍はこれに対し、アメリカ本土に対する部分的な上陸作戦を決定した。

 元よりアメリカ全土を占領するなど不可能であることは分かっているので、あくまでアメリカ政府に圧力をかける為の、サンフランシスコ上陸作戦である。

「これより陸軍第8方面軍が上陸作戦を開始する。瑞鶴は上陸部隊の直上から援護に当たってくれ」
「分かったわ。もう敵なんて残っていないと思うけど」

 あきつ丸、摩耶山丸、吉備津丸など、陸軍の軍艦というよく分からないものが大挙してやって来て、小型の武装上陸艇を展開する。『大発動艇』という小型船である。これら陸軍特種船は、遠目には空母に見えるが、全長は150m程度で、瑞鶴と比べればほんの小さなものである。

 因みに第8方面軍を指揮しているのは予備役から復帰してきた石原莞爾大将である。船魄開発を最初に支持してくれた男であるが、一兵卒としてでもアメリカに上陸させてくれと東條首相に頼み込んで、こうして一軍を預けられたそうだ。

「何で陸軍が空母を持っているのやら」
「元は片道切符で艦載機を出して上陸の援護をさせる予定だったそうだが、航空機の高性能化に伴ってそのような計画は非現実的になってしまったのだ」
「じゃあ、あの飛行甲板は飾り?」
「一応オートジャイロなどの特殊機は運用しているそうだが、まあ飾りだ」
「だったら無駄じゃない。積載能力が落ちるわ」
「そのくらい分かっているのだが、今更神州丸のような形状に改修している時間はない」

 神州丸は普通の輸送船のような見た目をした陸軍の艦で、上甲板に多数の大発動艇を搭載している。結果的には旧型であるこちらの方が遥かに合理的であった。

「まあ、そんなことはどうでもいい。大発の援護に当たってくれ」
「分かった」

 大発が100隻ほど。7千人くらいの兵士が上陸作戦を開始した。瑞鶴は上空から彼らを援護する。しかし結局、結果は瑞鶴の思っていた通りであった。

「何も来なかったわね」
「そのようだな。杞憂に終わったのなら、何よりだ」
「まったく、私の燃料を無駄にして」

 上陸部隊は何の妨害も受けなかった。敵軍がサンフランシスコ諸共に殲滅されたからだろうが。上陸した部隊はあっという間に港湾を占領し、纏まった部隊が更に上陸した。

 こうして日本はあっさりとアメリカ本土に上陸することに成功した。アメリカにとってこれは、米英戦争以来となる本土への直接攻撃であった。

 ○

「敵の特攻機を確認。200機くらいね」
「ふむ、アメリカも自爆する兵は確保できないようだな」
「とっとと殲滅するわ」

 サンフランシスコを確保したはいいものの、アメリカ軍は内陸から特攻機を飛ばし続けている。瑞鶴の制空権内から出れば恐らく、立ち所に特攻機が降り注いでくるだろう。帝国陸軍はそのせいで、サンフランシスコ周辺の狭い地域に海岸線に沿うように展開することしかできないでいた。

 200機程度の特攻機、どうということはない。アメリカのパイロットもほとんど死に絶え、その技量は極めて低く、瑞鶴にとっては七面鳥狩り未満の簡単な作業だ。

「敵編隊を全滅させた。あなたの出番はないわ、長門」
『そうか。ならばよい』
「……あっそう」

 かくして戦線は膠着状態に陥ってしまった。

 ○

 一九四六年一月四日、サンフランシスコ沿岸。

「もうサンフランシスコなんて占領してる意味ないんじゃないの?」
「確かに軍事的には意味はない。だが政治的に、ほんの一都市であれアメリカの都市を占領しているというのは重要なのだ。ここを退く訳にはいかないのだよ」
「まったく、戦争終わらせる気あるの?」
「現在帝国は、ソ連を通じてアメリカとの講和交渉を続けている。だがアメリカには全く応じる気がない」
「そうなの? だったら尚更使えないわねえ、東條の奴」
「東條首相を悪く言わないでくれ。橘花計画を最も強く後援してくれた方なのだから」

 二度目の組閣を果たした東條英機首相は、岡本大佐の船魄構想に理解を示し、研究を後援してくれた軍人の一人である。大佐にとってはかなりの恩人なのだ。

「そうは言ってもね。いつまでこうしていればいいんだか」

 ルーズベルトに無駄な犠牲を避けようとか無益な争いは止めようとか、そういう発想はないのである。

 ○

 一九四六年一月七日、ホワイトハウス。

 ルーズベルト大統領の執務室にグローヴス中将が嬉しそうに入ってきた。

「機嫌が良さそうじゃないか、グローヴス君」
「はい、大統領閣下。ついに特攻専用機コメットの実戦配備が完了しました。閣下のご命令次第でいつでも、第一陣を発進させられます」

 狂気を極限まで煮詰めた人間ミサイル。死ぬ為だけに作られた兵器である。アメリカは持ち前の工業力を活かしてこれを直ちに千機生産し、瑞鶴と長門を沈める気でいた。

「志願兵はちゃんと集まったのかね?」
「はい。民主主義を防衛するという大義を唱えれば、若者は簡単に命を捧げてくれます」
「よろしい。ならばコメットは全機出撃させよ。船魄などというオカルトに頼らずともアメリカは勝てると、世界に知らしめるのだ!」
「はっ!」

 トルーマン副大統領やマッカーサー大将など軍人の反対を押し切って、ルーズベルトは特別攻撃部隊の出撃を命令した。
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