軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)

西海岸襲撃Ⅱ

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「人間ごときが私に勝てるとでも思ってるのかしら。馬鹿ねえ」
「油断はするな」
「分かってるわよ」

 瑞鶴は早速、敵編隊に対して攻撃を開始する。だがすぐさま、敵の様子が異常なのに気付いた。

「何? 私を無視してる?」
「どうした?」
「こいつら、私の艦載機が見えてないみたいに動いてる」

 アメリカ軍機は瑞鶴に何機撃墜されようと見向きもせず、ひたすら直進し続けているのである。瑞鶴は彗星や天山も駆り出して敵を落としにかかるが、如何せん数が多く、とても全ては撃墜できない。

「クソッ。何なんだこいつら!」
「そうか、敵は特攻する気か」

 岡本大佐はアメリカ軍の意図を見抜いた。

「人間が特攻を?」
「切羽詰まった国は何でもするものだ」
「だったら、ちょっとマズイかも……」
「長門、接近しつつある敵機は特攻する気だ! 全て叩き落としてくれ!」
『心得た!』

 長門は主砲に三式通常弾を装填すると共に、瑞鶴の前に出て自ら盾となった。戦艦ならば多少の特攻を食らっても大丈夫だろうという判断であった。

「あ、ありがとう、長門」
『空母の貴様が特攻など食らったら一大事だ。ここは戦艦の私が受け止める』
「ぜ、全部落とすことを考えなさいよ」

 瑞鶴が随分と落としたが、まだ50機ばかりが残っている。敵機はもう目視できる距離にまで迫っている。

『無論だ。主砲斉射! 一匹も通さん!!』

 世界で唯一の戦艦用対空砲弾である三式弾。人間が使用する限りにおいてその性能を最大限に発揮するのは困難であるが、船魄がそれを持つと一気に航空機の悪夢になる。巨大な円錐状の爆風に巻き込まれ、敵機はたちまち撃墜されていく。

『敵機、残りおよそ20。再度斉射を行う』

 二度目の斉射で更に敵機を落とし、残るは僅かに5機ばかり。だがそれらを落とすのは間に合わなかった。長門は機銃で応戦するが、元より特攻するつもりの相手には、多少命中させたところで意味がない。

 燃料に引火し火達磨になりながらも、最後に残った3機が長門の右舷に突入したのである。

『クッ……やって、くれるな……』

 長門は苦しそうに呟いた。

「長門! 大丈夫か!?」

 岡本大佐は叫ぶ。

『心配は、無用だ。損傷したのは水線上。浸水はない。少々副砲が破壊されただけだ』
「それなら、よかった」

 基本的に船を沈めるには水線下を攻撃しなければならないが、特攻でそれは難しい。であれば戦闘能力を奪うことが目的になるだろうが、長門の装甲に阻まれ、主砲などへの損傷は皆無であった。

「しかしこれは……厄介だな」
『私は平気だ、大佐。どうということはない』
「いや、船魄に一太刀入れることができるだけで、十分に厄介だ。同じような攻撃を何度も喰らえば、君とて持たないだろう」
『それはそうかもしれんが……』
「早急に対策を立てねば。だが一先ずは、サンフランシスコへの砲撃を続けよう」
『承知した』

 アメリカ軍からの反撃はこれきりであった。サンフランシスコは完全に灰と化し、最早人が住める場所ではなくなった。

 ○

 その日、サンフランシスコにおける戦いの結果について、ルーズベルトは報告を受けた。

「300機出撃させて3機が命中か。しかも取り立てて特攻に特化させていない機体で。悪くないじゃないか」

 ルーズベルトは報告書を見て笑った。

「お言葉ですが大統領閣下、サンフランシスコが壊滅したことの方が問題なのでは?」

 トルーマンは言う。ルーズベルトはそう言われて初めて思い出したかのように応えた。

「ああ、そう言えば、そんなこともあったようだね」
「サンフランシスコは人口60万、西海岸の主要都市です。これをそんな軽く見られては――」
「そんな些細なこと、どうでもいいじゃないか、ハリー。私は戦争をしているのだ。一般市民が何百万人死のうが知ったことではないのだよ」
「あ、あんたは……それでも大統領か!?」

 トルーマンは初めて、感情を露わにしてルーズベルトに怒鳴りつけた。だがルーズベルトはどこ吹く風と言った様子。

「そんなに国民が大事なのかね、ハリー? 我々は政治家という特権階級で、国民など我々の下僕に過ぎないのだよ」
「クソッ。もうあんたとはやってられない! この狂人が!」
「そうかそうか。それは残念だ。だが、君の提案も少しは採用しようと思う」
「何をすると?」
「サンフランシスコのことは、いい政治的な宣伝材料になるだろう。日本軍の残虐さを世界中に知らしめる絶好の機会だ。まあ実のところ、ルメイ君は知らないが、これを見越してサンフランシスコの市民は避難させなかったんだがね」
「それでも人間か、あんたは……?」
「楽しい戦争を続ける為には、プロパガンダが必要だ。サンフランシスコの何十万人かの命など、その為には安いものだよ」
「あんたは、自分の楽しみの為に国民を犠牲にする気か?」
「もちろんそれもあるが、戦争を楽しんでいるのは私だけではあるまい。戦争がしたくてしたくて堪らないのがアメリカ人というものじゃないのかな? そうでなければ、我々の先祖が先住民を皆殺しになんてするかね?」
「この狂人が!」

 トルーマンはそう言い残して執務室を出ていったが、結局のところ副大統領の職務は続けた。ルーズベルトを殺す機会を逃さない為である。
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