軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)

アメリカの準備

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 一九四五年十一月十五日、アメリカ合衆国ワシントン直轄市、大統領官邸ホワイトハウス。

「大統領閣下、申し上げます。今度の船魄実験も、失敗に終わりました」
「まったく、君達は何をやっているのだね」
「も、申し訳ありません……」

 大東亜戦争以前から存在していた艦艇のほぼ全てを沈められたアメリカは、日本と同様の問題に直面していた。新規に建造した艦艇に船魄を搭載しても全く機能しないのである。

「もういい。君達にはもう期待しない。研究を進めてもらって構わないが、別の計画に期待することにするよ」
「はい……」

 船魄研究の技術者達を下がらせ、ルーズベルトは別の研究チームを執務室に呼び出した。

「グローヴス君、マンハッタン計画はどうなっているのかね?」

 マンハッタン計画とは言うまでもなく、原子爆弾開発計画である。その責任者であるレズリー・グローヴス少将に、大統領は進捗報告を求めた。

「はっ。順調とはとても言い難いものです。詳しいことは、こちらのオッペンハイマー博士に尋ねた方がよろしいかと」

 グローヴス少将は計画の中心的科学者オッペンハイマー博士を大統領の前に立たせる。

「ふむ。オッペンハイマー博士、計画の進捗について、いつ頃までに原子爆弾が完成するのかについて具体的な期日を教えてくれたまえ」
「そう言われましてもねえ。大統領閣下がマンハッタン計画を船魄とやらの為にぐちゃぐちゃにしてしまいましたから、計画はやり直しも同然です。原子爆弾の実用化まで、早くとも半年はかかるかと思われます。これは最も楽観的な予想に基づくものです」
「早くて半年かね。話にならないな」
「私に言われても困りますよ。あんなオカルトに手を出さずに素直に原子爆弾を開発していれば、今頃実戦投入できていたかもしれないのに」
「大統領閣下に失礼だぞ、オッペンハイマー博士」

 副大統領ハリー・S・トルーマンは慇懃無礼なオッペンハイマー博士を牽制する。

「これはこれは、失礼をいたしました。他に計画についてお尋ねになりたいことは?」
「いいや、ない。私は原子爆弾がいつ使えるかにしか興味はない」
「そうですか。ではこれで、失礼させてもらいます」

 オッペンハイマー博士は執務室を去った。

「まったく、科学者とはどいつもこいつも……」
「まあまあ、そんな些事、私は気にしないよ、ハリー」
「左様ですか」
「ところでグローヴス君、ブロンクス計画の進捗はどうかな?」

 原子爆弾開発と並行してグローヴス少将が統括している秘密計画である。

 その内容は一言で言えば対艦ミサイルの開発である。対艦ミサイルはドイツが既に実用化しているが、これはミサイルを目視で誘導するという原始的なものであり、船魄相手には自殺行為だ。アメリカが必要としているのは全自動で敵艦に飛んでいくミサイルなのである。

「はい。こちらも難航しております。一撃で戦艦の装甲を撃ち抜けるミサイルであれば、既にドイツのフリッツXを参考に完成していますが、やはり誘導装置が技術的な難関です。一度撃てば目標に勝手に飛んでいくミサイルなど、現在の人類の技術水準では不可能と言わざるを得ないかと」
「もう少し詳しく聞かせたまえ」
「はっ。計画で試作しているもので唯一実用的だったのは、目標に強力な電波を照射してミサイルに追尾させるという方法です。しかしこれは、やはり電波を照射する母機が敵に近づかなければならず、船魄相手に通用はしないかと」
「他には何かないのかね?」
「軍艦が常に発している赤外線を探知する方法なども考えましたが、精々敵から1km圏内に入らないと探知できず、実用的ではありません。後は、前にあった『鳩計画』などを掘り起こしてみましたが、とても現実的とは言えません」

 このふざけた名前の計画は、特別な訓練を施した鳩にミサイルを誘導させようという計画である。その内容もふざけているようだが、実はブロンクス計画では二番目に有力な誘導方式である。

「それだけかね?」
「はい。他の研究は、まるで現実的ではないとして棄却されています」
「なるほど。では君達は一つ試していない方法があるのではないかな?」
「何でしょうか……?」

 ルーズベルトという素人の思い付くことなど既にやっていると思いつつ、グローヴス少将は話を聞いてみることにした。

「人間に誘導させればいいじゃないか」
「は? ですから目視誘導も赤外線誘導も実用化には程遠いと――」
「違う違う。もっと簡単な話だよ。人間をミサイルに乗せて敵に突っ込ませたまえ」
「は……?」
「聞こえなかったかな? それこそ鳩計画の鳩のように、ミサイルに人間を乗せればいいんだよ」
「正気ですか、大統領閣下……?」
「私は正気だよ。それに、たった一人の命で船魄を沈められるかもしれないのだ。実に経済的じゃないか」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「何か問題でもあるのかね? 普通に戦っても大勢の兵士が死ぬのだから、もう少し効率的に命を消費した方が、彼らの為というものではないかな?」
「はっ……。その方針で、開発を進めさせます」

 グローヴス少将は逃げるように執務室を後にした。

「さあ、これで戦争はもっと楽しくなるぞ。楽しみだねえ、ハリー」
「はい。兵士達も国の役に立って死ねるのですから本望でしょう」

 トルーマンはルーズベルトの頭がおかしくなったと察しつつも、取り敢えず話を合わせておくことにした。
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