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第九章 大東亜戦争Ⅱ(戦中編)

第三の少女

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「どう? 私の修理はできそう?」

 真珠湾の見聞を終えて戻ってきた岡本大佐に瑞鶴は問う。

「ああ、設備は無事に残っていた。アメリカ軍はどうなら、ハワイが陥落することなんて夢にも思っていなかったようだ」
「アメリカ人らしい傲慢さね」
「そういう訳で、もう少し準備をすれば、君の飛行甲板を使用可能な状態くらいには修理できるだろう」
「どのくらいで動けるようになる?」
「向こう2ヶ月と言ったところだろう」
「案外早いのね」
「飛行甲板の修理だけなら、そう大した時間はかからない。それに、その他の細々とした修理は明石にやってもらうことになった」
「ああ、工作艦の。随分と贅沢ね」

 帝国の造船所全てを合わせたものの半分の工作能力を持つ、極めて優れた工作艦明石。それを瑞鶴用に貸し切ってくれるらしい。修理も捗るだろう。

「それと、君に知らせておきたいことがある」
「何?」
「少し言いにくいことだが、新たな船魄がつい最近完成している」
「また新しい子を作ったの?」

 瑞鶴は何故だか嫌悪感を持った。味方が増えるというのは悪くない話だし、船魄を増産するのは当然に予期されていた筈なのに。

「ああ。今回は長門を船魄化することに成功した。私なしでな。そろそろ個人の曲芸に頼らなくても船魄を建造できるほど、技術が成熟しつつあるのだ」

 岡本大佐は自らの船魄技術の発達について嬉しそうに語るが、当の瑞鶴は全く興味がなかったし、何を言っているか全く分からなかった。世界初の船魄である瑞鶴も、船魄の技術についてはまるで知らないのである。

「――あんたの話はどうでもいいんだけど、長門って長門型戦艦一番艦の長門よね?」
「無論だ。他に何か考えられるか?」
「41cm砲8門の戦艦が、本当に頼りになるの?」
「まあ大和と比べれば遥かに見劣りするが、現状帝国が用意できる最大の戦力なのだ。我慢してくれたまえ」

 姉妹艦の陸奥はとうに事故で失われている。帝国海軍が目下保有している戦艦で最強の戦力が長門なのである。

「で、それがいつ届くの?」
「すぐそこにいるぞ」
「は?」
「つい先週ハワイ沖海戦を戦った僚艦ではないか」
「言われてみれば、長門もいたけど……」

 エンタープライズと戦いに行く瑞鶴を護衛したいた艦艇に長門もあった。言われてみると、瑞鶴はそのことを思い出してきた。

「長門って確か大破してたわよね? て言うか、何でたったの一週間くらいで船魄化してるの? 訳が分からないんだけど。説明して」
「まあまあ、順を追って説明しよう。まずハワイ沖海戦に挑む前のことだが、既に長門の船魄化改装作業は始まっていた。船魄化は繊細な作業が必要だが、別に大規模な設備は必要ない。内地でなくとも停泊する場所くらい確保できれば、どこでも作業を行うことができるのだ」
「私に隠れてコソコソ作業してたの?」

 と聞くと、岡本大佐は気持ち悪いくらい目を輝かせた。

「そう、そこなのだよ。私は無線で時折指示をしていたのだが、実際に作業を行ったのは私の部下や応援の、言うなれば一般的な技術者だけだった。それで改装に成功したのが、技術の真っ当な進歩の形だと――」
「ああ、はいはい、分かったから。その次は?」
「すまない。君に技術の話をしてもしょうがないな。その後、長門を完成させてから君にお披露目するつもりだったのだが、大本営からハワイ攻略のお達しと、その為に長門を艦隊護衛に使えという命令が来た。そのせいでやむを得ず、長門をハワイ沖海戦に駆り出すことになったのだ」
「じゃあ長門は半分船魄化されて戦いに参加してたってこと?」
「その通りだが、君と同様、船魄化しても従来通り人間による制御は可能だ。ハワイ沖海戦においては普通の戦艦として働いてもらったが、ここに来てようやく、最終調整を終えて船魄として生まれ変わったということだ」
「なるほどねえ。てことは、今でも大破してるってことよね?」
「ああ、そうなる。外洋航行は暫く不可能だろうが、こちらも修理が終われば貴重な戦力になる筈だ。幸いにして君より修理に時間はかからなさそうだしな」
「あ、そう。で、長門の船魄は今どこに?」
「ここに招待しておいた。そのうち来る筈だ」
 
 岡本大佐の言う通り、長門はすぐにやって来た。瑞鶴は気になったので艦の外まで行って出迎えた。大和とは打って変わって長身の、軍服を着た少女である。

「あなたが瑞鶴か?」
「ええ、そうよ」
「私は長門型戦艦一番艦、長門の船魄だ。よろしく頼む、瑞鶴」
「随分と馴れ馴れしいわねえ……」

 ついさっき目覚めたばかりだというのに、歴戦の戦士のような風格すらある。

「す、すまない。不快だったか?」
「いいえ、そんなことはないわ。私は翔鶴型航空母艦二番艦、瑞鶴。よろしくね」
「ああ。よろしく」

 瑞鶴と長門は握手を交わした。

「色々と話したいこともあるし、どうぞ上がって」
「感謝する」

 スロープを登って瑞鶴艦内に入り、そのまま瑞鶴の私室に向かった。他の人間は邪魔ということで追い払い、二人きりである。
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