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第八章 帝都襲撃
帝国の要求
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「――と、このように、アイゼンハワー首相の訴追と、大和の引渡しをする用意はある、とのことであります」
三笠は帝国政府から伝えられたことをそのまま瑞鶴に伝えた。
「案外物分りがいいじゃない。じゃあ早速、大和のところに――」
「そちらの一方的な要求を呑むとでもお思いでありますか?」
三笠は冷たい声で瑞鶴を掣肘する。
「へえ。そっちから要求するつもり?」
「無論であります。これは交渉なのでありますから」
「政府と軍部の首脳が死ななくて済むのは十分な対価だと思うけど?」
「既に石橋首相ら大本営政府連絡会議の面々は、無論陛下も、明治宮殿地下壕に避難しております。あなたの脅しは通用しないのでありますよ」
「あっそう」
瑞鶴は考える。三笠の言葉は嘘か真か。真だとすれば、既に瑞鶴の脅迫は意味がないということになる。しかしそれは、瑞鶴が攻撃を受けていないという事実に矛盾する。だが帝国政府が瑞鶴の出方を見ているだけかもしれない。いずれにせよ下手な手を打つ訳にはいかない。
「そっちの要求は何? 聞いてあげるわ」
「こちらの要求は二つ。一つは有事の際に帝国海軍に協力すること。もう一つは帝国海軍にあなた方の所在を常に報告することです」
「面白い提案ね」
一つ目の要求はあってないようなものである。だが二つ目の要求はなかなか面倒なものである。
「確認だけど、一つ目はつまり、アメリカ相手に戦争するのに協力しろってことよね?」
「はい。そういうことであります」
「なら問題ないわ。アメリカを叩き潰したい思いは、帝国海軍と同じよ」
「それはよかったのであります。二つ目は如何ですか?」
「まあ構わないわよ。私の気分次第で行方をくらますかもしれないけど」
「左様でありますか。構いませんよ」
「え、いいの?」
瑞鶴は逆に驚いた。こんな瑞鶴が翻意しようと思えば簡単に無効化される口約束でいいのかと。
「はい。あなたは名誉を重んじる方だと聞いています。それに、あなたの行動くらい、ある程度は予測できます」
「言ってくれるじゃない。じゃあ本当にそれだけでいいのね? 二言はなしよ」
「無論であります」
かくして交渉は成立した。瑞鶴は実質的に何も支払わず、自らの要求を通すことができたのである。もっとも、それは帝国政府にとって大した不利益がないか、寧ろ利益になるからであったが。
「で、早速大和をもらいたいんだけど、曳航してくれるのかしら?」
「そこまでを帝国海軍にやれと?」
「大和を引渡すってのはそういうことでしょ」
「それも一理ありますが……大和型を曳航するのは非常に骨が折れます。ここは瑞鶴、あなたに大和を動かして頂くのが妥当でありますかと」
「なるほどねえ」
瑞鶴としても意外であったが、できないことはない筈だ。
「でもその為には、大和の艦体と同調作業をしないといけないわ。私に呉に行けって言うの?」
「はい。太平洋を横断してきたのですから、呉などすぐそこでは?」
三笠は当然のことのように言った。だが瑞鶴はその提案には乗れなかった。
「私がここを離れたら妙高を襲うつもりじゃないの?」
「そんなことをするつもりはありませんが……」
「信用できないわ」
「ではどうせよと?」
「じゃあ、私だけを呉に連れてって。艦はここに置いたままで」
「陸路でということですか?」
「そうよ。陸路で。できるでしょ?」
「本艦は海軍所属なので何とも言えませんが……政府に掛け合ってみましょう」
瑞鶴の尊大な要求も、三笠は一先ず検討してくれた。帝国政府は直すぐに返事を寄越した。
「運輸省が新幹線を一編成、あなたの為に用意してくださるそうであります。政府に感謝することですね」
「そう。じゃあ誰か知らないけど運輸大臣にありがとうって伝えておいて」
「運輸大臣は吉野信次殿でありますが……。一先ず横浜にお連れしましょう。本艦に移乗してください」
「こっちの兵士も連れて行っていいかしら?」
「構いません」
空母瑞鶴は東京湾の入口に残り、船魄瑞鶴は三笠に乗って横浜に向かった。何の前触れもなく三笠がやって来て、異様な集団が新横浜駅を占拠して、辺りは騒然としていたが、瑞鶴は特に気にしなかった。
双方の兵士およそ100人と共に東海道新幹線に乗り込む。東海道新幹線は専用の線路を最新のHD53型蒸気機関車が牽引する高速列車である。瑞鶴と三笠は向かい合わせの席に座り、瑞鶴は敵味方問わず兵士達を隣の列車に追い出した。
「で、ここから何時間かかるの?」
「ここから広島駅までおよそ7時間、広島駅から呉駅まで1時間と言ったところです」
「流石、早いわね。新幹線とかいう奴は」
瑞鶴で行ったら丸一日はかかるだろう。
「あんたの時代じゃ東京から広島まで列車で行くなんて考えられないでしょ? 技術も随分と進化したものよね」
「いや、本艦の現役時代にも列車は通じていましたが」
「え、そうなの?」
「はい。当時は丸一日かかったので、技術の進歩については同意するところですが」
「へえ、そうなんだ。じゃあとっとと出発させて」
「興味がなさそうですね……」
「まあ産まれる前のことだし」
「そのうち出発しますから、暫し待っていてください」
間もなく準備が整うと新幹線は出発した。途中駅は全て飛ばす特別列車である。
三笠は帝国政府から伝えられたことをそのまま瑞鶴に伝えた。
「案外物分りがいいじゃない。じゃあ早速、大和のところに――」
「そちらの一方的な要求を呑むとでもお思いでありますか?」
三笠は冷たい声で瑞鶴を掣肘する。
「へえ。そっちから要求するつもり?」
「無論であります。これは交渉なのでありますから」
「政府と軍部の首脳が死ななくて済むのは十分な対価だと思うけど?」
「既に石橋首相ら大本営政府連絡会議の面々は、無論陛下も、明治宮殿地下壕に避難しております。あなたの脅しは通用しないのでありますよ」
「あっそう」
瑞鶴は考える。三笠の言葉は嘘か真か。真だとすれば、既に瑞鶴の脅迫は意味がないということになる。しかしそれは、瑞鶴が攻撃を受けていないという事実に矛盾する。だが帝国政府が瑞鶴の出方を見ているだけかもしれない。いずれにせよ下手な手を打つ訳にはいかない。
「そっちの要求は何? 聞いてあげるわ」
「こちらの要求は二つ。一つは有事の際に帝国海軍に協力すること。もう一つは帝国海軍にあなた方の所在を常に報告することです」
「面白い提案ね」
一つ目の要求はあってないようなものである。だが二つ目の要求はなかなか面倒なものである。
「確認だけど、一つ目はつまり、アメリカ相手に戦争するのに協力しろってことよね?」
「はい。そういうことであります」
「なら問題ないわ。アメリカを叩き潰したい思いは、帝国海軍と同じよ」
「それはよかったのであります。二つ目は如何ですか?」
「まあ構わないわよ。私の気分次第で行方をくらますかもしれないけど」
「左様でありますか。構いませんよ」
「え、いいの?」
瑞鶴は逆に驚いた。こんな瑞鶴が翻意しようと思えば簡単に無効化される口約束でいいのかと。
「はい。あなたは名誉を重んじる方だと聞いています。それに、あなたの行動くらい、ある程度は予測できます」
「言ってくれるじゃない。じゃあ本当にそれだけでいいのね? 二言はなしよ」
「無論であります」
かくして交渉は成立した。瑞鶴は実質的に何も支払わず、自らの要求を通すことができたのである。もっとも、それは帝国政府にとって大した不利益がないか、寧ろ利益になるからであったが。
「で、早速大和をもらいたいんだけど、曳航してくれるのかしら?」
「そこまでを帝国海軍にやれと?」
「大和を引渡すってのはそういうことでしょ」
「それも一理ありますが……大和型を曳航するのは非常に骨が折れます。ここは瑞鶴、あなたに大和を動かして頂くのが妥当でありますかと」
「なるほどねえ」
瑞鶴としても意外であったが、できないことはない筈だ。
「でもその為には、大和の艦体と同調作業をしないといけないわ。私に呉に行けって言うの?」
「はい。太平洋を横断してきたのですから、呉などすぐそこでは?」
三笠は当然のことのように言った。だが瑞鶴はその提案には乗れなかった。
「私がここを離れたら妙高を襲うつもりじゃないの?」
「そんなことをするつもりはありませんが……」
「信用できないわ」
「ではどうせよと?」
「じゃあ、私だけを呉に連れてって。艦はここに置いたままで」
「陸路でということですか?」
「そうよ。陸路で。できるでしょ?」
「本艦は海軍所属なので何とも言えませんが……政府に掛け合ってみましょう」
瑞鶴の尊大な要求も、三笠は一先ず検討してくれた。帝国政府は直すぐに返事を寄越した。
「運輸省が新幹線を一編成、あなたの為に用意してくださるそうであります。政府に感謝することですね」
「そう。じゃあ誰か知らないけど運輸大臣にありがとうって伝えておいて」
「運輸大臣は吉野信次殿でありますが……。一先ず横浜にお連れしましょう。本艦に移乗してください」
「こっちの兵士も連れて行っていいかしら?」
「構いません」
空母瑞鶴は東京湾の入口に残り、船魄瑞鶴は三笠に乗って横浜に向かった。何の前触れもなく三笠がやって来て、異様な集団が新横浜駅を占拠して、辺りは騒然としていたが、瑞鶴は特に気にしなかった。
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「え、そうなの?」
「はい。当時は丸一日かかったので、技術の進歩については同意するところですが」
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