軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第八章 帝都襲撃

帝国政府との交渉

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『私は大日本帝国内閣総理大臣、石橋湛山だ』
「瑞鶴よ。総理大臣様自ら交渉に臨むなんて殊勝なことね」
『我が国の存亡に関わる事態だからね』
「別に帝国と交渉しに来ただけでやり合う気はないんだけど。新聞屋は話を盛るのが好きね」

 石橋首相は元は新聞屋であり、帝国政府の拡大政策に反対し続けてきた男である。

『まったく、君は明治宮殿に攻撃することの意味を分かっていないのだよ』
「あっそう。ま、そんなことはどうでもいいの。こちらから要求を伝えるわ」
『要求できる立場だと思っているのかね?』
「お互いに砲火を交わさないで済むのが一番賢明だと思うけど? それとも東京が火の海になってもいいのかしら?」
『そんな力はないクセに、君も話を盛るのが好きだね』
「交渉が決裂したら容赦しないわ。で、話し合うつもりはあるの?」
『話を聞くくらいならよかろう。要求に応じるかは保証しかねるがね』
「分かった」
『ああ、だが、少し待ってくれ』
「何?」
『こんな無線通信で交渉するなんて正気の沙汰ではない。こちらから交渉人を送ることとしよう』

 確かにこんな不安定な無線通信は交渉事には向いていない。

「交渉人? 暗殺人じゃなくて?」
『素直に受け入れた方が身の為だぞ』
「……分かった。さっさとしなさい」

 瑞鶴も実はキューバ軍から借りてきた兵士を50人ほど乗せている。万が一への備えもあるし、石橋首相の主張はもっともであった。

『瑞鶴さん、交渉人と言うのは一体……』
「さあね。あなたは取り敢えず、絶対に明治宮殿から目を離さないこと。いいわね?」
『は、はい!』

 妙高は交代で水上機を飛ばして常に明治宮殿を攻撃できる状態を維持している。30分ほど待っていると、第一艦隊の背後から一隻の艦が姿を現した。

『全長は130m程度のようです』
「そうね……駆逐感か、いや、それにしては妙に重厚感があると言うか……」

 瑞鶴は偵察機を飛ばす訳にはいかず、目視でそれを観測するしかなかった。その艦影が近付いてきて細部が見えるようになってくると、瑞鶴はその正体が分かった。

「あいつ、横須賀の観光地じゃない」
『か、観光地?』
「横須賀の観光地と言ったら一つしかないでしょ」
『え、三笠、ですか……?』
「そうよ。あの三笠よ。まあ正確には敷島型戦艦の他の奴かもしれないけど」

 もう50年以上前にイギリスで建造された帝国海軍草創期の戦艦。日露戦争における連合艦隊旗艦、三笠。帝国臣民にあってその存在を知らない者はまず存在するまい。海軍軍縮条約のせいで軍艦としての任は解かれ、横須賀に記念艦として静態保存されていた訳だが、こんなものも動くようにしたらしい。

「まあ、交渉人ってのにはばっちりかもね。あんたは会ったことないの?」
『妙高は三笠さんが船魄化されたことも知らなかったので……』
「そう。まあ、そんな伝説の戦艦様に会えるなんて楽しみね」

 皮肉っぽく言うが、瑞鶴は三笠に会えるのが楽しみであった。瑞鶴は今でも心は日本人なのである。

 三笠は瑞鶴のすぐ側に横付けした。全長だけで言えば瑞鶴の半分ほどしかなく、主砲も4門だけの前弩級戦艦である。たったの50年で造船技術は様変わりしたものだ。三笠から一隻の内火艇が降りて瑞鶴の後部に接近してきて、収容するよう言ってきた。

「はあ……直接乗り付けてくればいいのに」

 内火艇を持ち上げるのは面倒くさい。未だにこの作業だけは人力である。キューバの兵士達に全く本分ではない仕事をさせ、12m内火艇を艦尾の内火艇格納場所に収容した。

 瑞鶴は三笠を迎えに艦尾に向かった。内火艇を降りた少女が兵士達に囲まれ、瑞鶴を待ち受けている。全身黒い軍服を身に纏い、白い短髪に赤い目をした覇気のない少女であった。

「あんたが三笠?」
「はい。本艦は三笠。敷島型戦艦四番艦の三笠であります。本艦のような老艦は政治に関わらず隠居しているべきかと思うところですが、軍令部の依頼とあっては断れず、このようにあなたとの交渉に参上した次第であります」

 どこか上の空のように、あまり芯の通っていない声で三笠は言った。

「そ、そう。ともかく、思ってたのとは何か違うけど、会えて嬉しいわ、三笠」
「勇猛果敢な船魄とでも想像していたのでありますか?」
「まあね。だってあの東郷元帥の旗艦だし」
「そのように過去の栄光に縛られるは愚の骨頂でありますよ。ともかく、よろしくお願いします、瑞鶴」

 瑞鶴と三笠は軽く握手をする。そして瑞鶴は取り敢えず、三笠を応接室に案内した。三笠は通信機を携えた兵士を4人ほど連れており、瑞鶴はキューバ兵に彼らを包囲させた。お互いに警戒しながら、瑞鶴と三笠はテーブルを挟んで向かい合った。

「さて、それでは瑞鶴、要求というものを聞かせていただけますか?」
「もちろん。第一の要求は、帝国政府がキューバ戦争の終結に向けて全力を尽くすことよ」
「些か具体性を欠いていると思いますが」
「本気出せばこんな戦争終わらせられるでしょ?」
「はあ。ではそのまま伝えるとしましょう」

 三笠は瑞鶴の第一の要求を書き留め、手伝いの兵士がそれを明治宮殿に伝えた。
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