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第八章 帝都襲撃
和泉
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「瑞鶴よ。あんたは和泉って奴かしら?」
そして聞こえてきたのは、相手を見下したような尊大な口調の少女の声だった。
『ああ、そうだよ。初めまして。私は和泉。世界最強の和泉型戦艦その一番艦だ。君のことはよく知っているから、自己紹介は不要だよ』
和泉型が世界最強というのは海軍軍人ならほとんどが認めることだが、それにしても相当な自信家である。
「言われなくても自己紹介なんてする気ないわよ。何の用?」
『君に聞きたいことが幾らかあってね。せっかく近くに君が来てくれたことだし、質問してもいいかな?』
「答えるかは私の気分次第だけど」
『それで構わないよ。ではまず、君はどこに向かっているのかな? 南米のどこかか、ハワイか、それともインドネシア?』
「そんなどうでもいい場所なんて目指してないわ。私の目的地は帝都よ」
『ははっ、面白いことを言うね、君は』
『ちょっ、瑞鶴さん、言っちゃっていいんですか!?』
すかさず妙高が止めに入った。もう遅いが。
「別にいいじゃない。どうせハワイを通り越したあたりでバレるんだし」
『で、ですが……』
「条件は大して変わらない。問題ないわ」
太平洋は日本の裏庭である。太平洋にいる限り帝国海軍は瑞鶴の動きを完全に捕捉し続けるし、どうせ日本に到着する頃には守りを固めているだろう。故に今計画を明かしたところで何も変わらないと、瑞鶴は判断した。
「で、そんなことを聞いてどうするの?」
『個人的には少し気になっただけだ。しかし、ここで知れたなら、できることもある』
「へえ? 何する気?」
『ハワイに補給の準備をさせておこう。君達はそこで燃料の補給を済ませて帝都に向かうといい』
「……は?」
余りにも予想外の和泉の言葉に、瑞鶴は言葉を失ってしまった。
「え、本気で言ってるの?」
『私はそんなしょうもない嘘は吐かないよ。是非ともハワイで補給を受けていってくれ』
「何が目的? 軽油でもぶち込むつもりかしら?」
『そんなことをしても、君達の戦闘能力が即座に失われる訳ではない。ハワイを失うのは帝国にとって相当な痛手だ』
つまりそんな卑怯な手は使わないと言いたいらしい。
「だったら本当に何のつもりなの?」
『横須賀には私の妹、摂津が率いる世界最強の第一艦隊がある。君が帝都に向かって袋の鼠になってくれるなら、これ以上喜ばしいことはないよ』
「なるほど。私と戦争しようってことね」
『ああ、そうだ』
「第一艦隊如きに私を止められると思ってるのかしら?」
『たかが空母一隻程度、どうということはない。まあ、あまり楽しくない戦争になってしまうのは残念だがね』
「舐められたものね……。いいわ。その戦争、受けて立ってやる」
『そうそう、その意気だ、瑞鶴。お互いに戦争を楽しもうじゃないか』
『ず、瑞鶴さん、その、いくらなんでも第一艦隊とやり合うというのは……』
駆逐隊が抜けているとは言え、第一艦隊は空母だけで赤城、加賀、蒼龍、飛龍の4隻を抱えている。いくら瑞鶴でも勝てるとは思えない。
「大丈夫よ。勝算はあるわ。私達の目的はあくまで日本に要求を突きつけることだけだし」
『そ、そうでしょうか……』
「ええ。まあ最悪の場合はあんただけで逃げてもいいから、安心しなさい」
『そ、そんなことはしません!』
「あ、そう? まあ負ける気なんてないんだけど」
『もう一つ聞いてもいいかな、瑞鶴?』
「何?」
『君は何がしたいんだ? 帝国海軍から脱走して、自由に行きたいのかな?』
「私は誰にも束縛されずに生きたいだけよ」
『なるほど。まあ、どうでもいいことか』
「こっちからも質問していいかしら?」
『ああ、構わないよ』
「あんたはどうしてこんなところに? まさか私達をずっと待ち構えてたの?」
連合艦隊旗艦ともあろう戦艦がこんなことろで単独行動しているなど違和感しかない。
『私は連合艦隊旗艦だ。キューバ戦争の指揮を執る為に戦場の近くにいることは、何らおかしくはないんじゃないかな?』
「ずっとアメリカ大陸にいたってこと?」
『ああ、その通りだ。ずっとサンフランシスコに停泊して、連合艦隊司令部をやっていたんだよ』
「なるほど。納得だわ」
大和型は連合艦隊の移動司令部として運用されていた。より大型の和泉型でも同様の運用がなされているのは自然なことである。
「それなら、連合艦隊司令長官も乗ってるのよね?」
『ああ、もちろんだ』
「今のGF長官って誰?」
『知らないのかい? 草鹿龍之介大将だ』
「ああ、草鹿ね。こんな大胆な判断ができるなんて驚きだわ」
大東亜戦争の時点で連合艦隊参謀長だった男だ。瑞鶴も会ったことがあり、いかにも参謀と言った弱腰な男、或いは学者のような男だったと記憶している。
『まあ楽しんでくれ』
「あんたは本土に来ないの?」
『私の速力で君達に追いつくのは難しい。ここから観戦することにするよ』
「あっそう。楽しみだとか言ってる割には来ないのね」
『私は戦場を外から俯瞰するのが好きなんだ』
「趣味が悪いわね」
『自ら陣頭で軍配を振る指揮官なんて、時代遅れも甚だしいのではないかな?』
「確かに、それは言えてる。有難くハワイで補給を受けるわ」
『私はみんなが楽しく戦争できるように手配しただけだ』
「何でこんな奴が連合艦隊旗艦なんてやってるのかしら」
和泉はとっととサンフランシスコに戻り、瑞鶴と妙高はハワイに向けて針路を取った。
そして聞こえてきたのは、相手を見下したような尊大な口調の少女の声だった。
『ああ、そうだよ。初めまして。私は和泉。世界最強の和泉型戦艦その一番艦だ。君のことはよく知っているから、自己紹介は不要だよ』
和泉型が世界最強というのは海軍軍人ならほとんどが認めることだが、それにしても相当な自信家である。
「言われなくても自己紹介なんてする気ないわよ。何の用?」
『君に聞きたいことが幾らかあってね。せっかく近くに君が来てくれたことだし、質問してもいいかな?』
「答えるかは私の気分次第だけど」
『それで構わないよ。ではまず、君はどこに向かっているのかな? 南米のどこかか、ハワイか、それともインドネシア?』
「そんなどうでもいい場所なんて目指してないわ。私の目的地は帝都よ」
『ははっ、面白いことを言うね、君は』
『ちょっ、瑞鶴さん、言っちゃっていいんですか!?』
すかさず妙高が止めに入った。もう遅いが。
「別にいいじゃない。どうせハワイを通り越したあたりでバレるんだし」
『で、ですが……』
「条件は大して変わらない。問題ないわ」
太平洋は日本の裏庭である。太平洋にいる限り帝国海軍は瑞鶴の動きを完全に捕捉し続けるし、どうせ日本に到着する頃には守りを固めているだろう。故に今計画を明かしたところで何も変わらないと、瑞鶴は判断した。
「で、そんなことを聞いてどうするの?」
『個人的には少し気になっただけだ。しかし、ここで知れたなら、できることもある』
「へえ? 何する気?」
『ハワイに補給の準備をさせておこう。君達はそこで燃料の補給を済ませて帝都に向かうといい』
「……は?」
余りにも予想外の和泉の言葉に、瑞鶴は言葉を失ってしまった。
「え、本気で言ってるの?」
『私はそんなしょうもない嘘は吐かないよ。是非ともハワイで補給を受けていってくれ』
「何が目的? 軽油でもぶち込むつもりかしら?」
『そんなことをしても、君達の戦闘能力が即座に失われる訳ではない。ハワイを失うのは帝国にとって相当な痛手だ』
つまりそんな卑怯な手は使わないと言いたいらしい。
「だったら本当に何のつもりなの?」
『横須賀には私の妹、摂津が率いる世界最強の第一艦隊がある。君が帝都に向かって袋の鼠になってくれるなら、これ以上喜ばしいことはないよ』
「なるほど。私と戦争しようってことね」
『ああ、そうだ』
「第一艦隊如きに私を止められると思ってるのかしら?」
『たかが空母一隻程度、どうということはない。まあ、あまり楽しくない戦争になってしまうのは残念だがね』
「舐められたものね……。いいわ。その戦争、受けて立ってやる」
『そうそう、その意気だ、瑞鶴。お互いに戦争を楽しもうじゃないか』
『ず、瑞鶴さん、その、いくらなんでも第一艦隊とやり合うというのは……』
駆逐隊が抜けているとは言え、第一艦隊は空母だけで赤城、加賀、蒼龍、飛龍の4隻を抱えている。いくら瑞鶴でも勝てるとは思えない。
「大丈夫よ。勝算はあるわ。私達の目的はあくまで日本に要求を突きつけることだけだし」
『そ、そうでしょうか……』
「ええ。まあ最悪の場合はあんただけで逃げてもいいから、安心しなさい」
『そ、そんなことはしません!』
「あ、そう? まあ負ける気なんてないんだけど」
『もう一つ聞いてもいいかな、瑞鶴?』
「何?」
『君は何がしたいんだ? 帝国海軍から脱走して、自由に行きたいのかな?』
「私は誰にも束縛されずに生きたいだけよ」
『なるほど。まあ、どうでもいいことか』
「こっちからも質問していいかしら?」
『ああ、構わないよ』
「あんたはどうしてこんなところに? まさか私達をずっと待ち構えてたの?」
連合艦隊旗艦ともあろう戦艦がこんなことろで単独行動しているなど違和感しかない。
『私は連合艦隊旗艦だ。キューバ戦争の指揮を執る為に戦場の近くにいることは、何らおかしくはないんじゃないかな?』
「ずっとアメリカ大陸にいたってこと?」
『ああ、その通りだ。ずっとサンフランシスコに停泊して、連合艦隊司令部をやっていたんだよ』
「なるほど。納得だわ」
大和型は連合艦隊の移動司令部として運用されていた。より大型の和泉型でも同様の運用がなされているのは自然なことである。
「それなら、連合艦隊司令長官も乗ってるのよね?」
『ああ、もちろんだ』
「今のGF長官って誰?」
『知らないのかい? 草鹿龍之介大将だ』
「ああ、草鹿ね。こんな大胆な判断ができるなんて驚きだわ」
大東亜戦争の時点で連合艦隊参謀長だった男だ。瑞鶴も会ったことがあり、いかにも参謀と言った弱腰な男、或いは学者のような男だったと記憶している。
『まあ楽しんでくれ』
「あんたは本土に来ないの?」
『私の速力で君達に追いつくのは難しい。ここから観戦することにするよ』
「あっそう。楽しみだとか言ってる割には来ないのね」
『私は戦場を外から俯瞰するのが好きなんだ』
「趣味が悪いわね」
『自ら陣頭で軍配を振る指揮官なんて、時代遅れも甚だしいのではないかな?』
「確かに、それは言えてる。有難くハワイで補給を受けるわ」
『私はみんなが楽しく戦争できるように手配しただけだ』
「何でこんな奴が連合艦隊旗艦なんてやってるのかしら」
和泉はとっととサンフランシスコに戻り、瑞鶴と妙高はハワイに向けて針路を取った。
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