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第八章 帝都襲撃
パナマ運河
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「敵艦隊、尻尾を巻いて逃げてくわ」
『す、すごいですね、瑞鶴さん……』
「まあ先手を打てればどうってことないわね」
妙高の目が全く届かないところで、瑞鶴はあっという間にソ連艦隊を撃退してしまった。
「じゃあこのままパナマ運河を渡りましょうか」
『はい。ですがパナマの人達は、運河を通してくれるんでしょうか……』
パナマは日本の勢力圏にある。普通に考えて日本の敵である妙高と瑞鶴を通してくれるとは思えない。
「大丈夫よ。パナマは運河の収入さえ入れば他のことはどうでもいい、みたいな国だからね」
『そ、そうでしょうか……?』
「まあ普通の通航なら止められるかもしれないけど、今回はちゃんと賄賂を持ってきてるから大丈夫よ」
『ちゃんと、賄賂……』
「元はと言えば日本から略奪したものなんだけどね」
『だと思いました……』
瑞鶴と妙高は間もなくパナマ運河を目前にした。パナマ運河は単なる水門ではなく、段々畑のようになった水密区画を次々に移動させることで船に山越えをさせるようなものだ。つまり現地人の協力を得られなければ運河を乗り越えることは不可能なのである。
瑞鶴は早速、パナマ政府に通信を掛けた。
「えー、こちらキューバ海軍所属、航空母艦瑞鶴と重巡洋艦妙高。賄賂を用意したので迅速に通らせてもらいたい。どうぞ」
『こちらはパナマ運河庁。我々は全ての国の船を平等な扱う。賄賂の必要はない。通行料を払えば、用意ができ次第すぐに通過を許可する。どうぞ』
「瑞鶴了解。じゃあすぐに料金を持っていくから、準備をよろしく。どうぞ」
『了解した』
瑞鶴は特に疑うこともなく、パナマ運河を通らせてもらうことにした。瑞鶴も妙高も十分大型艦の部類なので、一隻ずつ通過することになる。運河の通過に掛かる時間は24時間程度である。
『瑞鶴さんと離れ離れ、ですね』
「大丈夫よ。いざとなったら運河ごと破壊してあげるから」
『それって妙高達も危ないのでは……』
「ま、何とかなるでしょ」
実際、たった二隻の軍艦を捕まえることと、運河を破壊され数年に渡って巨大な経済的損失を被ることとでは、後者の方が圧倒的に重大である。故にパナマ運河庁も日本政府も、ここで瑞鶴に手を出すつもりは毛頭なかった。
翌日。瑞鶴と妙高は何ら問題なくパナマ運河を渡り終え、太平洋に出た。
「久しぶりの太平洋ね。別に向こう側と大して変わんないけど」
『そりゃあまあ、ただの海ですからね』
「そうね。じゃあとっとと帝都まで行きましょうか」
『長旅になりますね……』
ここから帝都までは2週間程度であろう。
「巡洋艦なんだからそのくらい慣れてるでしょ」
『ま、まあ、はい』
「なら問題ないわね。暇になったらこっちに遊びに来てもいいわよ」
『本当に暇だったらそうするかもしれません』
「全然構わな――ん? 大型艦が一隻、北150kmにいる」
瑞鶴の偵察機祥雲が、北方に一隻の巨大艦船を発見した。
『この状況で現れるのは、敵ですよね』
「ええ。もうちょっと詳しく……あれは……大和に似てる、けど、副砲の配置が全然違う」
護衛もつけずにただ一隻で航行するその艦は、大和によく似た3連装主砲を持った戦艦であった。しかしその舷側には大量の長10cm砲が並べられ、副砲の様相は大和とは似ても似つかないものである。
『それは……和泉型戦艦かと思います』
「ま、そういうことよね。大和より明らかに大きいし」
瑞鶴はその目で直接見たことはないが、おおよその諸元と武装は知っている。妙高は何度かその姿を直接見たことがあり、その巨大な艦体には何度も驚かされた。
全長294m、基準排水量9万3千トン、51cm砲9門や大量の高角砲を装備し、大和型を大きく上回る帝国海軍最大最強の戦艦である。実のところ世界一ではないのだが。
「和泉型の誰かって、判別する方法はある?」
『大将旗が掲げられていたら和泉様です。そうじゃなかったら、妙高に見分けはつきません』
大将旗が掲げられているということは連合艦隊司令長官の草鹿大将が座乗しているということであり、即ち連合艦隊旗艦の和泉ということになる。
「どうやら、和泉みたいよ」
『そう、でしたか……』
「て言うか、和泉のことも様付けで呼んでるの?」
『ま、まあ、連合艦隊旗艦の方ですから』
「呼び方なんてどうでもいいか。でも、どうやら私達を攻撃しに来たみたいよ」
『和泉様単独で、ですか?』
「そうよ」
『いくら和泉型の性能でも、戦艦単独での戦闘は現実的ではないと思うんですが……』
和泉型は対空能力と対潜能力を高度に併せ持つ戦艦である。しかしその代わりに自ら偵察機を運用する能力を捨てており、単独でその主砲を運用することはできない。
「じゃあ交渉でもしに来たって?」
『そっちの方があり得ると思います』
言葉自体は控えめだが、妙高はそう確信していた。
「分かった。少し様子を見ましょうか」
瑞鶴は艦載機を飛行甲板に留めておきつつ、和泉との距離を保って航行を続ける。和泉を発見してからおよそ1時間、向こうから通信が掛かってきた。
「本当に交渉する気みたいね」
『受けた方がいいかと……』
「もちろん。話すのはタダだし」
瑞鶴は躊躇なく通信を受けた。
『す、すごいですね、瑞鶴さん……』
「まあ先手を打てればどうってことないわね」
妙高の目が全く届かないところで、瑞鶴はあっという間にソ連艦隊を撃退してしまった。
「じゃあこのままパナマ運河を渡りましょうか」
『はい。ですがパナマの人達は、運河を通してくれるんでしょうか……』
パナマは日本の勢力圏にある。普通に考えて日本の敵である妙高と瑞鶴を通してくれるとは思えない。
「大丈夫よ。パナマは運河の収入さえ入れば他のことはどうでもいい、みたいな国だからね」
『そ、そうでしょうか……?』
「まあ普通の通航なら止められるかもしれないけど、今回はちゃんと賄賂を持ってきてるから大丈夫よ」
『ちゃんと、賄賂……』
「元はと言えば日本から略奪したものなんだけどね」
『だと思いました……』
瑞鶴と妙高は間もなくパナマ運河を目前にした。パナマ運河は単なる水門ではなく、段々畑のようになった水密区画を次々に移動させることで船に山越えをさせるようなものだ。つまり現地人の協力を得られなければ運河を乗り越えることは不可能なのである。
瑞鶴は早速、パナマ政府に通信を掛けた。
「えー、こちらキューバ海軍所属、航空母艦瑞鶴と重巡洋艦妙高。賄賂を用意したので迅速に通らせてもらいたい。どうぞ」
『こちらはパナマ運河庁。我々は全ての国の船を平等な扱う。賄賂の必要はない。通行料を払えば、用意ができ次第すぐに通過を許可する。どうぞ』
「瑞鶴了解。じゃあすぐに料金を持っていくから、準備をよろしく。どうぞ」
『了解した』
瑞鶴は特に疑うこともなく、パナマ運河を通らせてもらうことにした。瑞鶴も妙高も十分大型艦の部類なので、一隻ずつ通過することになる。運河の通過に掛かる時間は24時間程度である。
『瑞鶴さんと離れ離れ、ですね』
「大丈夫よ。いざとなったら運河ごと破壊してあげるから」
『それって妙高達も危ないのでは……』
「ま、何とかなるでしょ」
実際、たった二隻の軍艦を捕まえることと、運河を破壊され数年に渡って巨大な経済的損失を被ることとでは、後者の方が圧倒的に重大である。故にパナマ運河庁も日本政府も、ここで瑞鶴に手を出すつもりは毛頭なかった。
翌日。瑞鶴と妙高は何ら問題なくパナマ運河を渡り終え、太平洋に出た。
「久しぶりの太平洋ね。別に向こう側と大して変わんないけど」
『そりゃあまあ、ただの海ですからね』
「そうね。じゃあとっとと帝都まで行きましょうか」
『長旅になりますね……』
ここから帝都までは2週間程度であろう。
「巡洋艦なんだからそのくらい慣れてるでしょ」
『ま、まあ、はい』
「なら問題ないわね。暇になったらこっちに遊びに来てもいいわよ」
『本当に暇だったらそうするかもしれません』
「全然構わな――ん? 大型艦が一隻、北150kmにいる」
瑞鶴の偵察機祥雲が、北方に一隻の巨大艦船を発見した。
『この状況で現れるのは、敵ですよね』
「ええ。もうちょっと詳しく……あれは……大和に似てる、けど、副砲の配置が全然違う」
護衛もつけずにただ一隻で航行するその艦は、大和によく似た3連装主砲を持った戦艦であった。しかしその舷側には大量の長10cm砲が並べられ、副砲の様相は大和とは似ても似つかないものである。
『それは……和泉型戦艦かと思います』
「ま、そういうことよね。大和より明らかに大きいし」
瑞鶴はその目で直接見たことはないが、おおよその諸元と武装は知っている。妙高は何度かその姿を直接見たことがあり、その巨大な艦体には何度も驚かされた。
全長294m、基準排水量9万3千トン、51cm砲9門や大量の高角砲を装備し、大和型を大きく上回る帝国海軍最大最強の戦艦である。実のところ世界一ではないのだが。
「和泉型の誰かって、判別する方法はある?」
『大将旗が掲げられていたら和泉様です。そうじゃなかったら、妙高に見分けはつきません』
大将旗が掲げられているということは連合艦隊司令長官の草鹿大将が座乗しているということであり、即ち連合艦隊旗艦の和泉ということになる。
「どうやら、和泉みたいよ」
『そう、でしたか……』
「て言うか、和泉のことも様付けで呼んでるの?」
『ま、まあ、連合艦隊旗艦の方ですから』
「呼び方なんてどうでもいいか。でも、どうやら私達を攻撃しに来たみたいよ」
『和泉様単独で、ですか?』
「そうよ」
『いくら和泉型の性能でも、戦艦単独での戦闘は現実的ではないと思うんですが……』
和泉型は対空能力と対潜能力を高度に併せ持つ戦艦である。しかしその代わりに自ら偵察機を運用する能力を捨てており、単独でその主砲を運用することはできない。
「じゃあ交渉でもしに来たって?」
『そっちの方があり得ると思います』
言葉自体は控えめだが、妙高はそう確信していた。
「分かった。少し様子を見ましょうか」
瑞鶴は艦載機を飛行甲板に留めておきつつ、和泉との距離を保って航行を続ける。和泉を発見してからおよそ1時間、向こうから通信が掛かってきた。
「本当に交渉する気みたいね」
『受けた方がいいかと……』
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