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第八章 帝都襲撃

結果

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 ニューヨーク攻撃の翌日。アメリカ政府は声明を発表した。

『キューバ軍の卑劣なる攻撃により、エンパイアステートビル及びクライスラービルが破壊され、死者行方不明者数は5千に及びました。我々はこのような非道な暴力には決して屈さず、自由民主主義の防衛の為、あらゆる努力を推しみません』 

 このようにアイゼンハワー首相の名で全世界に発表された。バハマへの帰路に着いている瑞鶴とゲバラも当然、この発表が耳に入っている。

「効いてるようには見えないわね」 
「最初は内外の動揺を収める為、強気の発言に出るのはよくあることだ。実際に効果があるのか分かるのは、もう少し先だろうね」
「あ、そう。まあ一瞬でアメリカが崩れると思ってた訳じゃないけど」

 やはり暫くは様子見ということになった。

 グラーフ・ツェッペリンは飛行甲板を損傷し、高雄は主砲を2つ損傷している。いずれにせよ月虹はすぐには動けない。

 ○

 一九五五年九月十五日、プエルト・リモン鎮守府。

「ねえねえ長門、今日の新聞見た?」

 長門の執務室にやけに楽しそうな陸奥が押し掛けてきた。

「いや、見ていないが」
「熊本県水俣市で謎の奇病、だって」

 陸奥は何故か声を弾ませて新聞の一面を長門に見せる。長門は仕事を邪魔され面倒くさかったが、一応話に乗ってやることにした。

「何だそれは?」
「水俣市の漁港で狂死する者が相次いでいる、だって」
「狂死とは、そうそう聞かない言葉だな」
「ええ、私も初めて見たわ」
「原因は何なんだ?」
「原因が分かってたら謎の奇病じゃないでしょ」
「確かに」
「まあ伝染病じゃないのは九州帝大の調査で分かってるらしいわ。そしてこれから陛下が東京帝大とかの学者を山ほど送り付けるらしいわよ」 
「陛下が? 水俣市とやらを悪く言うつもりはないが、一地方の風土病に陛下が動かれると?」
「範囲は狭いけど患者は重体だからね。陛下はかなり心を痛めてらっしゃるみたいよ。死亡者の遺族には皇室費から弔慰金が出てるらしいし」
「そうか……。それならば、事態もすぐに終息するだろうな」

 この奇病については、半年後に日本窒素肥料が出した廃液に含まれる有機水銀が原因だと判明し、事態は沈静化することになる。

 それは置いておいて、長門が知りたいのは瑞鶴の行った天弐号作戦の効果があったかどうかだ。内地の話などしている暇はない。

「陸奥、アメリカ関連のニュースはないのか?」
「ニューヨーク空襲が効果あるかって話?」
「そうだ。私はそれが知りたいんだ」
「そうね。効果は確実にあったわ。あの日の午前の内からドルが大暴落してるからね。9月10日終値1円324ドルが、11日終値476ドルまで下落したわ。今は500ドル切ってるし。知らない?」

 大東亜戦争以前と比べると紙切れ同然になったものだが、それでも米ドルはそれなりの地位を保ってきた。少なくとも天弐号作戦の日までは。

「そんなものが戦争とどう関係すると?」
「正直、戦時経済体制に移行してるアメリカには大した影響ないでしょうね」

 アメリカは自国でいくらでも資源が採れるので輸入の必要性が非常に薄い。ドルが紙切れになったところで軍需産業に大した影響はないだろう。

「意味がないではないか」
「一応、民間の側がアメリカに見切りをつけたったことではあるわ。あんまり影響ないけど」

 戦後は経済が壊滅すること間違いなしだが、少なくともこの戦時経済体制において、ドルの暴落は大した影響はない。

「他には?」
「そうねえ。ニューヨーク、ワシントンから逃げる人間が続出してるみたいだけど、精々数万人程度で、国家としての影響はないわ」
「あれだけされて本当に戦争を止める気がないのか、アメリカは?」
「今のところの動きを見る限りは、そうね。ニューヨークへの核攻撃なんて万が一にもあり得ないって思ってるんでしょうね」
「それは実際そうだろうが……何かこう、アメリカ国内で反戦の動きなどはないのか?」
「あるにはあるけど、少数派ね。世論を動かすほどじゃないわ」
「国民が戦争を望んでいると?」
「ええ。寧ろニューヨークの報復で更なる増派を求める連中も出てきてるわ」
「クソッ。何なんだあの国は」
「相手に責任を押し付けるのが上手いのよ」

 キューバ戦争などアメリカが素直にカストロ政権を承認していれば起こらなかったものを、アメリカ政府はあたかもキューバが先に戦争を仕掛けてきたかのように宣伝している。アメリカとはそういう国なのだ。

「そう言えば、私達の修理はどれくらいかかるか、そろそろ分かったか?」
「自分のことなのに私に任せっぱなしなの?」
「お前のことは信用している」
「あらあら、長門ったら。大体の見込みは出たわ。私達は艦首が抉られた他の損害は軽微だから、必要とあれば今すぐにでも出撃できる。修理を完了させるなら向こう3ヶ月と言ったところかしら」
「意外と早いな」
「まあ私達が建造されたの30年以上前だし、技術も進化してるのよ。でも瑞牆の方は結構被害が深刻ね。半年は掛かるそうよ」
「そうか……。あいつは相当頑張ってくれたし、ゆっくり休ませてやれ。お前はいつでも出撃できるようにしておけ」
「えー、私も頑張ったのに」
「損害は十分軽微だ」

 第五艦隊も暫く動くことは難しそうだ。
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