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第七章 アメリカ本土空襲
艦隊決戦Ⅱ
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「閣下! ボルチモアの3番主砲が吹っ飛ばされました!」
「ノーフォークが大破! 戦闘能力喪失!」
「やはり、船魄の能力差は圧倒的か……」
一発の命中弾も与えられない内にこれだ。スプルーアンス元帥は日米の船魄技術の差を痛感させられていた。
「この調子ではとても……」
「狼狽えるな。いくら船魄の能力が優れていても、ミズーリの装甲を撃ち抜くのは不可能だ。とにかくミズーリだけは、魚雷から守らなければならない。他の艦は全て盾にするんだ」
「はっ……!」
ミズーリさえ生き残っていればどうとでもなる。ミズーリに唯一有効な魚雷を他の艦で受け止めて守れというのが元帥の非情な命令であった。
「それと、戦艦部隊はまだ接敵まで時間があるな?」
「はい。30分ほどで交戦距離に入りますが」
「敵の戦艦、長門と陸奥は無視して進め。空母だけを仕留めるんだ。制空権を取られれば、我々の勝利なのだから」
「はっ!」
元帥は薄氷の上ながらも、勝利への道を確実に見据えていた。
○
元帥の命令に従い、第2艦隊前衛部隊はミズーリの周囲に駆逐艦や重巡洋艦を集め、魚雷に対する盾とした。
『ふーむ。戦艦を守っているのか。あれさえあればどうとでもなるってことかな』
「船魄を使い捨てにするつもり、でしょうか」
『まあ駆逐艦より戦艦の方が大事なのは当然じゃないかな?』
「同じ一人の船魄なのに……」
妙高はアメリカのやり方に怒りを懐いた。
『妙高、今は戦いに集中してください』
『高雄の言う通りだよ、妙高。気を抜いていたらボク達の方が死ぬからね』
「……分かっています」
『ならいい。それと、敵を沈めないようにとか配慮していられる状況じゃないのも、分かってくれるかな?』
「……はい」
『物分りがよくて助かるよ。じゃあ、単縦陣になろう』
瑞牆、妙高、高雄は単縦陣を組み敵艦隊に同航戦を仕掛ける。全主砲を敵に指向できるようにして、砲撃を再開した。
「何で撤退しようともしないの……」
『そこに浮いているだけでも盾になる、ということでしょうね』
先程無力化した筈の、実際もう武装は動いていない重巡洋艦は、逃げる素振りも見せない。戦艦の前に浮かべておいて魚雷に対する盾としているのだ。
『そんなに沈めるのが嫌ならボクが沈めるよ』
「お願い、します……」
そうせざるを得ないというのは、妙高にも分かった。瑞牆は既に戦闘能力を喪失している重巡洋艦ノーフォークを砲撃し、ノーフォークは遂に大爆発を起こして真っ二つに裂け、水底に沈んでいった。
と、その時だった。
『痛いッ!! ボクを撃ったな!?』
瑞牆の左舷中央にミズーリの主砲弾が命中し、その装甲に大穴を開けた。
「だ、大丈夫ですか、瑞牆さん!?」
『あ、ああ、特に支障はないよ。ちょっと距離を詰めすぎたか……』
空母を除き、船魄の能力差とは極論すれば大砲の命中率の差にある。普通の人間による射撃でもそれなりの命中率を期待できる交戦距離では、その差は縮んでしまうのだ。
『瑞牆さん、一度下がりましょうか?』
『いいや、その必要はない。ここで勝負を決めよう』
どちらかが壊滅するまで、激しいが繰り広げられる。
○
一方その頃、戦艦達の戦いが始まろうとしていた。長門と陸奥は二隻だけの単縦陣でアメリカの戦艦を迎え撃とうとしている。
『敵戦隊、真っ直ぐ突っ込んでくるわね』
「そうだな。まるで我々と戦うつもりするないようだが……」
普通ならそろそろ同航戦にせよ反航戦にせよ針路を変える筈だ。長門は嫌な予感がしていた。
『え、ちょっと、もう射程に入ってるんだけど』
「ならば当然、奴らも我々を射程に収めている。それで撃ってくる気がないのは……」
『強行突破しようとしてるってことね?』
「その通りだろう。敵にとって、私もお前も撃破する必要はない。ただ突破さえできればいいのだ」
長門と陸奥はスプルーアンス元帥の考えを看破した。しかし敵の戦術を読めたからと言って、対処できるとは限らない。
『どうするの?』
「全力で撃ち方始め! 奴らを食い止めるのだ!」
主砲は既に全門が敵を向いている。長門と陸奥の合計16門の41cmが一斉に火を噴き、攻撃を開始した。
『うん、命中』
「目的は奴らを食い止めることだ。主砲を狙っても意味がないぞ!」
陸奥の主砲弾はちょうど先行するアイオワの1番主砲塔を撃ち抜いて大爆発を起こしたが、アイオワは速度を落としすらしない。
『え、あれで動けるの……?』
主砲という戦艦にとって命にも等しいものを破壊されれば、船魄は平気ではいられない筈だ。にも拘わらず一切反応を見せないのは不気味でしかない。
「恐らく、操舵は人間がやっているのだろうな。損害に関係なく進み続けられる」
『最悪ね。アメリカらしいけど』
「クッ……正面からだと主機を狙えん。奴らの選択も合理的、ということか」
『頭おかしい連中ね、まったく』
長門型とアイオワ級とでは建造された年代に20年以上の差がある。少なくとも防御力でアイオワ級が勝っているのはどうしようもなく、砲撃だけで航行不能に持ち込むのは非常に困難であった。
「ノーフォークが大破! 戦闘能力喪失!」
「やはり、船魄の能力差は圧倒的か……」
一発の命中弾も与えられない内にこれだ。スプルーアンス元帥は日米の船魄技術の差を痛感させられていた。
「この調子ではとても……」
「狼狽えるな。いくら船魄の能力が優れていても、ミズーリの装甲を撃ち抜くのは不可能だ。とにかくミズーリだけは、魚雷から守らなければならない。他の艦は全て盾にするんだ」
「はっ……!」
ミズーリさえ生き残っていればどうとでもなる。ミズーリに唯一有効な魚雷を他の艦で受け止めて守れというのが元帥の非情な命令であった。
「それと、戦艦部隊はまだ接敵まで時間があるな?」
「はい。30分ほどで交戦距離に入りますが」
「敵の戦艦、長門と陸奥は無視して進め。空母だけを仕留めるんだ。制空権を取られれば、我々の勝利なのだから」
「はっ!」
元帥は薄氷の上ながらも、勝利への道を確実に見据えていた。
○
元帥の命令に従い、第2艦隊前衛部隊はミズーリの周囲に駆逐艦や重巡洋艦を集め、魚雷に対する盾とした。
『ふーむ。戦艦を守っているのか。あれさえあればどうとでもなるってことかな』
「船魄を使い捨てにするつもり、でしょうか」
『まあ駆逐艦より戦艦の方が大事なのは当然じゃないかな?』
「同じ一人の船魄なのに……」
妙高はアメリカのやり方に怒りを懐いた。
『妙高、今は戦いに集中してください』
『高雄の言う通りだよ、妙高。気を抜いていたらボク達の方が死ぬからね』
「……分かっています」
『ならいい。それと、敵を沈めないようにとか配慮していられる状況じゃないのも、分かってくれるかな?』
「……はい」
『物分りがよくて助かるよ。じゃあ、単縦陣になろう』
瑞牆、妙高、高雄は単縦陣を組み敵艦隊に同航戦を仕掛ける。全主砲を敵に指向できるようにして、砲撃を再開した。
「何で撤退しようともしないの……」
『そこに浮いているだけでも盾になる、ということでしょうね』
先程無力化した筈の、実際もう武装は動いていない重巡洋艦は、逃げる素振りも見せない。戦艦の前に浮かべておいて魚雷に対する盾としているのだ。
『そんなに沈めるのが嫌ならボクが沈めるよ』
「お願い、します……」
そうせざるを得ないというのは、妙高にも分かった。瑞牆は既に戦闘能力を喪失している重巡洋艦ノーフォークを砲撃し、ノーフォークは遂に大爆発を起こして真っ二つに裂け、水底に沈んでいった。
と、その時だった。
『痛いッ!! ボクを撃ったな!?』
瑞牆の左舷中央にミズーリの主砲弾が命中し、その装甲に大穴を開けた。
「だ、大丈夫ですか、瑞牆さん!?」
『あ、ああ、特に支障はないよ。ちょっと距離を詰めすぎたか……』
空母を除き、船魄の能力差とは極論すれば大砲の命中率の差にある。普通の人間による射撃でもそれなりの命中率を期待できる交戦距離では、その差は縮んでしまうのだ。
『瑞牆さん、一度下がりましょうか?』
『いいや、その必要はない。ここで勝負を決めよう』
どちらかが壊滅するまで、激しいが繰り広げられる。
○
一方その頃、戦艦達の戦いが始まろうとしていた。長門と陸奥は二隻だけの単縦陣でアメリカの戦艦を迎え撃とうとしている。
『敵戦隊、真っ直ぐ突っ込んでくるわね』
「そうだな。まるで我々と戦うつもりするないようだが……」
普通ならそろそろ同航戦にせよ反航戦にせよ針路を変える筈だ。長門は嫌な予感がしていた。
『え、ちょっと、もう射程に入ってるんだけど』
「ならば当然、奴らも我々を射程に収めている。それで撃ってくる気がないのは……」
『強行突破しようとしてるってことね?』
「その通りだろう。敵にとって、私もお前も撃破する必要はない。ただ突破さえできればいいのだ」
長門と陸奥はスプルーアンス元帥の考えを看破した。しかし敵の戦術を読めたからと言って、対処できるとは限らない。
『どうするの?』
「全力で撃ち方始め! 奴らを食い止めるのだ!」
主砲は既に全門が敵を向いている。長門と陸奥の合計16門の41cmが一斉に火を噴き、攻撃を開始した。
『うん、命中』
「目的は奴らを食い止めることだ。主砲を狙っても意味がないぞ!」
陸奥の主砲弾はちょうど先行するアイオワの1番主砲塔を撃ち抜いて大爆発を起こしたが、アイオワは速度を落としすらしない。
『え、あれで動けるの……?』
主砲という戦艦にとって命にも等しいものを破壊されれば、船魄は平気ではいられない筈だ。にも拘わらず一切反応を見せないのは不気味でしかない。
「恐らく、操舵は人間がやっているのだろうな。損害に関係なく進み続けられる」
『最悪ね。アメリカらしいけど』
「クッ……正面からだと主機を狙えん。奴らの選択も合理的、ということか」
『頭おかしい連中ね、まったく』
長門型とアイオワ級とでは建造された年代に20年以上の差がある。少なくとも防御力でアイオワ級が勝っているのはどうしようもなく、砲撃だけで航行不能に持ち込むのは非常に困難であった。
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