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第七章 アメリカ本土空襲

航空戦

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『おい瑞鶴、敵が追ってきたぞ!』
「分かってるわよ! とっとと反転しなさい!」
『我に命令するな』

 やはりアメリカの艦上機相手にも、最高速度では負けている。逃げるという選択肢は基本的に存在しないのである。故に瑞鶴とツェッペリンは全ての艦載機を以て航空戦を開始した。アメリカ第2艦隊と月虹の総力を上げた航空戦である。

「さて……勝てるか……」
『何を不安がっておるのだ』
「そりゃあこの戦力差だからね」
『それも覚悟の上でここに来たのであろうが』
「確かに、あんたの方が正論言うなんて珍しいわね」
『何だと?』

 アメリカ側はおよそ350機、こちらは150機。しかも敵の内150はエンタープライズの艦載機である。

「さあ来い! 一機残らず叩き落としてやるわ!」
『エンタープライズだか何だか知らぬが、航空戦で我に勝てる訳がないのだ!』

 両軍はついに激突した。開幕早々、両軍の機関砲がたちまち火を噴き、アメリカ側は20機、瑞鶴は3機、ツェッペリンは2機を落とされる。月虹側が失ったのはいずれも鈍重な攻撃機であった。

「クソッ。魚雷がもったいないわね」
『魚雷など気にしている場合か?』
「私達ロクな補給も見込めないのよ? 物資は節約しなさいよ」
『そういうのはお前が考えろ。我は知らん』

 圧倒的な数の差がありながらも、戦況は月虹優位に進んだ。どうやらエンタープライズは味方が邪魔で好きに動き回れないようである。

「これなら行けるか……」
『多少の損害は出るが、勝てるであろう』

 だが、その時であった。突然200機ほどの艦上機が戦場を四方八方に離脱していく。

「何? こいつら逃げてくのか?」
『いいや、違う。我らを直接狙うつもりだ!』
「なるほどねえ……」

 正面で艦載機を拘束している間に月虹本隊を狙おうという作戦らしい。しかも正面に残っているのはエンタープライズ機のようで、瑞鶴もツェッペリンも手を離すことができない。

「妙高、高雄! 敵が来るわよ。覚悟決めなさい」
『は、はい!』
『誰も傷付けさせはいたしません!』

 敵機が襲来する。妙高と高雄は高角砲と主砲で応戦を開始した。友軍機はいないので寧ろ自由に撃ちまくれて、重巡としては楽である。とは言え数は非常に多く、とても全てを捌ききることはできない。

『妙高、左に魚雷です!』 
『ありがとう!』
 スクリューを全速力で回し、投下された魚雷をギリギリで回避する。敵の攻撃を完封することは不可能であり、爆撃や雷撃を回避しながら対空戦闘をするしかないのだ。
『高雄! 後方上から爆撃機!!』
『クッ……回避しきれない……!』

 高雄の後部砲塔に爆弾が命中し、爆炎が艦の半分ほどを覆い尽くした。

『高雄ッ!!』
『だ、大丈夫です、妙高。この程度の攻撃で、わたくしの装甲は抜かれません!』
『よ、よかった……』

 爆弾は砲塔に命中したが、砲塔はそもそも最も装甲の厚い場所の一つである。高雄の損傷は機銃が数丁破壊された程度であった。

 かくして懸命の対空砲火で30機ばかりを落とすが、敵の勢いは全く衰えない。

「ちょっとマズいわね……このままじゃ、こちらが押し負けるかも……おっと」

 瑞鶴は自信に攻撃を仕掛けようとする雷撃機を発見し、魚雷を軽く回避した。しかしこのままではいつ魚雷を喰らっても、或いは飛行甲板に爆弾を落とされてもおかしくはない。

『うぐっ、ああっ!?』
「ツェッペリン!?」

 ツェッペリンの素っ頓狂な呻き声が通信機越しに響く。嫌な予感がして彼女の方を見ると、飛行甲板に大穴を開けられ煙が立ち昇っていた。

『ツェッペリンさん!! 大丈夫ですか!?』

 真っ先に声をかけたのは妙高。

『あ、案ずるな……既に艦載機は全て出しておる。影響はない』
『で、ですが、煙が……』 
『艦内の燃料に、少々引火した。だが火の手は既に食い止めておる』
『そ、それなら、いいですが……』
『妙高、お前は自分のことの集中しろ!』
『は、はい……!』

 アメリカ軍機の能力は大したことはないが、流石に数が多い。月虹はじわじわと追い詰められている。

「こうなったら……またあの手を使おうかしら」 
『何をする気だ?』
「特攻よ特攻。エンタープライズにね」
『……頼めるか?』
「ええ、もちろん」

 今でも第2艦隊の監視を続けている偵察機。それに特攻をさせて戦局を一気に打開しようというのが瑞鶴の作戦であった。

「最悪な作戦だけどね……!」

 瑞鶴は祥雲を真っ逆さまに、エンタープライズの艦橋に向けて落下させた。超音速に達した祥雲は船魄を木っ端微塵にする筈であったが――

「落とされた!? 馬鹿なッ!」
『失敗か?』
「ええ、そうよ。失敗したわ」

 祥雲はエンタープライズの高角砲に迎撃されてしまった。艦載機だけでなく本体の防空も全く侮れない奴である。と、その時であった。

『瑞鶴さん! 南西に新たな艦隊を確認しました!! 10隻以上の規模です!』
「は? まさかこれ以上の増援……?」
『そ、その通りかと……』
「クソッ。諦め時みたいね」

 現状維持がやっとなのに増援など来られたら、どうやっても勝てない。瑞鶴は諦めることを決めた。
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