軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

文字の大きさ
上 下
134 / 469
第七章 アメリカ本土空襲

天弐号作戦

しおりを挟む
 キューバ政府は全世界に対し、ワシントン・ニューヨークに対し攻撃を行う用意があると発表した。日本、ソ連、ドイツは特に反応を示さず、これを黙認した。と同時に、修理と整備を最低限終わらせた月虹はバハマを出撃する。

「全艦に告ぐ。これより天弐号作戦を開始するわ。目標はニューヨーク。アメリカ人共に恐怖を突きつけるのよ」

  今回の作戦名は前回のものを引き継いで天弐号作戦であった。公式発表ではまだぼかしているものの、実際の目標はニューヨークに決めている。一般のアメリカ人にとっては政治の中心より経済の中心の方が大事だからである。

『敵は、迎え撃ちに来るでしょうか……』

 妙高は不安げに言った。

「そりゃあそうでしょうね。ニューヨークへの攻撃を許せば、アメリカの国威は失墜するわ。全力で避けたい筈よ」

 核攻撃を行った時より激しい抵抗が予想される。

『で、ですよね……』
「大丈夫よ。アメリカ海軍なんて大したことないわ」
『前回でも結構危なかったと思うんですけど……』
『妙高、わたくしのことはそう心配しないでください。どうか自分の身を守ることにこそ集中してください』
『わ、分かった』
『案ずるな、妙高。我がついておる』

 瑞鶴とツェッペリンの力を持ってしても勝算は薄いと言わざるを得ないが、少しでも勝算があるのならそれを掴みに掛かるのが瑞鶴なのである。

 ○
 
 さて、少し前のこと。プエルト・リモン鎮守府にて。長門は執務室に秘匿回線で電話が掛かってきた。

「これはまさか……」

 長門は冷や汗をかきながら電話を受けた。この光景は前にも見たことがあるからでだ。

「――陛下でしたか……。先日は大変な無礼を致しまして、誠に申し訳のしようもございません」 
「――はっ」
「――な、なるほど。しかし奴らに手を貸すなど……」
「――い、いえ、滅相もございません! 勅命とあらばこの長門、迷いはございません!」 
「――はっ!」

 長門が受話器を置くと、額から汗が垂れ落ちた。

 ○

「首相閣下、キューバが動き始めました。前回と同じく空母2、重巡2の戦力です」

 内心では神経を非常に尖らせていたアメリカは、すぐに月虹の動きを察知した。

「彼らはキューバではないだろう。何だったかな、確か……」
「彼らは月虹と名乗っておりますが」
「そう、それだ。月虹と呼べ、諸君」
「彼らはキューバ海軍の一員として行動しているようですが……」
「そんな名目を、まさか本当にそれを信じてるんじゃないだろうな? あの子達は自らの目的の為にキューバと手を組んでいるに過ぎない。キューバと月虹は一時的な協力関係にあるだけと見るべきだ」 
「な、なるほど……」

 先の大戦では完膚なきまでに叩きのめされたとは言え、アイゼンハワー首相の知力は全く低下していない。月虹の内情に至るまで、彼はほとんど正確に推察していた。まあ今はキューバと月虹が同じ目的を持って行動しているので、大して重要なことではないが。

「さて、奴らに首都への攻撃を許す訳にはいかない。絶対に許さんぞ」
「無論です」
「スプルーアンス君、今度こそ奴らを食い止めてくれよ」

 第2艦隊司令長官、実際には東海岸の海軍部隊の最高司令官たるスプルーアンス元帥に、首相は圧をかける。

「先の戦い大破した戦艦は未だ修理中です。戦艦なしでは、勝利の確約はできません」
「戦艦は修理中でも出せ。それとエンタープライズを使え。それならば戦力は互角だろう?」
「よろしいのですか? ソ連の、と言うよりフルシチョフ書記長の怒りが収まったとは到底思えませんが」
「国家の危急存亡の事態なのだ。そのくらい私が何とかする。君は気にせず戦ってくれ」 
「私は良い上司を持ったようです」

 要は事の重さの程度の問題である。首都への攻撃を許すよりフルシチョフを怒らせる方がマシだとアイゼンハワー首相は判断した。

 ○

 一九五五年九月七日、大西洋ノースカロライナ沖、公海。

「思ったより早く来たわね、アメリカ」

 瑞鶴は偵察機でアメリカ艦隊を先制して発見することに成功した。

『今度は何隻なのだ?』
「空母が5隻と、戦艦が4隻、巡洋艦が数隻、駆逐艦が10隻くらいってところかしら」
『空母が前より一隻増えているな。まさか……』
「ええ、そのまさかよ。前回いなかった事の方が不思議だけど、エンタープライズね」

 航空偵察でもはっきり分かった。信濃を除いて現状世界最大、世界最高の艦載機運用能力を誇る原子力空母、エンタープライズが敵艦隊に加わっている。

『エンタープライズか。良い相手ではないか。前回は我らの相手にもならぬ雑魚であったからな』
「エンタープライズだけならいいけどねえ、敵は大型空母4隻もいるのよ?」

 瑞鶴とツェッペリンの戦力とエンタープライズの戦力はおおよそ拮抗している。そこに雑魚とは言え300機が加わってくるのは非常に厳しい。

『ず、瑞鶴さん、大丈夫なんですか……?』
「ちょーっと厳しいかもねえ」
『瑞鶴さん、勝ち目がないのであれば撤退するべきです』

 高雄は迷いなく言った。 

「アメリカ相手に戦わずに逃げるなんて嫌よ」
『そういう感情の問題では――』 
「大丈夫よ、高雄。私が何年生き延びてきてると思ってるの? 引き際くらいは心得てるわよ」
『そ、それはそうですが……』

 瑞鶴が数々の死地を乗り切ってきたことは紛れもない事実。高雄には言い返せなかった。

「さて、やるわよ。妙高と高雄は防空。ツェッペリンはとっとと全機発艦させなさい」
『言われずともそうする』

 瑞鶴とツェッペリンはアメリカ軍に見つかる前にさっさと艦載機を全て発艦させることに成功する。

『瑞鶴さん、やっぱり先制攻撃するんですか?』

 妙高が問う。

「そうね。まずは一撃加えるわ。すぐに対応されるだろうけど。一先ずは、私達に任せておきなさい」

 今日は運がいい。瑞鶴とツェッペリンは奇襲攻撃を開始した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

処理中です...