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第七章 アメリカ本土空襲
外交戦
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翌日。瑞鶴の求めに応じ、フィデル・カストロは以下のような声明を出した。曰く『我が軍は侵略者に対し容赦をするつもりはない。次はワシントンとニューヨークに原子爆弾を投下する。アメリカはその前に停戦に応じるべきである』と。
それに対してアメリカは『首都防衛体制は完璧であり、万が一にも攻撃を許すことはあり得ない。このような野蛮な脅しに合衆国が屈することはない』との声明を発表。あくまで継戦の構えを見せた。
「どうやら、奴らには効いていないようだ……」
ゲバラは溜息を吐いた。
「アメリカ人が人命尊重なんてする訳なかったわね。忘れてたわ、あいつらがそういう連中だってこと」
「クソッ。どうしてそんなに戦争をしたいんだ、アメリカは!」
ゲバラは珍しく怒りを露わにして言った。
「アメリカってのは最初からそういう国なのよ。戦争をしない指導者は支持率を取れなくて引きずり下ろされるし、戦争をすれば阿呆な国民が支持するってね」
「国民が戦争を望んでいると?」
「ええ、そうよ。アメリカを普通の国だとは思わないことね。まあもちろん、極一部はマトモな奴もいるけど」
「だがそれでも、僕はアメリカ人に善の心が残っていると信じたい」
「絵空事ね。まああんたはそういう奴だけど」
月虹は失意の中で帰投することになった。
○
一九五五年八月十七日、バハマ、ドイツ海軍アンドロス島基地。
天号作戦から2週間。特にすることもなく、ドイツ軍に高雄と妙高の修理と全艦の整備をさせつつ、バハマでのんびりしている月虹。
妙高はアメリカの新聞に興味深い記事を見つけると、高雄の部屋に向かった。
「ねえ高雄、これってオッペンハイマーさんだよね?」
新聞の一面を飾る記事を高雄に見せる。記事にはあちこちに黒い点が浮かんでいるグロテスクな腕の写真が大きく載っていた。
「そのようですね。これは一体……」
「何て書いてあるの?」
妙高は英語など読めないのである。今の時代、ドイツ語と日本語さえ喋れれば世界のどこでも意思疎通は可能だからだ。
「わたくしも英語は大して読めませんが……オッペンハイマーさんがワシントンの病院で治療を受けているそうですね。酷い高熱に魘され、かつ写真のような黒い模様が全身に現れていると」
「放射線の影響ってことだよね」
「ええ、そうでしょう」
「黒い点が出るっていうのは、どういうことなの?」
「ええと……どうやら内出血が原因のようです。そして内出血というのは、放射線によって遺伝情報が破壊されて起こる、とのことです」
「うーん、よく分かんないや」
「要するに、怪我をしても全く治らなくなるということです。そして人体というのは常に細胞を入れ替えている訳ですが、古くなったものを捨てる一方で再生されなくなるので、血管や皮膚が自然と崩壊していくのです」
「ひえぇ……」
皮膚がどんどん崩れ落ちていくと、妙高は想像するだけで寒気がした。
「これを知ればアメリカの世論も変わると願いたいものですが……」
「そうだといいんだけど……」
戦争が好きで好きでたまらないアメリカ人でも、自分達がこのような死を迎えるかもしれないと知れば、少しは停戦に前向きになるかもしれない。妙高と高雄はそう期待したが、数日後にオッペンハイマー博士が死んでも目立った反応はなかった。
「残念だけど、天号作戦は失敗したわ」
瑞鶴は月虹の三人に告げた。
「戦争を、終わらせられなかった……」
妙高は悲しそうに。
「ええ。こうなったら、もっと大勢殺して戦争を終わらせるように迫るしかないでしょうね」
「それは、民間人を殺すってことですか?」
「ええ、そうよ。連中が民主主義を名乗ってる以上、全アメリカ人が侵略の共犯でしょう? 殺されても文句は言えないわよ」
「そ、そんなのは詭弁です!」
「よいではないか、妙高。何百万人が殺してやれば連中も少しは改心するかもしれぬ」
「ツェッペリンさん、本気で言ってるんですか?」
妙高は心底信じられないと言った様子で問う。だがツェッペリンも退くつもりはない。
「我は本気だぞ。アメリカ人の命で世界平和が達成されるなら、安いものではないか」
「命に優劣があると?」
「当たり前だ。連中のような文化破壊人種の命など、ゲルマン人の100分の1の価値もない」
「二人共、そういう話は後で勝手にしれくれる? 今はこの戦争を終わらせる方法について考えましょう。もちろん、私は必要ならばアメリカ人の大量虐殺も辞さないけど、あくまで必要に応じての話よ」
瑞鶴はアメリカ人が何千万人死のうが一向に構わないが、別にアメリカ人を殺したい訳でもない。全てはキューバ戦争を終わらせ自身の安全を確保する為なのである。
「じゃあ……高雄、何か意見はある?」
瑞鶴は別の視点を求めた。
「わたくし、ですか?」
「ええ。あなたが一番客観的にものを考えられそうだし」
「この状況を打開する策としては、順当にアメリカの言葉を否定していくしかないかと」
「へえ?」
「アメリカは首都防衛に自信を持っているようです。であれば、それを突き崩し、いつでもわたくし達が原子爆弾を落とせるのだと、知らしめるのが一番です。つまり、ワシントンかニューヨークに限定的な空襲を行うのです」
「なるほど。悪くないわ」
実際に被害を出す必要はない。ただ爆弾を一発でも落とすことができれば、原子爆弾も落とされるかもしれないという恐怖を与えることができる。
それに対してアメリカは『首都防衛体制は完璧であり、万が一にも攻撃を許すことはあり得ない。このような野蛮な脅しに合衆国が屈することはない』との声明を発表。あくまで継戦の構えを見せた。
「どうやら、奴らには効いていないようだ……」
ゲバラは溜息を吐いた。
「アメリカ人が人命尊重なんてする訳なかったわね。忘れてたわ、あいつらがそういう連中だってこと」
「クソッ。どうしてそんなに戦争をしたいんだ、アメリカは!」
ゲバラは珍しく怒りを露わにして言った。
「アメリカってのは最初からそういう国なのよ。戦争をしない指導者は支持率を取れなくて引きずり下ろされるし、戦争をすれば阿呆な国民が支持するってね」
「国民が戦争を望んでいると?」
「ええ、そうよ。アメリカを普通の国だとは思わないことね。まあもちろん、極一部はマトモな奴もいるけど」
「だがそれでも、僕はアメリカ人に善の心が残っていると信じたい」
「絵空事ね。まああんたはそういう奴だけど」
月虹は失意の中で帰投することになった。
○
一九五五年八月十七日、バハマ、ドイツ海軍アンドロス島基地。
天号作戦から2週間。特にすることもなく、ドイツ軍に高雄と妙高の修理と全艦の整備をさせつつ、バハマでのんびりしている月虹。
妙高はアメリカの新聞に興味深い記事を見つけると、高雄の部屋に向かった。
「ねえ高雄、これってオッペンハイマーさんだよね?」
新聞の一面を飾る記事を高雄に見せる。記事にはあちこちに黒い点が浮かんでいるグロテスクな腕の写真が大きく載っていた。
「そのようですね。これは一体……」
「何て書いてあるの?」
妙高は英語など読めないのである。今の時代、ドイツ語と日本語さえ喋れれば世界のどこでも意思疎通は可能だからだ。
「わたくしも英語は大して読めませんが……オッペンハイマーさんがワシントンの病院で治療を受けているそうですね。酷い高熱に魘され、かつ写真のような黒い模様が全身に現れていると」
「放射線の影響ってことだよね」
「ええ、そうでしょう」
「黒い点が出るっていうのは、どういうことなの?」
「ええと……どうやら内出血が原因のようです。そして内出血というのは、放射線によって遺伝情報が破壊されて起こる、とのことです」
「うーん、よく分かんないや」
「要するに、怪我をしても全く治らなくなるということです。そして人体というのは常に細胞を入れ替えている訳ですが、古くなったものを捨てる一方で再生されなくなるので、血管や皮膚が自然と崩壊していくのです」
「ひえぇ……」
皮膚がどんどん崩れ落ちていくと、妙高は想像するだけで寒気がした。
「これを知ればアメリカの世論も変わると願いたいものですが……」
「そうだといいんだけど……」
戦争が好きで好きでたまらないアメリカ人でも、自分達がこのような死を迎えるかもしれないと知れば、少しは停戦に前向きになるかもしれない。妙高と高雄はそう期待したが、数日後にオッペンハイマー博士が死んでも目立った反応はなかった。
「残念だけど、天号作戦は失敗したわ」
瑞鶴は月虹の三人に告げた。
「戦争を、終わらせられなかった……」
妙高は悲しそうに。
「ええ。こうなったら、もっと大勢殺して戦争を終わらせるように迫るしかないでしょうね」
「それは、民間人を殺すってことですか?」
「ええ、そうよ。連中が民主主義を名乗ってる以上、全アメリカ人が侵略の共犯でしょう? 殺されても文句は言えないわよ」
「そ、そんなのは詭弁です!」
「よいではないか、妙高。何百万人が殺してやれば連中も少しは改心するかもしれぬ」
「ツェッペリンさん、本気で言ってるんですか?」
妙高は心底信じられないと言った様子で問う。だがツェッペリンも退くつもりはない。
「我は本気だぞ。アメリカ人の命で世界平和が達成されるなら、安いものではないか」
「命に優劣があると?」
「当たり前だ。連中のような文化破壊人種の命など、ゲルマン人の100分の1の価値もない」
「二人共、そういう話は後で勝手にしれくれる? 今はこの戦争を終わらせる方法について考えましょう。もちろん、私は必要ならばアメリカ人の大量虐殺も辞さないけど、あくまで必要に応じての話よ」
瑞鶴はアメリカ人が何千万人死のうが一向に構わないが、別にアメリカ人を殺したい訳でもない。全てはキューバ戦争を終わらせ自身の安全を確保する為なのである。
「じゃあ……高雄、何か意見はある?」
瑞鶴は別の視点を求めた。
「わたくし、ですか?」
「ええ。あなたが一番客観的にものを考えられそうだし」
「この状況を打開する策としては、順当にアメリカの言葉を否定していくしかないかと」
「へえ?」
「アメリカは首都防衛に自信を持っているようです。であれば、それを突き崩し、いつでもわたくし達が原子爆弾を落とせるのだと、知らしめるのが一番です。つまり、ワシントンかニューヨークに限定的な空襲を行うのです」
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