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第六章 アメリカ核攻撃
原爆投下
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「さて、もう時間ね……」
瑞鶴は時計を見て呟く。原爆投下を予告した時刻の30分前になった。
「ツェッペリン、行くわよ。準備はいい?」
『無論だ』
瑞鶴は原子爆弾を搭載した爆撃機一機と戦闘機全て、ツェッペリンは戦闘機全てを、サウスカロライナ州に向けて出撃させた。艦載機にとっては10分もかからないことである。
「敵が来た、か」
『人間の機体のようであるな』
アメリカ空軍の有人局地戦闘機F-89スコーピオンが150機ほど、迎撃にでてきた。もちろん人間の操縦する戦闘機など船魄の敵ではない。
『アメリカ人を殺すなど我は躊躇わぬが、お前はよいのか?』
「何言ってんの? 私が何万人アメリカ人を殺して来たと思ってるのよ」
『それもそうか。問題はやはり、妙高だな』
「ええ。勝手にやったら怒られそうね」
瑞鶴はアメリカ人を皆殺しにしていいか、妙高に確認することにした。
「――どう? 殺す以外に選択肢はないけど、いいかしら?」
手短に状況を説明して問う。しかし妙高の答えは瑞鶴には意外なものであった。
『はい。特に問題ないと思いますけど、どうして妙高にわざわざ?』
妙高は平然と言った。
「え……いや、その、あなたなら敵を殺すのは嫌がると思って」
『相手は好きで殺し合いをしに来ているんですよね? なら死ぬ覚悟もできている筈では?』
「あ、そう……。分かった」
徴兵制のアメリカ軍でそんなことはないだろうとは思いつつ、瑞鶴はそれ以上何も聞かなかった。
「始めるわ。邪魔する者は全て排除する!」
『ふん、我に任せよ』
戦闘が開始された。だがそれは、戦闘と言うより、一方的な虐殺であった。アメリカ軍はツェッペリンのジェット戦闘機Me362にはもちろん、瑞鶴のプロペラ戦闘機颶風にも一切太刀打ちできず、彼女達に攻撃を仕掛けた者は一瞬にして撃墜された。
アメリカ軍は何とか爆撃機だけでも仕留めようと体当たり攻撃をしてくるが、そんなものは爆撃機に付属している機銃で埃を払うように落とされた。人間の機体など船魄の前には何の役にも立たないのだ。
「うん、全滅ね」
『我らと戦おうなどと、身の程知らずめが』
10分ほどの航空戦で、迎撃部隊は消滅した。
「じゃ、やっちゃいましょう。ツェッペリン、すぐに艦載機を撤退させて」
『そうさせてもらおう』
敵はいなくなった。瑞鶴もツェッペリンも戦闘機を引き上げる。
「まったく、やりたくないけど……」
瑞鶴は原子爆弾を積んだ爆撃機を予定の地点に向かわせる。そして爆撃機に積んだまま、それを起爆した。余りにも一瞬にして爆撃機が消滅したので、痛みが伝わってくる間もなかった。
『瑞鶴さん、成功したようですね……』
まだ何も伝えていないが、高雄はそう言ってきた。何故なら原子爆弾の炎と天を突くキノコ雲が、船魄達の肉眼ですら確認できたからである。
「ええ、成功したわ」
『まるで、この世の終わりのような光景ですね……』
「まあ、こんなのが何千と世界中にあると思ったらゾッとするわね」
『オッペンハイマーさんが使うなと言う気持ちも分かります』
「オッペンハイマー、あいつ本当に殺されに行ったのかしら」
『さあ……』
「そうだ、妙高はどう思った?」
瑞鶴は天号作戦に一番積極的だった妙高に問う。
『妙高は……期待通りの威力を示してくれて、安心しています。これをアメリカが知れば、戦争は終わる筈です』
「そうだといいけど、どうなるかしらね」
『そうでないと困ります』
「それはそうね。ともかく、天号作戦は完了した。全艦、バハマに帰投する」
月虹は仕事を終え帰投する。キューバ海軍という名目でやっているのにバハマに帰還する理由は整備と修理が必要だからである。
○
原子爆弾投下は既に予告されていたので、報道会社を含め無数の人々がそれを記録し、瞬く間に全世界が原子爆弾の姿を知った。核実験は全て非公開なので、ほとんどの人間は今回の投下で始めた核の炎を知ることになった。
そして同時に、たった一人の男だけが、天号作戦で被爆した。オッペンハイマー博士である。博士は爆心地からおよそ1.5kmの地点に、原子爆弾の爆風や熱で直接死なないよう事前に退避壕を用意し、致死量の放射線だけを浴びることに成功した。そして自らが死に向かう様子を記録し、世界に公開した。
博士は被爆直後に激しい吐き気と眩暈に襲われたことを除き、暫くは何の影響もないように見えたが、2週間が経った頃から熱病のような症状が出始め、同時に体のあちこちに黒い斑点が現れ始めた。放射線によって細胞の遺伝情報が破壊され、代謝の早い毛細血管が修復されなくなって内出血を起こし始めたのである。
以後彼は寝たきりになり、全身に黒い斑点が広がり、常に40度を超える高熱に魘され、被曝から22日後、苦しみを味わい尽くして死んだ。その惨たらしい死に様は全世界に報道され、世界を震撼させた。
オッペンハイマー博士は死の間際に『もしも原子爆弾が都市に投下されれば、私より遥かに惨い死を何百万という人々が迎えることになるでしょう。原子爆弾がこの地上から廃絶されることを切に願います』との言葉を遺したが、核開発を推し進めるアイゼンハワー首相によって揉み消された。
瑞鶴は時計を見て呟く。原爆投下を予告した時刻の30分前になった。
「ツェッペリン、行くわよ。準備はいい?」
『無論だ』
瑞鶴は原子爆弾を搭載した爆撃機一機と戦闘機全て、ツェッペリンは戦闘機全てを、サウスカロライナ州に向けて出撃させた。艦載機にとっては10分もかからないことである。
「敵が来た、か」
『人間の機体のようであるな』
アメリカ空軍の有人局地戦闘機F-89スコーピオンが150機ほど、迎撃にでてきた。もちろん人間の操縦する戦闘機など船魄の敵ではない。
『アメリカ人を殺すなど我は躊躇わぬが、お前はよいのか?』
「何言ってんの? 私が何万人アメリカ人を殺して来たと思ってるのよ」
『それもそうか。問題はやはり、妙高だな』
「ええ。勝手にやったら怒られそうね」
瑞鶴はアメリカ人を皆殺しにしていいか、妙高に確認することにした。
「――どう? 殺す以外に選択肢はないけど、いいかしら?」
手短に状況を説明して問う。しかし妙高の答えは瑞鶴には意外なものであった。
『はい。特に問題ないと思いますけど、どうして妙高にわざわざ?』
妙高は平然と言った。
「え……いや、その、あなたなら敵を殺すのは嫌がると思って」
『相手は好きで殺し合いをしに来ているんですよね? なら死ぬ覚悟もできている筈では?』
「あ、そう……。分かった」
徴兵制のアメリカ軍でそんなことはないだろうとは思いつつ、瑞鶴はそれ以上何も聞かなかった。
「始めるわ。邪魔する者は全て排除する!」
『ふん、我に任せよ』
戦闘が開始された。だがそれは、戦闘と言うより、一方的な虐殺であった。アメリカ軍はツェッペリンのジェット戦闘機Me362にはもちろん、瑞鶴のプロペラ戦闘機颶風にも一切太刀打ちできず、彼女達に攻撃を仕掛けた者は一瞬にして撃墜された。
アメリカ軍は何とか爆撃機だけでも仕留めようと体当たり攻撃をしてくるが、そんなものは爆撃機に付属している機銃で埃を払うように落とされた。人間の機体など船魄の前には何の役にも立たないのだ。
「うん、全滅ね」
『我らと戦おうなどと、身の程知らずめが』
10分ほどの航空戦で、迎撃部隊は消滅した。
「じゃ、やっちゃいましょう。ツェッペリン、すぐに艦載機を撤退させて」
『そうさせてもらおう』
敵はいなくなった。瑞鶴もツェッペリンも戦闘機を引き上げる。
「まったく、やりたくないけど……」
瑞鶴は原子爆弾を積んだ爆撃機を予定の地点に向かわせる。そして爆撃機に積んだまま、それを起爆した。余りにも一瞬にして爆撃機が消滅したので、痛みが伝わってくる間もなかった。
『瑞鶴さん、成功したようですね……』
まだ何も伝えていないが、高雄はそう言ってきた。何故なら原子爆弾の炎と天を突くキノコ雲が、船魄達の肉眼ですら確認できたからである。
「ええ、成功したわ」
『まるで、この世の終わりのような光景ですね……』
「まあ、こんなのが何千と世界中にあると思ったらゾッとするわね」
『オッペンハイマーさんが使うなと言う気持ちも分かります』
「オッペンハイマー、あいつ本当に殺されに行ったのかしら」
『さあ……』
「そうだ、妙高はどう思った?」
瑞鶴は天号作戦に一番積極的だった妙高に問う。
『妙高は……期待通りの威力を示してくれて、安心しています。これをアメリカが知れば、戦争は終わる筈です』
「そうだといいけど、どうなるかしらね」
『そうでないと困ります』
「それはそうね。ともかく、天号作戦は完了した。全艦、バハマに帰投する」
月虹は仕事を終え帰投する。キューバ海軍という名目でやっているのにバハマに帰還する理由は整備と修理が必要だからである。
○
原子爆弾投下は既に予告されていたので、報道会社を含め無数の人々がそれを記録し、瞬く間に全世界が原子爆弾の姿を知った。核実験は全て非公開なので、ほとんどの人間は今回の投下で始めた核の炎を知ることになった。
そして同時に、たった一人の男だけが、天号作戦で被爆した。オッペンハイマー博士である。博士は爆心地からおよそ1.5kmの地点に、原子爆弾の爆風や熱で直接死なないよう事前に退避壕を用意し、致死量の放射線だけを浴びることに成功した。そして自らが死に向かう様子を記録し、世界に公開した。
博士は被爆直後に激しい吐き気と眩暈に襲われたことを除き、暫くは何の影響もないように見えたが、2週間が経った頃から熱病のような症状が出始め、同時に体のあちこちに黒い斑点が現れ始めた。放射線によって細胞の遺伝情報が破壊され、代謝の早い毛細血管が修復されなくなって内出血を起こし始めたのである。
以後彼は寝たきりになり、全身に黒い斑点が広がり、常に40度を超える高熱に魘され、被曝から22日後、苦しみを味わい尽くして死んだ。その惨たらしい死に様は全世界に報道され、世界を震撼させた。
オッペンハイマー博士は死の間際に『もしも原子爆弾が都市に投下されれば、私より遥かに惨い死を何百万という人々が迎えることになるでしょう。原子爆弾がこの地上から廃絶されることを切に願います』との言葉を遺したが、核開発を推し進めるアイゼンハワー首相によって揉み消された。
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