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第六章 アメリカ核攻撃

重巡対戦艦Ⅱ

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 ニュージャージーの砲火を掻い潜りつつ、妙高と高雄はニュージャージーの艦橋を目標にして砲撃を続ける。しかし主砲というのは海面の敵を狙い撃つよう設計されており、中空の艦橋を直接狙うのは非常に困難である。主砲を対空砲のように扱わなければならないのだ。

「当たらない……」
『流石に、あの細い目標を狙うというのは……』

 戦艦と比べれば遥かに小さな目標だ。戦艦のどこかに当たれば御の字の砲撃とは難易度が桁違いである。そうこうしているうちにも、高雄の右舷すぐ側に砲弾が落着する。

「高雄!! 大丈夫!?」
『至近弾です。ほとんど無傷ですよ』
「よ、よかった。でもこの調子だと、いずれまた……」
『はい。その前に決めなければ』

 斉射を4回、合計して80発を叩き込むがまだ当たらない。何発かはニュージャージーの艦体に命中しているが、それはまず無意味だ。

 だがその時だった。妙高の右舷水線付近に砲弾が命中した。

「うっ……ぐっ……」
『妙高!!』
「大丈夫。ちょっと、浸水しただけ」
『わ、分かりました……攻撃を続行します』
「もうちょっとで、当てられる、はず……」

 7回目の主砲一斉射。ついに砲弾は、ニュージャージー檣楼の中ほどに命中し、爆発炎上する。

「あ、当たった!」
『しかし、あれは艦橋よりかなり下です。効果は――あれ、止まった……?』 

 艦橋そのものを攻撃した訳ではない。だがニュージャージーは突如として沈黙したのである。

「ど、どうなってるのかな……」
『さ、さあ。わたくしにも分かりません』

 檣楼内部で火災でも起きて船魄が死んだ、くらいしか考えられなかった。ともかく、脅威となる戦艦は無力化されたのである。残るは駆逐艦と空母のみだ。

 ○

「ミズーリ、ニュージャージー、共に沈黙しました!!」
「魚雷はともかく、まさか、砲撃戦で重巡に負けるとは……」

 魚雷があれば超小型の魚雷艇で戦艦を沈めることも可能である。故にそちらに驚きはなかったが、砲撃戦で撃ち負けたのは、スプルーアンス元帥にも予想外であった。

「何があったのでしょうか? アイオワ級の装甲をあの程度の主砲で撃ち抜けるとは思えませんが……」
「船魄の機構については私もよく分からないんだ。そして今はそんなことを気にしている場合ではない」
「そ、そうですね。駆逐隊で敵を迎え撃ちますか?」
「いいや、論外だ。奴らに格下の艦で勝てる訳がない」
「で、ではまさか、逃げるのですか……?」
「そうだ。逃げる。瑞鶴にもう一度通信を繋げるか?」

 スプルーアンス元帥は勝利を諦め、こちらから瑞鶴に交渉を持ちかけた。

『そっちから呼び掛けて来るなんて、どうしたの?』
「単刀直入に言おう。我々はこれ以上戦闘を継続する意思はない。そちらも戦闘行為を中止してくれないか?」
『へえ。負けを認めるの?』
「その通りだ。我々は負けた。見逃してくれないか?」

 元帥は恥を忍んで命乞いをしたのである。だが名誉など、部下の命と比べれば軽いものだ。

『ええ、もちろんいいわよ。あんた達に興味はないわ。とっと失せなさい』
「……感謝する」

 かくしてアメリカ海軍第2艦隊は任務に失敗し、むざむざノーフォーク海軍基地に逃げ帰った。だがその帰路、アイゼンハワー首相から直接の呼び出しが掛かる。

『逃げるつもりなのか、元帥!?』

 首相は相変わらず初っ端からお怒りである。

「もちろんです、首相閣下。勝ち目のない戦いで部下を消耗させるなど論外です」
『勝ち目がないだと!? 空母が4隻もあって勝ち目がないと言うのか!?』
「はい。瑞鶴とグラーフ・ツェッペリン、あの二隻は単独で国を滅ぼした船魄達です。戦時急造の船魄などで相手になる筈がなかったのです」
『ふざけるな!! なら残り全機を特攻させて相討ちでもさせろ!!』
「そんなことをしたら第2艦隊の戦力は消滅してキューバに負けます」

 瑞鶴とツェッペリンが異常に強いだけで、普通の相手に大型空母4隻は十分な戦力なのである。

『クソッ! なら、エンタープライズを出すしかないのか?』
「そうでしょう。連中に対抗するには、倍の空母をぶつけるか、エンタープライズをぶつけるしかありません」
『エンタープライズは今は動かす訳にはいかん。はぁ。もう終わりだな』

 アイゼンハワー首相は完全に諦めきった声で言った。スプルーアンス元帥もそれには同感であった。

「はい。今回の攻撃を食い止めるのは失敗です。せめて誰も犠牲がでないよう避難に務めましょう」
『そんなことはもうやっている。キューバ軍が宣言通りの場所に原爆を落とすなら、誰も死なない』
「彼らが約束を破るとは思えません。その点は安心していいかと」
『あんな共産主義者共を信用するのか、君は?』
「資本家よりは信用できるのでは?」
『ははっ、それは真理だな』

 アメリカは月虹を止めることを諦めた。投下時刻となるまで月虹を妨害する艦はついに現れなかったのである。
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