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第六章 アメリカ核攻撃

臨検

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 ソ連艦隊はアメリカ艦隊の臨検を受け、各艦に十数の兵士が乗り込んでいる。ソビエツキー・ソユーズはまさかアメリカと事を構えるつもりなどなかったので黙ってこれを受け入れていたが、瑞鶴達だけが動き始めると態度を変えた。

 彼女は艦橋から降りて、艦内を物色している兵士の一人を捕まえた。

「おい! どうして奴らが逃げるのを黙って見ているのだ!」
「だ、誰だよ!? いや、もしかして船魄、なのか……?」

 どうやら兵士は船魄と相見えるのは初めてだったようだ。一般的に海軍の人間であっても船魄を見たことのある者は限られている。

「ああ、そうだ。この艦の船魄、ソビエツキー・ソユーズだ。で、質問の答えは?」
「いや、その、我々は重巡洋艦一隻と駆逐艦3隻だけですし……空母が相手ではとても戦えませんよ」
「だったら我々を解放しろ! 奴らを追う! お前達アメリカにとってもそれが望ましい筈だ!」
「いや、そんなことを言われましても……」
「そうだな。一介の兵士などに聞いたところで意味はない。お前の上司を出せ! この場の責任者だ!」
「か、艦長のところになら、案内できますが……」
「ならとっとと案内しろ!」

 苛つくソビエツキー・ソユーズの相手をさせられた不運な兵士は、カッターを一隻拝借して、彼らの母艦たる重巡に彼女を連れていった。ソビエツキー・ソユーズは兵士に案内され、艦橋に上がった。

 船魄に自由裁量など許していないアメリカ海軍は、全ての艦に艦長と船魄なしでも艦を運用できるだけの兵卒を乗せている。それが船魄の能力を益々弱めることは分かっているが、彼らは人間でないものが人間と対等に振る舞うのが許せないのだ。

「私はソビエツキー・ソユーズ、船魄だ。艦長は誰だ?」
「私が艦長だ」

 答えたのは人当たりの良さそうな若めの軍人。

「名前は?」
「重巡洋艦デモイン艦長、ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ少将だ」
「少将が重巡の艦長を?」
「空母も戦艦も巡洋艦も大体沈められてしまってね。最早我々は戦隊というものを編成していられる戦力がないんだ」

 本来は数隻を束ねた戦隊を指揮するのが少将なのだが、キューバ戦争で東海岸の艦艇の大多数を失ったアメリカ海軍は、将軍に仕事を与える為に軍艦一隻を一個の部隊とみなすしかなかったのである。

「なるほど。まあどうでもいいことか。ケネディ少将、即刻この臨検を中断してもらいたい」
「我が国が指定した海上封鎖海域である以上、臨検は我が国の権利だ」
「そんなことを言っている場合か! どうせこの臨検は、我々を足止めすることが目的なのだろう? 我々を無駄に足止めして瑞鶴達を逃すつもりか?」
「そう言われてもなあ……。我々も上からの命令で臨検をしているんだ。一通り調査が終わるまで止められないんだよ」
「ならばその上官と話させろ!」

 ソユーズは側の机を拳で叩きつける。

「それがいいだろうね。おい、すぐにスプルーアンス元帥に繋げ」

 ケネディ少将は通信士に命じて上官と話させてくれるようだ。だが、どうも様子がおかしい。5分経っても通信は繋がらなかった。

「何をやっている!」
「申し訳ないんだが、無線機の調子が悪いみたいでね。通信がまるで繋がらないんだ」
「馬鹿なッ。通信機の予備など幾らでもあるだろう」
「それはそうなんだが、どうやら、機械よりもこの場所に問題があるようだ」
「通信妨害でも受けていると?」
「その可能性が高い」

 既に受けている命令を勝手に取り消すことなどできない。上官と通信ができてい以上、臨検の命令は絶対不可侵になってしまったのである。

「何たることだ……。エンタープライズがやったのか?」
「私に聞かれても困るよ」
「クソッ。分かった。とっとと臨検とやらを終わらせろ」

 流石にケネディ少将に命令違反をさせるのは気の毒だと思い、ソビエツキー・ソユーズは自身の艦に引き上げた。結局臨検は2時間程度続き、当然ながら何の問題もないということで、ソ連艦隊はようやく解放された。しかし月虹は既に100kmの遠くにいる。

『どうするんだい、姉さん? 今から追う?』 

 ベラルーシは問う。その場合、スクリューが破壊されたソユーズはここに置いていくことになるだろう。

「今からでも追いつけるか?」
『瑞鶴が現状の速度を維持するなら、追いつく前にアメリカの領海に入るだろう。そこで私達が攻撃すれば外交問題だ』
「クソッ……。全艦、撤退する。ニカラグアに引き上げよ」
『えー、やだよお姉ちゃん! あいつら殺さないと気が済まないよ!!』
「同志ウクライナ、その気持ちだけで十分だ。それに、私を曳航してくれる艦が必要だ」
『わ、分かった!』
『チョロい人達ですね』

 ソユーズの役に立てるというだけでウクライナは無邪気に喜び、ソユーズを全力でニカラグアまで曳航した。

 ○

 さて、先の戦闘からおよそ半日。月虹はサウスカロライナ州沿岸から100kmほどの地点に到達していた。艦載機を出せばあっという間にアメリカ本土を攻撃することができるだろう。

「案外すぐ着いたね、瑞鶴」

 チェ・ゲバラは言う。

「船ってのは結構速いのよ。覚えておくことね」
「ああ、そうしよう」
「ゲバラ、例の作戦を始めさせて」
「任せてくれ」

 ゲバラは艦内に戻り、キューバ本国に電報を送る。およそ1時間後、キューバ政府は最高指導者カストロの名で次のような公式発表を行った。

『キューバ海軍はこれより48時間後、8月3日午前10時58分に、アメリカ合衆国サウスカロライナ州、北緯33度7分、西経79度54分の地点に原子爆弾を投下する。近隣の住民は直ちに避難されたし。避難の有無に関係なく、我々は必ず原子爆弾を投下する』

 この報は瞬く間に全世界を駆け巡った。
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