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第六章 アメリカ核攻撃
エンタープライズの欲望
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「マッカーサー、これはどういうつもりかしら?」
瑞鶴はエンタープライズ座乗のマッカーサーに問いかける。
『エンタープライズの言った通り、俺達はただ、アメリカの近海を彷徨く不審なソ連艦隊の臨検に来ただけだ』
「しらばっくれないで。普段はそんなことしないでしょ。何が望み?」
『そうだなあ、お前達がソ連海軍などに鹵獲されるのは不愉快だってのもあるが――』
と、その時、マッカーサーの言葉を遮り通信にエンタープライズが割り込んで来た。
『あなたが、あなたが欲しいんです、瑞鶴。アメリカ海軍は敵国の艦であるあなた達にも臨検を行います。そして愛しいあなたは私にプレゼントされることに決まっているんです。ああ、大丈夫ですよ。あなたの取り巻きも丁重に扱ってもらうつもりですから。私のモノになってください、瑞鶴。例え拒否されても、無理やり私のものにさせていただきます』
「え、キモ……。お前そんな感じだったっけ」
瑞鶴はドン引きした。エンタープライズなどに愛の告白などされても全く嬉しくない。
『すまんな瑞鶴。こいつは蘇ってからずっとこんな感じなんだ』
「あ、そう。臨検を拒否したらどうなるの?」
『もちろん、敵対的な艦と見なし撃沈します。ああ、もちろん、あなただけは沈まない程度に破壊して、私のモノにさせてもらいますけどね』
「じゃあ拒否するわ。バイバイ」
『え、待ってくだ――』
瑞鶴は通信を強制的に切断した。
『瑞鶴さん……ど、どうするんですか?』
「決まってるでしょ。エンタープライズと戦うのよ。申し訳ないけど、エンタープライズ相手に手加減なんてしてられないわ」
沈めてしまう可能性もあるということだ。
『し、仕方ないです』
妙高もエンタープライズの能力についてはある程度見知っている。手加減していられるような相手ではない。
「ツェッペリン! エンタープライズを迎え撃つわよ!」
『言われずとも。アメリカの野蛮人共など消し炭にしてくれよう』
「頼んだわよ」
アメリカ海軍の人間を乗せた艦艇はソ連艦隊の臨検に向かう。そしてエンタープライズは150機ばかりの艦載機で月虹に攻撃を仕掛けてきた。瑞鶴とツェッペリンがそれぞれ80と60機ほど出せるので、数の上では同等である。
『ふん。数で負けなければ我らが負ける筈があるまい』
「調子に乗らないことよ、ツェッペリン。あいつは頭がおかしいから」
『何を――何!?』
瑞鶴が警告した次の瞬間であった。ツェッペリンの艦戦にエンタープライズの艦攻が体当たりしてきて、自機諸共に爆発したのである。
『航空特攻だと……? エルベのつもりか?』
「どうやら、私達の戦闘機を全滅させたいみたいね」
アメリカ海軍の予備戦力は豊富だ。月虹の艦上戦闘機さえ全滅させてしまえば後はどうとでもなる。流石の瑞鶴でも戦闘機なしに空中戦はできない。
『何なのだこいつは。狂っているぞ』
「そう言ったでしょ。エンタープライズはこういつ奴なのよ」
『クソッ。馬鹿げている』
エンタープライズは全く躊躇なく、攻撃機や爆撃機で戦闘機に特攻しようとする。一度そうと分かれば瑞鶴もツェッペリンもそうそう被弾はしないが、戦場の全ての機体に警戒しなければならないというのは骨が折れる。
『瑞鶴さん、大丈夫ですか……?』
「妙高、悪いけど今はちょっと集中させて」
『す、すみません』
瑞鶴には余裕がなかった。数は同数とはいえ、仮に全滅しても予備戦力がいくらでもあるアメリカ軍と月虹とでは、勝利条件が違い過ぎる。圧倒的な勝利を収め続けなければならない月虹にとって、互角というのは劣勢に等しいのである。
だが、その時であった。突如として銃火が途絶えた。
「は? 何?」
『あやつが逃げるだと?』
エンタープライズの艦載機は突如として引き返し、あっという間に姿を消したのである。何が何だか分からないうちに戦闘は収束してしまった。瑞鶴はすかさず偵察機を出してエンタープライズの様子を探るが、エンタープライズはアメリカ本土に帰投していくようであった。
○
何が起こっていたかと言えば、エンタープライズにこんな通信が掛かってきたからである。
『マッカーサー!! この馬鹿野郎!! 何を考えている!! ソ連と戦争でもするつもりか!?』
「おいおい、落ち着けよ、アイゼンハワー」
現アメリカ首相、かつての連合国軍最高司令官、その前はマッカーサーの部下、軍人上がりの最高指導者アイゼンハワー首相が、エンタープライズに直接掛けてきたのである。
『落ち着いていられるものか!! 万一にもソ連と戦争になればカナダに500万のソ連軍がなだれ込むと知らんのか!?』
「そんなことは分かってる。俺達に何が言いたいんだ?」
『そんなこと分かるだろ!! エンタープライズは今すぐその場から引き上げさせろ!!』
臨検自体は合法的なので、不自然ではあるが特に問題はない。問題なのはエンタープライズがソ連海軍を攻撃したことである。
「だそうだ、エンタープライズ。帰るぞ」
「そんな、待ってくださいよ。せっかく瑞鶴を手に入れられるチャンスだと言うのに!」
「マッカーサー元帥、言葉で聞かせられないのなら、力で脅すしかないかと」
お目付け役の兵士は言う。エンタープライズ艦内にはエンタープライズが暴走した時に備えて小隊規模の陸軍部隊が常設されているのである。
「だそうだが、それでもやるか、エンタープライズ?」
「……はいはい、命令に従いますよ、元帥閣下。こんなところで死んだらこの手で瑞鶴を抱けませんから」
「それでいい」
かくしてエンタープライズは撤退して、ソ連艦隊はアメリカ軍の臨検で暫く動けなくなる。エンタープライズがいないアメリカ海軍など敵ではない。月虹にとっては最高の状況だ。
瑞鶴はエンタープライズ座乗のマッカーサーに問いかける。
『エンタープライズの言った通り、俺達はただ、アメリカの近海を彷徨く不審なソ連艦隊の臨検に来ただけだ』
「しらばっくれないで。普段はそんなことしないでしょ。何が望み?」
『そうだなあ、お前達がソ連海軍などに鹵獲されるのは不愉快だってのもあるが――』
と、その時、マッカーサーの言葉を遮り通信にエンタープライズが割り込んで来た。
『あなたが、あなたが欲しいんです、瑞鶴。アメリカ海軍は敵国の艦であるあなた達にも臨検を行います。そして愛しいあなたは私にプレゼントされることに決まっているんです。ああ、大丈夫ですよ。あなたの取り巻きも丁重に扱ってもらうつもりですから。私のモノになってください、瑞鶴。例え拒否されても、無理やり私のものにさせていただきます』
「え、キモ……。お前そんな感じだったっけ」
瑞鶴はドン引きした。エンタープライズなどに愛の告白などされても全く嬉しくない。
『すまんな瑞鶴。こいつは蘇ってからずっとこんな感じなんだ』
「あ、そう。臨検を拒否したらどうなるの?」
『もちろん、敵対的な艦と見なし撃沈します。ああ、もちろん、あなただけは沈まない程度に破壊して、私のモノにさせてもらいますけどね』
「じゃあ拒否するわ。バイバイ」
『え、待ってくだ――』
瑞鶴は通信を強制的に切断した。
『瑞鶴さん……ど、どうするんですか?』
「決まってるでしょ。エンタープライズと戦うのよ。申し訳ないけど、エンタープライズ相手に手加減なんてしてられないわ」
沈めてしまう可能性もあるということだ。
『し、仕方ないです』
妙高もエンタープライズの能力についてはある程度見知っている。手加減していられるような相手ではない。
「ツェッペリン! エンタープライズを迎え撃つわよ!」
『言われずとも。アメリカの野蛮人共など消し炭にしてくれよう』
「頼んだわよ」
アメリカ海軍の人間を乗せた艦艇はソ連艦隊の臨検に向かう。そしてエンタープライズは150機ばかりの艦載機で月虹に攻撃を仕掛けてきた。瑞鶴とツェッペリンがそれぞれ80と60機ほど出せるので、数の上では同等である。
『ふん。数で負けなければ我らが負ける筈があるまい』
「調子に乗らないことよ、ツェッペリン。あいつは頭がおかしいから」
『何を――何!?』
瑞鶴が警告した次の瞬間であった。ツェッペリンの艦戦にエンタープライズの艦攻が体当たりしてきて、自機諸共に爆発したのである。
『航空特攻だと……? エルベのつもりか?』
「どうやら、私達の戦闘機を全滅させたいみたいね」
アメリカ海軍の予備戦力は豊富だ。月虹の艦上戦闘機さえ全滅させてしまえば後はどうとでもなる。流石の瑞鶴でも戦闘機なしに空中戦はできない。
『何なのだこいつは。狂っているぞ』
「そう言ったでしょ。エンタープライズはこういつ奴なのよ」
『クソッ。馬鹿げている』
エンタープライズは全く躊躇なく、攻撃機や爆撃機で戦闘機に特攻しようとする。一度そうと分かれば瑞鶴もツェッペリンもそうそう被弾はしないが、戦場の全ての機体に警戒しなければならないというのは骨が折れる。
『瑞鶴さん、大丈夫ですか……?』
「妙高、悪いけど今はちょっと集中させて」
『す、すみません』
瑞鶴には余裕がなかった。数は同数とはいえ、仮に全滅しても予備戦力がいくらでもあるアメリカ軍と月虹とでは、勝利条件が違い過ぎる。圧倒的な勝利を収め続けなければならない月虹にとって、互角というのは劣勢に等しいのである。
だが、その時であった。突如として銃火が途絶えた。
「は? 何?」
『あやつが逃げるだと?』
エンタープライズの艦載機は突如として引き返し、あっという間に姿を消したのである。何が何だか分からないうちに戦闘は収束してしまった。瑞鶴はすかさず偵察機を出してエンタープライズの様子を探るが、エンタープライズはアメリカ本土に帰投していくようであった。
○
何が起こっていたかと言えば、エンタープライズにこんな通信が掛かってきたからである。
『マッカーサー!! この馬鹿野郎!! 何を考えている!! ソ連と戦争でもするつもりか!?』
「おいおい、落ち着けよ、アイゼンハワー」
現アメリカ首相、かつての連合国軍最高司令官、その前はマッカーサーの部下、軍人上がりの最高指導者アイゼンハワー首相が、エンタープライズに直接掛けてきたのである。
『落ち着いていられるものか!! 万一にもソ連と戦争になればカナダに500万のソ連軍がなだれ込むと知らんのか!?』
「そんなことは分かってる。俺達に何が言いたいんだ?」
『そんなこと分かるだろ!! エンタープライズは今すぐその場から引き上げさせろ!!』
臨検自体は合法的なので、不自然ではあるが特に問題はない。問題なのはエンタープライズがソ連海軍を攻撃したことである。
「だそうだ、エンタープライズ。帰るぞ」
「そんな、待ってくださいよ。せっかく瑞鶴を手に入れられるチャンスだと言うのに!」
「マッカーサー元帥、言葉で聞かせられないのなら、力で脅すしかないかと」
お目付け役の兵士は言う。エンタープライズ艦内にはエンタープライズが暴走した時に備えて小隊規模の陸軍部隊が常設されているのである。
「だそうだが、それでもやるか、エンタープライズ?」
「……はいはい、命令に従いますよ、元帥閣下。こんなところで死んだらこの手で瑞鶴を抱けませんから」
「それでいい」
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