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第六章 アメリカ核攻撃

ソ連艦隊の襲撃Ⅱ

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「このままじゃ、負ける…………」

 瑞鶴は久しぶりに焦っていた。これまでは最悪の場合逃げるという選択肢があったが、今回はそれすらも儘ならない。勝たなければ負けるしかないのである。

『瑞鶴、この程度で弱気になるな』
「何か勝算があるの?」

 ツェッペリンのことだからどうせ口だけだろうと思いつつ問うと、意外にもツェッペリンは案を用意していた。

『ソビエツキー・ソユーズ、奴とは戦ったことがある。もう10年前だが、その時と弱点が同じなら、何とかなるやもしれぬ』
「そういうのは早く言いなさいよ。弱点って?」 
『奴は空爆には強いが魚雷には弱い。ロシアの造船技術などドイツの足元にも及ばぬからな』

 基礎工業力の高いソ連の軍艦は、上部構造物については装甲を何枚も重ねることで高い防御力を得ることに成功しているが、魚雷に対する防御は単に装甲を厚くするだけでは不十分だ。衝撃を逃がし浸水を可能な限り小さく抑える工夫が必要であり、これには高い造船技術が不可欠である。ロシア革命で造船技術が断絶していたロシアにはこれが足りない。

「奴を雷撃しろってこと? できたらやってるわよ。それに、10年前にそんな弱点が露呈してるなら、対策されてるんじゃないの?」
『奴の水線下により巨大な攻撃を喰らわせば、大きなダメージを受ける筈だ。攻撃機を多少犠牲にしてもな』 
「要するに特攻しろって訳?」
『そうだ。それならば可能性はある』
「じゃあ今回はあんたがやってよ。前は私がやったし」

 特攻は船魄にも痛みを伴う。避けられるのならやりたくはない。

『……分かった。我がやってやろう。我の活躍を見ているがいい』
「頼んだわ」

 ツェッペリンは覚悟を決めた。攻撃機を一機選んで一時離脱させ、戦場の外からソビエツキー・ソユーズに向かい、海面に陰が落ちるほど超低空を全速力で突っ込ませる。胴体が僅かに水面に触れるほどの超低空からの攻撃に、ソ連艦隊は対応できなかった。

『美しくはないが、やむを得ぬ。悪く思うな』

 ソビエツキー・ソユーズの目前、20mほどで、ツェッペリンは攻撃機を海中に突入させた。言わば攻撃機自体が巨大な魚雷となるのである。もちろん攻撃機なので、元より魚雷は何本か積んである。攻撃機の運動エネルギーと大量の爆薬が、ソビエツキー・ソユーズの艦尾水線下で一気に炸裂したのである。

 ○

「クッ……まさか、あのツェッペリンが特攻してくるとはな……」

 特攻された側のソビエツキー・ソユーズは、苦痛に表情を歪める。艦体は左に5度ほど傾いていた。

『ソユーズ、損害は?』

 ソビエツカヤ・ベラルーシは気遣いなどしてくれない。

「艦尾に大穴が空いた。浸水は止められたが、スクリューが1つ壊れてしまった。悪いが、私は落伍するしかなさそうだ」
『そうか。ならば、後は私達に任せてくれ』
『あいつらとっとと殺そうよ!! ベラルーシ!!』

 ソビエツカヤ・ウクライナが叫ぶ。

「落ち着け、同志(タヴァーリシ)ウクライナ。我々の任務は奴らの捕獲だ」
『お姉ちゃんを傷付ける奴なんて生かしておけない!!』
「ならば私が命じる。以降はベラルーシの命令に従え。いいな?」
『チェッ……分かったよ』

 不満タラタラであったが、ウクライナはソユーズの命令を聞き入れた。

 スクリューは元から4つあるが、1つ失うということは2つを失うのに等しい。左右で同じ出力を出さなければ勝手に曲がっていってしまうからである。ソユーズは艦隊から取り残される格好となり、ソユーズ以外で月虹を追跡することとなった。

『同志ソユーズ、あなたが傷付くのは問題だと思うのですが、撤退しなくていいんですか?』

 そう無感情に尋ねるのは、先程言っていた空母ノヴォロシースクである。カリブ海に派遣されている唯一の空母だ。

「どうせ私など、フルシチョフにとっては大した存在ではない」
『あなた自体は別にどうなってもいいんですけど、あなたの名前が問題なんですよ?』
「それは理解しているが、それよりも瑞鶴を捕らえることの方が党の利益になる。ツェッペリンな奴もな。連邦の利益の為に、躊躇うな」
『そうですか。まあどうなっても知りませんが』
「それでいい」

 瑞鶴の期待は外れ、ソビエツキー・ソユーズが中破したところで、ソ連艦隊は止まることを知らなかった。

 ○

「クソッ。諦めないのか」
『そんなにソ連から恨みを買っているのか、瑞鶴?』
「どちらかと言うとあんたでしょうが」

 実際ソ連が欲しがっているのは世界最初の船魄たる瑞鶴の方なのだが、そんなことはつゆ知らず、瑞鶴とツェッペリンは責任を押し付けあっていた。

『あの……そんなことを言ってる場合じゃないのでは?』

  妙高は不満げに言った。瑞鶴も流石に反省した。

「え、ええ、そうね。ごめん。とは言え、これで諦めてくれないとなると、困ったものね」
『敵は一隻減ったのだ。普通に攻撃を仕掛けられるのではないか?』
「まあそれも一理あるけど、できるだけ損害は出したくない」
『でしたら、あの落伍した戦艦を狙うのはどうですか?』

 妙高はふと思いついた。ソビエツキー・ソユーズが本格的に撃沈されそうになれば、ソ連艦隊も態度を変えざるを得ない筈だと。

「へえ、なかなかいいこと思いつくじゃない」
『戦意を失っている敵を攻撃するのは、国際法の精神に反すると思いますが……』
『そ、そうだよね……』
「いや、そんなの気にしてる場合じゃないでしょ。沈めはしないし。ツェッペリン、やるわよ」

 妙高自体は思いついただけで乗り気ではなかったが、瑞鶴は活路は他にないと判断した。瑞鶴とツェッペリンはソ連艦隊を無視し、落伍して単騎後方に取り残されているソユーズを襲撃した。
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