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第六章 アメリカ核攻撃

ソ連艦隊の襲撃

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『戦艦が3、空母が1、その他5くらい。それなりの艦隊ね』
「それってもしかして、この前の敵なんじゃ……」
『まあそうでしょうね』

 高雄救出の為に第五艦隊を襲撃した時どこからともなく現れたソ連の戦艦。数も一致している。間違いなく彼女らだろう。

『ま、空母一隻だけなら、戦艦が幾らいようと大したことないと思うけどね』
『共産主義者など我が尽く沈めてくれる』
「ツェッペリンさん、沈めるのはやめてください。あの人達も洗脳されているかもしれませんから」
 妙高はいつになく冷ややかな口調で。
『そ、そうか。分かった』

  ツェッペリンは妙高に反論しようとは思わなかった。

『でもどうするつもり?』
「逃げるのが最善だと思います」
『じゃあ逃げましょう』

 ○

 ソ連艦隊などと戦っている暇はない。無駄に艦載機を消耗する訳にもいかない。瑞鶴はとっとと逃げることにした。だがその時、瑞鶴に通信が掛かってきた。

「通信……ま、間違いなくあいつらよね」

 瑞鶴は通信を受ける。

『私はソビエト連邦海軍太平洋艦隊旗艦、ソビエツキー・ソユーズだ。あなたは瑞鶴だな?』 
「ええ、そうだけど、何? 警告もなしに襲ってきて今更話し合いでもしようって?」
『話し合いではない。これは降伏勧告だ。今すぐに降伏せよ。さすれば連邦はあなた達を人道的に取り扱うことを約束しよう』
「ソ連の捕虜取り扱いを信用しろって? それは無理があるんじゃないかしら」
『それはそちらの勝手だが、降伏しなかった場合、命の保証はできない』
「へえ。空母一隻しかないくせに、私達に勝てるとでも思ってるの?」
『事前の調べによれば、あなたより私の方が優速だ』
「空母より戦艦の方が速いって? そんな馬鹿な」

 戦艦と比べれば装甲のない空母の方が速いのは常識だ。

『何年もロクな整備すら受けていないあなたと比べ、我々は近代化改修を受けて高速戦艦となったのだ。我々を舐めない方がいい』
「なるほどね……」

 瑞鶴は少々焦る。ソビエツキー・ソユーズ自体は10年前の戦艦であるが、ソ連は未だに戦艦を6隻しか保有しておらず、今でも中核戦力の一石である。有効に活用する為の近代化改修を受けているというのは、大いに現実味のある話だ。

「まあとは言え、航空優勢のない中で戦艦に頼るなんて自殺行為。先輩から警告よ」
『我々と、我々の空母ノヴォロシースクを甘く見ない方がいい』
「え、何て言った?」
『ノヴォロシースクだ! よく覚えておけ!』

 瑞鶴は一瞬で忘れた。

「あっそう。まあ降伏するつもりなんてないんだけどね」
『ならば力ずくで屈服させるのみだ!』
「怖い怖い」

 通信終了である。ソビエツキー・ソユーズからの宣戦布告であった。

『瑞鶴さん、どうかされたのですか?』

 高雄が心配そうな声で呼びかけてきた。瑞鶴は他の艦から見るとずっと黙り込んでいたことになるのだから。

「あいつら、私より速いらしいわ」
『それは……大変ですね……』

 高雄は今の一言で状況を全て理解したらしい。

『ええと、高雄、どういうこと?』
『瑞鶴さんより敵が速いなら、逃げ切ることは不可能です。もしも戦艦に追いつかれたら、わたくし達には為す術がありません』
『それは確かに大変だ……』

 巡洋艦である妙高と高雄は流石にソビエツキー・ソユーズ級より速いだろうが、艦隊の速度というのは最も遅い艦に合わせるものである。

「どうする、妙高?」
『前回と同じ手でいくのはどうでしょうか? スクリューか舵を狙えばよいかと』
「そうね。それが手っ取り早いし、ソ連なら確実に撤退する」
『と言うと?』
「だって、『ソビエト連邦』なんて名前した艦を沈められたくないでしょう。特に面子を重んじる共産党ならね」
『な、なるほど……』

 戦艦を沈めなどしたら責任者が反革命罪で粛清される国である。万一にも轟沈の危険があれば人間から撤退するよう命令されるだろう。ソ連海軍の弱点はそこにある。

「ツェッペリン、戦艦を狙うわよ。スクリューを狙いなさい」
『我に命令するな』
「あっそう。あと、沈めはしないでよね」
『そのくらい分かっている』

 瑞鶴とツェッペリンは艦載機を全力で出撃させ、反撃に転ずる。妙高と高雄はそれを眺めていることしかできなかった。僅か10分ほどで、瑞鶴とツェッペリンの艦載機およそ150が、ソ連艦隊を襲撃する。

「クソッ。戦艦3隻ってのは面倒ね……」
『ロシア人風情が……』
「あんたそれしか言うことないの?」

 ソ連艦隊は相変わらず防御に徹していた。戦艦3隻が束になった対空砲火は非常に激しく、瑞鶴でもなかなか近寄ることができない。ノヴォロシースクとやらも艦上戦闘機だけを出して、瑞鶴達の嫌がらせに徹している。

『こいつらは何がしたいのだ』
「さっき言ったでしょ。こいつらは私達に追いつければ勝ちなのよ」

 月虹は何としててもソ連艦隊の足を止めなければならないが、ソ連艦隊は攻撃を凌げば勝ちなのである。状況は月虹にとって非常によくない。
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