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第六章 アメリカ核攻撃

予想外の敵

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 月虹はグアンタナモ湾で原子爆弾を受領した。瑞鶴に3つ、グラーフ・ツェッペリンに2つ積み込むと同時に、キューバ軍の兵士も各艦に50人ほど乗せた。あくまでキューバ軍の軍艦であると言い訳する為でもあるし、アメリカ軍が移乗攻撃を仕掛けてくることを想定してのことでもある。

 月虹はグアンタナモ湾を出発して、キューバを反時計回りに周回するようにしてアメリカに向かう。キューバ北部のドイツ勢力圏内を堂々と通っていくのである。こうすれば暫くはアメリカが仕掛けてくることはないだろう。そして出撃と同時に、キューバ政府はアメリカ、サウスカロライナ州に核攻撃を行うと、全世界に宣言した。

 ドイツ勢力圏内を通ると言っても、バハマなどを突っ切っていくのは余りにも露骨ということで、暫くはキューバ北海岸に沿って行軍する。そしてフロリダに向けて針路を北に向けた頃であった。

「瑞鶴さん! 多数の航空機を確認しました! 数はおよそ80! 9時方向、250kmほどです!」

 妙高の電探が急速に接近する航空機の編隊を捉えた。十中八九、月虹を攻撃するつもりの敵であろう。広い海でどちらか先に敵を見つけるかは運次第。電探も航空機相手には数百kmの最大探知距離を持つが、船相手では精々30kmが限界だ。敵に先手を取られてしまったのである。

『もうアメリカが仕掛けてきたって訳ね。返り討ちにしてやるわ。ツェッペリン、行くわよ』 
『無論だ』

 瑞鶴とツェッペリンは飛行甲板上に待機させておいた艦上戦闘機を発艦させる。二人とも12機ずつを即応に用意しておいたが、これでは全く足りない。格納庫の艦載機を大急ぎでエレベーターに乗せて飛行甲板に上げていくが、これはなかなか時間がかかる。全機を発艦させるまで早くても1時間はかかるのである。

 大急ぎでエレベーターを動かして艦戦を上げて出撃させるが、15分後、第二弾を発艦させ終えた頃には敵機がすぐそこにまで迫っていた。

『ちょっと、来るの早過ぎない?』
『当世のジェット戦闘機なれば、格闘戦はともかく、直進するだけなら時速1,000は出るものだ』

 流石は第二次世界大戦の時点で唯一ジェット戦闘機を実用化していたドイツ艦。ジェット機の知識についてはツェッペリンに一日の長があった。

『あっそう。妙高、高雄、迎撃して!』
『何だその反応は!』
「はい!」
『承知しました!』

 妙高を前に単縦陣で並んだ妙高と高雄は主砲と高角砲で迎撃を開始した。両者の主砲とも現実的な水準で対空砲火ができるよう近代化されており、迫り来る敵編隊に弾幕を貼ることができた。だが2人の一度の斉射で落とせたのは僅かに5機だけであって、敵は火炎の壁をすり抜けて迫る。

「高雄、あの敵見たことないんだけど、アメリカの戦闘機なの?」
『あれは恐らく、ソ連の戦闘機かと』
「ソ連?」
『どうやらソ連は、わたくし達を今でも狙っているようです』

 相変わらず高雄は博識であった。襲来した敵はアメリカ海軍ではなくソ連海軍だったのだ。

『クソッ。確かにソ連のことは考えてなかったわ』
『ふん。ロシア人など一隻残らず殲滅するまでだ』
『まずは敵機を落とすことに集中しなさい』
『そんなこと分かっておる!』

 幸いにして艦戦は全て、合わせて40機ほどを出せた。敵も全て戦闘機ということはあるまい。襲来する敵の規模からしてこれだけの戦闘機があれば十分だろう。瑞鶴とツェッペリンはソ連機と交戦を開始した。

『チッ。すばしっこいわね』
『ロシア人風情が……!』

 向こうから攻撃してきたくせにソ連機はちょこまかと逃げ回り、瑞鶴もツェッペリンもなかなか落とすことができなかった。こちらも全く落とされてはいないが。まるでハエにたかられているようで不愉快である。

『瑞鶴、とっとと落とせ!』
『あんただってロクに落とせてないじゃない!』
「まあまあ、二人とも落ち着いてください……」

 空が込み合ってきて、妙高も高雄も高角砲を使うことはできず、近寄って来た敵を機銃で迎撃するくらいであった。と、その時であった。

「高雄! 左!!」

 高雄の左舷から超低空を飛ぶ攻撃機が迫っていた。

『なっ……撃ち落とさないと!』
「大丈夫!」

 妙高は高雄に警告しつつも発見した敵機に狙いを定めており、主砲6門を一斉射してそれを粉砕した。海面近くの敵ならば瑞鶴やツェッペリンの艦載機を心配する必要もないのである。

『あ、ありがとうございます、妙高』
「お互い死角は補わないとね!」
『そ、そうですね……』

 妙高は戦いの中で普段とは見違えて勇敢な様子を見せる。高雄はその声を聞くだけで胸が締め付けられる。

『妙高! 右です!!』
「分かった!!」

 少し気が抜けて見落としていた敵機も、妙高は冷静にかつ迅速に機銃で迎え撃つ。撃墜することはできなかったが、攻撃を諦めて上空に離脱した。そうして敵を寄せ付けないことに終始して20分ほど。

「あれ、敵が逃げてく……」
『そのようですね……』

 ある瞬間を境に、全ての敵機が戦場を離脱し始めた。だがそれは戦いが終わったことを意味しない。

『落ち着いてる暇はないわよ! ソ連艦隊がすぐそこまで来てる!』

 この戦いが始まる前から飛ばしている瑞鶴の艦偵がソ連艦隊を発見したのである。
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