上 下
113 / 386
第六章 アメリカ核攻撃

予想外の敵

しおりを挟む
 月虹はグアンタナモ湾で原子爆弾を受領した。瑞鶴に3つ、グラーフ・ツェッペリンに2つ積み込むと同時に、キューバ軍の兵士も各艦に50人ほど乗せた。あくまでキューバ軍の軍艦であると言い訳する為でもあるし、アメリカ軍が移乗攻撃を仕掛けてくることを想定してのことでもある。

 月虹はグアンタナモ湾を出発して、キューバを反時計回りに周回するようにしてアメリカに向かう。キューバ北部のドイツ勢力圏内を堂々と通っていくのである。こうすれば暫くはアメリカが仕掛けてくることはないだろう。そして出撃と同時に、キューバ政府はアメリカ、サウスカロライナ州に核攻撃を行うと、全世界に宣言した。

 ドイツ勢力圏内を通ると言っても、バハマなどを突っ切っていくのは余りにも露骨ということで、暫くはキューバ北海岸に沿って行軍する。そしてフロリダに向けて針路を北に向けた頃であった。

「瑞鶴さん! 多数の航空機を確認しました! 数はおよそ80! 9時方向、250kmほどです!」

 妙高の電探が急速に接近する航空機の編隊を捉えた。十中八九、月虹を攻撃するつもりの敵であろう。広い海でどちらか先に敵を見つけるかは運次第。電探も航空機相手には数百kmの最大探知距離を持つが、船相手では精々30kmが限界だ。敵に先手を取られてしまったのである。

『もうアメリカが仕掛けてきたって訳ね。返り討ちにしてやるわ。ツェッペリン、行くわよ』 
『無論だ』

 瑞鶴とツェッペリンは飛行甲板上に待機させておいた艦上戦闘機を発艦させる。二人とも12機ずつを即応に用意しておいたが、これでは全く足りない。格納庫の艦載機を大急ぎでエレベーターに乗せて飛行甲板に上げていくが、これはなかなか時間がかかる。全機を発艦させるまで早くても1時間はかかるのである。

 大急ぎでエレベーターを動かして艦戦を上げて出撃させるが、15分後、第二弾を発艦させ終えた頃には敵機がすぐそこにまで迫っていた。

『ちょっと、来るの早過ぎない?』
『当世のジェット戦闘機なれば、格闘戦はともかく、直進するだけなら時速1,000は出るものだ』

 流石は第二次世界大戦の時点で唯一ジェット戦闘機を実用化していたドイツ艦。ジェット機の知識についてはツェッペリンに一日の長があった。

『あっそう。妙高、高雄、迎撃して!』
『何だその反応は!』
「はい!」
『承知しました!』

 妙高を前に単縦陣で並んだ妙高と高雄は主砲と高角砲で迎撃を開始した。両者の主砲とも現実的な水準で対空砲火ができるよう近代化されており、迫り来る敵編隊に弾幕を貼ることができた。だが2人の一度の斉射で落とせたのは僅かに5機だけであって、敵は火炎の壁をすり抜けて迫る。

「高雄、あの敵見たことないんだけど、アメリカの戦闘機なの?」
『あれは恐らく、ソ連の戦闘機かと』
「ソ連?」
『どうやらソ連は、わたくし達を今でも狙っているようです』

 相変わらず高雄は博識であった。襲来した敵はアメリカ海軍ではなくソ連海軍だったのだ。

『クソッ。確かにソ連のことは考えてなかったわ』
『ふん。ロシア人など一隻残らず殲滅するまでだ』
『まずは敵機を落とすことに集中しなさい』
『そんなこと分かっておる!』

 幸いにして艦戦は全て、合わせて40機ほどを出せた。敵も全て戦闘機ということはあるまい。襲来する敵の規模からしてこれだけの戦闘機があれば十分だろう。瑞鶴とツェッペリンはソ連機と交戦を開始した。

『チッ。すばしっこいわね』
『ロシア人風情が……!』

 向こうから攻撃してきたくせにソ連機はちょこまかと逃げ回り、瑞鶴もツェッペリンもなかなか落とすことができなかった。こちらも全く落とされてはいないが。まるでハエにたかられているようで不愉快である。

『瑞鶴、とっとと落とせ!』
『あんただってロクに落とせてないじゃない!』
「まあまあ、二人とも落ち着いてください……」

 空が込み合ってきて、妙高も高雄も高角砲を使うことはできず、近寄って来た敵を機銃で迎撃するくらいであった。と、その時であった。

「高雄! 左!!」

 高雄の左舷から超低空を飛ぶ攻撃機が迫っていた。

『なっ……撃ち落とさないと!』
「大丈夫!」

 妙高は高雄に警告しつつも発見した敵機に狙いを定めており、主砲6門を一斉射してそれを粉砕した。海面近くの敵ならば瑞鶴やツェッペリンの艦載機を心配する必要もないのである。

『あ、ありがとうございます、妙高』
「お互い死角は補わないとね!」
『そ、そうですね……』

 妙高は戦いの中で普段とは見違えて勇敢な様子を見せる。高雄はその声を聞くだけで胸が締め付けられる。

『妙高! 右です!!』
「分かった!!」

 少し気が抜けて見落としていた敵機も、妙高は冷静にかつ迅速に機銃で迎え撃つ。撃墜することはできなかったが、攻撃を諦めて上空に離脱した。そうして敵を寄せ付けないことに終始して20分ほど。

「あれ、敵が逃げてく……」
『そのようですね……』

 ある瞬間を境に、全ての敵機が戦場を離脱し始めた。だがそれは戦いが終わったことを意味しない。

『落ち着いてる暇はないわよ! ソ連艦隊がすぐそこまで来てる!』

 この戦いが始まる前から飛ばしている瑞鶴の艦偵がソ連艦隊を発見したのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...