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第五章 合従連衡

第五艦隊再編Ⅱ

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「妥当な判断、だと思う。ただ、内地に戻るなら、私と加賀は一緒に戻る」
「あら~、赤城ちゃん~」

 加賀は赤城の腕に抱き着く。

「人前でそう呼ばないで」

 赤城は面倒臭そうな顔をしてぶっきらぼうに加賀を振り払った。照れ隠しである。

「ともかくだ、どうやら陸奥か赤城と加賀に帰ってもらう他にはなさそうだな」
「えー、私残りたいんだけど」
「私は、別にどちらでも構わない。作戦に支障が出るなら、本末転倒」
「うーむ……」

 こう本人達が言うのであればとっと赤城と加賀を帰らせてしまってもいいかと長門は思う。内心彼女達がいると動きにくくて困っているのだ。

「赤城ちゃんが帰ってもいいなら、私も戻りますよ~。妙高も高雄も取り返せなかったのは残念ですが、私達が邪魔なら仕方ありません」
「別に邪魔だと言いたい訳ではないのだ。寧ろ第五艦隊の整備能力の不足こそが問題であって、お前達は悪くない」

 追い払いたいというのに彼女達を擁護してしまうのは、長門の過剰な人の好さ故であった。

「あらあら、そう言ってくださると嬉しいです」
「事実を述べたまでだ。しかし、すまないがお前達には戻ってもらうことになりそうだ」
「元よりこの規模の艦隊に空母が3は過剰でしたからね。承知しました~」
「では、こちらで連合艦隊司令部に問い合わせておく」
「よろしくお願いします~」

 長門は早速、連合艦隊司令長官草鹿大将に電文を打った。連合艦隊は不自然なほどに早く長門の提案を承認し、赤城と加賀は最低限の修理が終わり次第横須賀に戻ることとなった。これを受け、長門は陸奥を呼び出した。

「ふーん、こんなあっさりと許可してくれるのね」
「ああ。若干不自然なものを感じるな」
「赤城と加賀の主任務が私達の内偵だったからじゃない?」
「やはり、そういうことか」
「まあただの推測に過ぎないけど」
「お前のせいじゃないのか?」
「あなたも十分疑われる部類だと思うけど?」

 長門も陸奥も敵味方識別装置の事実を知っているし、陸奥は何やら怪しい組織に雇われているらしい。皇道派の拡大を危惧する軍令部から疑われるのは無理がない。

「なあ陸奥、いい加減お前の後ろにいる連中について教えてくれんのか?」
「いやよ。つまらないじゃない」
「皇道派の連中に与してるんじゃないだろうな?」
「さあね」

 長門は諦めた。

「……まあいい。お前に聞きたいのは、重巡洋艦級でいい人材を知っているかだ」
「そうねえ。超甲巡の瑞牆みずがきちゃんでも呼べば?」
「超甲巡とかいう奴か。諸元は知っているが、使えるのか?」
「実力は保証するわ。それに、重巡洋艦を2隻も失った艦隊に重巡洋艦はくれないんじゃない?」
「そんなことはないと思うが、まあ悪くはないな。問い合わせてみよう」

 長門は会ったことのない最新鋭の巡洋艦、武尊型大型巡洋艦三番艦の瑞牆。実戦経験とデータが欲しいという連合艦隊の思惑もあって、長門の要請通り第五艦隊に派遣されることとなった。

「――それと、空母が信濃だけじゃ、ちょっと足りないんじゃないの?」
「確かに不安ではあるが」
「ちょうど2隻分枠が空くんだし、空母も1隻呼び寄せれば?」
「軽々しく言うがな、そう簡単に配置換えをしてもらえると思うなよ。そもそも呼べそうな奴はいるのか?」
「空母は二人一緒にいたい子が多いから……そうねえ、大鳳とかは暇してるんじゃない?」

 日本初の装甲空母、大鳳。大東亜戦争の時代では技術的に最も発展していた艦である。姉妹艦がいないので割と動かしやすい。

「悪くないが……いや、ここで議論してもしょうがないな。取り敢えず問い合わせてみよう」

 連合艦隊司令部に矢継ぎ早に問い合わせを行い、長門は申し訳ない気持ちで一杯であった。内心では要請が通る訳がないと思っていたのだが、これが案外通ってしまった。

「あら、認めてくれたの。意外ね」
「だがその代わり、確実に瑞鶴を生け捕りにせよとの命令だ」
「あら大変」
「ああ、どうしたものか」

 瑞鶴捕獲をサボる気は毛頭ないが、事情を知らない艦が増えるのは面倒だと、長門は溜息を吐いた。大半の船魄がアイギスという架空の存在と認識させられている以上、連合艦隊司令長官からの命令なのに瑞鶴という名を出してはいけないのである。

 と、その時であった。例の如く郵便配達員がやって来て、電報用紙を長門に渡した。その内容は全く予想外のものであった。

「長門、どうしたの?」
「噂をすれば、瑞鶴からの電文だ」
「そんなのも届くのね」
「船魄同士の私信に特に検閲はない。発信所を偽ることができれば、そう難しいことではないだろうな」
「ふーん。それって結構難しいと思うけど?」
「私に聞かれても分からん」
「言いだしたのはあなたじゃない」

 とにもかくにも、瑞鶴が白々しく長門に通信してきたのである。内容は長門と話し合いたいというものであった。瑞鶴捕獲の厳命を受けていきなりこれである。長門は大きな溜息を吐いた。
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