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第五章 合従連衡
シャルンホルスト
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さて翌朝。ポート・ネルソン沖合に3隻の軍艦が浮かんでいた。プリンツ・オイゲンとペーター・シュトラッサーと、見知らぬ戦艦であった。
「ねえねえ高雄、あの艦って知ってる?」
ホテルの窓から指差しながら、妙高は尋ねてみる。
「ドイツの戦艦ということ以上は、分かりませんね……。あまり大型ではないようですが」
「そっか。瑞鶴さんに聞いてみようかな」
妙高が聞きに行くまでもなく、瑞鶴は月虹の皆を集めた。
「あれはシャルンホルスト。ここら辺のドイツ艦隊の旗艦よ。警戒しなくていいわ、多分」
「あれが旗艦ですか……。船魄はどんな方なんでしょうか」
「私も知らないわ。これからあいつ自ら交渉しに来るらしいけど」
月虹は先日と同じく食堂に招かれ、暫く待っていると3人の船魄が入ってきた。その先頭に立っていたのは、黒いコートに黒いマフラー、黒い髪に黒い瞳をした凛々しい少女。その背中には小銃を背負っている。少女は瑞鶴の目の前に座った。
「へえ、あんたがシャルンホルスト?」
「そう。私は、ドイツ海軍大洋艦隊第二隊群旗艦、シャルンホルスト級戦艦一番艦、シャルンホルスト」
「私は瑞鶴、月虹の旗艦よ。よろしく」
「ああ。あなた達に、結論を伝えに来た。我々はあなた達に暫くの安全を保証し、修理も行う」
「あ、そう。ありがとう」
「では失礼」
シャルンホルストはそれだけ言って立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
瑞鶴はシャルンホルストを引き止める。彼女は不思議そうに「何か?」と尋ねた。
「いや、その、どうしてそういうことになったのかとか、色々聞きたいでしょ」
「そう? そういう質問は、オイゲンが答える」
シャルンホルストは一応座り直しつつ、オイゲンに丸投げする。オイゲンは「はいはい」と面倒臭そうに応じた。
「まああなた達を受け入れることにした理由は政府がそう決定したからなんだけど、聞きたいのはその理由よね」
「待て、ゲッベルスまで話が伝わっているのか?」
ツェッペリンは問う。オイゲンが答えようとするが、答えたのはシュトラッサーであった。
「当たり前だ。下手しなくても外交問題になりかねんことを、艦隊司令部程度の権限で決められる訳がないだろ。お前は阿呆か」
「何だと貴様。我が妹の分際で」
「何であなた達はいつも一言多いのかしら。どっちも五十歩百歩の馬鹿なんだから黙ってなさい」
オイゲンはツェッペリンもシュトラッサーも等しく馬鹿にする。
「「何だと!?」」
ツェッペリンとシュトラッサーは見事に同じく語調、完璧に同じタイミングで怒鳴った。もちろんオイゲンはそんなことでは怯まない。
「ほら言った通り。どっちも阿呆ね。真面目な話をしてるんだから黙ってなさい」
二人を黙らせ、オイゲンの話は再開する。
「ゲッベルスが承認した理由だけど、あなた達が日本軍と敵対している以上、敵の敵は味方ということで、支援することにしたらしいわ」
「本当にそれだけ? 私達がこの戦争を終わらせようとしていることも、ドイツはちゃんと知っているの?」
戦争終結はドイツにとって利益にならない筈だ。月虹は一時的には日本の邪魔をするだろうが、最終的にドイツは不利益を蒙る筈だ。
「ええ、もちろん。外交で手は打ってあるの。この戦争が終わった後は、キューバは中立国にして、カリブ海の緩衝地帯になってもらう予定よ。それならば、ドイツにとって利益も大きいわ」
カリブ海は日独ソ米、四大勢力の勢力圏が接する世界でも最大級に不安定な地域である。そのど真ん中にあるキューバが緩衝地帯になることは、各国の不要な衝突を防ぎ、アメリカ方面に構っている余裕のないドイツにとって大きな利益になる筈だ。
「なるほど。まあ筋は通ってるわね」
「ええ。それと、ドイツは侵略戦争は嫌いなのよ。だからとっととこんな戦争は終わらせて欲しいの」
「ソ連を思いっきり侵略したクセに」
「15年前のことを持ち出さないで欲しいわ。大体、ソ連との戦争はイギリスを叩き潰す為に必要だったからに過ぎない」
「侵略された国に、その理由なんて関係ないでしょ」
「まあ確かに。でも私達は結構変わったのよ。アメリカの侵略を受けて、侵略される側の気分を味わったからね。日本人ならその気持ちは分かるでしょう?」
「まあ、そうね」
「そういう訳で、少なくともこの戦争が終わるまでの間、あなた達に協力するわ。アンドロス島にドイツ軍の基地がある。そこを使って。妙高の修理も、ハーケンクロイツに掛けて万全に行わせてもらうわ」
「あ、ありがとうございます!」
「ええ。細かいことは現地の軍人共に聞いて。他に質問はある?」
幾らかの確認を終わらせると、ドイツ海軍の3名は去っていった。シャルンホルストは結局、去り際に「武運を祈る」と口にした以外何も喋らなかった。
「ツェッペリン、いずれ貴様をドイツに連れ戻すからな。首を洗って待っていろ」
「ふん、やれるものならやってみよ」
「姉だからといって調子に乗るなよ」
ペーター・シュトラッサーも命令をちゃんと守る気はあるようだ。月虹はドイツ軍の協力を得ることに成功し、ようやく足元を固めることができた。妙高の修理が完了するまで暫くはバハマに留まることになるだろう。
「ねえねえ高雄、あの艦って知ってる?」
ホテルの窓から指差しながら、妙高は尋ねてみる。
「ドイツの戦艦ということ以上は、分かりませんね……。あまり大型ではないようですが」
「そっか。瑞鶴さんに聞いてみようかな」
妙高が聞きに行くまでもなく、瑞鶴は月虹の皆を集めた。
「あれはシャルンホルスト。ここら辺のドイツ艦隊の旗艦よ。警戒しなくていいわ、多分」
「あれが旗艦ですか……。船魄はどんな方なんでしょうか」
「私も知らないわ。これからあいつ自ら交渉しに来るらしいけど」
月虹は先日と同じく食堂に招かれ、暫く待っていると3人の船魄が入ってきた。その先頭に立っていたのは、黒いコートに黒いマフラー、黒い髪に黒い瞳をした凛々しい少女。その背中には小銃を背負っている。少女は瑞鶴の目の前に座った。
「へえ、あんたがシャルンホルスト?」
「そう。私は、ドイツ海軍大洋艦隊第二隊群旗艦、シャルンホルスト級戦艦一番艦、シャルンホルスト」
「私は瑞鶴、月虹の旗艦よ。よろしく」
「ああ。あなた達に、結論を伝えに来た。我々はあなた達に暫くの安全を保証し、修理も行う」
「あ、そう。ありがとう」
「では失礼」
シャルンホルストはそれだけ言って立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
瑞鶴はシャルンホルストを引き止める。彼女は不思議そうに「何か?」と尋ねた。
「いや、その、どうしてそういうことになったのかとか、色々聞きたいでしょ」
「そう? そういう質問は、オイゲンが答える」
シャルンホルストは一応座り直しつつ、オイゲンに丸投げする。オイゲンは「はいはい」と面倒臭そうに応じた。
「まああなた達を受け入れることにした理由は政府がそう決定したからなんだけど、聞きたいのはその理由よね」
「待て、ゲッベルスまで話が伝わっているのか?」
ツェッペリンは問う。オイゲンが答えようとするが、答えたのはシュトラッサーであった。
「当たり前だ。下手しなくても外交問題になりかねんことを、艦隊司令部程度の権限で決められる訳がないだろ。お前は阿呆か」
「何だと貴様。我が妹の分際で」
「何であなた達はいつも一言多いのかしら。どっちも五十歩百歩の馬鹿なんだから黙ってなさい」
オイゲンはツェッペリンもシュトラッサーも等しく馬鹿にする。
「「何だと!?」」
ツェッペリンとシュトラッサーは見事に同じく語調、完璧に同じタイミングで怒鳴った。もちろんオイゲンはそんなことでは怯まない。
「ほら言った通り。どっちも阿呆ね。真面目な話をしてるんだから黙ってなさい」
二人を黙らせ、オイゲンの話は再開する。
「ゲッベルスが承認した理由だけど、あなた達が日本軍と敵対している以上、敵の敵は味方ということで、支援することにしたらしいわ」
「本当にそれだけ? 私達がこの戦争を終わらせようとしていることも、ドイツはちゃんと知っているの?」
戦争終結はドイツにとって利益にならない筈だ。月虹は一時的には日本の邪魔をするだろうが、最終的にドイツは不利益を蒙る筈だ。
「ええ、もちろん。外交で手は打ってあるの。この戦争が終わった後は、キューバは中立国にして、カリブ海の緩衝地帯になってもらう予定よ。それならば、ドイツにとって利益も大きいわ」
カリブ海は日独ソ米、四大勢力の勢力圏が接する世界でも最大級に不安定な地域である。そのど真ん中にあるキューバが緩衝地帯になることは、各国の不要な衝突を防ぎ、アメリカ方面に構っている余裕のないドイツにとって大きな利益になる筈だ。
「なるほど。まあ筋は通ってるわね」
「ええ。それと、ドイツは侵略戦争は嫌いなのよ。だからとっととこんな戦争は終わらせて欲しいの」
「ソ連を思いっきり侵略したクセに」
「15年前のことを持ち出さないで欲しいわ。大体、ソ連との戦争はイギリスを叩き潰す為に必要だったからに過ぎない」
「侵略された国に、その理由なんて関係ないでしょ」
「まあ確かに。でも私達は結構変わったのよ。アメリカの侵略を受けて、侵略される側の気分を味わったからね。日本人ならその気持ちは分かるでしょう?」
「まあ、そうね」
「そういう訳で、少なくともこの戦争が終わるまでの間、あなた達に協力するわ。アンドロス島にドイツ軍の基地がある。そこを使って。妙高の修理も、ハーケンクロイツに掛けて万全に行わせてもらうわ」
「あ、ありがとうございます!」
「ええ。細かいことは現地の軍人共に聞いて。他に質問はある?」
幾らかの確認を終わらせると、ドイツ海軍の3名は去っていった。シャルンホルストは結局、去り際に「武運を祈る」と口にした以外何も喋らなかった。
「ツェッペリン、いずれ貴様をドイツに連れ戻すからな。首を洗って待っていろ」
「ふん、やれるものならやってみよ」
「姉だからといって調子に乗るなよ」
ペーター・シュトラッサーも命令をちゃんと守る気はあるようだ。月虹はドイツ軍の協力を得ることに成功し、ようやく足元を固めることができた。妙高の修理が完了するまで暫くはバハマに留まることになるだろう。
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