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第四章 月虹

キューバ沖海戦

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 瑞鶴は捕獲してきた最新鋭の偵察機祥雲を飛ばして、早速敵を捕捉した。

『敵艦隊、思った通りの規模ね。戦艦2、空母3、駆逐艦6よ』
「そ、そんな大戦力に、本当に勝てるのでしょうか……」
『妙高、さっきも言ったでしょう? 私達の勝利条件は、赤城か加賀に一撃喰らわすこと。まあ上手くいけば私とツェッペリンだけで勝てるから、妙高と高雄はここで観戦してればいいわ』
「は、はい」
『そう上手くいけばよろしいのですが……』
『ほらツェッペリン、やるわよ』
『無論だ』

 両艦隊の距離は現在200km程度。当然ながら相手は地平線の向こうに隠れており、光学的な手段で確認することはできない。瑞鶴が飛ばしている祥雲だけが頼りだ。

 瑞鶴とツェッペリンは次々に艦載機を飛ばす。二人合わせておよそ130機を飛ばし終えると、艦戦も艦爆も艦攻も関係なしに全機を第五艦隊に向けて突撃させた。

『敵艦隊も迎撃を出してきたわ』
『望むところだ。尽く撃ち落としてくれる』
『違うでしょ。作戦に従いなさい』
『あ、ああ、そうだったな』

 信濃、赤城、加賀は80機ほどの艦上戦闘機颶風を飛ばして来た。向こうは迎撃すればいいだけなので、飛んで来たのは戦闘機だけである。颶風の操作に集中でき、色々に機種を飛ばしている瑞鶴とツェッペリンより条件は有利だろう。

『さてツェッペリン、行くわよ』
『我に任せろ』

 両部隊は激突し熾烈な航空戦が開始される――と思われたが、瑞鶴が『散開!』と命令すると、瑞鶴とツェッペリンの艦載機はたちまち四方八方にバラバラになり、敵編隊を迂回して通過してしまったのである。

『よし突破した!』
『だが奴らも追ってくるぞ』

 第五艦隊の運用する飄風はジェット戦闘機であり、最大速度はプロペラ戦闘機たる颶風より遥かに早い。一瞬意表を突いて距離を離すことに成功したが、すぐに反転して追いかけてくる。元々速度は比較的遅いし型落ちの爆撃機や攻撃機など、あっという間に追いつかれてしまった。

『速いな。まあ我が国のジェット機の技術には遠く及ばぬが』

 グラーフ・ツェッペリンは誇らしげに言った。第二次世界大戦の最中からジェット機を実用化しているドイツは、今でもジェット機やロケットの技術で世界を突き放している。

『あんたのは型落ちでしょうが』
『型落ちとて、我が国の技術が日本に負けるなどあり得ぬ』

 確かにグラーフ・ツェッペリンが保有しているMe362は型落ちだが、ドイツ軍としては二世代目の戦闘機である。それに対して帝国海軍の飄風は初の実用艦上ジェット戦闘機だ。

『追いつかれてるけど』
『……意外と速いな』

 開発年代による技術差はいかんともし難く、瑞鶴とツェッペリンの航空隊は8分ほどで追いつかれた。

『やるわよツェッペリン』
『無論だ。今度こそ全て叩き落としてくれる』
『ええ、その意気よ』

 ここで両軍は空中戦に移行した。瑞鶴とツェッペリンは飄風を足止めするべく積極的な攻撃を仕掛け、その間に攻撃隊は第五艦隊に向け一直線に飛ぶ。

『敵は追って来ぬようだな』
『艦隊防空に余程自信があるんでしょうね。癪だけど』

 おもそ90機の艦爆と艦攻は第五艦隊上空に到達した。当然第五艦隊は対空砲火を開始する。空母を中心とした輪形陣から繰り出される対空砲火はその中心部分で特に重厚であり、流石の瑞鶴やツェッペリンでも迂闊に近付くことはできない。

『クソッ。近寄れん。どうするのだ、瑞鶴』
『あんな大見得切っておいて逃げることしかできない訳?』
『お、お前もだろうが!』
『まあそうね。秋月型が2隻いるし、他の駆逐艦も無視できるもんじゃない。雪風とか何で高角砲装備してるのよ』 

 秋月型駆逐艦は艦隊防空を主任務として開発された大型駆逐艦である。防空専門の艦となれば、駆逐艦と言えども侮れない。更に戦後では、駆逐艦の主砲は徐々に両用砲(対空砲としても使える主砲)に置き換わってきており、全ての駆逐艦がある程度の対空戦闘を行うことができるのだ。

『ならば駆逐艦を切り崩せばよいのではないか?』
『そうしたいけど、そういうのは好きじゃないのよね、妙高?』
「は、はい。できれば最小限の損害に留めていただきたく……。それに駆逐艦は、下手したら沈めてしまいます」

 駆逐艦相手では適度に痛めつけて行動不能にするのは難しい。

『ええ、そうね。とは言え、このままじゃ私達の負けで終わるけど』
「そ、それは……」
『大丈夫よ。予備作戦に切り替えるわ。用意しなさい』
「は、はい!」

 どうやら妙高と高雄も第五艦隊に主砲を向けなければならないようだ。
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