軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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第四章 月虹

討伐作戦

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 駆逐艦達は案の定、特に何も発見できずに帰投した。帰投したのは深夜だったので、この日はそのまま鎮守府で寝た。そして翌朝、長門は朝食の後すぐに赤城と加賀を執務室に呼び出して作戦会議を開いた。

「お前達がここに来た理由は、妙高と高雄の奪還に助太刀することだったな?」
「ええ、その通りです」
「ならば、とっとと出撃するぞ。駆逐艦達の整備と補給は夜のうちに済ませてもらったからな」
「随分とお急ぎなのですね~。まあ私は一向に構いませんが、赤城ちゃんはどうですか?」
「問題はない。そちらの準備が整っているなら、出撃する」

 長門は赤城と加賀が余計なことをしないうちにとっとと出撃することにした。長門、陸奥、信濃、赤城、加賀、峯風、涼月、雪風、秋月、綾波、天津風の計11隻の艦隊である。巡洋艦が一隻もないのは些かバランスが悪いが、アメリカの艦隊で太刀打ちできるものは存在しないくらい強力な部隊である。

 ○

 一九五五年六月二十八日、ニカラグア共和国、プエルト・カベサス。

 コスタリカのすぐ北に位置するニカラグアは、かつてはアメリカ合衆国の植民地的支配下に置かれていたが、第二次世界大戦にアメリカが敗北したことで解放され、中米では珍しくソ連についた。これはソ連が中米における基地を置ける国を要求したからである。

 港町プエルト・カベサスには大規模なソ連軍基地が置かれ、ソビエツキー・ソユーズ達はここに停泊してキューバ戦争の様子を窺っているのである。さてこの日、長門から瑞鶴らを捕獲するべく大規模な艦隊を出撃させるとの通達が入った。

「同志(タヴァーリシ)ゴルシコフ、これは我々にとって好機なのでは?」

 ソビエツキー・ソユーズは、ソ連海軍太平洋艦隊司令官のゴルシコフ大将と話し合っていた。

「君には申し訳ないが、我々が瑞鶴を捕獲できる可能性は皆無に近いと、私は思うよ」
「確かに瑞鶴とグラーフ・ツェッペリンは強力な船魄ですが、日本軍と協力すれば、我々の戦力は十分かと」
「いやいや、それがダメなんだよ。日本軍と協力したら、瑞鶴は確実に日本に取られるじゃないか」
「そ、それはそうですが、では前回はどうして出撃を許可してくださったのですか?」
「前回は瑞鶴の力量が知りたかったんだ。君達との戦闘で有益なデータが得られたと、本国の連中は言っていたよ」
「そうでしたか。では、もうデータは十分に集まったと?」
「それは知らないが、君は出撃したいのか?」
「無論です。妹のウクライナを傷つけられた恨みは忘れません」
「そんな理由なら、出撃は許可できない。今は待機だ」
「……分かりました、同志」

 ソ連海軍の目的は、第一に戦争の過度な拡大の抑止、第二に瑞鶴の捕獲である。どちらにも利がない出撃は許可されない。

 ○

 一九五五年六月二十八日、キューバ共和国、グアンタナモ基地。

 さて、第五艦隊出撃の報はすぐさまキューバにいる瑞鶴達にも伝わった。

「ど、どうするんですか、瑞鶴さん……?」

 妙高はいざとなると自信を喪失していた。第五艦隊出撃についてはキューバ政府に通告されており、ゲバラ経由でここに向かいつつある艦隊の陣容は把握している。

「まあ戦うしかないかしら」
「戦うと言っても、わたくし達の戦力で勝てるとは思えないのですが……」
「このグラーフ・ツェッペリンがおれば戦力は十分であろう」
「はいはいそうですね。問題は、勝利の条件よ。今回の敵の弱点は赤城と加賀。それを突けばいい」 
「赤城さんと加賀さん、ですか……? 帝国海軍でも最強の方々な気がするんですけど……」

 妙高には瑞鶴が何を言いたいのか全く理解できなかった。赤城と加賀は瑞鶴以上の艦載機運用能力を持ち実戦経験も豊富な空母であり、弱点とはおよそ真逆である。

「確かに赤城は強力だろうな。何せ我の原型なのだから」
「そうなんですか?」

 グラーフ・ツェッペリンは赤城の技術をかなり参考にして建造された空母なのである。

「まあ、であるからして、発展型の我の方が当然強いがな」
「は、はあ……」
「確かに個人としては私とツェッペリンの方が強いと思うけど、向こうには信濃もいるし、数で負けてる。だから赤城と加賀を狙うのよ。何でかって言えば、奴らが第一艦隊の空母で、万一にも沈む訳にはいかないから。いや、損傷することすら嫌がるでしょうね」

 第一艦隊は単独でアメリカを滅ぼせるような強力な戦力と宣伝されている。実際それは嘘ではないが、それに所属する空母が傷付けられて神話が崩れるのは、帝国政府としては好ましくない筈。政治的な制約を利用して敵を撃退しようというのが、瑞鶴の立てた作戦なのである。

「な、なるほど……。何とかなりそうな気がします!」
「わたくしも、それに賭けるしかないかと」
「我にかかれば造作もないことである」
「じゃあ決まりね」

 まずは生き残りを図らなければ誰の望みを果たすこともできない。瑞鶴、グラーフ・ツェッペリン、妙高、高雄は改めて協力を誓った。と、その時、チェ・ゲバラがやって来る。

「話し合いは終わったかな?」
「ええ。何か用?」
「残念な報告だ。今のところ我が国は、君達に手を貸すことができない。君達には独力で戦ってもらわなければないないんだ」
「元から海の上ではあなた達には何もできないでしょう」
「手厳しいね。まあそれはそうなんだが、グアンタナモ湾を貸していたことも、日本にバレるとよくないからね。君達がここを襲撃して占拠したことにしてもらえるかな?」
「適当に爆撃しておけばいい?」
「話が早くて助かるよ」

 グアンタナモ湾はあくまで瑞鶴達が占領していたという体にすることにした。兵士達は予め避難させた上で、瑞鶴は目につく建物をいくらか爆破しておいた。

「そうそう、せっかくだから私達の組織名とか決めない?」

 出撃の用意をしつつ、瑞鶴はふと提案した。

「組織名、ですか? 何だかかっこいいです!」

 妙高はノリノリである。

「そんなもの、グラーフ・ツェッペリンと家臣達でよいだろう」
「それはないから」
「じゃあ、瑞鶴さんは何か考えてるんですか?」
「ええ、妙高。月虹でどうかしら。月の虹で月虹よ」
「かっこいいです!」
「それはどういう所以なのですか?」

 高雄は尋ねる。

「辞書引いてかっこいい感じの単語を探してきたのよ」
「……なるほど」

 高雄は考えるのを辞めた。もっとも瑞鶴は全く考えなしだった訳でもなく、亜流のような意味合いでかっこいい単語を探して、月虹という単語を見つけたのである。
 そして、決戦の時はすぐに訪れる。

『さて、出撃するわよ。全員気合い入れなさい』
「が、頑張ります……」

 第一艦隊並みの敵と戦おうとしている事実に妙高は未だに震え上がっていたが、戦う他に選択肢はないのである。

『それでは、月虹全艦、出撃せよ!』

 艦の数は4対11、空母の数は2対3、戦艦は0対2。普通に考えれば勝てる筈のない戦いに『月虹』は挑む。
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