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第四章 月虹
反乱軍
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さて、ちょうど同じ頃、キューバ共和国、グアンタナモ湾にて。妙高、高雄、瑞鶴、グラーフ・ツェッペリンの4隻はキューバ共和国に帰投していた。グアンタナモ基地の跡地には米軍が造った港湾施設がほとんど手付かずで残されており、これら大型艦4隻が停泊することも可能であった。
「無事に戻ってきてくれてよかったよ、みんな」
チェ・ゲバラと兵士達が船舶達を出迎えた。
「ええ、大したことないわ。大袈裟なのよ」
「ははっ、君は強いね、瑞鶴。僕は医者としての性分で心配性なんだ」
「ふん、そんな身なりで医者と名乗れるのなら、誰でも医者を名乗れるのではないか?」
グラーフ・ツェッペリンはゲバラにわざわざ突っかかった。
「まあ、そうだね。僕は医者よりも兵士となることを選んだ人間だ。医者を名乗る資格などないよ」
「あ、そ、そうか」
「で、そちらのお嬢さんはどなたかな?」
ゲバラは高雄に気付いた。高雄は優雅に挨拶する。
「わたくしは高雄と申します。高雄型重巡洋艦一番艦の船魄です」
「高雄か。僕はエルネスト・ゲバラ。チェ・ゲバラっていうあだ名で呼ばれることも多いんだが、まあ好きな方で呼んでくれ。よろしく」
「チェ・ゲバラという名前は、あなたが思っていらっしゃるより有名ですよ。よろしくお願いします」
高雄とゲバラは握手をした。
「え、ゲバラさんって有名なの?」
妙高は高雄に尋ねる。妙高はずっと、ゲバラがたまたま出会っただけの一介の兵士だと思っていた。
「僕は大した身分じゃないんだが……」
「キューバ革命の功労者、ゲリラ戦の第一人者として世界的に有名な方ですよ。妙高はもっと世界情勢に目を光らせるべきです」
「うぅ……」
「そんなことを言われると照れてしまうよ」
なお瑞鶴もグラーフ・ツェッペリンもゲバラがそれなりの地位の人間であることは知っていたが、世界的に有名なことは全く知らなかった。結局高雄が物知り過ぎるということで決着してしまった。
「しかし……瑞鶴さんの説明が正しければ、キューバと日本は同盟国の筈です。日本の敵となった私達を匿うのは、利敵行為でしかないのではありませんか?」
高雄は当然の問を発した。キューバには反乱者達を匿う理由がないどころか、寧ろ積極的に彼女達を拘束して帝国政府に突き出すべきなのである。ゲバラはそれを問われると、困ったように苦笑いして答える。
「全くもってその通りだ。本来クーバとしては、君達を日本に引き渡すべきだろう。だが僕は、日本のやり方には賛同できない」
「つまり、ゲバラさんが個人的にわたくし達を匿ってくださっているということですか?」
「大方そういうことになるね。とは言え、上に黙っている訳じゃない。フィデルにも話は通してある。今のところは見て見ぬふりをしてくれているよ」
フィデル・カストロ議長、キューバの最高指導者も、この状況をしっかり把握していた。
「見て見ぬふり、ですか。しかし、もしも日本に問い詰められたら、どうするおつもりですか?」
「そう聞かれると困るなあ……。正直言って、その時のことは考えないようにしているんだ」
「そう、ですか……」
高雄はこれ以上聞いても無駄だと判断した。どうやらキューバも瑞鶴も行き当たりばったりで行動しているようである。
「妙高、本当にこの人達を頼りにしていいんですか? わたくしはもっといい方法があると思うのですが……」
「いやあ、私もちょっとそう思うんだけど――」
「妙高! 我を頼れないと言うのか!?」
「ふええ、ツェッペリンさんの力は頼りにしてるんですけど……その、後ろ盾というか……」
「我に後ろ盾なんぞ要らん!」
「いやいや、それは要るでしょ」
世界最強の船舶である瑞鶴でも、人間の支援は必要である。
「瑞鶴さん、何か具体的な計画はあるのですか?」
「いや、ないけど」
「…………妙高、やっぱりここを出ましょう。頼りになりません」
「お前! 我のことを――」
瑞鶴はグラーフ・ツェッペリンを黙らせて言う。
「妙高、高雄、確かにあなた達の言う通りよ。けど、私は最初から仲間を増やすつもりなんてなかったのよ? 最初に高雄を助け出したいって言ったのは妙高じゃない。作戦を考えるのは妙高の責任じゃないの?」
「え、そうなのですか、妙高?」
「う、うん」
「それはまた……話が違ってきますね……」
そもそも瑞鶴は原子爆弾を奪取して日本を恫喝できればそれでよかったのである。それを船魄の解放に協力させたのは妙高だ。一番行き当たりばったりだったのは妙高だったのである。
「け、けど、そもそも妙高に仲間になるよう持ちかけたのは瑞鶴さんじゃないですか! その時点での計画は何かなかったんですか?」
「最初の作戦通り原子爆弾を奪おうとしてたわ。あなたのせいで目標がすり替わった訳だけど」
「な、なるほど。じゃあもう一度みんなで原子爆弾を奪いに行ったらいいんじゃないですか?」
「あんた結構強気よね……。でも無理よ。どうやら私達の狙いは帝国にバレたっぽいからね」
第五艦隊には長門と陸奥がいるし、ソ連艦隊も近くにいる。奇襲で原子爆弾を奪取するなど彼女達の戦力では非現実的なのである。
「無事に戻ってきてくれてよかったよ、みんな」
チェ・ゲバラと兵士達が船舶達を出迎えた。
「ええ、大したことないわ。大袈裟なのよ」
「ははっ、君は強いね、瑞鶴。僕は医者としての性分で心配性なんだ」
「ふん、そんな身なりで医者と名乗れるのなら、誰でも医者を名乗れるのではないか?」
グラーフ・ツェッペリンはゲバラにわざわざ突っかかった。
「まあ、そうだね。僕は医者よりも兵士となることを選んだ人間だ。医者を名乗る資格などないよ」
「あ、そ、そうか」
「で、そちらのお嬢さんはどなたかな?」
ゲバラは高雄に気付いた。高雄は優雅に挨拶する。
「わたくしは高雄と申します。高雄型重巡洋艦一番艦の船魄です」
「高雄か。僕はエルネスト・ゲバラ。チェ・ゲバラっていうあだ名で呼ばれることも多いんだが、まあ好きな方で呼んでくれ。よろしく」
「チェ・ゲバラという名前は、あなたが思っていらっしゃるより有名ですよ。よろしくお願いします」
高雄とゲバラは握手をした。
「え、ゲバラさんって有名なの?」
妙高は高雄に尋ねる。妙高はずっと、ゲバラがたまたま出会っただけの一介の兵士だと思っていた。
「僕は大した身分じゃないんだが……」
「キューバ革命の功労者、ゲリラ戦の第一人者として世界的に有名な方ですよ。妙高はもっと世界情勢に目を光らせるべきです」
「うぅ……」
「そんなことを言われると照れてしまうよ」
なお瑞鶴もグラーフ・ツェッペリンもゲバラがそれなりの地位の人間であることは知っていたが、世界的に有名なことは全く知らなかった。結局高雄が物知り過ぎるということで決着してしまった。
「しかし……瑞鶴さんの説明が正しければ、キューバと日本は同盟国の筈です。日本の敵となった私達を匿うのは、利敵行為でしかないのではありませんか?」
高雄は当然の問を発した。キューバには反乱者達を匿う理由がないどころか、寧ろ積極的に彼女達を拘束して帝国政府に突き出すべきなのである。ゲバラはそれを問われると、困ったように苦笑いして答える。
「全くもってその通りだ。本来クーバとしては、君達を日本に引き渡すべきだろう。だが僕は、日本のやり方には賛同できない」
「つまり、ゲバラさんが個人的にわたくし達を匿ってくださっているということですか?」
「大方そういうことになるね。とは言え、上に黙っている訳じゃない。フィデルにも話は通してある。今のところは見て見ぬふりをしてくれているよ」
フィデル・カストロ議長、キューバの最高指導者も、この状況をしっかり把握していた。
「見て見ぬふり、ですか。しかし、もしも日本に問い詰められたら、どうするおつもりですか?」
「そう聞かれると困るなあ……。正直言って、その時のことは考えないようにしているんだ」
「そう、ですか……」
高雄はこれ以上聞いても無駄だと判断した。どうやらキューバも瑞鶴も行き当たりばったりで行動しているようである。
「妙高、本当にこの人達を頼りにしていいんですか? わたくしはもっといい方法があると思うのですが……」
「いやあ、私もちょっとそう思うんだけど――」
「妙高! 我を頼れないと言うのか!?」
「ふええ、ツェッペリンさんの力は頼りにしてるんですけど……その、後ろ盾というか……」
「我に後ろ盾なんぞ要らん!」
「いやいや、それは要るでしょ」
世界最強の船舶である瑞鶴でも、人間の支援は必要である。
「瑞鶴さん、何か具体的な計画はあるのですか?」
「いや、ないけど」
「…………妙高、やっぱりここを出ましょう。頼りになりません」
「お前! 我のことを――」
瑞鶴はグラーフ・ツェッペリンを黙らせて言う。
「妙高、高雄、確かにあなた達の言う通りよ。けど、私は最初から仲間を増やすつもりなんてなかったのよ? 最初に高雄を助け出したいって言ったのは妙高じゃない。作戦を考えるのは妙高の責任じゃないの?」
「え、そうなのですか、妙高?」
「う、うん」
「それはまた……話が違ってきますね……」
そもそも瑞鶴は原子爆弾を奪取して日本を恫喝できればそれでよかったのである。それを船魄の解放に協力させたのは妙高だ。一番行き当たりばったりだったのは妙高だったのである。
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