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第三章 戦いの布告
突撃
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「た、高雄……こんなに接近しても、妙高のことが、分からないなんて……」
同じ重巡洋艦からの砲撃は強烈だった。吐き気を催すほどの痛みに耐え、手足を震わせながら、それでも妙高は彼女に近づこうとする。
『言ったでしょう? 長年かけて培われた洗脳技術は本物よ。どうする?』
「い、言った通りです。高雄に、乗り込みます」
『だったらあいつの砲塔でも破壊しなさい。あなたの方が先に死ぬわよ』
「で、ですが、できません。友達を、撃つなんて……」
『その友達は、あんたのことを敵だと思っているのよ! 躊躇ってたら――』
「それじゃあダメなんです! 妙高は、妙高は――うっ……」
『この馬鹿。勝手にやればいいわ』
そう言いつつ、瑞鶴の颶風は高雄の上空で演技飛行のように飛び回り、その注意を最大限に引いていた。何故か沈黙した長門と陸奥と、対空砲火に忙しい峯風と涼月、今や高雄と妙高の間を阻む者は存在しない。
○
「げ、激突します!?」
『何をやってる! 高雄、回避しろ、回避!』
「だ、ダメです、間に合わな――うぐ……」
妙高は高雄にぶつかる勢いで突進し、直前で回頭して高雄に横付けする形となった。そしてこの時のために特別に用意したフックを高雄に射出し、彼女と自分を固定した。
「う、動けない……まさか、私を鹵獲するために? しかしこれでは相手も……」
『ちょっと待ってろ、高雄。すぐ助け――クソッ、邪魔だっ!』
峯風は高雄の救援に入ろうとするが、瑞鶴が爆弾を落として妨害する。妙高は艦橋を降り、高雄に単身で乗り込んだ。
「こ、これは……戦場で艦の外に出るなんて初めて……」
銃弾と爆弾と砲弾の飛び交う戦場。船魄が、というより生身の人間が身を晒すには余りにも危険な環境だ。だが妙高に立ち止まるという選択肢はなかった。妙高は高雄に飛び移り、艦橋を目指して真っ直ぐ駆け出した。
「か、艦内に侵入者!? ど、どど、どうすれば……」
こういうこともあろうかと、船魄は艦内に存在する人間を探知することができる。とは言え実際にそんなことが起こるとは想定されておらず、ロクな訓練も行われていなかった。
「ええと、拳銃……拳銃はこれで、ひっ!?」
背後で階段を上る足音が聞こえた。高雄は反射的に八式拳銃を扉に向けて撃っていた。扉に大穴が開いて、硝煙が立ち込める。
「わ、私、今、人を撃って……あっ」
扉はゆっくりと開いた。その向こうには白い着物を着た狐耳の、よく見覚えのある少女が立っていた。
「え……? 妙高……? 妙高、なんですか……?」
「うん、そうだよ。私は妙高。いきなり撃たれるとは思わなかったけど……」
「ご、ごめんなさい! まさかあなただとは思わなくて……」
「大丈夫だよ。妙高は無傷だから」
「あ、ああ……よかった、です。本当に、よかった……」
高雄は何が何だか分からなかったが、自然と涙が溢れていた。そして妙高を抱き寄せると、その唇を奪った。妙高は予想だにしない出来事に、顔を真っ赤に染めた。
「んむっ――た、高雄!?」
「どうか気にしないでください。今は」
「う、うん、分かった」
「しかし、この状況は、一体何がどうなって……」
「その説明は、ちょっと後になるかも」
その時、通信機が激しく音を上げる。
『高雄! どうした! 大丈夫か!?』
「え、ええ、峯風。私は大丈夫です。それよりも――」
『今からそいつを魚雷で沈める。そこで動くなよ!』
「え、ちょ、待ってください! 撃たないで!」
『は? どうしたんだ急に。心配するな。この私が狙いを外すことなど――』
「そういう話じゃないんです! だから、その……」
いきなり妙高が生き返ったと言っても信じてくれないだろう。それに先程まで高雄ですら妙高のことを妙高と認識できていなかったのだ。
「仕方ないよ。みんなには私が敵に見えている。だから、こうなることも分かってた」
高雄の洗脳は解かれ、妙高の目的は果たされた。ここで死んでも一向に構わない。
「で、ですが……そうだ! 妙高が通信に出てくれれば――」
と、その時だった。通信機から弱弱しく幼い少女の声が聞こえる。
『峯風、撃たないで……』
『涼月? どうしてだ?』
『撃たない方がいい、気がする……。きっと、撃たない方がいい』
『そんな曖昧な――』
『う、撃たないで! とにかく、今は』
「涼月ちゃんの叫び声だ……」
滅多に聞くことのない、というか妙高は一度も聞いたことのない、涼月の芯の通った声。そんな訴えに峯風も折れた。
『……分かった。お前が言うのなら』
かくして戦場は沈黙した。しかし妙高は第五艦隊のど真ん中にあり、戦いはまだ終わってなどいない。
同じ重巡洋艦からの砲撃は強烈だった。吐き気を催すほどの痛みに耐え、手足を震わせながら、それでも妙高は彼女に近づこうとする。
『言ったでしょう? 長年かけて培われた洗脳技術は本物よ。どうする?』
「い、言った通りです。高雄に、乗り込みます」
『だったらあいつの砲塔でも破壊しなさい。あなたの方が先に死ぬわよ』
「で、ですが、できません。友達を、撃つなんて……」
『その友達は、あんたのことを敵だと思っているのよ! 躊躇ってたら――』
「それじゃあダメなんです! 妙高は、妙高は――うっ……」
『この馬鹿。勝手にやればいいわ』
そう言いつつ、瑞鶴の颶風は高雄の上空で演技飛行のように飛び回り、その注意を最大限に引いていた。何故か沈黙した長門と陸奥と、対空砲火に忙しい峯風と涼月、今や高雄と妙高の間を阻む者は存在しない。
○
「げ、激突します!?」
『何をやってる! 高雄、回避しろ、回避!』
「だ、ダメです、間に合わな――うぐ……」
妙高は高雄にぶつかる勢いで突進し、直前で回頭して高雄に横付けする形となった。そしてこの時のために特別に用意したフックを高雄に射出し、彼女と自分を固定した。
「う、動けない……まさか、私を鹵獲するために? しかしこれでは相手も……」
『ちょっと待ってろ、高雄。すぐ助け――クソッ、邪魔だっ!』
峯風は高雄の救援に入ろうとするが、瑞鶴が爆弾を落として妨害する。妙高は艦橋を降り、高雄に単身で乗り込んだ。
「こ、これは……戦場で艦の外に出るなんて初めて……」
銃弾と爆弾と砲弾の飛び交う戦場。船魄が、というより生身の人間が身を晒すには余りにも危険な環境だ。だが妙高に立ち止まるという選択肢はなかった。妙高は高雄に飛び移り、艦橋を目指して真っ直ぐ駆け出した。
「か、艦内に侵入者!? ど、どど、どうすれば……」
こういうこともあろうかと、船魄は艦内に存在する人間を探知することができる。とは言え実際にそんなことが起こるとは想定されておらず、ロクな訓練も行われていなかった。
「ええと、拳銃……拳銃はこれで、ひっ!?」
背後で階段を上る足音が聞こえた。高雄は反射的に八式拳銃を扉に向けて撃っていた。扉に大穴が開いて、硝煙が立ち込める。
「わ、私、今、人を撃って……あっ」
扉はゆっくりと開いた。その向こうには白い着物を着た狐耳の、よく見覚えのある少女が立っていた。
「え……? 妙高……? 妙高、なんですか……?」
「うん、そうだよ。私は妙高。いきなり撃たれるとは思わなかったけど……」
「ご、ごめんなさい! まさかあなただとは思わなくて……」
「大丈夫だよ。妙高は無傷だから」
「あ、ああ……よかった、です。本当に、よかった……」
高雄は何が何だか分からなかったが、自然と涙が溢れていた。そして妙高を抱き寄せると、その唇を奪った。妙高は予想だにしない出来事に、顔を真っ赤に染めた。
「んむっ――た、高雄!?」
「どうか気にしないでください。今は」
「う、うん、分かった」
「しかし、この状況は、一体何がどうなって……」
「その説明は、ちょっと後になるかも」
その時、通信機が激しく音を上げる。
『高雄! どうした! 大丈夫か!?』
「え、ええ、峯風。私は大丈夫です。それよりも――」
『今からそいつを魚雷で沈める。そこで動くなよ!』
「え、ちょ、待ってください! 撃たないで!」
『は? どうしたんだ急に。心配するな。この私が狙いを外すことなど――』
「そういう話じゃないんです! だから、その……」
いきなり妙高が生き返ったと言っても信じてくれないだろう。それに先程まで高雄ですら妙高のことを妙高と認識できていなかったのだ。
「仕方ないよ。みんなには私が敵に見えている。だから、こうなることも分かってた」
高雄の洗脳は解かれ、妙高の目的は果たされた。ここで死んでも一向に構わない。
「で、ですが……そうだ! 妙高が通信に出てくれれば――」
と、その時だった。通信機から弱弱しく幼い少女の声が聞こえる。
『峯風、撃たないで……』
『涼月? どうしてだ?』
『撃たない方がいい、気がする……。きっと、撃たない方がいい』
『そんな曖昧な――』
『う、撃たないで! とにかく、今は』
「涼月ちゃんの叫び声だ……」
滅多に聞くことのない、というか妙高は一度も聞いたことのない、涼月の芯の通った声。そんな訴えに峯風も折れた。
『……分かった。お前が言うのなら』
かくして戦場は沈黙した。しかし妙高は第五艦隊のど真ん中にあり、戦いはまだ終わってなどいない。
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