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第三章 戦いの布告

独ソ合作

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『同志(タヴァーリシ)長門、ソビエツキー・ソユーズ、ソビエツカヤ・ウクライナ、ソビエツカヤ・ベラルーシ、貴艦の危機を知り参上した!』
『おお、来てくれたか、ソビエト三姉妹』

 ソ連の最高戦力である戦艦三隻。国家の威信をかけた艦隊が今、戦場に到着した。

『ねえねえ、あれが敵? 殺していい?』
『ウクライナ、やめてくれ。私達の任務は第五艦隊の支援だよ』

 ベラルーシはウクライナの猪突猛進を諫めるが、なかなか聞き入れてくれない。

『ええ~? 敵を皆殺しにしたら戦いは終わるでしょ? 違う?』
『ウクライナ、私からも頼む。我が第五艦隊の支援に当たってくれ』

 長門はソビエツカヤ・ウクライナに直接頼んだ。と、その時、陸奥が長門に個人電話で呼び掛けた。長門は少しだけ艦隊の指揮を中断する。

『やっぱり瑞鶴は殺したくないものね、長門? あなたって本当に甘いわ』
『陸奥……本当に、お前はどこまで知っているんだ』
『結構色々知っているわ。なんたって私は連合艦隊直属だからね。たまに陛下に謁見したりもするのよ?』
『連合艦隊直属というのならもっと真面目に仕事をしろ』
『それじゃあつまらないじゃない?』
『……まあいい、この話は後だ。指揮に戻る』

 陸奥との直接回線は切り、全体との通信に復帰する。

『同志ウクライナ、我々は同志長門の指示に従う。これはフルシチョフ第一書記からの命令でもある。反革命罪にでも問われたいのか?』
『え、それはやだ』
『では、同志長門に従うのだ』
『分かった、分かったよ! 素直に従うから!』

 ソユーズがウクライナを黙らせると、やっと作戦に入れる。

『うむ。ソ連の諸君には、第五艦隊の陣形に加わり、対空戦闘を担当してもらいたい。いいか?』
『喜んで、同志長門。共に助け合おう。そう、共産主義のように!』
『お、おう……』

 かくして第五艦隊は、臨時とは言え戦艦5隻という、一個艦隊にしては空前の火力を持つに至ったのである。ソビエツキー・ソユーズ級は艦体性能で長門型を上回る戦艦。その対空砲火もまた同様である。

 ⑦

『ちょっと、ふざけんじゃないわよ! 戦艦5隻とか聞いたことないわ!』
『我もだ。それもロシア人どもと組むとは……日本は誇りを忘れたのか?』
『そんなこと聞かれても知らないわよ。ねえ妙高?』
「さ、さあ……」

 ともかく、長門と陸奥を相手取るので手一杯であったところに戦艦が3隻も追加された。第二次世界大戦を勝ち抜いた伝説級の船魄であっても、たったの2隻だけでこれを相手取るのはあまりにも厳しい。

「ど、どうしましょう……こんな数の戦艦……」
『まったくね。いくら私でもどうにもならない。牽制することですらやっとよ』

 濃密な対空砲火には近づくこともままならない。艦隊の外周をグルグル飛行し敵を牽制しておくくらいしか、空母にできることはなかった。

『瑞鶴、妙高、我は撤退を命じたい』

 ツェッペリンは勝てないと悟った。一度撤退して態勢を立て直し、機を見て再び襲撃を仕掛けようと。

「そ、それは……」
『妙高、お前の気持ちは分からぬでもない。だが、この状況で目標を達成することは不可能だ。これ以上の戦いは、我らの戦力を無為に消耗するだけであろう』
『ツェッペリンにしては意外な言葉だけど、その通りね。艦載機は貴重なの。今は撤退するべき』
「ですが、ここで下がって再びチャンスが訪れるとは思えません……」

 彼女らへの警戒はカリブ海全域で高まるだろう。第五艦隊が単独で行動するという状況は二度と生まれないかもしれない。

『その懸念も分かるわ。けど、この状況で私達に勝ち目はない。戦艦5隻を無力化できるだけの魚雷なんて持ってないもの』
『そうだ妙高。お前より遥かに多くの戦場をくぐり抜けて来た我らが言っているのだ。素直に受け入れるがいい。二度と行動を起こせなくなるぞ』
「……そうですね。分かりました。撤退、します」

 妙高は撤退を決意した。瑞鶴とツェッペリンは艦載機を引き上げ、撤退の用意を始める。だが、その時だった。またしても妙高が接近する艦影を捉えたのだ。

「――こ、今度は空母です。3時方向から来ます!」
『クソッ……。挟み撃ちされたってことね』
『そのようだな。退路を断とうとする――』
『グラーフ・ツェッペリンッ!! やっと見つけたぞ!』

 その時、通信機から少女の荒々しい声が響いた。

『……我の名を呼ぶお前は誰だ?』
『我こそはペーター・シュトラッサー! ドイツを裏切った貴様を取り返しに来た!!』

 グラーフ・ツェッペリン級航空母艦二番艦ペーター・シュトラッサー。つまりはツェッペリンのすぐ下の妹である。

『シュトラッサー? ああそうか。我が出奔したことを恨んでいるのか』
『恨みなどではない! これは正義だ! ドイツを裏切りドイツから逃げた貴様を取り返すのは、ドイツ海軍の船魄としての責務なのだ!』
『ほう? ではどうしてくれるのだ?』
『こうしてやろう。全艦載機、発艦!』
『ちょっとちょっと、どうしてくれるのよこれ』

 シュトラッサーとツェッペリンの設計はほぼ同じ。つまりほぼ同じ戦力を持っているということだ。それが全艦載機を飛ばして来たというのは、非常によろしくない。逃げることすら儘ならなくなってしまう。
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