60 / 407
第三章 戦いの布告
攻勢
しおりを挟む
「お、落ちた……? 落ちた!」
『うむ。我らを脅かす敵は全て落ちた。やるではないか』
『そう、ね。よくやってくれたわ、妙高。ありがとう』
「ど、どういたしまして……」
共同作業ではあるが、妙高は信濃の艦載機を撃墜することに成功したのであった。
『さーて、信濃も大層な賭けに出たものだけど、もう余力がないだろうね』
瑞鶴が舌なめずりをしているのが、通信機越しでも分かった。自爆的な攻撃で艦載機をすり減らした第五艦隊に、瑞鶴とツェッペリンの艦載機が迫る。
⑦
『長門……すまぬ、敵を、押さえ切れなかった』
『仕方あるまい。敵はただでさえ2倍いるのだ』
『し、しかし、このままでは……』
『案ずるな、信濃! 私と陸奥がいる! 敵機などことごとく撃ち落としてくれよう!』
『あらー、頼りにしてくれるじゃない。ちょっと嬉しいわ』
『私達も忘れるなよ』
峯風は言った。艦戦がなくとも第五艦隊には対空戦闘をやり遂げる自信がある。
『さあ、来るぞ! 全艦、撃ち方始め!』
まずは長門と陸奥の主砲から放たれる通常弾が空を炎で埋め尽くす。同時に全ての艦が対空砲火を開始した。しかし、空を覆いつくした炎からは、最初とほとんど数が変わらない数の航空機が飛び出して来た。
「な、長門の対空砲火をいとも簡単に……」
高雄は戦慄する。これまで、長門が主砲を動かせば、生き残る敵機はほんの少数だった。だが、今回の敵は一味も二味も違う。長門の対空砲火はまるで意に介さないようだ。やがて敵機は艦隊の上空に入った。
すぐに一機の艦攻――八年式艦上爆撃機『星雲』が高雄の直上に入り、そのまま急降下爆撃を仕掛けてきた。
「う、撃ち落とさないと!」
機関砲も総動員して迎撃するが、敵機は弾幕をすり抜けて高雄の直上に迫る。
『高雄、撃ち漏らしているぞ!』
「峯風、す、すみません。ですが……」
高雄は撃たれなかった。急降下爆撃を仕掛けてきたと思ったのに、敵の爆撃機は高雄の艦橋のすぐ上で反転し、上空に飛び去ってしまったのだ。
「一体、敵は何を考えているのでしょうか……」
『見て分からないか、高雄。奴らの狙いは長門と陸奥だ。私達の周りで飛び回っているのは、ただ私達をここに拘束する為だろうな』
「そうは言いますが、長門も陸奥も撃たれていませんよ?」
『いや、違う。長門も陸奥も、敵を一切寄せ付けない対空砲火を展開している。だが、私達を相手にするのとは違って、あの攻撃機には敵意を感じられる』
「……私達は相手にすらされていないということですか?」
『極めて不愉快だが、そのようだ』
高雄も峯風も涼風も、艦載機を大きく失った信濃も、敵の眼中にはなかった。
――所詮私は重巡洋艦、ということですか……
結局、高雄が傷付けられることはなかった。それは屈辱であるし、悔しかった。
○
『チッ……。流石は連合艦隊旗艦様ね。アメリカの艦とは対空砲火の格が違うわ』
『そのようだな。気を抜くとすぐ落とされる。調子に乗りおって』
瑞鶴もツェッペリンも数機の艦載機を落とされている。熾烈な攻防が続いていた。
『ここだっ! 雷撃!』
瑞鶴はほんの僅かな隙を見出し、すかさず魚雷を投下した。魚雷は海面に落下し、水中で僅かに進んだ後、長門の喫水線下に命中して、大きな水飛沫を上げた。
「あ、当たりました!」
『ええ。でも、効いていないようね』
長門は爆発の衝撃でほんの少しだけ艦体を揺らしたが、それだけであった。長門の装甲は近代的な複合装甲に改装されており、船魄のダメージコントロール能力もあって、大した障害にはなっていないようだった。
「さ、流石は長門様」
『何を感心してるのよ。しっかし面倒ね。長門一人なら相手になったけど』
『二隻になれば一気に強くなる、か』
『そういうこと。互いに死角を補い合ってるからね』
長門と陸奥。その連携は、流石は姉妹艦と言ったものだった。その戦力は長門や陸奥単艦の二倍どころではない。
『最低でも長門と陸奥は無力化しないとあなたが近寄れもしないから、ちょっと手荒になるのは覚悟してね。もちろん沈めはしないけど』
「……分かりました。それでも構いません」
妙高にはその戦況を見守ることしかできなかった。だが、その時だった。
「ん? ず、瑞鶴さん!! 大変です!」
『何? どうしたの?』
「新たな艦影を3つ、9時の方向に確認しました。大きさからして戦艦かと!」
妙高の電探だけは瑞鶴やツェッペリンのそれを大きく上回る性能を持っている。だから真っ先に迫りくる艦を探知することができた。
『ほう。戦艦が3隻来ていると?』
「はい、ツェッペリンさん。間違い、ありませんかと……」
『この状況で私達の味方ってことはなさそうね』
瑞鶴の予想通り、それは敵だった。
『うむ。我らを脅かす敵は全て落ちた。やるではないか』
『そう、ね。よくやってくれたわ、妙高。ありがとう』
「ど、どういたしまして……」
共同作業ではあるが、妙高は信濃の艦載機を撃墜することに成功したのであった。
『さーて、信濃も大層な賭けに出たものだけど、もう余力がないだろうね』
瑞鶴が舌なめずりをしているのが、通信機越しでも分かった。自爆的な攻撃で艦載機をすり減らした第五艦隊に、瑞鶴とツェッペリンの艦載機が迫る。
⑦
『長門……すまぬ、敵を、押さえ切れなかった』
『仕方あるまい。敵はただでさえ2倍いるのだ』
『し、しかし、このままでは……』
『案ずるな、信濃! 私と陸奥がいる! 敵機などことごとく撃ち落としてくれよう!』
『あらー、頼りにしてくれるじゃない。ちょっと嬉しいわ』
『私達も忘れるなよ』
峯風は言った。艦戦がなくとも第五艦隊には対空戦闘をやり遂げる自信がある。
『さあ、来るぞ! 全艦、撃ち方始め!』
まずは長門と陸奥の主砲から放たれる通常弾が空を炎で埋め尽くす。同時に全ての艦が対空砲火を開始した。しかし、空を覆いつくした炎からは、最初とほとんど数が変わらない数の航空機が飛び出して来た。
「な、長門の対空砲火をいとも簡単に……」
高雄は戦慄する。これまで、長門が主砲を動かせば、生き残る敵機はほんの少数だった。だが、今回の敵は一味も二味も違う。長門の対空砲火はまるで意に介さないようだ。やがて敵機は艦隊の上空に入った。
すぐに一機の艦攻――八年式艦上爆撃機『星雲』が高雄の直上に入り、そのまま急降下爆撃を仕掛けてきた。
「う、撃ち落とさないと!」
機関砲も総動員して迎撃するが、敵機は弾幕をすり抜けて高雄の直上に迫る。
『高雄、撃ち漏らしているぞ!』
「峯風、す、すみません。ですが……」
高雄は撃たれなかった。急降下爆撃を仕掛けてきたと思ったのに、敵の爆撃機は高雄の艦橋のすぐ上で反転し、上空に飛び去ってしまったのだ。
「一体、敵は何を考えているのでしょうか……」
『見て分からないか、高雄。奴らの狙いは長門と陸奥だ。私達の周りで飛び回っているのは、ただ私達をここに拘束する為だろうな』
「そうは言いますが、長門も陸奥も撃たれていませんよ?」
『いや、違う。長門も陸奥も、敵を一切寄せ付けない対空砲火を展開している。だが、私達を相手にするのとは違って、あの攻撃機には敵意を感じられる』
「……私達は相手にすらされていないということですか?」
『極めて不愉快だが、そのようだ』
高雄も峯風も涼風も、艦載機を大きく失った信濃も、敵の眼中にはなかった。
――所詮私は重巡洋艦、ということですか……
結局、高雄が傷付けられることはなかった。それは屈辱であるし、悔しかった。
○
『チッ……。流石は連合艦隊旗艦様ね。アメリカの艦とは対空砲火の格が違うわ』
『そのようだな。気を抜くとすぐ落とされる。調子に乗りおって』
瑞鶴もツェッペリンも数機の艦載機を落とされている。熾烈な攻防が続いていた。
『ここだっ! 雷撃!』
瑞鶴はほんの僅かな隙を見出し、すかさず魚雷を投下した。魚雷は海面に落下し、水中で僅かに進んだ後、長門の喫水線下に命中して、大きな水飛沫を上げた。
「あ、当たりました!」
『ええ。でも、効いていないようね』
長門は爆発の衝撃でほんの少しだけ艦体を揺らしたが、それだけであった。長門の装甲は近代的な複合装甲に改装されており、船魄のダメージコントロール能力もあって、大した障害にはなっていないようだった。
「さ、流石は長門様」
『何を感心してるのよ。しっかし面倒ね。長門一人なら相手になったけど』
『二隻になれば一気に強くなる、か』
『そういうこと。互いに死角を補い合ってるからね』
長門と陸奥。その連携は、流石は姉妹艦と言ったものだった。その戦力は長門や陸奥単艦の二倍どころではない。
『最低でも長門と陸奥は無力化しないとあなたが近寄れもしないから、ちょっと手荒になるのは覚悟してね。もちろん沈めはしないけど』
「……分かりました。それでも構いません」
妙高にはその戦況を見守ることしかできなかった。だが、その時だった。
「ん? ず、瑞鶴さん!! 大変です!」
『何? どうしたの?』
「新たな艦影を3つ、9時の方向に確認しました。大きさからして戦艦かと!」
妙高の電探だけは瑞鶴やツェッペリンのそれを大きく上回る性能を持っている。だから真っ先に迫りくる艦を探知することができた。
『ほう。戦艦が3隻来ていると?』
「はい、ツェッペリンさん。間違い、ありませんかと……」
『この状況で私達の味方ってことはなさそうね』
瑞鶴の予想通り、それは敵だった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
江戸時代改装計画
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR
ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。
だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。
無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。
人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。
だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。
自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。
殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。
無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた
中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■
無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。
これは、別次元から来た女神のせいだった。
その次元では日本が勝利していたのだった。
女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。
なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。
軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか?
日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。
ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。
この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。
参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。
使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。
表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる