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第三章 戦いの布告
開戦
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『偵察。南方三百キロに未知の艦影を確認。空母2、重巡1』
『了解だ、信濃。全艦戦闘配置! 今度こそは奴らに一泡吹かせてやるぞ!』
長門は第五艦隊に陸奥を加えた五名に命じた。
「あいつら……あいつらのせいで、妙高は……!」
高雄の認識では、妙高は未知の艦影――つまり瑞鶴の攻撃を受けて航行不能になったということになっている。だから復讐心が彼女の心の大部分を占めていた。
『落ち着くのだ、高雄。冷静にならないと、勝てる戦も勝てなくなるぞ』
「…………分かりました。申し訳ありません」
『一番落ち着いてないのは誰でしょうね、長門?』
『う、うるさいな、陸奥……』
長門は平静を装っているだけで、どうするべきか一番苦悩していた。そんな様子は妹の陸奥には丸見えである。
『なあ、陸奥、お前はどこまで知っているんだ?』
『どこまで? 一体何の話をしてるのかしら?』
『……何でもない。ともかく、防空はお前に任せるぞ』
『そのくらい朝飯前よ。うん、私もたまには体を動かさないとっ』
長門と陸奥。かつて世界最強と謳われた姉妹の対空砲火は決して甘く見ていいものではない。
○
同時に瑞鶴とグラーフ・ツェッペリンも偵察機を飛ばして、第五艦隊の陣容を把握していた。
『陸奥……どうしてあいつがここにいるのよ』
『戦艦が二隻とは聞いておらんぞ』
「陸奥さん……確かにあの方がいらっしゃるのは、厳しい……」
『あら、あなた陸奥と知り合いなの?』
「そういう訳ではありませんが……帝国海軍で知らない船魄はいないですよ」
陸奥は長門と並んで連合艦隊旗艦を何度も務めた戦艦だ。そしてその戦闘能力は長門と等しい。一隻いるだけでも脅威となる長門型が二隻もいるというのは想定外だ。
「瑞鶴さん、大丈夫でしょうか……」
『何とかしてやるわ。長門も陸奥も船魄としては私の後輩、負けてはいられない』
瑞鶴の闘争心に火が付いた。自分にそんな心が残っていたのかと、驚く彼女であった。
『ツェッペリン、手を貸しなさい』
『め、命じるのは我だ。行くぞ、瑞鶴』
『どっちでもいいわ。但し妙高、敵がこれだと手加減するのは難しい。ちょっとは痛めつけることになっちゃうかもしれないけど、いい?』
「……分かりました。妙高のわがままのためにお二人が傷つくのは、嫌です」
『言ってくれるじゃない。じゃ、作戦通り私達が隙を作るわ。妙高は暫く待機』
「はい!」
『それでは……艦載機、全機発艦!』
瑞鶴とツェッペリンは戦闘機と攻撃機を全機発艦させ、戦いの火蓋は切られた。と同時に、信濃からも艦載機が放たれ、妙高達に向かって全速力で飛んできた。
『な、あいつ、こっちに仕掛けてくるって言うの?』
『何を驚いておる。攻撃こそ最大の防御と言うではないか』
『まあね。じゃあ可哀そうだけど、信濃の艦載機は全部落とすわ』
「お、お願いします……」
これくらいは仕方のない犠牲だと妙高は覚悟を決めた。
さて、200キロほど離れた両艦隊のちょうど中間で戦闘機同士の戦闘が開始された。今や数でも信濃を上回っている瑞鶴とツェッペリンは、たちまちその編隊をほとんど犠牲を出さずに撃墜していく。瑞鶴の八年式艦上戦闘機――日本最後にして世界最強のプロペラ戦闘機『颶風(ぐふう)』は、旧式ではあるもののジェット戦闘機である飄風を圧倒していた。
「す、すごい、ですね……。あの信濃が、あっという間に……」
『あいつは比較的古い船魄だけど、私とは比べるまでもないわ』
『っ、おい、瑞鶴、敵機が抜けそうだ!』
『ちょっと何やってるのよ!』
「お、お二人とも……」
ツェッペリンが押さえていた編隊のうち攻撃機4機が強引に防衛線を突破し、妙高達に向かって猛進を始めた。何としてでも本体の空母にダメージを与えたいらしい。
『ツェッペリン! 何とかして落としなさいよ!』
『す、すまぬ、最高速度では、やはり最新機には……』
船魄は兵器の性能を極限まで引き出す存在。逆に言えば兵器のスペックを超えた活躍をさせることは出来ない。一直線に追いかけっこをするのなら、最新の戦闘機を使った者の方が勝つのである。
『どうすんのよ! あんたが指揮を執るんでしょ!』
「あ、あの!」
妙高は全く大人気ない先輩の言い争いの間に、勇気を振り絞って声を上げた。
『どうした、妙高よ?』
「妙高も重巡洋艦です! 対空砲火くらいはできます!」
『ほう、よかろう。瑞鶴と共に、我の護衛に当たるがいい。瑞鶴、お前と我は共に敵艦隊を目指すぞ!』
『分かった。行くわよ!』
――き、来た……
僅か4機ではあるが、あの信濃が操る艦載機だ。軟弱なアメリカ軍機とは違う。空母二人の対空砲の支援もあるとは言え、引き受けてしまったのを早速後悔する妙高。
『さあ、来たぞ、妙高。照準を合わせよ』
「は、はいっ!」
迎撃エリアを想定し、そこに対空機銃と高角砲の角度を合わせ、迎撃の用意をする。冷房の効いた艦内でも、妙高の額から冷たい汗が流れ落ちた。
「十分に引き付けて……引き付けて…………撃つ!!」
妙高は全ての高角砲を一気に作動させ、瑞鶴とツェッペリンと共に重層的な対空砲火を浴びせる。相変わらず射撃の時には敵を直視できなかったが、一連の射撃の後、ゆっくりと視線を上げた。
『了解だ、信濃。全艦戦闘配置! 今度こそは奴らに一泡吹かせてやるぞ!』
長門は第五艦隊に陸奥を加えた五名に命じた。
「あいつら……あいつらのせいで、妙高は……!」
高雄の認識では、妙高は未知の艦影――つまり瑞鶴の攻撃を受けて航行不能になったということになっている。だから復讐心が彼女の心の大部分を占めていた。
『落ち着くのだ、高雄。冷静にならないと、勝てる戦も勝てなくなるぞ』
「…………分かりました。申し訳ありません」
『一番落ち着いてないのは誰でしょうね、長門?』
『う、うるさいな、陸奥……』
長門は平静を装っているだけで、どうするべきか一番苦悩していた。そんな様子は妹の陸奥には丸見えである。
『なあ、陸奥、お前はどこまで知っているんだ?』
『どこまで? 一体何の話をしてるのかしら?』
『……何でもない。ともかく、防空はお前に任せるぞ』
『そのくらい朝飯前よ。うん、私もたまには体を動かさないとっ』
長門と陸奥。かつて世界最強と謳われた姉妹の対空砲火は決して甘く見ていいものではない。
○
同時に瑞鶴とグラーフ・ツェッペリンも偵察機を飛ばして、第五艦隊の陣容を把握していた。
『陸奥……どうしてあいつがここにいるのよ』
『戦艦が二隻とは聞いておらんぞ』
「陸奥さん……確かにあの方がいらっしゃるのは、厳しい……」
『あら、あなた陸奥と知り合いなの?』
「そういう訳ではありませんが……帝国海軍で知らない船魄はいないですよ」
陸奥は長門と並んで連合艦隊旗艦を何度も務めた戦艦だ。そしてその戦闘能力は長門と等しい。一隻いるだけでも脅威となる長門型が二隻もいるというのは想定外だ。
「瑞鶴さん、大丈夫でしょうか……」
『何とかしてやるわ。長門も陸奥も船魄としては私の後輩、負けてはいられない』
瑞鶴の闘争心に火が付いた。自分にそんな心が残っていたのかと、驚く彼女であった。
『ツェッペリン、手を貸しなさい』
『め、命じるのは我だ。行くぞ、瑞鶴』
『どっちでもいいわ。但し妙高、敵がこれだと手加減するのは難しい。ちょっとは痛めつけることになっちゃうかもしれないけど、いい?』
「……分かりました。妙高のわがままのためにお二人が傷つくのは、嫌です」
『言ってくれるじゃない。じゃ、作戦通り私達が隙を作るわ。妙高は暫く待機』
「はい!」
『それでは……艦載機、全機発艦!』
瑞鶴とツェッペリンは戦闘機と攻撃機を全機発艦させ、戦いの火蓋は切られた。と同時に、信濃からも艦載機が放たれ、妙高達に向かって全速力で飛んできた。
『な、あいつ、こっちに仕掛けてくるって言うの?』
『何を驚いておる。攻撃こそ最大の防御と言うではないか』
『まあね。じゃあ可哀そうだけど、信濃の艦載機は全部落とすわ』
「お、お願いします……」
これくらいは仕方のない犠牲だと妙高は覚悟を決めた。
さて、200キロほど離れた両艦隊のちょうど中間で戦闘機同士の戦闘が開始された。今や数でも信濃を上回っている瑞鶴とツェッペリンは、たちまちその編隊をほとんど犠牲を出さずに撃墜していく。瑞鶴の八年式艦上戦闘機――日本最後にして世界最強のプロペラ戦闘機『颶風(ぐふう)』は、旧式ではあるもののジェット戦闘機である飄風を圧倒していた。
「す、すごい、ですね……。あの信濃が、あっという間に……」
『あいつは比較的古い船魄だけど、私とは比べるまでもないわ』
『っ、おい、瑞鶴、敵機が抜けそうだ!』
『ちょっと何やってるのよ!』
「お、お二人とも……」
ツェッペリンが押さえていた編隊のうち攻撃機4機が強引に防衛線を突破し、妙高達に向かって猛進を始めた。何としてでも本体の空母にダメージを与えたいらしい。
『ツェッペリン! 何とかして落としなさいよ!』
『す、すまぬ、最高速度では、やはり最新機には……』
船魄は兵器の性能を極限まで引き出す存在。逆に言えば兵器のスペックを超えた活躍をさせることは出来ない。一直線に追いかけっこをするのなら、最新の戦闘機を使った者の方が勝つのである。
『どうすんのよ! あんたが指揮を執るんでしょ!』
「あ、あの!」
妙高は全く大人気ない先輩の言い争いの間に、勇気を振り絞って声を上げた。
『どうした、妙高よ?』
「妙高も重巡洋艦です! 対空砲火くらいはできます!」
『ほう、よかろう。瑞鶴と共に、我の護衛に当たるがいい。瑞鶴、お前と我は共に敵艦隊を目指すぞ!』
『分かった。行くわよ!』
――き、来た……
僅か4機ではあるが、あの信濃が操る艦載機だ。軟弱なアメリカ軍機とは違う。空母二人の対空砲の支援もあるとは言え、引き受けてしまったのを早速後悔する妙高。
『さあ、来たぞ、妙高。照準を合わせよ』
「は、はいっ!」
迎撃エリアを想定し、そこに対空機銃と高角砲の角度を合わせ、迎撃の用意をする。冷房の効いた艦内でも、妙高の額から冷たい汗が流れ落ちた。
「十分に引き付けて……引き付けて…………撃つ!!」
妙高は全ての高角砲を一気に作動させ、瑞鶴とツェッペリンと共に重層的な対空砲火を浴びせる。相変わらず射撃の時には敵を直視できなかったが、一連の射撃の後、ゆっくりと視線を上げた。
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