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第三章 戦いの布告
グラーフ・ツェッペリン
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所変わって、キューバのグアンタナモ基地跡にて。
「妙高、有力な情報が入ったわ。第五艦隊が単独で、通常の哨戒任務に出るそうよ」
「そ、それはつまり……」
「そう、出撃。これ以上ない好機よ。準備はできてるでしょうね?」
「もちろんです! 今すぐにでも出れます。みんなを、助け出さないと……」
時は来た。第五艦隊が単独で海に出るという情報を瑞鶴は手に入れたのである。
「第五艦隊の概ねの航路は調べが付いてる。私達はここで待ち伏せをして、何とかするわ」
「了解です。妙高、頑張ります……」
「何? 緊張しているの?」
「そ、それは……逆に瑞鶴さんは緊張しないんですか?」
「このくらい、日本の未来を背負うのと比べたら気楽なものよ」
「規模が壮大すぎます……」
瑞鶴はほとんど一人で日本を守った英雄なわけで、妙高にはそんな境地は理解できなかった。
「そうだ、あなたが不安がると思って、援軍を用意してあるわ。心強くはないけど」
「援軍?」
「ええ。ツェッペリン、来て」
「ツェッペリン……?」
瑞鶴が無線で呼びつけて数分。厚い灰色のコートに身を包み、長い王笏を突きながら歩く、白い髪と赤い目を持った少女が姿を現した。そして何よりも目立つのは、その背中から伸びたコウモリのような巨大な羽である。
「は、羽……」
「紹介するわ。私の何年来かの友達、グラーフ・ツェッペリンよ。あ、ちなみに、彼女の羽は私達の角とか耳とか尻尾と同じものよ」
ドイツ人は少女の顔が傷つくのを嫌ったらしい。だから脊椎に突き刺された無数の機械を軸にした羽を代わりに設けた。座りにくそうである。
「うむ。我はグラーフ・ツェッペリン。我は伯爵であり、ドイツで唯一の空母型船魄であり、ドイツの希望である。我に従うがいい」
「お、おお……何かすごい方が来ましたね」
基準排水量三万三千トン、全長263メートル、アドルフ・ヒトラー総統の下で建造されたドイツ初の近代的航空母艦、硬式飛行船を発明したツェッペリン伯爵にあやかった名を持つ艦、グラーフ・ツェッペリン。全長だけなら大和型戦艦にも匹敵する巨艦である。
「で、お前は誰なのだ?」
「え、あ、私は妙高といいます! 妙高型重巡洋艦一番艦です」
「そうか、妙高。重巡洋艦なれば、伯爵(グラーフ)たる我に仕えるがよい」
グラーフ・ツェッペリンの尊大極まる態度に、妙高は少し意地悪したくなった。
「あの、妙高も、畏くも天皇陛下から伯爵位を賜ってまして」
船魄達を少しでも労いたいとの思し召しにより、帝国では船魄に特別の爵位が授けられることになっている。もちろん貴族院議員の資格など通常の華族の特権は付与されず、名前だけのものであるが。
「なぬっ……。わ、我はドイツ唯一の空母型船魄であり、ドイツの希望で――」
「あなたの妹、ペーター・シュトラッサーだっけ? 彼女も結構前に就役したじゃない。ていうか、その自己紹介そろそろ更新したら?」
「…………わ、我は、ドイツの希望なのだ!」
――すっごいおっちょこちょいな人だ……
見た目と話し方ほど大したことがない人で、妙高は安心した。
「と、ともかく、お前達は我の指揮下で戦うがよい。我が勝利に導こう」
「別にその必要はないわ。でも私とほとんど同じくらいに造られた船魄だから、実力については信用してもいい」
「ドイツとアーリア人を蛮族の手から救ったのは、この我である。敬服するがいい」
「は、はぁ……。まあすごいことは認めるんですけども」
グラーフ・ツェッペリンは日本からの技術提供で瑞鶴とほぼ同時期に完成した船魄である。瑞鶴は知らなかったが、遥か彼方のヨーロッパでは彼女がソ連やイギリス、アメリカと戦っていたのだ。
結果としてドイツは連合国軍を全て撃退することに成功し、イギリスを制圧し、ヨーロッパ・アーリア人共同体を創設して、ヨーロッパの盟主となった。因みにヒトラー総統は戦後に引退し、ドイツの現在の最高指導者はヨーゼフ・ゲッベルス大統領である。
「しかし……ここにいるということは、あなたも軍から脱走した船魄なのですか?」
「脱走などとは人聞きの悪い。海軍の重要性を理解しないゲッベルスの馬鹿が、我の仕えるべき主ではなかったから、我が奴を見限ったのだ」
「うーん……なるほど?」
「色々理由があるのよ。とにかく、流石に空母と重巡一隻ずつでは不安だからね。彼女と三隻で作戦を遂行するわ」
「はい。よろしくお願いします、ツェッペリンさん」
「よろしく頼もう、妙高よ」
ツェッペリンの手袋を着けた手を、妙高は握った。が、その時であった。キューバ軍の兵士が大急ぎで駆けつけてきた。
「大変だ! 正体不明の軍艦が近づいてきてるぞ!」
「へえ。あなた達は安全なところに隠れてて。ツェッペリン、妙高、戦闘の準備を」
敵か味方か分からないが、味方だったらすぐに矛を収めればいいだけだ。三隻の船魄は直ちに戦闘態勢に入った。と言っても、二隻の空母は後方に控え、妙高だけが前線に出る訳だが。
「妙高、有力な情報が入ったわ。第五艦隊が単独で、通常の哨戒任務に出るそうよ」
「そ、それはつまり……」
「そう、出撃。これ以上ない好機よ。準備はできてるでしょうね?」
「もちろんです! 今すぐにでも出れます。みんなを、助け出さないと……」
時は来た。第五艦隊が単独で海に出るという情報を瑞鶴は手に入れたのである。
「第五艦隊の概ねの航路は調べが付いてる。私達はここで待ち伏せをして、何とかするわ」
「了解です。妙高、頑張ります……」
「何? 緊張しているの?」
「そ、それは……逆に瑞鶴さんは緊張しないんですか?」
「このくらい、日本の未来を背負うのと比べたら気楽なものよ」
「規模が壮大すぎます……」
瑞鶴はほとんど一人で日本を守った英雄なわけで、妙高にはそんな境地は理解できなかった。
「そうだ、あなたが不安がると思って、援軍を用意してあるわ。心強くはないけど」
「援軍?」
「ええ。ツェッペリン、来て」
「ツェッペリン……?」
瑞鶴が無線で呼びつけて数分。厚い灰色のコートに身を包み、長い王笏を突きながら歩く、白い髪と赤い目を持った少女が姿を現した。そして何よりも目立つのは、その背中から伸びたコウモリのような巨大な羽である。
「は、羽……」
「紹介するわ。私の何年来かの友達、グラーフ・ツェッペリンよ。あ、ちなみに、彼女の羽は私達の角とか耳とか尻尾と同じものよ」
ドイツ人は少女の顔が傷つくのを嫌ったらしい。だから脊椎に突き刺された無数の機械を軸にした羽を代わりに設けた。座りにくそうである。
「うむ。我はグラーフ・ツェッペリン。我は伯爵であり、ドイツで唯一の空母型船魄であり、ドイツの希望である。我に従うがいい」
「お、おお……何かすごい方が来ましたね」
基準排水量三万三千トン、全長263メートル、アドルフ・ヒトラー総統の下で建造されたドイツ初の近代的航空母艦、硬式飛行船を発明したツェッペリン伯爵にあやかった名を持つ艦、グラーフ・ツェッペリン。全長だけなら大和型戦艦にも匹敵する巨艦である。
「で、お前は誰なのだ?」
「え、あ、私は妙高といいます! 妙高型重巡洋艦一番艦です」
「そうか、妙高。重巡洋艦なれば、伯爵(グラーフ)たる我に仕えるがよい」
グラーフ・ツェッペリンの尊大極まる態度に、妙高は少し意地悪したくなった。
「あの、妙高も、畏くも天皇陛下から伯爵位を賜ってまして」
船魄達を少しでも労いたいとの思し召しにより、帝国では船魄に特別の爵位が授けられることになっている。もちろん貴族院議員の資格など通常の華族の特権は付与されず、名前だけのものであるが。
「なぬっ……。わ、我はドイツ唯一の空母型船魄であり、ドイツの希望で――」
「あなたの妹、ペーター・シュトラッサーだっけ? 彼女も結構前に就役したじゃない。ていうか、その自己紹介そろそろ更新したら?」
「…………わ、我は、ドイツの希望なのだ!」
――すっごいおっちょこちょいな人だ……
見た目と話し方ほど大したことがない人で、妙高は安心した。
「と、ともかく、お前達は我の指揮下で戦うがよい。我が勝利に導こう」
「別にその必要はないわ。でも私とほとんど同じくらいに造られた船魄だから、実力については信用してもいい」
「ドイツとアーリア人を蛮族の手から救ったのは、この我である。敬服するがいい」
「は、はぁ……。まあすごいことは認めるんですけども」
グラーフ・ツェッペリンは日本からの技術提供で瑞鶴とほぼ同時期に完成した船魄である。瑞鶴は知らなかったが、遥か彼方のヨーロッパでは彼女がソ連やイギリス、アメリカと戦っていたのだ。
結果としてドイツは連合国軍を全て撃退することに成功し、イギリスを制圧し、ヨーロッパ・アーリア人共同体を創設して、ヨーロッパの盟主となった。因みにヒトラー総統は戦後に引退し、ドイツの現在の最高指導者はヨーゼフ・ゲッベルス大統領である。
「しかし……ここにいるということは、あなたも軍から脱走した船魄なのですか?」
「脱走などとは人聞きの悪い。海軍の重要性を理解しないゲッベルスの馬鹿が、我の仕えるべき主ではなかったから、我が奴を見限ったのだ」
「うーん……なるほど?」
「色々理由があるのよ。とにかく、流石に空母と重巡一隻ずつでは不安だからね。彼女と三隻で作戦を遂行するわ」
「はい。よろしくお願いします、ツェッペリンさん」
「よろしく頼もう、妙高よ」
ツェッペリンの手袋を着けた手を、妙高は握った。が、その時であった。キューバ軍の兵士が大急ぎで駆けつけてきた。
「大変だ! 正体不明の軍艦が近づいてきてるぞ!」
「へえ。あなた達は安全なところに隠れてて。ツェッペリン、妙高、戦闘の準備を」
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