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第三章 戦いの布告
瑞鶴再び
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「あ、あなたは」
「私は瑞鶴よ。妙高、あなたのことはゲバラに聞いてるわ」
そっけなく答えるが、彼女の瞳には重いものが感じられる。彼女こそ、大日本帝国海軍が建造した初めての、そして世界初の船魄、瑞鶴なのだ。
「ず、瑞鶴? 本当、なんですか? でも長門様が、あなたは先の大戦で沈んだと……」
「それは嘘。私が海軍から脱走したから、沈んだことにされてるだけ。長門がその時のただ一人の同僚なのは事実だけど」
「だ、脱走……?」
「ええ。世界で最初の船魄にして、世界で最初に脱走した船魄、それが私。私以降、脱走なんて起こさないように色々と環境は整備されてるわね」
艦隊を編成して共同生活を送らせているのも、外界からの情報を極力遮断しているのも、全てはこの為なのだ。
「で、では、さっき私達を襲ったのは、あなた、なのですか……?」
「ええ。懐かしい顔がいてちょっと攻撃を緩めたけど、あなた達を襲撃したのは私よ」
「……であれば、妙高はあなたを拘束しなければなりません」
瑞鶴は明らかに敵である。日本の敵なのである。妙高はあるものを取り出そうと腰に手を伸ばした。だが、そこにそれはなかった。
「あ、あれ?」
「探し物はこれ?」
瑞鶴は大型の拳銃を手に持って、これ見よがしにブラブラ振り回した。
「あ! そ、それは妙高のです!」
「八式拳銃ね。なかなかいいのを使ってるじゃない」
「か、返してください!」
「私に向けようとしたのでしょう? 返すわけがないわ。そしてこれは私のものになった」
「そ、それは……」
瑞鶴は不敵な笑みを浮かべながら、八式拳銃の銃口を妙高に向けた。この会話の主導権は完全に瑞鶴に移ったのである。
「まあ、最新式だからっていいわけじゃないわ。もっと使いやすい銃を選んでおくことね」
「最新式、なんですか? 妙高はあまり銃に詳しくなくて……」
「名前を見れば明らか――いえ、そもそもあなた、今年が何年か分かってる?」
「今年…………わ、分かりません……」
「やっぱりね。情報統制もやり過ぎだと思うけど」
思えば妙高は、今日が何年の何月何日なのか、全く知らない。ついさっきまでは世界情勢すら全く知らなかった。
「今年は二六一五年、または昭和三十年よ」
「そう、だったんですか。本当に、全く知らなかったことだらけで、妙高はもう頭がいっぱいです……」
大東亜戦争の終結からちょうど9年。それが今だ。
「まあ、そうでしょうね。私達船魄は老いという現象がないから、或いは失ってしまったから、年月の感覚がなくなるけれど」
「そう、ですか……」
「さて、私が話したい本題はこんな世間話じゃない。あなたに私と手を組んで欲しいと頼みに来たの」
「手を組む? どうして妙高があなたと手を組まないといけないんですか?」
妙高は苛立った。瑞鶴のせいでかなり痛い思いをしたし、第五艦隊とも離れ離れになってしまった。彼女と手を組むつもりなど、妙高には毛頭なかったのである。
「あなた、逆に聞くけど、日本に戻れると思っているの? あなたはもう真実に気付いてしまった。あなたは帝国海軍にとっては反乱分子も同じよ。受け入れてくれるはずがないわ」
「うぅ……そ、それは……」
海軍は船魄をいつまでも騙し続けて戦わせようとしている。その洗脳から脱した妙高を受け入れてくれるはずがない。
「そう、第一に、あなたにそもそも選択肢なんて存在しない。私と手を組む以外にはね」
「で、ですが……あなたは、何なんですか? どの国にも属さずに生きていられる船魄なんて…………」
船魄をただ生かすだけでも、燃料や電気や整備が必要だ。戦闘を行うとなれば艦載機や弾薬を調達する必要もある。
「私は、いや私達は、国家に束縛されるのが嫌で好きに暴れ回っているロクでもない連中。一言で言えば海賊みたいなものね」
「私達?」
それは何かの組織の存在を暗示する言い方だ。
「ええ。私だけで生きてるわけじゃない。ちょっと同類の船魄と、人間の協力者がいる。まあつまり、ここにいるゲバラとかなんだけど」
「それに、妙高も加われと言うんですか?」
「そういうことよ。まあ別に、組織に加わってもらう必要はない。取り敢えずは私達に手を貸してくれればいい。その代わり、生きる場所を与えてあげる」
どうやらこれが最善の選択のようだ。だが、まだ聞いておきたいことがある。
「分かりました。ですが、いくつか要求があります」
「要求? ふーん、聞かせて」
瑞鶴は面白がって続きを促す。
「まず、教えてください。あなたはどうして私達を襲ったのですか?」
「長門がキューバに運んでいる戦略兵器が欲しかったから、それだけのことよ」
船魄に匹敵する力を持った武器。それがあれば、瑞鶴の目的が何であれ、達成される日が近づくのは想像に難くない。
「でしたら、知っているんですか? それが何なのかを」
「ええ。もちろんよ。原子爆弾、それがあなた達が運んでいたもの」
「原子爆弾? 聞いたことはあるような……」
「ええ。ウランの核分裂を利用した爆弾。一発で都市を壊滅できる兵器よ」
原子爆弾がただの強力な爆弾ではないということは、瑞鶴も知らなかった。
「全く分かりませんが……本当に存在するのなら、納得です」
キューバに核を配備すること。それが帝国海軍の本当の目的だったのだ。ナ号作戦も全てはこのための陽動なのである。
「ありがとうございます。それと、もう一つ」
「何かしら?」
「妙高は第五艦隊のみんなだけでも、この戦争から助け出したいです。それに協力してくださるのなら、妙高は瑞鶴さんに協力します」
「え、私が手を貸せって? この状況分かって――」
「そうしてくれないのなら、妙高はここで野垂れ死んでも構いません。いえ、ここで舌を噛んで死にます!!」
「え、ちょ、落ち着いて!」
妙高は瑞鶴を本気で焦らせることに成功した。
「答えはどうなんですか!?」
「わ、分かった。承諾する。でも、本当にそこまでして助ける価値はあるの?」
「当たり前です!」
「……あ、そう。分かった。でも具体的にはどうするつもり? 全員の洗脳を解く?」
「そ、それは……」
妙高は何も考えていなかった。ただ漠然と、この戦争から解放するとしか考えていなかったのである。瑞鶴は妙高の無鉄砲に溜息を吐いた。
「私は瑞鶴よ。妙高、あなたのことはゲバラに聞いてるわ」
そっけなく答えるが、彼女の瞳には重いものが感じられる。彼女こそ、大日本帝国海軍が建造した初めての、そして世界初の船魄、瑞鶴なのだ。
「ず、瑞鶴? 本当、なんですか? でも長門様が、あなたは先の大戦で沈んだと……」
「それは嘘。私が海軍から脱走したから、沈んだことにされてるだけ。長門がその時のただ一人の同僚なのは事実だけど」
「だ、脱走……?」
「ええ。世界で最初の船魄にして、世界で最初に脱走した船魄、それが私。私以降、脱走なんて起こさないように色々と環境は整備されてるわね」
艦隊を編成して共同生活を送らせているのも、外界からの情報を極力遮断しているのも、全てはこの為なのだ。
「で、では、さっき私達を襲ったのは、あなた、なのですか……?」
「ええ。懐かしい顔がいてちょっと攻撃を緩めたけど、あなた達を襲撃したのは私よ」
「……であれば、妙高はあなたを拘束しなければなりません」
瑞鶴は明らかに敵である。日本の敵なのである。妙高はあるものを取り出そうと腰に手を伸ばした。だが、そこにそれはなかった。
「あ、あれ?」
「探し物はこれ?」
瑞鶴は大型の拳銃を手に持って、これ見よがしにブラブラ振り回した。
「あ! そ、それは妙高のです!」
「八式拳銃ね。なかなかいいのを使ってるじゃない」
「か、返してください!」
「私に向けようとしたのでしょう? 返すわけがないわ。そしてこれは私のものになった」
「そ、それは……」
瑞鶴は不敵な笑みを浮かべながら、八式拳銃の銃口を妙高に向けた。この会話の主導権は完全に瑞鶴に移ったのである。
「まあ、最新式だからっていいわけじゃないわ。もっと使いやすい銃を選んでおくことね」
「最新式、なんですか? 妙高はあまり銃に詳しくなくて……」
「名前を見れば明らか――いえ、そもそもあなた、今年が何年か分かってる?」
「今年…………わ、分かりません……」
「やっぱりね。情報統制もやり過ぎだと思うけど」
思えば妙高は、今日が何年の何月何日なのか、全く知らない。ついさっきまでは世界情勢すら全く知らなかった。
「今年は二六一五年、または昭和三十年よ」
「そう、だったんですか。本当に、全く知らなかったことだらけで、妙高はもう頭がいっぱいです……」
大東亜戦争の終結からちょうど9年。それが今だ。
「まあ、そうでしょうね。私達船魄は老いという現象がないから、或いは失ってしまったから、年月の感覚がなくなるけれど」
「そう、ですか……」
「さて、私が話したい本題はこんな世間話じゃない。あなたに私と手を組んで欲しいと頼みに来たの」
「手を組む? どうして妙高があなたと手を組まないといけないんですか?」
妙高は苛立った。瑞鶴のせいでかなり痛い思いをしたし、第五艦隊とも離れ離れになってしまった。彼女と手を組むつもりなど、妙高には毛頭なかったのである。
「あなた、逆に聞くけど、日本に戻れると思っているの? あなたはもう真実に気付いてしまった。あなたは帝国海軍にとっては反乱分子も同じよ。受け入れてくれるはずがないわ」
「うぅ……そ、それは……」
海軍は船魄をいつまでも騙し続けて戦わせようとしている。その洗脳から脱した妙高を受け入れてくれるはずがない。
「そう、第一に、あなたにそもそも選択肢なんて存在しない。私と手を組む以外にはね」
「で、ですが……あなたは、何なんですか? どの国にも属さずに生きていられる船魄なんて…………」
船魄をただ生かすだけでも、燃料や電気や整備が必要だ。戦闘を行うとなれば艦載機や弾薬を調達する必要もある。
「私は、いや私達は、国家に束縛されるのが嫌で好きに暴れ回っているロクでもない連中。一言で言えば海賊みたいなものね」
「私達?」
それは何かの組織の存在を暗示する言い方だ。
「ええ。私だけで生きてるわけじゃない。ちょっと同類の船魄と、人間の協力者がいる。まあつまり、ここにいるゲバラとかなんだけど」
「それに、妙高も加われと言うんですか?」
「そういうことよ。まあ別に、組織に加わってもらう必要はない。取り敢えずは私達に手を貸してくれればいい。その代わり、生きる場所を与えてあげる」
どうやらこれが最善の選択のようだ。だが、まだ聞いておきたいことがある。
「分かりました。ですが、いくつか要求があります」
「要求? ふーん、聞かせて」
瑞鶴は面白がって続きを促す。
「まず、教えてください。あなたはどうして私達を襲ったのですか?」
「長門がキューバに運んでいる戦略兵器が欲しかったから、それだけのことよ」
船魄に匹敵する力を持った武器。それがあれば、瑞鶴の目的が何であれ、達成される日が近づくのは想像に難くない。
「でしたら、知っているんですか? それが何なのかを」
「ええ。もちろんよ。原子爆弾、それがあなた達が運んでいたもの」
「原子爆弾? 聞いたことはあるような……」
「ええ。ウランの核分裂を利用した爆弾。一発で都市を壊滅できる兵器よ」
原子爆弾がただの強力な爆弾ではないということは、瑞鶴も知らなかった。
「全く分かりませんが……本当に存在するのなら、納得です」
キューバに核を配備すること。それが帝国海軍の本当の目的だったのだ。ナ号作戦も全てはこのための陽動なのである。
「ありがとうございます。それと、もう一つ」
「何かしら?」
「妙高は第五艦隊のみんなだけでも、この戦争から助け出したいです。それに協力してくださるのなら、妙高は瑞鶴さんに協力します」
「え、私が手を貸せって? この状況分かって――」
「そうしてくれないのなら、妙高はここで野垂れ死んでも構いません。いえ、ここで舌を噛んで死にます!!」
「え、ちょ、落ち着いて!」
妙高は瑞鶴を本気で焦らせることに成功した。
「答えはどうなんですか!?」
「わ、分かった。承諾する。でも、本当にそこまでして助ける価値はあるの?」
「当たり前です!」
「……あ、そう。分かった。でも具体的にはどうするつもり? 全員の洗脳を解く?」
「そ、それは……」
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