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第三章 戦いの布告
決意
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結論としては、妙高が戦っていたのはアメリカ軍の船魄であり、自分の同類を何人も殺していたのである。いくらアメリカの侵略の手足になっていたとしても、船魄を殺すのは心が痛む。
「――で、ですが、相手が船魄だと言うのなら、どうして第五艦隊はここまで犠牲が出ずに敵を圧倒できたのでしょうか? もしかしたら、船魄ではなく、普通の艦だったのかも」
「僕はそこら辺には詳しくないんだけど、アメリカ軍の船魄は日本やドイツ、ソ連のそれと比べてかなり弱いらしい」
「それはどうしてです……?」
「アメリカ人ってのは人間を歯車としか思っていない資本主義を信奉している連中だからね」
「その船魄もまた人間のように扱われてはいない、ということですか?」
「そうそう。まあこれは聞いた話でしかないし、僕にはよく分からないんだけど。残念ながら我が革命海軍には漁船に毛が生えた程度の船しかなくてね」
「それなら、妙高には分かります。船魄はただの武器ではありません。生きています、人間のように考えて、感情を持っています。それを抑え込むなら、それはただの人形です」
妙高もそれなりの軍務経験があるから分かる。船魄を人間の兵士と同じように扱っては、全くその力を引き出すことはできない。船魄にとって重要なのは強い自我を持っていることなのだ。人間の兵士のように個性を捨てさせた船魄など、個性豊かな第五艦隊の敵ではない。
「なるほど。君にはコムニスタ(共産主義者)の素質があるね」
「べ、別に、妙高は主義者ではありませんので」
「冗談だよ。真に受けなくていい」
「ですが、いくら言葉を尽くしても、妙高は、何人も船魄を殺してしまったんですね……」
例え人間性を奪われた船魄であっても、同じ運命を背負わせられた同類だ。それを何人も殺させられていたことに、妙高はただ悔やむことしかできなかった。
「君は、その事実から目を背けるのか?」
急に真剣な眼差しを向けるゲバラ。妙高はその気迫に気押されてしまう。
「そ、それは……目だって背けたくなりますよ! だって、妙高は……」
「では君は、何のために戦っていたんだ? 決してアイギスとやらを皆殺しにしたいからじゃないはずだ」
「み、みんなを守るためです! 大切な、第五艦隊のみんなを」
名目上は敵を殲滅することが彼女らの最終的な目標であったが、決してその為だけに戦っていたのではない。妙高の心の中で一番の重さを持っていたのは、友達を守る、ただそれだけだ。
「そうだ。そうだろう。君は正しいと信じるもののために、自分のできることを何でもやって戦ってきた。その気持ちが間違っていたと言うのかい?」
「そうは、思いません」
「ああ。君は間違ってはいない。敵が誰だろうと何だろうと、君は正しいことをしようとした。だから、その行いを悔いることはないんだ」
黙り込む。そうは言われても、妙高にはまだ事実を完全に受け止めることはできなかった。
「まあ、人殺しを受け入れることは辛いだろう。それに、僕は寧ろ、あまりにも人を殺すことに慣れてしまった。君のように人を殺すことを悲しめるのが羨ましいよ」
「そ、それは…………」
「泣けるうちに泣いておけってことさ。そして、目を向けるべきは過去ではない。未来だ。過去を悔やんでいる暇があるなら、その過去を清算するんだ」
「清算……?」
「ああ。君は同属同士で殺し合いをしたくないんだろう? だったら、それを止めさせればいい。君がこの戦争に終止符を打つんだ」
「そ、そんな、妙高にはあまりにも……」
「できもしないことを言っていると思うかい?」
「申し訳ありませんが……はい」
「ああ、その通りだ」
「は、はい?」
「その通りだと言ってる。僕は空想家だし救いがたい理想主義者なんだろう。だが、それで何が悪い。誰かが馬鹿げた理想を掲げなければ、この世界は停滞してしまうだけなんだ」
「妙高は、ゲバラさんみたいな考えはできませんよ……」
「あっ……そう、だね。すまない」
ゲバラは少し熱くなってしまったことを反省した。そして助言を現実的なものに切り替える。
「だったら、まずは君の友達から救うのがいい」
「救う……?」
「君の仲間はみんな、船魄を何か別のものと認識させられているんだろう? だったら、その目を覚まさせてやるんだ」
「妙高が、みんなを」
「だが、それはいいことばかりではない。君の仲間全員に、残酷な真実を突き付けることになるだろう」
知らなければ、正義のためだと信じて無邪気に戦い続けることができる。真実を知らせるということは、目を覚ませるということは、船魄達にとって残酷なことだ。
「さあ、君はどうする? いや、どうしたい?」
「妙高は……それでも、みんなに殺し合いを続けて欲しくはないです。例え、みんなを傷付けることになっても」
知ってしまったからには見ていられない。妙高の心は怒りと決意で燃えていた。
「君はなかなか強い意志を持っているようだね。そういう子は好きだよ。と、話を誘導したみたいな感じになるんだけど、君に会って欲しい人がいてね」
「妙高に、会って欲しい人?」
「ああ。ついて来てくれ。君の艦については心配しないでいいよ」
「は、はい……」
ゲバラに連れられるままに海岸線を歩くと、海を見つめて佇む一人の少女がそこにいた。その少女の頭には二本の角が生え、腰からは長い尻尾が生えて体に巻き付いている。
「――で、ですが、相手が船魄だと言うのなら、どうして第五艦隊はここまで犠牲が出ずに敵を圧倒できたのでしょうか? もしかしたら、船魄ではなく、普通の艦だったのかも」
「僕はそこら辺には詳しくないんだけど、アメリカ軍の船魄は日本やドイツ、ソ連のそれと比べてかなり弱いらしい」
「それはどうしてです……?」
「アメリカ人ってのは人間を歯車としか思っていない資本主義を信奉している連中だからね」
「その船魄もまた人間のように扱われてはいない、ということですか?」
「そうそう。まあこれは聞いた話でしかないし、僕にはよく分からないんだけど。残念ながら我が革命海軍には漁船に毛が生えた程度の船しかなくてね」
「それなら、妙高には分かります。船魄はただの武器ではありません。生きています、人間のように考えて、感情を持っています。それを抑え込むなら、それはただの人形です」
妙高もそれなりの軍務経験があるから分かる。船魄を人間の兵士と同じように扱っては、全くその力を引き出すことはできない。船魄にとって重要なのは強い自我を持っていることなのだ。人間の兵士のように個性を捨てさせた船魄など、個性豊かな第五艦隊の敵ではない。
「なるほど。君にはコムニスタ(共産主義者)の素質があるね」
「べ、別に、妙高は主義者ではありませんので」
「冗談だよ。真に受けなくていい」
「ですが、いくら言葉を尽くしても、妙高は、何人も船魄を殺してしまったんですね……」
例え人間性を奪われた船魄であっても、同じ運命を背負わせられた同類だ。それを何人も殺させられていたことに、妙高はただ悔やむことしかできなかった。
「君は、その事実から目を背けるのか?」
急に真剣な眼差しを向けるゲバラ。妙高はその気迫に気押されてしまう。
「そ、それは……目だって背けたくなりますよ! だって、妙高は……」
「では君は、何のために戦っていたんだ? 決してアイギスとやらを皆殺しにしたいからじゃないはずだ」
「み、みんなを守るためです! 大切な、第五艦隊のみんなを」
名目上は敵を殲滅することが彼女らの最終的な目標であったが、決してその為だけに戦っていたのではない。妙高の心の中で一番の重さを持っていたのは、友達を守る、ただそれだけだ。
「そうだ。そうだろう。君は正しいと信じるもののために、自分のできることを何でもやって戦ってきた。その気持ちが間違っていたと言うのかい?」
「そうは、思いません」
「ああ。君は間違ってはいない。敵が誰だろうと何だろうと、君は正しいことをしようとした。だから、その行いを悔いることはないんだ」
黙り込む。そうは言われても、妙高にはまだ事実を完全に受け止めることはできなかった。
「まあ、人殺しを受け入れることは辛いだろう。それに、僕は寧ろ、あまりにも人を殺すことに慣れてしまった。君のように人を殺すことを悲しめるのが羨ましいよ」
「そ、それは…………」
「泣けるうちに泣いておけってことさ。そして、目を向けるべきは過去ではない。未来だ。過去を悔やんでいる暇があるなら、その過去を清算するんだ」
「清算……?」
「ああ。君は同属同士で殺し合いをしたくないんだろう? だったら、それを止めさせればいい。君がこの戦争に終止符を打つんだ」
「そ、そんな、妙高にはあまりにも……」
「できもしないことを言っていると思うかい?」
「申し訳ありませんが……はい」
「ああ、その通りだ」
「は、はい?」
「その通りだと言ってる。僕は空想家だし救いがたい理想主義者なんだろう。だが、それで何が悪い。誰かが馬鹿げた理想を掲げなければ、この世界は停滞してしまうだけなんだ」
「妙高は、ゲバラさんみたいな考えはできませんよ……」
「あっ……そう、だね。すまない」
ゲバラは少し熱くなってしまったことを反省した。そして助言を現実的なものに切り替える。
「だったら、まずは君の友達から救うのがいい」
「救う……?」
「君の仲間はみんな、船魄を何か別のものと認識させられているんだろう? だったら、その目を覚まさせてやるんだ」
「妙高が、みんなを」
「だが、それはいいことばかりではない。君の仲間全員に、残酷な真実を突き付けることになるだろう」
知らなければ、正義のためだと信じて無邪気に戦い続けることができる。真実を知らせるということは、目を覚ませるということは、船魄達にとって残酷なことだ。
「さあ、君はどうする? いや、どうしたい?」
「妙高は……それでも、みんなに殺し合いを続けて欲しくはないです。例え、みんなを傷付けることになっても」
知ってしまったからには見ていられない。妙高の心は怒りと決意で燃えていた。
「君はなかなか強い意志を持っているようだね。そういう子は好きだよ。と、話を誘導したみたいな感じになるんだけど、君に会って欲しい人がいてね」
「妙高に、会って欲しい人?」
「ああ。ついて来てくれ。君の艦については心配しないでいいよ」
「は、はい……」
ゲバラに連れられるままに海岸線を歩くと、海を見つめて佇む一人の少女がそこにいた。その少女の頭には二本の角が生え、腰からは長い尻尾が生えて体に巻き付いている。
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