19 / 407
第一章 大東亜戦記
真珠湾海戦Ⅱ
しおりを挟む
「来たかっ……敵襲! 敵機が60機ほど接近中!」
「もしも船魄が制御しているのだとしたら、これは脅威だ」
『瑞鶴、迎え撃つわよ!』
「もちろんよ。烈風発艦! っ……艦隊は防空を!」
にわかに蘇る、自身を破壊された時の記憶。瑞鶴は大声を張り上げてそれを掻き消し、船魄専用に改造された最新鋭の艦上戦闘機で敵機の迎撃を試みる。
「艦隊に、大和に、近づけさせるものか!」
双方の操縦技術は人知を超えたところで伯仲していた。故に、敵が五航戦を無視して後方に浸透することを望めば、それを止めるのは困難である。
「クソッ……抜けられた!」
『敵機来ます! 大和、迎撃します!』
艦載機同士の戦闘をくぐり抜けてきた米軍機が連合艦隊に迫る。大和が主砲から三式弾を放ったのを号令に、空母を中心に輪形陣を組んだ連合艦隊は対空砲火を始めた。空が燃え、鉄の暴風が吹き荒れる。
『速い、です……!』
「対空砲じゃ追えない!」
第一部隊の上空を羽虫のように飛び回る米軍機。虫のように無害ならいいが、これらは大量の爆弾と魚雷を搭載した敵だ。編隊が急降下すると、たちまち艦隊から黒煙が上がった。
「伊勢が被雷! 大きく傾いています!」
「長門も喰らった!」
「4隻持っていかれたか……」
幸いにして大和と五航戦への被害はなかったが、一度の爆撃と雷撃で多くの艦が損傷し、駆逐艦4隻が沈んだ。敵は続々と墜落するが、まだまだ飛び回っている。
『岡本君、大和では落とせないのか?』
「栗田中将閣下、お言葉ですが大和は戦艦です。防空なら駆逐艦か巡洋艦にでも船魄をつければよかったでしょうに」
大和の本来の仕事は対艦戦闘。対空戦闘はあくまでついでだ。
『す、すみません、大和が射撃が下手なせいで……』
「大丈夫だ。少しずつ確実に落としていけば、我々は勝てる」
「大和、落ち着いて」
『は、はい――痛っ!!』
「大和!?」
大和が被弾したのであろう。鋭い叫び声が通信機から飛び出してくると、瑞鶴はつい意識が大和だけに向いてしまう。
『な、何のこれしき、です! 大和はこれくらいの攻撃では沈みません!』
「そ、それなら、よかった」
『大和は大丈夫です。でも艦隊を守らないと……!』
艦隊の損害は広がるばかり。瑞鶴も舷側の対空砲で応戦しているが、なかなか落とし切ることはできなかった。壮絶な対空戦闘は体感時間では数時間にも感じられたが、実際は20分程度だったという。
「大佐殿、伊勢は自沈処理を始めたとのこと。その他、巡洋艦が3隻、駆逐艦6隻が撃破されたとのことです」
「手酷くやられたものだ。だが、これで脅威は消え失せた」
「そうね。艦載機のない空母なんてただの的よ」
第一部隊は敵を仕留めるべく進撃する。しかし、その時だった。
「大佐、敵機が接近しているわ! 今度は80機!」
「何? まさか、本気で複数の空母に艦載機を搭載しているのか……」
「なんて奴……」
敵機が迫る。友軍艦隊は大きく損耗している。瑞鶴の額に冷や汗が浮かんだ。
○
「うふふ……マッカーサー大将、私は今百回くらい死にました。とても嬉しいです」
「エンタープライズ……。お前は何が嬉しいんだ?」
マッカーサー大将はすぐ隣で恍惚の表情を浮かべている少女に尋ねた。
「分かりませんか? 人はたったの一度しか死ねないんです。でも私は何度でも死を体験できる。これはとても幸せなことでしょう?」
「分からん。今後も分かることもないだろう。だが、お前がいいのならそれでいい」
「そうですか。残念です。では、もっと殺して死にましょう……。艦載機、発艦!!」
アメリカに残された数少ない空母レイテとキアサージに載せた、エンタープライズと接続された艦載機。これらは全てエンタープライズの艦載機として完全に機能する。百機を落とされてもまだまだ彼女の艦載機は残っているのだ。
○
『来ないで! 来ないでください!』
「来るなッッ!」
艦隊は少しずつ数を減らし、その度に対空砲火も薄くなる。空はエンタープライズ艦載機の独壇場となりつつあった。
「落ちろ落ちろ落ちろ! あっ――あああああ!!!」
瑞鶴艦橋に衝撃が走る。米軍機の放った魚雷が左舷前方に命中、ついに瑞鶴に直接の被害が出たのだ。余りの痛みに瑞鶴は絶叫し、倒れ込みそうになるが、岡本大佐が慣れた手つきで彼女を支える。
戦艦や重巡と違って空母は自身が損傷を受けることを前提に造られた艦ではない。だから少し損害を負うだけで、その船魄は手足を吹き飛ばされたような致命的な痛みを伴うのだ。瑞鶴の意識はすぐに遠のいていく。
『瑞鶴さん、耐えて、耐えてください!!』
「大和……も、もち、ろん……!」
大和も声で意識を保ち、汗を床に垂らし手すりに寄りかかりながら、辛うじて自ら立つことができた。しかし、その大和の声も弱弱しいものであった。
「大和、君ももうボロボロじゃないか」
大和は右舷から20本の魚雷を受け、また甲板上にも無数の爆弾を受け、黒煙を上げていた。注水は間に合わずに艦体は左に傾いており、高角砲と機銃は半分以上が破壊されてしまっていた。
『だ、大丈夫です……。大和は、不沈艦です!』
「大和、一緒に、頑張ろう……」
『は、はい……!』
敵はまるで自分の命を顧みない自殺的な攻撃を続ける。多くの艦艇が沈み、全ての艦艇が傷を負った。第一部隊は既に壊滅的な損害を負い、瑞鶴と大和も本来なら撤退すべきほどの損害を負っていた。
だが、敵を、エンタープライズを殺さねばならない。そうでなければ、ただ何の意味もなく貴重な戦力を消耗したことになってしまう。
「もしも船魄が制御しているのだとしたら、これは脅威だ」
『瑞鶴、迎え撃つわよ!』
「もちろんよ。烈風発艦! っ……艦隊は防空を!」
にわかに蘇る、自身を破壊された時の記憶。瑞鶴は大声を張り上げてそれを掻き消し、船魄専用に改造された最新鋭の艦上戦闘機で敵機の迎撃を試みる。
「艦隊に、大和に、近づけさせるものか!」
双方の操縦技術は人知を超えたところで伯仲していた。故に、敵が五航戦を無視して後方に浸透することを望めば、それを止めるのは困難である。
「クソッ……抜けられた!」
『敵機来ます! 大和、迎撃します!』
艦載機同士の戦闘をくぐり抜けてきた米軍機が連合艦隊に迫る。大和が主砲から三式弾を放ったのを号令に、空母を中心に輪形陣を組んだ連合艦隊は対空砲火を始めた。空が燃え、鉄の暴風が吹き荒れる。
『速い、です……!』
「対空砲じゃ追えない!」
第一部隊の上空を羽虫のように飛び回る米軍機。虫のように無害ならいいが、これらは大量の爆弾と魚雷を搭載した敵だ。編隊が急降下すると、たちまち艦隊から黒煙が上がった。
「伊勢が被雷! 大きく傾いています!」
「長門も喰らった!」
「4隻持っていかれたか……」
幸いにして大和と五航戦への被害はなかったが、一度の爆撃と雷撃で多くの艦が損傷し、駆逐艦4隻が沈んだ。敵は続々と墜落するが、まだまだ飛び回っている。
『岡本君、大和では落とせないのか?』
「栗田中将閣下、お言葉ですが大和は戦艦です。防空なら駆逐艦か巡洋艦にでも船魄をつければよかったでしょうに」
大和の本来の仕事は対艦戦闘。対空戦闘はあくまでついでだ。
『す、すみません、大和が射撃が下手なせいで……』
「大丈夫だ。少しずつ確実に落としていけば、我々は勝てる」
「大和、落ち着いて」
『は、はい――痛っ!!』
「大和!?」
大和が被弾したのであろう。鋭い叫び声が通信機から飛び出してくると、瑞鶴はつい意識が大和だけに向いてしまう。
『な、何のこれしき、です! 大和はこれくらいの攻撃では沈みません!』
「そ、それなら、よかった」
『大和は大丈夫です。でも艦隊を守らないと……!』
艦隊の損害は広がるばかり。瑞鶴も舷側の対空砲で応戦しているが、なかなか落とし切ることはできなかった。壮絶な対空戦闘は体感時間では数時間にも感じられたが、実際は20分程度だったという。
「大佐殿、伊勢は自沈処理を始めたとのこと。その他、巡洋艦が3隻、駆逐艦6隻が撃破されたとのことです」
「手酷くやられたものだ。だが、これで脅威は消え失せた」
「そうね。艦載機のない空母なんてただの的よ」
第一部隊は敵を仕留めるべく進撃する。しかし、その時だった。
「大佐、敵機が接近しているわ! 今度は80機!」
「何? まさか、本気で複数の空母に艦載機を搭載しているのか……」
「なんて奴……」
敵機が迫る。友軍艦隊は大きく損耗している。瑞鶴の額に冷や汗が浮かんだ。
○
「うふふ……マッカーサー大将、私は今百回くらい死にました。とても嬉しいです」
「エンタープライズ……。お前は何が嬉しいんだ?」
マッカーサー大将はすぐ隣で恍惚の表情を浮かべている少女に尋ねた。
「分かりませんか? 人はたったの一度しか死ねないんです。でも私は何度でも死を体験できる。これはとても幸せなことでしょう?」
「分からん。今後も分かることもないだろう。だが、お前がいいのならそれでいい」
「そうですか。残念です。では、もっと殺して死にましょう……。艦載機、発艦!!」
アメリカに残された数少ない空母レイテとキアサージに載せた、エンタープライズと接続された艦載機。これらは全てエンタープライズの艦載機として完全に機能する。百機を落とされてもまだまだ彼女の艦載機は残っているのだ。
○
『来ないで! 来ないでください!』
「来るなッッ!」
艦隊は少しずつ数を減らし、その度に対空砲火も薄くなる。空はエンタープライズ艦載機の独壇場となりつつあった。
「落ちろ落ちろ落ちろ! あっ――あああああ!!!」
瑞鶴艦橋に衝撃が走る。米軍機の放った魚雷が左舷前方に命中、ついに瑞鶴に直接の被害が出たのだ。余りの痛みに瑞鶴は絶叫し、倒れ込みそうになるが、岡本大佐が慣れた手つきで彼女を支える。
戦艦や重巡と違って空母は自身が損傷を受けることを前提に造られた艦ではない。だから少し損害を負うだけで、その船魄は手足を吹き飛ばされたような致命的な痛みを伴うのだ。瑞鶴の意識はすぐに遠のいていく。
『瑞鶴さん、耐えて、耐えてください!!』
「大和……も、もち、ろん……!」
大和も声で意識を保ち、汗を床に垂らし手すりに寄りかかりながら、辛うじて自ら立つことができた。しかし、その大和の声も弱弱しいものであった。
「大和、君ももうボロボロじゃないか」
大和は右舷から20本の魚雷を受け、また甲板上にも無数の爆弾を受け、黒煙を上げていた。注水は間に合わずに艦体は左に傾いており、高角砲と機銃は半分以上が破壊されてしまっていた。
『だ、大丈夫です……。大和は、不沈艦です!』
「大和、一緒に、頑張ろう……」
『は、はい……!』
敵はまるで自分の命を顧みない自殺的な攻撃を続ける。多くの艦艇が沈み、全ての艦艇が傷を負った。第一部隊は既に壊滅的な損害を負い、瑞鶴と大和も本来なら撤退すべきほどの損害を負っていた。
だが、敵を、エンタープライズを殺さねばならない。そうでなければ、ただ何の意味もなく貴重な戦力を消耗したことになってしまう。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
連合航空艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年のロンドン海軍軍縮条約を機に海軍内では新時代の軍備についての議論が活発に行われるようになった。その中で生れたのが”航空艦隊主義”だった。この考えは当初、一部の中堅将校や青年将校が唱えていたものだが途中からいわゆる海軍左派である山本五十六や米内光政がこの考えを支持し始めて実現のためにの政治力を駆使し始めた。この航空艦隊主義と言うものは”重巡以上の大型艦を全て空母に改装する”というかなり極端なものだった。それでも1936年の条約失効を持って日本海軍は航空艦隊主義に傾注していくことになる。
デモ版と言っては何ですが、こんなものも書く予定があるんだなぁ程度に思ってい頂けると幸いです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる