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第一章 大東亜戦記
ニューギニア沖海戦
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「大佐、前方三百キロに敵艦隊を発見したわ。三十隻程度の艦隊ね」
「よろしい。大和、聞こえたか」
『はいっ! その艦隊を叩く、のですよね?』
「その通りだ。針路そのまま。前進だ」
大和の欠点はどう頑張っても自分の主砲の射程圏内、自身を中心とした半径42キロの円より外の敵を攻撃できないことだ。よって瑞鶴の基準からすると至近距離にまで敵艦隊に接近する必要があるし、当然ながら敵空母の勢力圏内に入ることにもなる。
「敵機を確認したわ。数は二百くらい」
「瑞鶴、落とせるか?」
「え、ええ……もちろん……」
瑞鶴の手足が突然震え出した。岡本大佐は瑞鶴を戦線に復帰させるのはまだ早いと判断した。
「瑞鶴、君は偵察だけしてくれればいい。大和、最初の仕事だ。敵機を撃墜してくれ」
「クッ……」
『わ、分かりました……!』
大和は空母の時代が到来した後に建造された戦艦だ。対空戦闘もそれなりに考慮して建造されているし、真珠湾攻撃で航空機の優位が証明されて以降は大量の高角砲や機銃が増設されている。とは言え、まずは自慢の主砲の出番だ。
『主砲、三式弾。対空砲撃を開始します!』
弱々しい様子は吹き飛び凛々しい声で叫ぶ大和。世界最大の艦載砲たる46cm砲九門が今、火を噴いた。甲板上に人間がいれば圧死するほどの威力を持つ主砲だが、人間などほとんどいない今の大和にそれを心配する必要はない。
三式弾は対地対空汎用の炸裂弾であり、事前に設定した時間で炸裂し、前方に向かって漏斗状に破片を撒き散らし、範囲内にある敵機を粉砕する。動きが遅い主砲で航空機を狙い撃つのは困難だが、船舶の計算能力を以てすれば十分な命中率を期待することができる。
大和は敵編隊の動きを予測して砲撃を行っており、完璧なタイミングで三式弾は炸裂し、いきなり火の雲の中に放り込まれた米軍機は火だるまになって墜落していった。その様子を瑞鶴は彩雲を通して観測していた。
「大和、三十くらい撃墜したわ」
「予想されていたことだが、戦艦の方が船魄化した時の能力向上が著しい、ということか」
「それって私への文句?」
主砲斉射を更に3回ほど。米軍機は既に半分になっていた。
『大和、続いて高角砲の砲撃を開始します!』
大和の山のような艦橋の山腹に針鼠のように装備された対空砲の数々、12基の八九式連装高角砲が火を噴いた。主砲のような重い一撃とは違い、3秒から4秒に1発と、連射力に秀でた砲であり、米軍機は次から次に撃ち落とされる。
米軍は大和への攻撃を試みるが、200丁以上装備された九六式機銃の射程内に入るともう生き残る術はない。大和に一撃を加えることも出来ず、大和に近づいてしまった編隊は消滅した。だが僅かに生き残った10基ほどが大和を無視し、瑞鶴に向かって来た。
「敵機、こちらを狙っているようです!」
「瑞鶴、今から迎撃を出せるか?」
「間に合わない。高角砲で落とすわ」
空母である瑞鶴とてそれなりの武装がある。零戦を出している時間はないと判断した瑞鶴は自らの武装で敵を迎え撃つことにした。
「こっちに来るな……!」
流石は船魄の制御を受けた対空砲火。米軍機でも易々と落とすが、高角砲の数は少なく、元よりオマケと考えていただけに大和ほどの精度を出すことも出来ない。
「撃ち落とせない!!」
最後に生き残った数機が瑞鶴の直上に入り攻撃を試みる。だが、次の瞬間だった。瑞鶴の直上で太陽のような大爆発が起こり、一瞬にして米軍機は海の藻屑と化したのだ。
『瑞鶴さん、大丈夫ですか!?』
やったのは案の定、大和である。大和の15.5cm副砲が敵機を粉砕したのだ。因みにこの副砲は副砲としては世界最大のものである。
「え、ええ、私は平気よ。飛行甲板の掃除が必要になったけど」
『す、すみません……』
「冗談よ。ありがとう」
襲撃してきた敵航空艦隊は撃滅。であれば、次は敵機動部隊そのものに狙いを定める。
『敵艦隊、射程に入りました!』
「大和、いけるか?」
『が、頑張ります! いえ、必ず、当てて見せます!』
「あなたなら大丈夫よ」
『瑞鶴さん……!』
瑞鶴が背中を守ってくれていると思えば安心できる。大和は艦体を少し傾け、艦橋の前に二基、後ろに一基装備された46cm3連装砲塔を正面の敵に指向できるようにした。大和はこの世界最大の主砲をたったの一人で制御し、敵艦に照準を合わせる。アメリカ軍にこれより射程の長い艦砲は存在せず、艦載機がないなら撃たれる心配はない。
『瑞雲からの情報、確認。目標、前方の敵空母。照準完了……』
目標は水平線の向こうだ。大和の照準は彼女が唯一操る水上偵察機「瑞雲」からの情報で行う。
「よろしい。君の好きなタイミングで撃ちたまえ」
『で、では……撃ちます!』
空気が震えた。余りにも遠くを狙うが故に、砲弾の発射から着弾までは数分の合間がある。大和、瑞鶴と翔鶴、岡本大佐にとってその時間は数十分にも感じられた。
『弾着まで……五、四、三、二、一、今です!』
しかし砲弾が着弾したのは水平線の向こう側。その戦果を直接確認することはできない。
「……どうなったんだ?」
「すぐに彩雲で見てくるわ」
瑞鶴の彩雲はすぐにアメリカ軍の様子を偵察しに出た。
○
同刻。アメリカ海軍連合艦隊旗艦・戦艦ノースカロライナでニミッツ提督は指揮を執っていた。彼が直卒する連合艦隊第2群が日本軍と真っ先に会敵して交戦している。大和を沈めることに失敗した彼は砲撃戦の用意を進めていたのだが――
「な、何だ!?」
大気が震え、艦橋に衝撃が走った。何かが爆発したのだろう。
「か、閣下……サラトガが……」
「なっ……」
空母サラトガを見ると、その飛行甲板は仰け反るように砕け、一瞬の間を開けて巨大な爆炎が起こり、サラトガは船の残骸が辛うじて浮いているという有様であった。
「サラトガ乗員を救助せよ! 早く!」
「閣下、最早、間に合わないかと……」
「な、何ということだ……」
サラトガは3分と持たずに轟沈した。その乗組員はほとんどが沈没に巻き込まれて死んだ。敵の正体も掴めない内に正規空母を沈められ、誰もが震え上がった。
「やはり、あの巨大戦艦も瑞鶴と同じような存在か……」
この距離で砲弾全てを一隻の艦に命中させるなど、人間業ではない。瑞鶴と似たような、人間を超越した性能を引き出す技術が大和にも存在すると、ニミッツ提督は確信した。と同時に、アメリカ海軍にとっては恐るべき事態に思い至った。
「はっ……敵はいくらでも仕掛けて来るぞ! 全艦、現海域を離脱せよ!!」
当たり前のことだが、大和は何度でも砲弾を再装填し同じような攻撃を仕掛けて来るだろう。ニミッツ提督の判断は賢明だった。しかしその判断も間に合いはしなかった。
「フレッチャー、マッコード、轟沈!」
「第三駆逐隊、全滅!」
「調子に乗りやがって……クソッ……!」
大和の砲弾は小型艦艇を狙い始める。駆逐艦を沈めるのならわざわざ九発も使う必要はないらしい。一度の斉射で2隻の駆逐艦が海の藻屑と化した。そして、大和の主砲が再装填されるまでの40秒間隔で次々と艦が沈んでいく。
ニミッツ大将は最後の策として残る戦艦を全て大和に突撃させ砲撃戦に持ち込もうとするが、結果は悲惨なものであった。
「ノースカロライナ、左舷に深刻な浸水! ダメージコントロール不可能です!」
「メリーランド、一番と二番砲塔が吹っ飛びました!」
「ダメだ……我々では、勝てない……」
ほんの数発の被弾で次々と無力化されていく、アメリカの主力戦艦達。大和の攻撃力は船魄化されていなかったとしても他のあらゆる戦艦を上回っており、最初から勝ち目などなかったのだ。
結局のところ、ニミッツ提督はこの事態に何ら有効な対処を行うことはできなかったのである。
○
『て、敵艦隊の主力艦、粗方殲滅しました』
「よくやったわね、大和」
『ありがとうございます!』
「残敵掃討は私とお姉ちゃんがするわ。休んでいなさい」
『大和、私達に任せてもらって大丈夫ですからね』
『お願いします……』
組織的な抵抗能力を失った艦隊など怖くはない。瑞鶴は各方面に艦載機を飛ばし、残存艦艇の殲滅に入った。アメリカ海軍が最後の望みをかけた艦隊はあっけなく散った。ニューギニア島を守る海上戦力は消滅し、日本軍がオーストラリアに手を伸ばすのも時間の問題であろう。
「よろしい。大和、聞こえたか」
『はいっ! その艦隊を叩く、のですよね?』
「その通りだ。針路そのまま。前進だ」
大和の欠点はどう頑張っても自分の主砲の射程圏内、自身を中心とした半径42キロの円より外の敵を攻撃できないことだ。よって瑞鶴の基準からすると至近距離にまで敵艦隊に接近する必要があるし、当然ながら敵空母の勢力圏内に入ることにもなる。
「敵機を確認したわ。数は二百くらい」
「瑞鶴、落とせるか?」
「え、ええ……もちろん……」
瑞鶴の手足が突然震え出した。岡本大佐は瑞鶴を戦線に復帰させるのはまだ早いと判断した。
「瑞鶴、君は偵察だけしてくれればいい。大和、最初の仕事だ。敵機を撃墜してくれ」
「クッ……」
『わ、分かりました……!』
大和は空母の時代が到来した後に建造された戦艦だ。対空戦闘もそれなりに考慮して建造されているし、真珠湾攻撃で航空機の優位が証明されて以降は大量の高角砲や機銃が増設されている。とは言え、まずは自慢の主砲の出番だ。
『主砲、三式弾。対空砲撃を開始します!』
弱々しい様子は吹き飛び凛々しい声で叫ぶ大和。世界最大の艦載砲たる46cm砲九門が今、火を噴いた。甲板上に人間がいれば圧死するほどの威力を持つ主砲だが、人間などほとんどいない今の大和にそれを心配する必要はない。
三式弾は対地対空汎用の炸裂弾であり、事前に設定した時間で炸裂し、前方に向かって漏斗状に破片を撒き散らし、範囲内にある敵機を粉砕する。動きが遅い主砲で航空機を狙い撃つのは困難だが、船舶の計算能力を以てすれば十分な命中率を期待することができる。
大和は敵編隊の動きを予測して砲撃を行っており、完璧なタイミングで三式弾は炸裂し、いきなり火の雲の中に放り込まれた米軍機は火だるまになって墜落していった。その様子を瑞鶴は彩雲を通して観測していた。
「大和、三十くらい撃墜したわ」
「予想されていたことだが、戦艦の方が船魄化した時の能力向上が著しい、ということか」
「それって私への文句?」
主砲斉射を更に3回ほど。米軍機は既に半分になっていた。
『大和、続いて高角砲の砲撃を開始します!』
大和の山のような艦橋の山腹に針鼠のように装備された対空砲の数々、12基の八九式連装高角砲が火を噴いた。主砲のような重い一撃とは違い、3秒から4秒に1発と、連射力に秀でた砲であり、米軍機は次から次に撃ち落とされる。
米軍は大和への攻撃を試みるが、200丁以上装備された九六式機銃の射程内に入るともう生き残る術はない。大和に一撃を加えることも出来ず、大和に近づいてしまった編隊は消滅した。だが僅かに生き残った10基ほどが大和を無視し、瑞鶴に向かって来た。
「敵機、こちらを狙っているようです!」
「瑞鶴、今から迎撃を出せるか?」
「間に合わない。高角砲で落とすわ」
空母である瑞鶴とてそれなりの武装がある。零戦を出している時間はないと判断した瑞鶴は自らの武装で敵を迎え撃つことにした。
「こっちに来るな……!」
流石は船魄の制御を受けた対空砲火。米軍機でも易々と落とすが、高角砲の数は少なく、元よりオマケと考えていただけに大和ほどの精度を出すことも出来ない。
「撃ち落とせない!!」
最後に生き残った数機が瑞鶴の直上に入り攻撃を試みる。だが、次の瞬間だった。瑞鶴の直上で太陽のような大爆発が起こり、一瞬にして米軍機は海の藻屑と化したのだ。
『瑞鶴さん、大丈夫ですか!?』
やったのは案の定、大和である。大和の15.5cm副砲が敵機を粉砕したのだ。因みにこの副砲は副砲としては世界最大のものである。
「え、ええ、私は平気よ。飛行甲板の掃除が必要になったけど」
『す、すみません……』
「冗談よ。ありがとう」
襲撃してきた敵航空艦隊は撃滅。であれば、次は敵機動部隊そのものに狙いを定める。
『敵艦隊、射程に入りました!』
「大和、いけるか?」
『が、頑張ります! いえ、必ず、当てて見せます!』
「あなたなら大丈夫よ」
『瑞鶴さん……!』
瑞鶴が背中を守ってくれていると思えば安心できる。大和は艦体を少し傾け、艦橋の前に二基、後ろに一基装備された46cm3連装砲塔を正面の敵に指向できるようにした。大和はこの世界最大の主砲をたったの一人で制御し、敵艦に照準を合わせる。アメリカ軍にこれより射程の長い艦砲は存在せず、艦載機がないなら撃たれる心配はない。
『瑞雲からの情報、確認。目標、前方の敵空母。照準完了……』
目標は水平線の向こうだ。大和の照準は彼女が唯一操る水上偵察機「瑞雲」からの情報で行う。
「よろしい。君の好きなタイミングで撃ちたまえ」
『で、では……撃ちます!』
空気が震えた。余りにも遠くを狙うが故に、砲弾の発射から着弾までは数分の合間がある。大和、瑞鶴と翔鶴、岡本大佐にとってその時間は数十分にも感じられた。
『弾着まで……五、四、三、二、一、今です!』
しかし砲弾が着弾したのは水平線の向こう側。その戦果を直接確認することはできない。
「……どうなったんだ?」
「すぐに彩雲で見てくるわ」
瑞鶴の彩雲はすぐにアメリカ軍の様子を偵察しに出た。
○
同刻。アメリカ海軍連合艦隊旗艦・戦艦ノースカロライナでニミッツ提督は指揮を執っていた。彼が直卒する連合艦隊第2群が日本軍と真っ先に会敵して交戦している。大和を沈めることに失敗した彼は砲撃戦の用意を進めていたのだが――
「な、何だ!?」
大気が震え、艦橋に衝撃が走った。何かが爆発したのだろう。
「か、閣下……サラトガが……」
「なっ……」
空母サラトガを見ると、その飛行甲板は仰け反るように砕け、一瞬の間を開けて巨大な爆炎が起こり、サラトガは船の残骸が辛うじて浮いているという有様であった。
「サラトガ乗員を救助せよ! 早く!」
「閣下、最早、間に合わないかと……」
「な、何ということだ……」
サラトガは3分と持たずに轟沈した。その乗組員はほとんどが沈没に巻き込まれて死んだ。敵の正体も掴めない内に正規空母を沈められ、誰もが震え上がった。
「やはり、あの巨大戦艦も瑞鶴と同じような存在か……」
この距離で砲弾全てを一隻の艦に命中させるなど、人間業ではない。瑞鶴と似たような、人間を超越した性能を引き出す技術が大和にも存在すると、ニミッツ提督は確信した。と同時に、アメリカ海軍にとっては恐るべき事態に思い至った。
「はっ……敵はいくらでも仕掛けて来るぞ! 全艦、現海域を離脱せよ!!」
当たり前のことだが、大和は何度でも砲弾を再装填し同じような攻撃を仕掛けて来るだろう。ニミッツ提督の判断は賢明だった。しかしその判断も間に合いはしなかった。
「フレッチャー、マッコード、轟沈!」
「第三駆逐隊、全滅!」
「調子に乗りやがって……クソッ……!」
大和の砲弾は小型艦艇を狙い始める。駆逐艦を沈めるのならわざわざ九発も使う必要はないらしい。一度の斉射で2隻の駆逐艦が海の藻屑と化した。そして、大和の主砲が再装填されるまでの40秒間隔で次々と艦が沈んでいく。
ニミッツ大将は最後の策として残る戦艦を全て大和に突撃させ砲撃戦に持ち込もうとするが、結果は悲惨なものであった。
「ノースカロライナ、左舷に深刻な浸水! ダメージコントロール不可能です!」
「メリーランド、一番と二番砲塔が吹っ飛びました!」
「ダメだ……我々では、勝てない……」
ほんの数発の被弾で次々と無力化されていく、アメリカの主力戦艦達。大和の攻撃力は船魄化されていなかったとしても他のあらゆる戦艦を上回っており、最初から勝ち目などなかったのだ。
結局のところ、ニミッツ提督はこの事態に何ら有効な対処を行うことはできなかったのである。
○
『て、敵艦隊の主力艦、粗方殲滅しました』
「よくやったわね、大和」
『ありがとうございます!』
「残敵掃討は私とお姉ちゃんがするわ。休んでいなさい」
『大和、私達に任せてもらって大丈夫ですからね』
『お願いします……』
組織的な抵抗能力を失った艦隊など怖くはない。瑞鶴は各方面に艦載機を飛ばし、残存艦艇の殲滅に入った。アメリカ海軍が最後の望みをかけた艦隊はあっけなく散った。ニューギニア島を守る海上戦力は消滅し、日本軍がオーストラリアに手を伸ばすのも時間の問題であろう。
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