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第一章 大東亜戦記

米軍の抵抗

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 それから三ヶ月が経った。

「――では次、10機まで増やしてみよう」
「望むところよ」

 訓練の結果、瑞鶴は今や自身を完全に制御し、艦載機を動かす段階にまで到達していた。瑞鶴を直掩する8機の零式艦上戦闘機は全て彼女が操っているものである。そして甲板から更に追加で零戦を発艦させる。

「よし。順調だ……」
「……っ…………」

 瑞鶴は突然よろけてしまう。負荷がかかり過ぎたのだろう。

「おっと、大丈夫か?」
「ちょっと、頭が、痛い……」
「分かった。訓練はここで中止だ。いい成果だぞ、瑞鶴」

 瑞鶴はまた医務室に運び込まれ、艦載機は着水させて後に人力で収容された。まあ零戦を着水などさせたらもう使い物にならなくなるのだが。

「瑞鶴、大丈夫ですか?」
「お姉ちゃん……私、やっぱりダメなのかな? たったの10機じゃ何もできないよ」
「いいえ、あなたはダメなんかじゃありません。一緒に少しずつ成長していければいいのですよ」
 翔鶴は微笑みながら瑞鶴の頭を撫でる。
「うん。私、頑張るわ」
「偉い!」

 しかし彼女が訓練をしていられる時間は僅かであった。その翌月には米軍がフィリピン侵攻を開始、帝国海軍はそれを総力を挙げて迎え撃つこととなった。その結果は既にご存知の通りである。

 ○

 時は大きく飛ぶ。一九四五年三月二十三日、フィリピン沖海戦、或いはレイテ沖海戦の約半年後、アメリカ大統領官邸ホワイトハウス。

「大統領閣下、残念ですが、戦局は圧倒的です」
「圧倒的? 誰が圧倒的なのかね?」
「それは……日本軍です。先の第二次ミッドウェイ海戦で我が軍は残存艦艇の7割を喪失しました。最早、合衆国の生産力では損害の1割も補填できません」

 瑞鶴の活躍はまさに一騎当千であった。アメリカ海軍はあらゆる手を尽くして彼女を撃沈しようとしたが、その全てが赤子の手をひねるように叩き潰されていた。

「ハリー、君は悲観主義者のようだね。まだ3割も残っているのだ。まだまだ戦えるじゃないか」
「お言葉ですが、こんな残骸のような艦隊をぶつけても、たちどころに殲滅されるのは目に見えています。大統領閣下、失礼ですが、お気は確かですか?」

 トルーマン副大統領はルーズベルト大統領の姿勢に甚だ懐疑的であった。日本軍がニューギニアを奪還しようとしている今、彼の戦争指導に疑問を持つものは国内外に数多く存在する。

「私が気狂いに見えるかね?」
「……見えはしませんが、一体何をお考えなのです? 勝利の秘策でも日本との講和でも、何でもいいからお考えをお聞かせください!」
「講和はあり得ない。そして勝利の秘策なら、用意してあるとも」
「……秘策?」
「ああ。マンハッタン計画は破棄し、グローヴス君には違う仕事を与えた」

 原子爆弾開発を目指すマンハッタン計画。グローヴスはそれを率いる軍人である。

「は? わ、我々は何も聞いていないのですが?」
「敵を騙すにはまず味方からと言うだろう。君達も見ていてくれたまえ」

 大統領と軍部は結託し、政府にも無断でとある計画を遂行していた。その名はブルックリン計画である。その発端は二か月前のことである。

 ○

「大統領閣下、第4艦隊を犠牲にしましたが、今回は日本軍機を鹵獲することに成功しました」
「ほう」
「これがその機体の写真です」

 士官は大統領に何枚かの写真を手渡した。

「最も特徴的なのは、コックピットに機械が詰め込まれていることです。つまりこれは、完全な無人機として改造されているということです」
「無人機? 馬鹿な。有色人種にそんなものが作れるとでも?」

 ルーズベルトにはとても信じられなかった。

「――このコックピットの機械が機体を制御しているものと思われます」
「日本人が電算機をここまで小型化したとでも言うのかね?」
「いえ。それは……電算機ではありません。しかし、我々の予想を超えるものでした」

 士官が差し出した写真は、ルーズベルトをして恐怖せしむるものであった。

「――それで、これを再現することは可能かね?」
「日本人でもできたんです。私達ができない筈がありませんよ」
「ふはは、その通りだな! 何としてもこれを我が国で建造せよ」

 ルーズベルト大統領は計画への支援を惜しまなかった。その計画は後に、瑞鶴にとって最大の敵を生み出すことになる。

 ○

 一九四五年四月七日、呉海軍工廠。

 瑞鶴と翔鶴の活躍により、南太平洋における米軍の活動はほぼ壊滅した。戦況の安定を受け、瑞鶴は一度本土へと帰港し、大規模な整備を受けることになった。だが瑞鶴本人を修復することは誰にもできなかった。

「痛い……痛い…………」

 ベッドに横になった瑞鶴は譫言を繰り返していた。米軍も黙って殲滅されてはくれず、瑞鶴に対しある程度の対抗策を講じていた。つまり他のあらゆる攻撃手段を捨てての徹底的な対空砲火であるが、これによって瑞鶴の艦載機も既に40機程度が落とされ、その度に瑞鶴は肉体的にも精神的にも苦痛を味わってきた。

「瑞鶴……私はどうすればいいんだ?」

 その様子をただ見守ることしか、岡本大佐にはできなかった。

「閣下、我々は精神科医ではありません。事態をこれ以上悪化させないためには、今のところは静観するしか……」
「そうだ、精神科医でも呼べばいいじゃないか」
「いいえ、閣下。瑞鶴の機密は徹底されています。外部の人間をここに入れることは軍令部に禁止されています」
「――冗談だ。せめて翔鶴が何かをしてくれればな……。期待するのは酷だが」
「彼女に期待するしかないのでしょうか……」

 自分達の無力さを痛感する岡本大佐達であった。
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