上 下
16 / 17
本編

第13話 生徒会

しおりを挟む
佐世保女子飛空士学校生徒会、生徒達の間での通称は『連合艦隊司令部』。

佐空艦艇の運用計画を立案することから連合艦隊司令部やGFと生徒達は呼んでいるが、実際には校内雑務や各専修科の予算管理、芝刈りから港湾補修の人員確保など佐空内のありとあらゆる事を取り仕切る。
生徒会は常時佐空№3ドックと№4ドックの近くにある校舎を使用しており、山側にあるかつて佐世保船舶工業のあった名残でSSKバイパスと今でも呼ばれる片側2車線の広めの車道と挟まれた形に建てられている。

校舎は鉄筋コンクリートで建てられており、6階建ての質素な作りではあるが校舎内には修理中の艦艇用の臨時教室や様々な会議室があるため校舎中央に計4基のエレベーターがあり、その隣に階段が設置されている。

生徒会室は校舎の最上階、1フロア全てを使っている。会計部や運航部、各部署によって専用の部屋が割り当てられており、その中でも質素な見た目の校舎とは違い1番豪華な部屋が生徒会長を長に各科の幹部達が使用している執行部室である。
応接室と複数の執務室を合わせたような作りで、その部屋にある調度品全てがかなり高価な物品で固められているのがあまり興味のない颯華にも一目でわかるほどだった。

もっとも、颯華にしてみればこんなものに年度予算を使うくらいなら艦艇補修予算に回せと常々思っているが……口に出したらどんな目に合うかわからないので黙っている。






「それで、普段とは違いわざわざ執行部室こっちに呼んだのか教えてもらえる?」






溜息と共に、颯華は眼前の少女へとめんどくさそうに言った。

生徒会長席に座る栗毛の少女は申し訳なさそうに笑いながら颯華に答えた。





「今皆会議中だからね。めんどくさそうだったからこういう形をとって堂々とサボってるわけよ。」





「相変わらずだな大佐。」





大佐と呼ばれた少女。彼女の名前は佐藤 理世さとう りぜ

佐空運航科2年、颯華とは同学年の同期である。
佐空でも少ない飛空科や工廠科ではなく飛空艦の運航を管制する運航科専修で。その管制能力と状況判断能力を買われて生徒会運航部に抜擢、2年生でありながら運航部幹部に抜擢されたことからも彼女の優秀さが分かるだろう。
いつ誰が言い始めたかわからないが『大佐』という愛称で呼ばれ始め、彼女自身も気に入っている。
小柄、というほどでもないが颯華よりもやや身長は小さく、しかし出るところははっきり出ている体付きはアルマが見たら羨ましがるだろうと颯華は考えてしまう。また、髪は腰まである栗毛をツインテールにしており、その髪型と本人の性格も相まって知人達からは小型肉食獣扱いされることもしばしば。

それが目の前にいる理世という少女だった。





「貴様のサボりの口実されても困るのだがな。」






「そう硬い事言わないでさぁ?あ、お茶いる?」






「…………貰おう。」






るんるんと鼻歌を歌いながら生徒会長席から飛び上がってお茶の準備をする理世を横目で見つつ、颯華は再び溜息をついた。
普段は猫を被ったように大人しい彼女だが、親しい知人の前だと素の顔を簡単に出す。

しかも彼女の場合は野望というかなんといっていいのかわからないが、上昇志向と言えばいいのか出世欲と言っていいのか……

とにかく親しい相手には自分が生徒会長になってやると常日頃から言っている少女である。







「それで、会議をサボって私と話す理由はなんだ。私だって暇じゃないんだ。」






理世が注いだ紅茶を飲みながら、颯華は尋ねた。
颯華としては、いつも通り運航部に報告書を渡して軽い問答をしたら終わりだと思っていたのだ。今直ぐに船に戻って損傷状態やサワカゼの乗員の容態が知りたいのが颯華の夢中で占めている。






「まずはぁ…………取りあえず報告書と戦闘記録を読んだよ。」






「何か不満だったか?」





「全然!わかりやすかったし、むしろあの状況じゃ最善策だったと私も生徒会も思ってるよ!」






「そうか。」






「生徒会長も副会長も褒めてたよ?」






「知らん。」






「相変わらずだねぇ。」






一口飲んだ紅茶を机へと置きながら、理世は改まって颯華をみた。






「相手の練度はどうだった?」





「まぁまぁだな。個々の練度はそこそこだったが連携があまりうまくない印象だった。アルメや奈々なら十分相手出来る練度だったが他がとなると、まぁ難しいだろう。」






颯華は今日相手にした艦艇の練度を思い出しながら理世の質問に答えた。
個々の練度は大体佐空の平均程度と優秀だったが、連携となるとあまりうまくなく簡単に崩せた印象だった。
しかし、一対一ならばまだしも残念ながら今の佐空には一対多をこなせる練度の艦艇は殆ど無かった。






「生徒会長は鳥栖空の話を聞いて福連に対して報復措置を取るみたい。で、近日中に福連に対して作戦行動に出ようとしてる。」






「無茶だな。」






「即答だねー」






戦力差でざっと2~3倍。しかも主力として発揮できるのは旧式の1等飛空巡洋艦重巡洋艦3隻。内アサマは修理中で作戦可能は2隻である。






「今やってる会議がそう。多分もうそろそろ決まるんじゃない?」






「やってられんな。」






「しかもアサマの活躍を大々的に公表するしねぇ。福連あっちからしたら佐空はお尋ね者にさらに磨きがかかったようなものだよ。」





「バカが上だと下は辛いな。」





同感!と笑いながら、理世はカップの紅茶を飲む。

今の生徒会長は残念ながら内政は出来るが戦略などはからっきしな政治屋まつりごとタイプの人間だった。
しかも災厄なことにそれを自覚できず自尊心がめちゃくちゃ高いと来たものだ。

無茶な演習計画を出したりと、飛空士候補生達からはあまり好かれないタイプである。







「たぶん颯華ちゃんとアルメちゃん、奈々ちゃんとこは連れてかないと思う。というか私が色々理由付けにして行かせないから。」






「それについては本当に頼むよ。私もアルメ達も負け戦に挑みたくはないからな。」





そうなると出せるのは巡洋艦2隻駆逐艦数隻とかなり戦力的に落ちてしまうが大丈夫だろうか。
そう頭の中で計算している颯華に、理世は話しかけた。






「それでね颯華ちゃん。たぶん状況によるだろうけど、アレを早めようと思うんだ。」






理世の言葉を聞いて、颯華はようやく彼女がこのような人払いをしていたか分かった。






「降ろすのか?」





「うん。十中八九作戦は失敗する。そうすれば支持率は一気に下がるから。」





理世が考えているのは言ってしまえば生徒会長へのクーデターである。





「行けるのか?」





「生徒会役員規定12条で行けると思ってる。運航部の根回しは出来てし、もう少し根回し……会計部とか執行部の人身の少しを取り込めば過半数になるから。」





生徒会役員規定12条。それは現役生徒会長が不適格と判断した生徒会役員が過半数を占めた場合に発動できる生徒会長再選挙規定である。
普通ならば病気や事故による職務遂行不能の場合に備えての規定なのだが、彼女はそれを利用して現生徒会長から会長職を奪おうと考えているのだ。





「それで?再選挙は出来るとして、生徒会長になれる自信はあるのか?」





生徒会の過半数をとっても出来るのは再選挙までで、再選挙で理世が生徒会長になれるかは別問題だ。





「そこは万事抜かりなく、だよ!」





「そうか、ならいい。私もそうなったら大佐に投票しといてあげるよ。」





「ありがと~!」





「それで、話は終わりか?」





「そうだねぇ…………終わりかな?」






「では帰るぞ。」






「またねぇ~!あ、あとでアルメちゃんにも会ってあげなよ?」







「…………考えとくよ、それじゃあな大佐。」





「ばいばーい!」







颯華はソファーから立ち上がり、出口へと歩いていく。
手を振っている理世に後ろ手に振り返しドアを閉め漸く一つ用事が終わったと溜息を吐いた。






「次は…………佐病にサワカゼ乗員の見舞いか。」






そのあとは一度アサマに戻って現状と修理工程の算出…………





「まだまだ終わらんか。」






どうやらまだまだ一日は終わりそうに無い。
再び溜息を吐いてから、颯華は出口へと歩き始めた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

アニラジロデオ ~夜中に声優ラジオなんて聴いてないでさっさと寝な!

坪庭 芝特訓
恋愛
 女子高生の零児(れいじ 黒髪アーモンドアイの方)と響季(ひびき 茶髪眼鏡の方)は、深夜の声優ラジオ界隈で暗躍するネタ職人。  零児は「ネタコーナーさえあればどんなラジオ番組にも現れ、オモシロネタを放り込む」、響季は「ノベルティグッズさえ貰えればどんなラジオ番組にもメールを送る」というスタンスでそれぞれネタを送ってきた。  接点のなかった二人だが、ある日零児が献結 (※10代の子限定の献血)ルームでラジオ番組のノベルティグッズを手にしているところを響季が見つける。  零児が同じネタ職人ではないかと勘付いた響季は、献結ルームの職員さん、看護師さん達の力も借り、なんとかしてその証拠を掴みたい、彼女のラジオネームを知りたいと奔走する。 ここから第四部その2⇒いつしか響季のことを本気で好きになっていた零児は、その熱に浮かされ彼女の核とも言える面白さを失いつつあった。  それに気付き、零児の元から走り去った響季。  そして突如舞い込む百合営業声優の入籍話と、みんな大好きプリント自習。  プリントを5分でやっつけた響季は零児とのことを柿内君に相談するが、いつしか話は今や親友となった二人の出会いと柿内君の過去のこと、更に零児と響季の実験の日々の話へと続く。  一学年上の生徒相手に、お笑い営業をしていた少女。  夜の街で、大人相手に育った少年。  危うい少女達の告白百人組手、からのKissing図書館デート。  その少女達は今や心が離れていた。  ってそんな話どうでもいいから彼女達の仲を修復する解決策を!  そうだVogue対決だ!  勝った方には当選したけど全く行く気のしない献結啓蒙ライブのチケットをプレゼント!  ひゃだ!それってとってもいいアイデア!  そんな感じでギャルパイセンと先生達を巻き込み、ハイスクールがダンスフロアに。 R15指定ですが、高濃度百合分補給のためにたまにそういうのが出るよというレベル、かつ欠番扱いです。 読み飛ばしてもらっても大丈夫です。 検索用キーワード 百合ん百合ん女子高生/よくわかる献血/ハガキ職人講座/ラジオと献血/百合声優の結婚報告/プリント自習/処世術としてのオネエキャラ/告白タイム/ギャルゲー収録直後の声優コメント/雑誌じゃない方のVOGUE/若者の缶コーヒー離れ

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...