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第四章

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 無理やりベッドに押し倒したい気持ちを何とか抑えて、暁史の顔を一瞥することなく帰ろうとする彼女を見送った。
 残された部屋で、暁史は着衣の乱れを直すこともせず呆然としていた。
 たしか、その気になったから彼女は部屋に来たのではなかったか。それとも、自分の感覚が狂っていたのか。
(なんだったんだ……一体)
 今までは暁史に近寄ってくる女性たちの気持ちを、手に取るように理解できた。
 外見に惹かれて寄ってくる女性も、ステータスに寄ってくる女性も同じようなもので、暁史を手に入れようと必死だった。
 そんな女性たちの姿を見るのは正直うんざりで、自分から女性を追いかけたことなど一度もない。
 けれどふたばは、自分に抱かれることを望んでいたように思えば、肌に触れるとそれを拒絶し逃げてしまう。
 けれど、いくら思い通りにならない女性だとしても、それだけでこれほどに焦れることはない。濃い化粧を取ったらきっと綺麗だろうと思ったのは確かだし、触れたくもあったが、別にその気がないなら追うつもりもなかった。
 それなのに、今の自分は何だろう。
 柄にもなく追いすがりそうになった。熱に浮かされたように、彼女を組み敷いて己の欲望をぶつける映像が頭の中をいっぱいにする。
(舐めるのが好きなのか……?)
 思わずそんな考えが巡るほどには混乱していたのだろう。
 しかも、ふたばによって昂ぶってしまった欲望は未だに落ち着くことなく雄々しい硬さを保っている。
 ふたばとのキスは心地よかった。ふわりと香る安物の香水の匂いさえも、癖になりそうなほど、辿々しい舌遣いに興奮した。
 彼女の赤く濡れた唇を己の唇に見立てて舌舐めずりする。本能のままに屹立を握りしめ、一気に絶頂へと導くような動きで擦り上げる。
「はっ……う、ん」
 ふたばの柔らかな胸の感触を思い出しながら、濡れた陰茎に刺激を与えると、ヌルッと先走りで手が滑り、あっという間に欲望は手の中で限界を迎えた。
「ん……っ」
 荒く息を吐きだし、化粧を取ったふたばの表情を思い出した。
 肌の質感や仕草で若いだろうとは思っていたけれど、しっとりと手に吸いつくような肌は極上だった。自分よりも十以上歳下の相手に翻弄されるばかりで悔しさはあるが、身体は自慰のあとの虚しさはなく満たされていた。
 抱いたわけでもないのに、彼女はどんな風に自分の手の中で乱れるのだろうかと想像すると、ふたたび欲望が頭をもたげそうになる。
 似合わないワンピースと化粧をすべて取り去って、自分好みに仕立てあげたいという身勝手な考えが頭を掠めた。
 下手ではあったが、あどけなさとは裏腹に慣れた様子で男の欲望を咥える光景には、嫉妬すら覚えるほどだ。
 一体何人の男をこうして咥え込んだのかと、別に自分のものでもないのに胸を焼き尽くすような独占欲まで芽生えてしまったのだから笑えてくる。
(もう会うこともないだろうに。一体、どうしたっていうんだ)
 彼女の素肌に触れて、全身を舐めて濡らして、貫いてみたかった。そんな欲望めいた願望は決して口には出せないが、こうして想像だけで感情が昂ぶってくるのだから、本能がそう告げているのだろう。彼女が欲しいと。
 グッと強く陰茎を握ると、ふたたびクチュッと淫らな音が立った。いつのまにか手のひらは先走りでしとどに濡れ、屹立は勢いを取り戻し雄々しく上を向いていた。
「はぁ……っ」
 激しく擦り上げると、手の中の欲望はさらに硬さを増していく。グチグチと卑猥な濡れ音が耳につき、興奮を駆り立てる。彼女の奥深くを抉るような想像で暁史は腰を揺らす。
 一体何度達すれば収まるのだろう。
 先端から噴き出した白濁が手のひらをベットリと濡らしていく。吐精は三回目なのに胸元近くまで弾け飛び、暁史のワイシャツを濡らした。
「中学生でもあるまいし……」
 一体、自分は何をしているのか。先程からそればかりだ。
 溜まっていたのは事実だし、誰かを抱きたいとも思っていたのだろう。
 もう顔も名前も思い出せないが、恋人は過去に何人もいた。男として裸の女性に興奮は覚えるものの、これほどの執着を覚えたことはない。
 好きではあるし大事にもする。なるべくわがままも聞いてやる。けれど、別れたいと言われればそれまでだ。
 冷めた印象を女性に与えてしまうのは理解している。
 自分でも一線を引いている自覚はあった。職業上、話せないことも多く、赤の他人からの嫌がらせも日常茶飯事だ。
 暁史がどう思っていようと、勝手に女性が寄ってきて勝手に離れていくのだ。
 離れていった相手に興味はない。たとえ昨日まで恋人だったとしても、暁史にとってそれは過去だ。
 汚れた手をティッシュで拭い、洗面所で洗う。
 まだ、腰の奥が疼くような熱が残っているが、これからまた外に出て今夜の相手を探す気にもなれなかった。
 頭にこびりついて離れないのは、ふたばの素顔。
 多分、もう二度と会うことはないだろうが。
 寝て朝になれば忘れるはずの今日の出来事を、どうしてか記憶の中に留めておこうとしている。


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