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終章・らすとぱーと編
#42・【春の文化祭(前編)】出し物が中々決まらないとどうなるのか?
しおりを挟むジンマウント学園。
1~2限目。道徳。
科目名とは名ばかりの、行事決めである。
神山先生は今日も今日とて、
気怠げに頭を掻きチョークを疾らせる。
「ってな訳で、みんな大好き春の文化祭だ。
喜べーお前らー。」
そのテンションで言われて素直に喜べっかよ。
それに、理由はもう一つある。
「「「………………」」」
「っかぁー。
お前らクラスは本当黙秘権好きだな。
確かに……第2班、第3班、リンナ、ヌガーが
失踪した今。
素直に楽しめという方が酷かもしれねー。」
分かってるんなら、何故あのような言い方を。
「しかしよォ、お前ら。奴らの分まで楽しんで
やるのがクラスの義務ってモンだろ。
いつまでも暗い空気だされちゃ、
俺だって参るっつーの。」
「ったく、励ましの一つも
出来ねーのかウチの担任は。」
担任、神山を煽るように立ち上がったのは
アックスだ。
そして神山をどかし、教卓前を陣取る。
「おいお前ら、そんな
つまんなそーにするならよ。
俺ら第1班が全て決めっぞ。
お前らがキモTSズって散々馬鹿にした事、
根に持ってっからな。」
「アックス、お前。何を考えてる。」
「神山先生、少し黙ってくれないか。
俺の演説が決まるトコなんだよ。」
「……さっさとしろよ。」
この2人って実は仲良いんじゃないですかね?
「そうだな、もし俺が当クラスの催しを
選べんなら……こうする。
俺ら第1班を除く全てのグループ、
校庭水着マラソン大会なんてどうだ?」
「「「――ッ!?」」」
「勿論俺ら1班は下準備、
実況の諸々を全て請け負う。
行事如き楽しめねー考え無しの
お前らにゃピッタリな催しだと思わねーか?
こりゃ最高に盛り上がるの
間違い無しだよなァ……」
流石、挑発名人アックス。
こうなった時の悪知恵は他者の追随を許さない。
励ましとは真逆の行為に思えるが、
下手な励ましより、とても効果がある。
悔しいが、認めざるを得ない。
「はぁ!? アンタみたいなキモい筆頭に
決められるくらいなら私達が決めるわ!」
第4班筆頭、サリシャが動いた。
「サリシャ殿だけには任せらせないドン!
オイラ達第5班だって協力するドドン!!」
負けじと、第5班筆頭も動く。
ここまで来たら……
「しゃーねぇ。ゲームガチ勢組の俺らが、
催しの手本ってヤツを見せてやるよ。」
第6班筆頭ナージュもその重たい腰を上げた。
ヌガーが離脱した事により、
大人しくなったと思われがちだが、
相変わらずゲームへの情熱は変わってない。
ある意味で尊敬すべきグループと言えよう。
「ほらな、分かったか神山先生。
ただじゃコイツらは動かねー。
何で俺に負けたか……
明日までに考えとくんだな。」
挑発気味な態度を崩さず、
アックスは自席へと帰る。
「ア゛ー、疲れた。おいサユ。
お疲れのチューはどうした。」
「お疲れの拳骨でもいかが?」
「やっぱやめとくわ。」
油断も隙もない。
俺に対してナチュラルにキスを求める
その変態根性を叩き直してやりたい。
と、考えた所で。
神山先生が口を開く。
「はーいお前らの活気も戻ってきた事だし、
じゃんじゃん企画立ててくぞー。」
「「「おーー!!!」」」
流れは最悪だが、
こうしてクラスが一致団結するのは悪くない。
「まず第1班、ふざけたマラソン以外に
まともな案はあるか?」
「メイド喫茶!!」
「マラソンに比べたら、
大分平凡な催しだなアックス。理由は何だ?」
「サユのメイド姿が見れる!
サユの淹れた紅茶、コーヒーが飲める!
こんな幸せ中々ねーぜ!! なァ男共ォ!!」
待て待て待て。
俺はつい最近バイトでメイド服着たばっかだぞ。
アックスは何回俺のメイド姿みりゃ
気が済むんだよ。
つか、男子共もそこで盛り上がんなよ。
だって俺は……
「馬鹿じゃないですかアック!
その他の男達もですっ!
私みたいな3軍変態男にメイド服着せて
喜ぶとかなんなんです!?
私以上の変態さんですかあなた達!!」
「……構わん。サユの可愛い姿を
以前より長く見られるのであれば、本望。」
「「「――構わんっ!!」」」
うっわ、もうダメだコイツら。何つー結束力。
俺もそっちに混ざりたかったよ。
ん? 俺だけが抵抗してんの可笑しくねーか。
今や当クラスの男女比は♂7:♀10だぞ。
俺を除く
残り9人の子はあっさり受け入れていいんか?
現状、多数決で押せばアンタら逆らえるだろ。
当初の男女比は♂16:♀14の
バランス取れた転生30人クラスだった。
第2班、リンナ、ヌガーの離脱により
男女それぞれ4人ずつ減少。時点で♂12:♀10。
おまけに、3班失踪で♂7:♀10という結果。
これを最大限に活かせよ。
「っていうか、
あなた達9人もメイド化の巻き添えくらうのに
どうして平然としていられるの!?」
「えー、サユキちゃんは何で
そんな否定的なのー。映えれば別に良くなーい。
サユキちゃんとか特に映えそうじゃん。」
あれれ? モノホン女子からしたら
メイド服ってそんな気にするものでもねぇのか?
否定的な俺の動きそのものが、偏見なのか。
……つまり、周りの女子生徒も皆サリシャと
同じ考えっつー訳か。
「まっ! まだ全てが決まった訳じゃないし!
ほら、サリシャちゃん達も企画の
1つや2つ思い浮かんでるよね!!」
「んー、男子達の意見に乗っかるのは
不本意だけど……今のでいっかなー。」
乙女の恥じらいを少しでも期待した
俺が馬鹿だった。
あたふたしてる俺が変みてーじゃねぇか。
何で男の俺が女子生徒置いて
ヒロインのような反応をしなきゃならねぇんだよ。
逆だろ。
「ほいほい、脱線も程々になお前ら。
次、第5班……お前らはなんかあるか。」
危ない危ない。
流れを断ち切ってくれて助かった。
神山先生は引き際の分かる良い先生だな。
「オイラ達ドンか! 決まってるドン!!
皆でV映画を作るっ!!」
「タルグ、Vを受肉して撮影する利点を提示しろ。」
痛い所突くなーこの先生。
「経費の節約が強みになるドドン!」
「そんな事かよ。
小道具やセットはタダで出来るぞ。
アナログの方が予算浮くとは思わねーか。」
「……え?」
「そこに居るだろ、絵を具現化する奴が。」
言って。神山先生はソノハを指差す。
「あのぅ、先生。
せめて名前で読んで貰っていいですか。」
「…………めんどい。」
「リーダー、私あの先生嫌い。」
「奇遇だなソノハ、俺もだ。」
「おし、次。最後第6班。」
「うーっす。謎解き迷路っつーの
思いついたんすけど、どうですかね。」
「ほう、リアル脱出ゲームか。
この教室の面積でどう作っていく気だ?」
「それは追々決めてく。
提案としては1班、5班よりまともだろ。」
むかっ。
このクラス、アックスレベルに
ウザいやつまだ居たのかよ。
「あぁ、確かにそうかもな。
V映画は論外として、2択までに絞れた。
第1班、第4班はメイド喫茶。
第6班は謎解き迷路……
さぁ、第5班。お前らはサユキの猫耳メイド、
趣向を凝らした謎解き迷路。どちらを選ぶ。」
「猫耳は余計でしょ!
みんな私が3軍男子高校生って事忘れてない!?」
「普通のなら、寿司屋で見たしなー。」
「こらアック、アンタまで余計な発言しないで。
顔凹ませるよ?」
「リーダー、その話。私にも詳しく!」
「ソノハちゃーん気にしないでー。
アックの虚言だからー。……ね?」
圧を掛けてアックスに目を向ける。
一瞬だけ彼は怯み、ソノハへ向き直る。
「あ、あぁそうだぜ。今のは冗談だソノハ。
いやー楽しみだな~、サユの猫耳メイド~。」
「…………ぐぬぬっ。」
そこまで拮抗すんなよ第5班。
天秤にかけるまでもなく迷路だろ。
「そう迷うな第5班。
メイド喫茶を推した暁には、
サユキちゃん
お手製の萌えきゅん義理チョコが貰えるぞ。」
「神山先生っ! 私を羞恥心で殺す気ですか!」
「んごぉぉおお!! サユキ殿ぉお!!
オイラ達第5班は、全力で応援するドォオン!」
「もうやだこのクラスぅううう!!!」
俺の断末魔などどこ吹く風。
遂に我がクラスの催しはメイド喫茶に決定した。
*
絶望に打ちひしがれ迎えた夜、勉強会の後。
アックスのベットでグダる。
最早自室に戻る気力すら起きない。
今になって今日の疲れがどっときたのだ。
「どーしよ、アック。
私、クラスにあんな恥ずかしい姿晒すのヤダ。」
「寿司屋はOKなのに。」
「それとこれは別でしょ。
だって、みんな私の前世の姿知ってるじゃん。」
「そんなの、今は関係ねぇだろ。
今世は文句なしの美少女なんだぞ。
つか、前世のサユの姿覚えてる奴ゼロだろ。
前世はリンナ並みに影薄かったしよォ。
……実は俺も覚えてねー。」
「あー傷ついたー。アックのまぬけー。」
「俺がその傷癒やしてやろうか?
物理的に気持ちいいぞ。」
「放電してあげよっか? 爽快だよ♡」
「爽快なのはサユだけだろ。」
ったく。アックスに相談したって
こうなんのは目に見えてんのに……
俺、何で頼っちまうんだよ。
「しかも猫耳って何。
猫耳美少女といつも同居してるのに、
まだ猫要素欲しがる意味が分からないんだけど。」
「鶴は鶴、サユはサユだろ。
授業中も言ったが、
ただのメイド姿はもう見たんだよ。
追加オプションくらいなきゃ俺が損する。」
「損してるのは私の方なんだけど。」
アックスは断固として
俺の猫耳メイド姿を拝みたいらしい。
「まぁ、良いじゃねーか。
このイベントが終わりゃ晴れて夏休み。
……後少しの辛抱だろ。頑張れよ。」
「後少しがとてつもなく遠く感じる。」
「遠くねぇって。
こういう楽しいイベントは
いざやったらあっという間だぞ。
前世でサボったの覚えてっからな俺。」
「――うぐっ。
だ、だって……キモTSズで冴えない顔の
私や鱗悟がイベントとかでしゃばったら
馬鹿にされるだけだし。
イケメンだったアックやミミアには
分かんない悩みでしょ。」
行事を仮病で逃げ、
鱗悟とゲームパーティしてたのバレてたか。
あぁ、思い出すだけでも虚しい。
「だったら今、悩む必要なくねーか。
今のサユは美少女だぞ。
美少女の楽しんでる姿を見て馬鹿に
する奴なんていねー。仮にいたら俺がボコる。」
――前世が全てじゃない。
〈今〉を自分らしく生きろ。
でなきゃ近い未来、お主は後悔する。――
くそ。
あのヨボヨボ爺ドラゴンの忠告を
こんな時に思い出すとは。
後悔……か。
正直、俺は楽しみたい。全力で楽しみたい。
第1班とわちゃわちゃしながら、
色んな出し物を回りたい。
今なら、馬鹿にされても構わねーと
思ってる自分が居る。
「……分かった。私の負け。
当日仕事サボったら、許さないからねアック。」
「ブーメラン投げてるの自覚しような。」
「うっさい。もう私自室に帰る。」
「あいよ。」
俺は宣言通り彼の部屋から出る。
扉を閉じた辺りで、足腰から力が抜ける。
骨格の所為か、
意識せずとも女の子座りになってしまう。
未だ疲れが取り切れてないのに、
無理して部屋を出るからだ。
我ながらアホだな。
顔も熱いし、心拍だって異常なまでに速い。
「……ボコるって何よ。アックの、バカ。」
ポロッと出たのは、
アックスに対する罵倒。
自分のアホさ加減を誤魔化す為に出た言葉だろう。
真後ろがアックスの部屋だというのに、
容赦ねーな俺。
…………その夜。
自分が風邪であるという
疑いを抱えて眠りについた。
*
遂に来てしまった。
春の文化祭当日。
クラスメートの役割分担は以下のようになった。
前半は、俺を含む第1班女子、第5班女子が
ウェイトレス担当。
アックス、第5班男子が裏方。
後半は、第4班、第6班女子がウェイトレス。
第6班男子が裏方だ。
我がクラスの催しは意外にも大繁盛。
前半だから客足が少ないと見ていたが、
そんな事はなかった。
「サユキちゃーん! 萌えきゅんミルク1つー!」
「はぁーいっ♡」
俺やミミアの優れた身体能力を以ってしても
捌くのは手一杯。
ソノハなどの一般ウェイトレスは
しょっちゅうバテて休憩を挟んでる。
あまりの忙しさに、
萌えきゅんなんちゃらとかいう呪文の
恥じらいなど吹っ飛んだ。
アックスの言う通り、いざ始まればあっという間。
体感10分で交代が回ってきた。
俺は控室に入った後。
シャワーで汗を流し、拭き取り。制服姿に戻る。
「どうですかサユキちゃん。
私が能力で作った即興シャワールームぅ♪」
「満点だよソノハちゃん。
これなら気にせずアックスと回れそう。」
「……違うでしょ。
アックス君と2人きりで楽しく回れそう♡
わぁーいっ♡ 私幸せぇえっ♡♡
って言わなきゃ。」
「いやいや! 私は第1班の皆と――」
「ごっめーん☆
私、ミミアと2人きりで回りたいんだぁ~。
そういう訳だから、ばいばーい!」
「ちょっ、ソノハ!
僕の意思も尊重し……うぁぁああ!?」
ありゃりゃ。
ミミアがソノハに連れ去られてしまった。
皆と回れないのは残念だが。
これはもう……アックスと回るしかねーか。
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