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本章・わくわくえちえち編
#27・【アックス回(前話反転術式/過去作コラボ)】一夫多妻だとどうなるのか?
しおりを挟む身体が、咄嗟に動いた。
俺はサユの盾になっていた。
くそぉ……よりにもよって急所かよ。
吸血鬼っつーのはやっぱし無敵じゃねーな。
「……アック?」
血の滴る音に、サユキが
信じられないと言った声で心配をかける。
一方で、刺した方は不満気に口を開いた。
「庇うとか、アンタ馬鹿?
吸血鬼の不死性とか過信してんの?
これは私と美少女1位の問題なの。
ねぇ分かる分かる分かるカル??」
「へっ、そうかよ。
じゃあ尚更俺の問題だな。」
「意味分かんない。」
「嫁を見殺しにする男が居るかよ。」
「ッハハァ! 男は女を護って死ぬって事!
下らない有言実行ね!」
「あぁ、下らない有言実行かもしんねぇな。」
痛いし、血も止まんねーし。
どうしようもなくて笑いが込み上げてくる。
こんなダセー痩せ我慢したって
サユキは喜ばねーだろ。馬鹿だな俺。
「ハッハァ! 認めた所で
彼女とアンタが死ぬのは変わらないわよ!!
アンタもそろそろ時間切れなんじゃないの!!」
「ア゛ー、確かにそうかもな。
んで、そんな時間がねぇ俺から提案だ。」
サユキは死んでも傷つけさせねー。
一か八かだ。
乗ってくれよ、ヤンデレ女。
「良いわ、冥土の土産に聞いたげる。」
「このまま彼女と俺が死ぬか。
俺だけが死んで彼女が一生苦しみ続けるか。
お前の復讐としては、どっちが満足だ。
お前みてーなタイプは勿論後者だよな?」
「ハッハァ♡ アンタ本当に面白い。
そうね~、私なら後者を選ぶわ。……ふふっ。
美少女1位ちゃん。是非とも苦しんでね~♪」
彼女は満足気に去っていった。
そして、血の滴る音だけが部屋に残る。
なんとか最悪の事態は回避したようだ。
「ア゛ー、これで一先ず解決だなサユ。」
「何が解決よ。嘘つき。」
「は? 俺は吸血鬼だぞ。
こんな茶番で死ぬわけねーだろ。」
「吸血鬼の弱点。それは……」
「――心臓。あぁそうだよ。見事にやられたぜ。
じゃなきゃ、アイツも去らねーしな。
もし病院行っても生存率10%は切るなコレ。」
俺は、サユキに服を引かれた。
「アック、私を独りにさせない為に
居るって言ったよね。」
「だな。」
「私、アックがいない世界なんて嫌。
そんなの独りと同じじゃん。」
何これ。俺の嫁めっちゃ可愛いんだけど!?
いつもと違う感じの
しおらしいサユキ堪んねーなぁ!!
これがギャップ萌えという奴なのか!!
可愛い……可愛いが過ぎるぞ!!!
って萌えてる場合かよ!
彼女を励ますのに全力になれ俺ェ!
「独りじゃねーよ。今のサユには
師匠や鶴、キュピネ、
それに第1班だっているじゃねーか。」
「…………」
そう暗い顔をされても困るなぁ。
俺は元気なサユキが1番だし。
煽ったら元気になるか?
「あっれれぇ~?
もしかして実は俺がめっちゃ大好きパターン。
おっす! 雌堕ち一丁頂きやしたぁ~!」
「好きだよ。」
――ッ!?
今のセリフ。マジ?
来たのか!
ここに来てようやく俺はサユキと両想いに……
「おっ!? 遂に堕ちたか!!」
「相棒としてね。」
「ハッ! こりゃ一本取られたわい!!」
チッ、手強いな。
攻略難易度SSSじゃねーか。
「ねぇ、何であんな提案したの。
こうなるなら私、心中が良かった。」
「馬鹿言うんじゃねー。
死ぬ程好きだからに決まってんだろ。
で、仮によォ。
俺とサユが同時に死んだら、鶴はどうなるよ?
多分、俺らよりずっと苦しいぞ。」
「……ごめん。」
謝りてーのは俺の方もだ。
畜生、本当はまだまだサユに
いっぱい謝罪したり話てーのに。
意識が朧げになって来やがった。
ここまでかよ。俺。
「ま、そうゆう事だから鶴は頼んだ。」
「勝手に終わらないで貰えます?
私が本気で好きなら、
10%の希望くらい意地でも掴み取ってよ。
今回ばかりは、アックの我儘に付き合ってあげる。
あんまり待たせると、罰ゲームね。」
「そう……だな。悪ぃサユ。もう時間切れだ。」
*
「ぅ……ぅう。」
肌に照りつける日差しの熱で、意識が覚める。
背を伝う草々の感覚が心地よい。
天国というのには、あまりにも不自然な場所だ。
近くには立派な豪邸も見える。
「ここは?」
「よぉ、起きたかよ。ダーリン。」
起きて早々、謎の猫耳美少女に声を掛けられる。
いや、何を言っているんだ俺は?
彼女は〈境界樹の異変〉によって
俺と共にこの世界――鍵界に囚われた被害者。
そして、現嫁である美少女TSっ娘。
ヤク・M・ニャーホワじゃねぇか。
現実世界では岸守・矢九という名前の男子高校生。
帰宅部仲間であり、TSという性癖を
理解してくれる数少ない同志だ。
「悪ぃなヤク。
昼寝のし過ぎで寝ぼけてるみてーだ。」
「寝ぼけるのも程々にしてくれよ。
その所為でこっちは毎回苦労してんだから。
さ、俺以外の嫁も待ってる事だし戻ろうぜ。」
俺はヤクに手を引かれ、クログロ邸へ帰宅する。
寝ぼけて迷惑をかけた俺を出迎えるのは、
自慢の嫁達。
死神の如し圧を感じる
髑髏仮面を付けた筋骨隆々の男。サンライト。
現実世界では女の子で、ヤクの幼馴染。
何故か分からないが嫁である。
荒々しい性格とは裏腹に、ヤクに過保護だ。
「帰ってくんの遅えーよダーリン。
罰として梅酒奢りな。」
このように気に入らない事があれば
梅酒を要求してくる。
俺の財布を殺す気だろうか。
「まぁまぁ、落ち着きなさいよ。
いつもの事でしょう。」
怒りに震えるサンライトを宥める
この美少女も俺の嫁である。
謎のアプリで皮モノ女体化した美少女TSっ娘。
以前は光谷・照輝という
男子高校生だったららしい。
女体化後の名前は清水・雫。
正義の女体化を執行するスライム女子高生だ。
となると、あと一人。
「おいお前ら。柔智・楓は居ないのか?」
柔智・楓。
無愛想なTSロリだ。
「あー、楓なら家族旅行に行くって言ってたぞ。」
肝心な時にどこ行ってんだよ。
家族を大事にするのは良いことだから
愚痴とかは言わんけども……
だったら普段くらいもっと愛想良くしてくれ。
「しょうがねぇな。
じゃあいつも通り昼飯にしようぜ。」
「「「――は?」」」
え? えー何この反応。
俺……なんかやっちゃいました?
(某76主人公風)
「あ、あのー。」
「まさか、忘れたとか言うんじゃねぇだろな。」
サンライトさん。怖いです。
あ、訂正。嫁達全員怖いです。
「な、何でのっそり寄ってくるんだ。
ちょ、ま……話をしよう。そうだ!
みんなで焼肉行こ――ぎぃぁぁあああっ!!」
*
再び起きたらヤクの部屋に居た。
ベットをお借りして申し訳ない気持ちになる。
どういう訳か昼寝前の記憶が全くないので
意図せず嫁達の逆鱗に触れたようだ。
「本日3度目の起床お疲れさん。」
「俺だって好きで3度寝してるんじゃねーよ。
あと、お前らには感謝しなきゃいけねーな。」
「ぶん殴られて感謝? 俺強くやり過ぎたか。」
「違う違う。思い出したんだよ。」
――私、アックがいない世界なんて嫌。
そんなの独りと同じじゃん。――
この一言だけ。
これを思い出した時、本当の俺を理解した。
あの3人にボコられた衝撃がなけりゃ
思い出せないとか、サユキの婚約者失格だな。
「境界樹の異変……だっけ?」
「それがどうかしたのか。」
「おそらくだが、俺と雫は
本来ここに居るべき存在じゃねぇ。」
「へ?」
だって、
俺にはサユキが待ってるからな。
「要するに、その異変の影響で俺と雫は
この世界にリンクし適応しちまった。
それが当たり前だと思い込んでいる訳だ。」
「違う!」
ヤクは否定するように大声を出す。
こうゆうところを
見ると余計にサユキが頭に浮かぶなぁ。
「じゃあ何だよ!
俺達の楽しい日々は全て偽物だったって
言うのかよ! ……答えろよアックス!!」
「わかんねぇよ。どっちも本物じゃダメか。」
こんなんで納得してくれるとは思わねぇが、
言わねーよりはマシか。
「どっちも……本物。」
お、思ったより効いてんな。
「なぁ、俺らの目的を覚えてるか。」
「現実世界に帰る事。」
「そうだ。元あるべき場所に帰る。
その目的をヤクは否定すんのか。」
「ひ、否定したい訳じゃねぇよ。」
「あぁ、俺もお前らの
全てを否定したい訳じゃねぇ。大好きだ。
でも……サユが1番好きだ。」
「サユ?」
「いずれ俺の嫁になる臆病者の名前だ。
覚えとけ。」
「サユってどんな子なんだよ。」
「気になるかぁ~、嫁として嫉妬しちゃうかぁ。」
「ウザ。」
へっへぇ。ウザがられるのもまた一興。
俺の惚気話をたっぷり聞いて貰うぜぇ~。
「サユはな。ヤクや雫と同じTSっ娘だ。」
「だろうと思った。
ダーリンTSっ娘にしか興味ねーもんな。けどさ、
その同じ条件下の中でどう差がついたんだよ。」
「差……か。」
確かに、ヤクや雫はサユキと肩を並べる
超絶美少女TSっ娘であるのは変わらない。
ガチ恋距離になるとチンコの興奮度も同じだ。
なのに、どうしてなんだろうか?
何故サユキを1番に選ぶ?
TSっ娘でありながら9割雌であるアイツを……
俺自身も深く考えた事はない。
ただの好みの問題か。いや、それとは何か違う。
「すまねぇ。今の俺じゃ言葉に出来ねぇ。
多分、言葉に表せないくらい好きなんだ。」
「ふーん。じゃあ大事にしてやれよ。」
また怒鳴られると思いきや、笑顔を向けられた。
ふわりと舞う金糸の髪と、
海のような透き通る碧眼が美しい。
サユキという存在を知らなかったら、
俺は彼女を選んでたかもしれない。
「怒らねぇのか。」
「怒る訳ねーだろ。
夫の1番を応援してやるのは
嫁である俺の役目だっつーの。」
――バッ。
「アックス?」
馬鹿かよ俺。
どうしてヤクを抱きしめてんだ。
こんなんじゃサユに顔向け出来ねーよ。
「ごめんな。こんな事しかしてやれなくて。」
「いいよ。続きは1番の為にとっとけ。」
「ヤク、お前は自慢の嫁だよ。
まるで〈慈愛の塊〉みてーだ。」
「へっ。褒めたって何も出ないっつーの。」
照れてるヤクの反応に安堵し、俺は身体を離した。
「じゃ、俺行ってくる。」
「戻る答えがでたのか?」
「まだ出てねーよ。
それを知る為に雫んトコ行こうと思ってんだ。」
「行ってこい!」
「おう!」
*
ヤクに応援される形で、
俺は清水・雫の部屋へお邪魔する。
当の本人は先程の怒りを
すっかり忘れた様子で受け入れてくれた。
「来たのね。アックス。」
「おう、来てやったぜ。
部外者同士仲良くやろーぜ。」
「あら、もう気づいたのね。
案外早くて驚きだわ。」
「その言い様、
初めから知ってた様な物言いだな。」
「えぇ。こう見えて私、神と関わってますから。」
神と関わってるのか。
益々俺らと境遇が似てんな。
こちとら担任教師が神っていう信じ難い
カミングアウトだったぞ。
雫は一体どんな神と。
「雫ってどんな神と出会ったんだ。
俺の場合は担任教師だったぞ。」
「私はぁ……偶然かなぁ。
勝手にインストールされてたから使ってみたの。
そしたら気に入られちゃってね。」
「アプリの神様的な奴か。」
「あながち間違いではないわ。
本職はこの世界の管理だけどね。」
「だとしたら管理ガバガバだな。
異変起こりまくりの事故物件じゃねぇか。」
「同感~♪」
「誰がガバガバ事故物件の大家だコラ☆
ボクだって頑張ってるんだゾ!!」
あれ? この喋る
スローロリスどっから湧いて出た。
「おっ、噂をすれば淫獣君本人のご登場~。」
「清水少年、ボクを煽ると痛い目に会うヨ?」
「いつも煽ってるのは淫獣のアンタでしょ。」
「な、なぁ雫。
もしかしてその動物が鍵界の神なのか。」
「えぇ。下級魔獣っぽいこの子が
正しくこの世界の神よ。」
ガッツリ指差してる。
これは間違いなさそうだ。
「下級魔獣とは失礼ナ。
ボクだって本来の姿になれば美しい女神だヨ。」
「じゃあなんなさいよ。」
「今はこの身体がお気に入りだかラ嫌だネ☆」
「おい、仲良く会話するのは構わねー。
けどよぉ、神とやら……」
「何だイ?」
「俺と雫を元の世界に返してくんねーか。」
「そうだネ。」
ん、案外あっさりだな。
「この異変に巻き込んだのは
ボクの手違いが招いた事ダ。
責任を持って君らを元の世界に返す。」
良かった。帰れるのか。
「但し、帰ればお互い
この世界に干渉した時間そのものが消え去る。」
「つまり、俺らが今までこの世界に
干渉して起きた事全てが記憶から消えると?」
「その通りだヨ~アックス君。」
「ふんっ、ホント傍迷惑な淫獣ね。」
「落ち着けって雫。対処してくれるだけ
まだマシだろ。……ありがとな、神様。」
「いやいやそれホドでも~。」
「甘やかすとこうなるから注意しなさい。」
雫の言う通りだった。
この神様甘やかしたらいけないタイプだ。
「優しいアックス君にはぁ~巻き込んだ詫びとして
特別に復活特典をアゲるヨ~良かったネ☆
だかラ、もうサユキちゃんを手放さないでよネ。」
そうか……俺は死人だったな。
だったらこの奇跡、絶対無駄にしたくねぇ。
俺は新たな決意を固め、神に告げた。
「あぁ――もう2度と手放すもんか!!」
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